EVでありながら2023〜2024年には世界で最も売れた自動車がフルモデルチェンジ。テスラ「新型モデルY ロングレンジAWD」で関東から四国へ約1850kmを周遊してきました。車載冷温庫や車中泊の使い勝手など、ロングトリップにおける実用性もレポートします。
モデルYジュニパーで約1850kmの長距離弾丸遠征
まず、私自身、テスラ車を3台乗り継いできたテスラユーザーであり、現在旧型モデルYのオーナーです。また長距離検証という観点ではモデルS/3/X/Yの4車種、累計17モデルを検証済みです。
そして今回、2024年4月から日本で納車がスタートした新型モデルY(いわゆるジュニパー世代)ロングレンジAWDローンチシリーズを検証することができました。SUVということでアクティブに長距離走行するという用途を踏まえると、やはりモデルYはロングレンジがおすすめと考えています。
実際のロングトリップでどれほどの実用性があるのか。さらに旧型と比較して何が進化したのかを検証するために、関東から四国に入って愛媛県八幡浜市の「どーや市場」で新鮮な魚をゲット。その後中国地方を経由して関東にトンボ帰りする往復で約1850kmの行程です。
中国・四国地方における充電インフラの実態把握も同時に行います。主要スペックと走行条件は下記の通りです。
主要スペック(※は推定値)
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):78.4/75kWh(※)
●定格電圧(最大電圧):350V(約400V)
●日本WLTCモード(WLTCモードクラス2)航続距離:635km
●欧州WLTCモード(WLTCモードクラス3)航続距離:568km
●EPAサイクル航続距離:約472km
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:250kW/非公表(独自検証値:33分)
<装着タイヤ>
●サイズ:255/40/R20
●銘柄:ミシュランパイロットスポーツEV
●空気圧:2.9/2.9(前輪/後輪)(適正値2.9/2.9)
<走行条件>
●車内の空調システムは常にON(21℃オートに設定)
●追い越しなど含めて、制限速度+10%程度までは許容
神奈川から大津SCまで約400kmをしっかり走破
① 神奈川県座間市街→大津スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:398.8km
●消費電力量:97.3%→0.6%
●平均電費:177.2Wh/km(5.64km/kWh)
●外気温(座間→大津):26℃→26℃
●天候:晴れ

編集部注※大津SC到着時のSOCはなんと0.6%。長距離検証を繰り返す高橋さんならではのアグレッシブな数値です。普通の方は、浜松SCやみえ川越SCなどを活用して早めの充電がオススメです。
最初の充電スポットは大津スーパーチャージャー(以下、SC)です。ここは新名神と名神が交わる草津ジャンクションに近く、昼間なら近隣のカフェやスーパーマーケットを利用可能。経路充電ステーションとして利便性の高い立地です。
大津SCではSOC 0.6%から85%まで、約38分で充電を完了しました。充電中はスーパーで軽食を購入して車内で食べて、メール返信しながら休憩を取りました。実質的に充電のためだけの体感時間は少ないです。
またテスラSCはほとんどの公共の急速充電器とは異なり1回30分の時間制限がないので、次の目的地である四国中央市までの約340kmを走り切るための電力を一度に充電することができます。
とはいえ、30分以上の経路充電時間は率直に言って、私をはじめ、人によって長いと感じる場合があることは間違いありません。すでにヒョンデIONIQ5や中国勢が多く採用する800Vシステムによって充電時間を抜本的に短縮するというテクノロジーがさらに普及していくことに期待です。
また、大津SCまでは関東を出発して約400kmの距離を無充電で走行することに成功しています。途中の新東名自動車道の120km/h制限区間もしっかりとスピードを出していることを踏まえると、電費の良さも含めて、モデルYの長距離走破能力の高さがイメージできるでしょう。
四国中央市のFLASHでNACS使用不可のトラブルに遭遇
② 大津SC→香川県高松市街→四国中央市内FLASH(180kW級急速充電器)
●走行距離:341.0km
●消費電力量:85%→10.0%
●平均電費:156.7Wh/km(6.38km/kWh)
●外気温(大津→四国中央):26℃→21℃
●天候:晴れ
香川県の高松市街から愛媛県松山市方面へ向かう国道11号線沿いに設置されている急速充電器「FLASH」で2回目の充電を行いました。
このFLASHはテスラ車用のNACSケーブルを搭載しているのですが、現地に行ってみるとNACS規格のコネクターを使用することができないトラブル発生中であることが判明。持参していたチャデモアダプターでなんとか充電することができましたが、アダプター経由だと最大50kWに充電出力が制限されてしまいます。
さらに不可解なのは、その充電出力が約23kWと、通常よりも制限されてしまっており、大幅な時間ロスとなってしまいました。ちなみにこの前後にそれぞれチャデモアダプターを使用した充電では50kWを発揮できていたので、アダプター側の故障ではなくFLASH側の問題、もしくはFLASHとアダプターの相性問題があると推測できます。ただし、現在テスラジャパンはチャデモアダプターの販売を停止しているため、このFLASHを当てにしてドライブ計画を立てていたら、充電できずに電欠していたかもしれません。とくにチャデモアダプターを所有していないテスラ車ユーザーは、余裕を持った運用を心がけた方が良いでしょう。

途中高松市街でうどんをいただきました。
アクセサリー電源で冷温庫を活用
③ 四国中央市街→どーや市場
●走行距離:132.4km
●消費電力量:88.8%→66.3%
●平均電費:123.5Wh/km(8.1km/kWh)
●外気温(四国中央→八幡浜):21℃→19℃
●天候:晴れ
遠征の目的地に設定した愛媛県八幡浜市のどーや市場ではマグロやマダイ、カンパチ、さらに大切りネタのお寿司を購入しました。鮮魚を関東に持ち帰るために、今回持参した冷温庫を起動します。モデルYではトランクにも12V電源のソケットが装備されていますので12V対応の機器であれば電気を利用できます。
冷温庫などで電源を使用する際に忘れてはならないのが、「アクセサリー電源をオンのままにする」というモードを有効にしておくという点です。テスラ車は車両を離れると車内の電装系への電気供給も停止するため、せっかく停車時でも電源を供給できるEVの強みを活かせなかったのですが、直近のOTAアップデートでこの機能が追加実装されました。これで車両を離れている間も、最大24時間、電力を供給し続けることができます。

ディスプレイ下部にアクセサリーの電源供給ONボタンが新搭載。
また、モデルYの強みは収納スペースの広さです。今回持参した冷温庫をトランク下部の収納スペースにスッポリしまい込むことで、トランク部分のフルフラットに使用し続けることが可能です。この状態から後部座席を倒したフルフラットにして車中泊することもできます。実際に早朝に八幡浜に到着してから2時間ちょっと、フルフラットにして快適に仮眠を取ることができました。
ちなみにその際の使用電力量は2.2%。外気温20℃程度でエアコンをつけっぱなしに車中泊すると、充電残量にして1%/h程度消費したので、例えば夜21時から翌朝7時までの10時間車中泊すると、約10%消費するようなイメージです。

冷温庫を積載してもトランクスペースをフラットで使用可能。モデルYの積載性の高さが見て取れます。
(トランク部分の収納スペースは822L。さらにフロントトランクも116L)
復路では各地のFLASH充電器を使ってみた
④ どーや市場→岡山市街FLASH(240kW級急速充電器)
●走行距離:242.1km
●消費電力量:62.1%→13.3%
●平均電費:146.5Wh/km(6.83km/kWh)
●外気温(八幡浜→岡山):22℃→24℃
●天候:雨
新鮮な魚とともに一気に関東に戻ります。まずどーや市場からノンストップ走行で立ち寄ったのが岡山市街にあるFLASHです。ここは最大240kW級の充電出力を発揮可能な最新機種が3基も設置されており、充電器の故障や充電待ちの心配もありません(実際に1基が故障中でした)。ただし岡山駅からは近いものの、国道2号線や山陽自動車道からは離れているため、関西方面から九州方面への移動における経路充電としてはやや使いづらい印象です。
以前BYDシーライオン7の遠征記事でも紹介した通り、山陽自動車道のSAPAには90kW級以上のチャデモ急速充電器の設置が急速に進んでいる(関連記事)ことから、このFLASHはあくまでも岡山観光の際の目的地充電や、岡山市街に在住するEVオーナーの基礎充電代替として利用されることになるのだと思います。
いずれにしても、NACSケーブルを使えばテスラSCのV3級の充電スピードを発揮することができるため、30分強充電するだけでSOC80%以上まで回復することに成功。すぐに走行を再開することができました。
岡崎市のFLASHで再びトラブルに遭遇
⑤ 岡山市街FLASH→岡崎市街FLASH(180kW級急速充電器)
●走行距離:368.0km
●消費電力量:89.8%→17.1%
●平均電費:142.1Wh/km(7.04km/kWh)
●外気温(岡山→岡崎):24℃→20℃
●天候:雨90%
岡山から7時間弱ノンストップ、全行程下道を使って岡崎市街のFLASHにやってきました。ここで注目するべきは行程の大半で雨が降っていたものの、電費が142.1Wh/km(7.04km/kWh)と優れていた点でしょう。
走行条件は厳密には異なりますが、前日、同じモデルYで恒例の1000kmチャレンジを行って関東から兵庫間を高速道路で巡航しており、その際の愛知県内から兵庫県内までの平均電費が約170Wh/km(5.88km/kWh)でした。外気温はほぼ変わらず、遠征では雨が降っていたことを踏まえると、やはり下道走行の方がずっと電費を稼ぐことができています。
モデルYのCd値は0.22であり空力に優れているものの、SUVということで高速走行の電費悪化が顕著となります。時速100km+と比較して、下道走行だと航続距離にして80km以上も余分に走行できるとイメージしてみると、速度によってEVの航続距離が大きく変化することを理解できると思います。
また、この岡崎市内のFLASHでは何回か充電エラーのため充電が止まってしまうという挙動に遭遇しました。今回の遠征でFLASHを使用した3回のうち2回で問題が発生しており、公共充電器としての信頼性という観点で、やや懸念せざるを得ません。このFLASHに関するいくつかの懸念事項については別記事で改めて取り上げる予定です。
ノンストップのロングドライブで新型モデルYの快適性を実感
⑥ 岡崎市街FLASH→埼玉県さいたま市街(ゴール)
●走行距離:356.7km
●消費電力量:82.2%→6.2%
●平均電費:150.3Wh/km(6.65km/kWh)
●外気温(岡崎→埼玉):20℃→20℃(最低気温:12℃)
●天候:雨80%
ついにさいたま市街に戻ってくることができました。遠征の総走行距離は1847km、約44時間で走破した格好です。また岡崎からもノンストップ、全行程下道走行することで電費を大きく稼ぐことができました。途中大雨に降られたことを踏まえると、やはり新型モデルYの電費性能の高さが見て取れるでしょう。
ちなみに、復路はFLASHでの充電2回以外は一切休憩せずに、それぞれ5.5時間、7時間弱、7時間弱を連続走破しましたが、そこまで疲れを感じませんでした。やはり新型モデルYのさらなる静粛性の高さや乗り心地の改善が、ロングドライブにおける体の疲労軽減につながっていることを実感できました。
このように新型モデルYを使用して長距離遠征を行ってきましたが、旧型モデルYオーナーとして、NVH【Noise(騒音)・Vibration(振動)・Harshness(不快感)】の全項目が改善されていると断言できます。
とくに旧型モデルYの数少ない弱点と言われ続けてきた、不快な入力による、乗員の内臓に来るような振動は大きく低減されており、ファミリーカーとしての完成度が高まっています。またアンビエントライトやシートベンティレーション、断熱性が向上したガラスルーフ、リアエンタメスクリーン、後席シート電動リクライニング機能など、乗員の快適装備もさらに充実などなど。まさに旧型から正統進化したと言えるでしょう。
さらに今回の遠征では冷温庫や車中泊などの機能も紹介しました。冷温庫は最大24時間電力を供給し続けることが可能であり、大容量バッテリーを搭載するEVの強みが存分に生かされています(AC100Vの車内コンセントがあるとさらにベターですが)。またEV設計の最適化を行うことで、冷温庫を搭載してもなお、後席シートをフルフラットにして快適に車中泊できることが確認できました。
ガソリン車であればアイドリングストップはできませんが、EVなら何も気にせずにエアコンを使用して快適に車中泊可能、消費電力量も大したことはありません。たんなる移動のための道具ではなく、旅行の価値観に変容をもたらす存在が新型モデルY、そして優れた電気自動車であると言えるのです。
2023年から2年連続、世界で最も売れた自動車(※EVカテゴリーではなく全ての自動車カテゴリーです!)であるテスラモデルYが、2025年も引き続き世界で最も売れた自動車の称号を獲得することができるのか。世界各地の販売動向にも期待せずにはいられません。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)
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