10月に大幅アップデートされた「New bZ4X」に試乗しました。eAxle(駆動システム)を一新、高遮音性ガラスの採用などによって静粛性が向上したことで「一段と高級車に生まれ変わった」印象です。全国の販売店3000店舗以上に試乗車を配備中とのこと。EVを知らなかった人も「ぜひ一度試乗してみて」とオススメします。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
東北道の120km/h制限区間を快走してみた
「重要なお知らせ/bZ4Xを一部改良」として、2025年10月9日、静かに発売された「New bZ4X」に試乗しました。朝10時に文京区のトヨタ自動車東京本社で取材用の試乗車をお借りして一日試乗。夕方16時までに返却し、豊田市の開発ご担当者の方々とオンラインで懇談という日程です。
実質的な試乗時間は約5時間。できるだけバッテリーを減らして急速充電も試したかったので、東京近郊から120km/h制限区間が続く東北自動車道で、まずは宇都宮あたりを目指しながら、時間が許す限りできるだけ長距離を走ってみることにしました。

地下駐車場で新型bZ4Xと初対面。従来型と並んで置かれていました。「ハンマーヘッドをモチーフとしたフロントデザインの改良」もアップデートのポイントです。従来型ではLEDクリアランスランプと一体化して細かく4灯並んでいたLEDヘッドランプは、配置が分割されて1灯に。眉毛のように左右それぞれ一本線だったクリアランスランプがフロントフェース全体に伸び、折り返したデザインになっているのが明確な違いです。
SOC100%で走行可能距離表示は623km
試乗車のグレードは、74.7kWh(カタログスペックとしては、総電圧391V×容量191Ah=74.681kWh)のバッテリーを搭載した「Z」のFWDです。

忘れそうになってあわてて撮ったのでブレててすみません。
オドメーターの表示は2000kmジャスト。SOCは100%で、走行可能距離は、ECOモードで623kmと表示されています。平均電費は7.1kmとなっていて「74.7×7.1=約530km」なので、なぜ100km近く長い623kmなのかというロジックはよくわかりませんが、「一日試乗くらいじゃ航続距離への不安は皆無」であるのは明白です。

セレクターやホールドボタンなどがあるセンターコンソールまわりのデザインも一新されていました。運転席&助手席用が用意された非接触充電トレーに、スマホを置いた時の視認性がいいところは、地味だけど、個人的に「いいね!」と感じたポイントです。たとえば、テスラ車は早くからこんな感じになっています。あえて「見えない」配置にしている車種があるのは、運転中にスマホを注視しないようにということなのでしょうが、正直言って不便です。
静かになって車格がワンランク上がった感じ
トヨタ東京本社を出発し、飯田橋ランプから首都高へ。試乗取材時、スマホの音声入力で感じたことを記録しているのですが、この日のメモの1行目は「静かになって、社角(車格の誤入力)がワンランク上がった感じ」でした。
従来型のbZ4Xも、トヨタらしい上質な仕上がりのクルマでした。ただし、EVとしてはやや遮音性が足りず、とくに高速道路走行時などは「静かじゃないなぁ」と感じてしまう面がありました。そもそも、高級車は「静かでパワフル」を目指して進化するもの。静かさは偉大です。まだ池袋も過ぎないうちに、新型bZ4Xがさらなる高級車に進化したことが実感できました。
公式サイトで紹介されている「bZ4Xを一部改良」のお知らせでは「フロントドアのアコースティックガラス(高遮音性ガラス)の採用などにより、室内静粛性を向上」と説明されています。夕方の懇談で確認したところ、高遮音性ガラスだけでなく、防振材やボディの接着剤なども改善してNVH「Noise(騒音)・Vibration(振動)・Harshness(ハーシュネス)」性能を高めたということでした。
栃木ICで折り返して約200km。平均電費は6.5km/kWh

急速充電&返却時間を考えて「12時までに行けるところまで行こう」と決めて東北道を快走。栃木IC手前で11時50分になったので、折り返すことにしました。
せっかくだから、何か栃木らしいお土産でも買おうかとクルマを停めて検索すると、インターのすぐそばに「がんこ職人 もめん弥」という和菓子店を発見。ウェブサイトで20年来の人気商品とオススメされていた「ぼくポチ」という焼き菓子を買いました。

今回、実用的な電費を確かめるため、ECOモードはオフ、23℃のオート設定でずっとエアコンを使用して走りました。ぼくポチを購入した時点で、オドメーターは2099km(99km走行)、バッテリー残量(SOC)は80%の表示でした。最初に表示された623kmはさておき、40km程度の120km/h制限区間を含めた高速道路走行において、20%で100km走れたのですから、EVを知らない人がエンジン車感覚で無頓着に走っても500kmくらいは走破できる、十二分な航続距離性能があることになります。これでもなお「EVは航続距離がぁ」と反論する方がいたら、一緒にぼくポチでも食べながらじっくりお話ししてみたいところです。
平日ってこともあり東北道の流れは順調でした。復路の佐野SAで昼食にラーメンを食べ、再び120km/h制限区間を快走。トヨタ東京本社近くの150kW器を検索してお試し充電スポットに決めたトヨタモビリティ東京 板橋本町店到着時には、平均電費が6.5km/kWh、オドメーターが2188km(188km走行)、SOC60%で、航続可能距離表示は352kmでした。
この日の外気温はメーター表示で13〜15℃程度。12月としては好条件でした。新型bZ4Xは「eAxle(駆動システム)の小型化・形状最適化などにより大幅に出力を向上」するとともに、効率を改善して「エネルギー損失を40%程度低減」、電費が「1割程度向上」したとのこと。
効率アップのポイントは「シリコンカーバイト(パワー半導体)を採用したのが効いている」とのこと。さらに、ギアを鏡面仕上げにするなど完成度を高めつつ、ユニット全体としてはオイルポンプを廃止するなど構造をシンプルにしたり、「シリコンカーバイトの調達面でも健闘していただいて」コストダウンとの両立を果たしているということでした。
2023年5月に従来型で京都から東京へ走った際(関連記事)、今回同様に120km/h制限区間を含む「京都市内→浜松SA上り線」区間の推定電費が「約5.73km/kWh」、「浜松SA上り線→海老名SA」区間は「約4.62km/kWh」でした。当時のbZ4Xには区間電費の表示機能がなく、推定電費はSOCによる推定消費電力量(バッテリー容量はネット値とされていた64kWhで計算)からの推計なので単純比較はできませんが、電費性能はしっかり向上していると評価してよさそうです。
ちなみに、新型bZ4Xのバッテリー容量としてアナウンスされている「74.7kWh」はいわゆるグロス値で、ユーザーが使える実質的なネット値は「71kWh」とのこと。従来モデルからは1割ほど増量されていることが確認できました。グローバルでグロス値とネット値の併記がスタンダードになりつつあることから、今後はトヨタでも併記していく方向であるということでした。
30分で60%→91%。約26kWhを急速充電

充電器使わせていただき、ありがとうございました!
14時過ぎ、トヨタモビリティ 東京板橋本町店に到着し、トヨタが新型bZ4Xとともに「EV普及促進策」としてスタートした「TEEMO」ネットワークの最大150kW出力器で充電しました。
新型bZ4Xには低温時の「バッテリープレコンディショニング」機能が搭載されています。今回も試してみる気満々だったのですが、ナビ設定(充電スポットを目的地に設定すると自動でプレコンディショニングが作動する)がうまく使いこなせず、また手動でオンにするのを忘れていて作動を確認することはできませんでした。

懇談で確認したところ、適温の目安は22℃程度とのこと。前述のようにこの日は12月にしては暖かく、ほとんどが高速道路走行だったから、バッテリー温度がそもそも適温になっていたのかも知れません。

あと、急速充電は「SOCが30%を下回ったら」くらいを目安にするべきで、60%からの充電は実用的にあまりオススメできないことを注記しておきます、ね。
新型bZ4Xの急速充電性能は最大150kW(350A)とアナウンスされています。でも、それはSOCが10〜20%など低い場合に叩き出される数値であって、今回は60%からの充電開始。スタートしてから30分、ずっと50kW程度の充電が継続しました。SOCが80%を超えてもそれほど出力は低下せず、30分間の充電電力量は25.9kWhという結果でした。

テスラ車 with スーパーチャージャーや、ヒョンデ IONIQ 5 には及ばぬものの、まずまずの急速充電性能って感じでしょうか。実際に高速道路長距離ドライブ途中のSAPAで経路充電する場合、もっとSOCが下がってから充電すれば30分で40kWh前後の充電ができるのだろうと思うので、また機会を改めて検証したいところです。
「トヨタの電気自動車」が着々と進化中

ダッシュボードのデザインが直線基調でスッキリしたのもアップデートのポイントです。
さらに、いくつかアップデートのポイントなどをピックアップしておきます。まず、従来型では兄弟車のスバル「ソルテラ」にはあるのにbZ4Xにはなかった「回生ブレーキパドルシフト」が追加されました。
切り替えられるのはレベル1〜4の4段階。レベル1では「ほぼコースティング」になりますが、完全な回生オフにはなりません。また、最強のレベル4にすると「0.15G程度」と強めの回生ブレーキが働きますが、完全停止するような、いわゆる「ワンペダルドライブ」感覚とはなりません。また、自動的に回生の強さを制御してくれる「回生オート」のようなモードを選ぶこともできません。
「止まるときはブレーキを踏むべき」というトヨタの考え方は以前から聞いていました。今回はほとんどの区間でADASを使用した高速道路走行だったので、回生パドルシフトのフィーリングをきちんと確認することはできませんでした。ここもまた、箱根ターンパイクあたり(回生パドルシフトはとくにワインディングの下りで効果絶大です)で改めて検証したいポイントです。

あと、充電ポートの「内蓋」がなくなりました。内蓋の開け閉めは充電時それなりに面倒で、防水さえしっかりしていればむしろ無いほうが便利です。このあたり、トヨタの開発者の方々が自分でEVを使ってみて感じたからこそのアップデートなんだろうと思います。トヨタのEVが、着々と進化していることを感じました。

普通充電ポートからAC100V電源を取り出せる「ヴィークルパワーコネクター」とともに、ラゲッジルームには「アクセサリーコンセント」が全グレードに標準装備されています。カタログでは隅っこに小さく掲載されているだけの「V2L(Vehicle to Load=給電)」機能ですが、EVライフではかなり重要。クルマ作りに卓越したトヨタならではのそつのなさを感じるポイントでもあります。
一点、クルマとして、EVとしての完成度が高まったからこそ、ディスプレイなどのユーザーインターフェースが旧態依然としていることがすごく気になってしまいました。

たとえば、ナビ設定していて交差点に差し掛かったとき、ナビ画面の拡大表示と重複してドライバーディスプレイにも案内画面が表示(設定で変更できるけど)されて「これ、必要か?」と感じてしまいました。ドライバーディスプレイ内にADAS関連のマークが乱雑に並んでいるあたりも、改善の余地があるように思います。
今回、車両と連携するスマホアプリは試せていないものの、使ってみればいろいろと気になるところがあるだろうなと思いつつ。このあたりは、先行するテスラやヒョンデのEVをベンチマークとして、トヨタらしい、トヨタならではの進化を果たしてくれることを期待しています。

リアに「BEV」のバッジが付いたのも新型の変更点。
CEV補助金を活用すれば実質350万円〜
試乗した12月17日、国のCEV補助金がEVは40万円増の最大130万円に増額されることが発表されました。新型bZ4Xの価格は、バッテリー容量57.7kWhの「G」グレードが480万円(価格はすべて税込)、「Z」グレードのFWDが550万円、4WDで600万円です。
※2026年1月1日以降車両登録の「銘柄ごとの補助金交付額」で、新型bZ4Xは全グレードが最高額の130万円と発表されました(2025年12月19日発表 ※NeV公式サイト)。
とすると、Zの4WDでも470万円と500万円を切り、Gは実質350万円で買えることになります。トヨタのEVには45万円(2025年度の場合)の補助金を併用できる東京都なら、実質305万円というお買い得価格です。
これまた同じ17日、「LOVE FOREVER」をキャッチフレーズに華々しく発売された新型RAV4はベースモデルのAdventureが450万円、Zグレードは490万円(ともにHVで4WD)ですから、CEV補助金を使えば(新年度の補助金適用開始時期にご留意ください)bZ4Xの「Z」4WDが、ハイブリッド車のRAV4「Z」よりも安く買えてしまいます。
全国各地3300店舗以上のディーラーに試乗車を配備

首都高川口ハイウェイオアシスにて。
2022年、bZ4Xがデビューを飾ったときは、日本国内ではリースとKINTO(サブスク)のみでの販売。ほぼフルモデルチェンジといっていい今年10月の「一部改良」についても記者発表などはなく、先だって開催されたジャパンモビリティショー2025のブースに展示車両もなしと、ひっそりと静かに進化を果たした新型bZ4Xですが、トヨタが「EVを売るぞ!」と本腰を入れ始めたと感じる動向もあります。
今までbZ4Xの試乗車を置いている販売店は少なかったのですが、新型bZ4Xは「約4200店舗の販売店のうち8割に配備」を進めているということです。計算すると、約3360店舗のトヨタディーラーに新型bZ4Xの試乗車が置かれることになります。
今までは、bZ4Xというラインナップはありながら「まだEVには乗ったことがない」という営業マンの方もいたことでしょう。でも、これからは自ら新型bZ4Xに試乗もして「自信をもってお客様にオススメできる」と実感する営業マンが増えていくはず。懇談で伺ったところでは、今まで日帰りだった営業スタッフ向け研修会を「1泊2日のプログラムに強化して、BEVの基礎知識からbZ4Xの商品としての魅力まで理解を深めていただく」内容にアップデートするなどの施策にも注力しているとのこと。日本のEV普及にとって、大きな一歩だと思います。
なにより、今まで「EVは気になるけど不安」と感じていた人たちにとって「近くのトヨタが自信をもって販売している」という安心感は絶大です。まだまだ大衆車と呼ぶには高価な高級車ではありますが、自分でハンドルを握ってみればクルマとしての質の高さがわかるはず。EVの是非を論じる前に、まずはトヨタのお店へ行って新型bZ4Xに試乗してみることをオススメします。
取材・文/寄本 好則






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