テスラの売れ筋セダン「モデル3 RWD」で東北へ約1700kmを周遊したレポート。後編では青森(八戸市)から仙台へ三陸沿岸を走りつつ、EVの経路充電スポットの出力や口数などの理想的な配置について考察しました。経路充電は「どこにでもある」ことより「1カ所にたくさんある」のが便利です。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
三陸沿岸はテスラSCの過疎地帯
今回の弾丸遠征は、モデル3 RWDのEV性能を試すために、関東から日本海を北上して青森県の北に位置する竜飛岬を目指し、さらに八戸経由で三陸道を南下して東北一周するというルートをチョイスしました。前編の記事では青森市街までの約900kmの様子と走行の前提条件や車両スペックをレポートしています。
後編は、青森市街のテスラスーパーチャージャーからスタートします。
① 青森SC→八戸市街
●走行距離:98.3km
●消費電力量:99%→82%
●平均電費:108.2Wh/km(9.24km/kWh)
●外気温(青森→八戸):21℃→19℃
●天候:晴れ
まず青森スーパーチャージャー(以下SCと略)で99%までしっかり充電してから後半をスタートします。というのも、これから仙台へ向けて走行する三陸道沿いにはテスラ車に採用されているNACS規格の急速充電器が、テスラSCを含めて全くと言っていいほど存在していません。つまりテスラ車で青森から三陸道経由で仙台方面まで向かう場合は仙台までの約450km以上の区間でテスラ用の急速充電器を使用できないのです。
チャデモ規格の充電器があるじゃないかという声が聞こえそうですが、2025年5月時点でテスラジャパンは新規オーナーを含めてチャデモアダプターの販売を停止中です。つまり、アダプターを介してのチャデモ急速充電器の使用も「事実上できない」と言っていいでしょう。確かにテスラSCは着実に拡充されているものの、今回の三陸道のように「NACS過疎地域」があることも事実です。もちろん冬は降雪などで電費が悪化することを踏まえた上で、テスラ車を購入するかどうかを検討する必要があると思います。
チャデモ規格の経路充電インフラ網の現状は?
【40kW以上】
【90kW以上】
【120kW以上】
それに対してチャデモ急速充電器の普及状況はどうでしょうか? 例示したマップ画像はEVsmartの充電スポット地図検索機能で「40kW以上/90kW以上/120kW以上」をそれぞれ抽出したものです。
40kW級以上の急速充電器は三陸道沿いの市街地を網羅して設置されています。三陸道は無料入退出が可能であり、インターを降りるとSAPAの代わりとして道の駅が併設されているケースが多いです。そしてその道の駅に40〜50kW級の急速充電器が普及しているため、少なくともチャデモ規格を採用するEVであれば真冬でも電欠の心配は皆無でしょう。
一方で90kW以上となると気仙沼市街の日産ディーラーだけ。三陸道沿いにはほかに1ヶ所も存在していません。大容量バッテリーを搭載するEVの場合は充電に時間を要することになります。理想的には仙台と八戸を結ぶ三陸道の中間地点である釜石や宮古付近に90kW級以上の急速充電器が設置されると、三陸道を使用したロングドライブへの不安が一気に解消するはずです。
高出力急速充電器は適切な間隔で複数口設置を望みたい!
また、経路充電における理想的な充電スポットとして三陸道沿いの「道の駅やまだおいすた」を例に挙げたいと思います。というのも道の駅やまだおいすたは山田ICに隣接する道の駅として三陸道の休憩施設としても機能しています。さらに50kW級急速充電器が3台も設置されているのです。これはテスラSCと同じように1ヶ所に複数口の充電器が設置されていることで充電待ちや故障のリスクを回避することにつながります。
確かに日産サクラをはじめとする電池容量の少ないEVのために、各道の駅に1台ずつの急速充電器を満遍なく配備するという考え方もあるでしょうが、大容量バッテリーを搭載するEV(あるいは充電性能が高いEV)はそもそも小刻みな充電を必要としません。よって仙台と八戸の中間地点である釜石や宮古、それこそ今回の道の駅やまだおいすたなどがいい例でしょうが、適切な間隔を置いた、利用者が多い=高稼働率を見込める場所に90kW級以上の超急速充電器を複数口配備するのが理にかなっています。
つまり裏を返せば、多くの道の駅に90kW級以上の超急速充電器を満遍なく配備する必要はないのです。「どこにでもある」より「1カ所にたくさんある」を実現するのがEVユーザーの利便性を引き上げるために効果的な経路充電設置戦略であり、同時にインフラ事業者側の投資コストを最小化することにつながるはずです。
今回の三陸道に限らず、経路充電スポットの配置における重要なポイントは、50kW級急速充電器はある程度満遍なく設置する必要性があるものの、90kW級以上という高出力急速充電器の場合は各道の駅やSAPAに一口ずつ設置するのではなく、100〜150km区間毎に複数口を1ヶ所にまとめて設置することで、EVユーザーに対して、その充電スポットに行けば確実に充電できるという安心感を生み出すということです。
ちなみに120kW級以上を抽出してみると、東北エリアでも想像以上に充電スポットの数が増えていることに気がつくと思います。実はこの充電スポットの多くはトヨタディーラーに設置された150kW級急速充電器です。BYDシーライオン7での長距離遠征(関連記事)の際に大阪府茨木市で使用したことがありますが、e-Mobility Powerの充電ネットワークには加入しておらず、充電器に貼られたQRコードを読み込んで充電操作、充電料金決済が可能です。24時間365日稼働していますので、あらかじめ使い方や設置場所を調べておくと、充電過疎地域でも150kW級急速充電器を使って効率的に充電することができるかもしれません。

八戸では三陸産のウニをはじめとする海鮮丼をいただきました。
モデル3は青森→仙台を無充電で完走
② 八戸市街→仙台宮城野SC(250kW級急速充電器)
●走行距離:364.1km
●消費電力量:81.9%→0.1%
●平均電費:127.0Wh/km(7.87km/kWh)
●外気温(新潟→酒田):19℃→17℃(最低気温:15℃)
●天候:晴れ
青森SCから無充電で仙台宮城野SCに到着しました。充電残量もSOC0.1%とギリギリでしたが、なんとか無事に走破できました。とくに電費を気にして速度を落とすなどは一切していませんし、むしろ飛ばし気味で走行していますので、ほぼ全ての方がモデル3 RWDを使用して走破できるはず。これが、テスラ最安入門版であるモデル3RWDの走行距離性能と言っていいでしょう。
ただし、三陸道を途中で降りて寄り道をしたり、冬場であれば当然充電は足りません。やはり八戸と仙台の間のどこかにテスラSCが必要ですし、FLASHをはじめとするサードパーティー製のNACS急速充電器の設置を待望します。
仙台には仙台市街東部の仙台宮城野SCと北部の仙台SCの2ヶ所が存在します。今回充電した仙台宮城野SCはテスラのサービスセンターに併設されており24時間365日開放されています。目の前を走る国道45号線を挟んだ向かいにはコンビニもあるので、ストアの営業時間内であればストア内で休憩できますし、サービスセンターの営業時間外でもコンビニを利用することができるという利便性の高い充電スポットです。
またリーガロイヤルホテル地下駐車場に設置されている仙台SCはV2なので充電スピードも異なります。ただし東北自動車道を移動する際の経路充電スポットとしては仙台SCの方が近いですので、それぞれの利用用途に合わせて仙台宮城野SCと仙台SCのどちらを使用するのかを選ぶのがいいでしょう。
仙台宮城野SCではSOC0.1%から82%まで約30分で充電が完了しました。4時間半の運転中に溜まった連絡に返信しながら向かいのコンビニでトイレと軽食を買って戻ってくるともうSOC70%を超えており、やはりLFP(リン酸鉄)バッテリーの充電性能の高さに驚かされます。目的地である大宮SCまでは80%弱あれば到着できるのですが、人間の休憩時間がEVの充電時間を上回ってしまいSOC82%まで充電してしまいました。
市販EVのなかでも抜群の電費性能を確認
③ 仙台宮城野SC→大宮SC
●走行距離:333.1km
●消費電力量:82%→7.6%
●平均電費:125.6Wh/km(7.96km/kWh)
●外気温(仙台→大宮):17℃→18℃(最低気温12℃)
●天候:晴れ
ついに自宅近くの大宮SCに戻ってくることができました。やはり予測通りSOCも5%以上残っており、仙台宮城野SCで余分に充電した様子が見て取れます。自宅充電環境を有している方はSOC1%でも残して自宅の駐車場に戻ってくれば、普通充電器を差し込んで充電を始めることができます。自宅にさえ戻ってこられれば安価な自宅充電で寝ている間に充電できるという点もEVの大きな強みです。
【遠征結果】
●走行距離:1689km
●所要時間:約33時間
●急速充電回数:4回
●平均電費:130.1Wh/km(7.69km/kWh)
大宮SCの近隣に位置する与野SCを出発してから33時間かけて青森の竜飛岬から八戸、三陸道経由で仙台、そして埼玉県大宮市まで戻ってくることができました。走行距離も1700km弱と長距離に及びましたが、急速充電回数は4回で済んでいます。急速充電回数の少なさにいい影響を与えているのがモデル3RWDの電費性能の良さでしょう。累計で7.69km/kWhという結果は、ハイスピードで走行している点を踏まえれば驚異的な電費性能と言えます。
私は日本国内で発売されている多くのEVで長距離遠征していますし、中国や欧米における様々な検証結果も調べていますが、これほど優れた電費性能を実現できるEVは世界広しといえどもモデル3、なかでも今回のRWDグレードの右に出るEVはほぼ存在しません。昨今の電気代高騰などを踏まえると、電費のいいEVという観点もEV購入の際の判断基準になるのかもしれません。
また、今回の遠征を通して、モデル3のベストバイはRWDグレードであると断言できます。確かに航続距離がさらに必要という方もごく稀にいるでしょうが、例えば今回の東北遠征の場合、青森市から仙台市にいたる三陸道の中間地点にNACS規格のケーブルを備えた急速充電器が1カ所でもできれば、無充電で走りきるためのバッテリー容量(航続距離)はロングレンジグレードである必要がなくなります。またAWD設定を求める雪国在住の方々は、モデ3より最低地上高も高いモデルYを購入するのが安心でしょう。
いずれにしてもモデル3を購入する場合は実質450万円以内(本体価格531.3万円で2025年度CEV補助金が87万円)で購入できるRWDグレードが圧倒的におすすめです。ちなみに6月30日までにモデル3の納車を完了した場合は3年間のSC無料充電特典も付与されますので、今回の東北遠征1700kmの充電代が無料ということになります。ガソリン代のことを考えたらお得さを感じることでしょう。さらに現在モデル3 RWDは検証に使用した車両(2025年2月末に納車)と比較しても電池容量が2.5kWh増量されており、若干航続距離も伸びています。まさにモデル3を買うなら今しかないと言えそうです。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)
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