今日が一般投票締め切りの「ジャパンEVオブザイヤー 2025」ノミネート車種でもあるフォルクスワーゲンのミニバンEV「ID.Buzz」で、東京から静岡市の三保の松原へ走ってみました。急速充電は1回で、最大150kW器がある Audi Charging station のありがたさを実感。軽快に走れる高級ミニバンでした。
思ったよりも扱いやすいミニバン

日本ではワーゲンバスと呼ばれる伝説の名車「タイプ2」をオマージュして電気自動車として復活したのがフォルクスワーゲン「ID.Buzz(アイディー・バズ)」。2025年6月に日本発売が発表されて、なかなか試乗する機会がなかったのですが、「ジャパンEVオブザイヤー 2025」のノミネート車種に推挙したこともあり、長距離試乗してみることにしました。
ワーゲンバスといえば、もう30年くらい前、友人のカメラマンが乗っていたヴァナゴン(Vanagon T3)にEVカートを積んで栃木のカートサーキットに向かう途中、東北道の料金所を過ぎて加速しようとした途端にエンジンブロー。フロントガラスが飛び散ったオイルまみれになってカート走行会はリタイア……なんて思い出もありますが、もちろん、今回の試乗レポートとはまったく関係ありません。
さて、日本市場では貴重なミニバンEVであるID.Buzz。標準モデル(ホイールベースが2990mm)の「Pro」と、室内長を伸ばして7人乗り「Pro Long Wheelbase」(3240mm)のバリエーションがあり、今回試乗したのは標準ホイールベースモデルの「Pro」でした。
ボディサイズは「全長4715mm×全幅1985mm×全高1925mm」。全幅はほぼ2mと、私の自宅がある三軒茶屋あたりの狭い道では要注意ですが、実際に運転してみると、思いのほか取り回しはいい印象でした。ただし、これは運転席からの見切りがいいのとステアリングの反応や足回りの完成度が高いことの恩恵。最小回転半径は5.9m(ロングは6.3m!)ですから、決して小回りがきくクルマとはいえないですね。
とはいえ、駐車場での車庫入れなどでシフトをリバースに入れると、ガイドライン付きでわかりやすいバックカメラ映像が表示されることもあり、車体の大きさによるストレスを感じることは意外なほどありませんでした。

インテリアはさすがの質感。車載ナビはなくスマホ連携で活用します。前席シートにはマッサージ機能まで付いてました。
パワフルなモーターで軽快なドライブを堪能
車両重量は2560kg、2.5トン超えのヘビー級です。でも、搭載するモーターの最高出力は210kW(286PS)、最大トルクが560Nmとパワフルであり、EVならではの発進時に豊かなトルクが発揮されることによって、街中で発進・停止を繰り返すようなシーンでも「重さ」を意識することなく軽快な走りを堪能することができました。
個性的なエクステリアデザインや、タイプ2の伝説を受け継ぐブランドイメージは魅力抜群。Proは2列目がキャプテンシートになっていて定員は6名ですが、家族や仲間でゆったりとお出かけを楽しむためにミニバンを、そして気持ちいいEVがいい! という方にはオススメの1台であることは間違いありません。

3列目シートは簡単に着脱可能。
気になるのは、やっぱり価格です。「Pro」の車両本体価格は888万9000円(価格はすべて税込)。これに、LEDマトリックスヘッドライトやリラクゼーション機能(運転席/助手席)などを追加する「アップグレードパッケージ」が70万円。2トーンのオプションカラーが24万2000円。合計で983万1000円になる高級車です。
とはいえ、ゆとりある人生を満喫しつつ、ID.Buzz で優雅な休日を楽しみたい! という方にとって、1000万円程度の価格は乗り越えられる壁に過ぎないはず。日本市場では選択肢がなかった「ミニバンEV」で、ぜひ華麗なるEVライフをお楽しみください。
航続可能距離は満充電で350kmくらいが目安
さて、優雅で華麗なドライブを楽しむために、EVならではのポイントを確認しておきましょう。
「ID.Buzz Pro」が搭載するバッテリー容量は84kWhです。市販乗用車EVとして「大容量」といっていいレベルです。カタログスペックの一充電走行距離(WLTCモード)は524km。WLTCモード電費の実用値は「8割程度が目安」というのはEVの基礎知識でもあり、8掛けすると「約419km」となりますが、そこは前面が立ったミニバン。エアコンを使った高速道路中心の走行では「300kmくらいまでには経路充電&休憩をする」と想定しておくのがオススメです。
ちなみに、ID.BuzzのCd値(空気抵抗係数)は0.285とミニバンとしてはとても優秀。とはいえ、今回のように高速道路を100km/h巡航とかすると、平均電費は5km/kWh前後がやっと、という感じでした。

出発時のメーター表示。
今回、品川区のフォルクスワーゲンで試乗車を借りた時のメーターでは、SOC(バッテリー残量)95%で航続可能距離が363kmと表示されていました。三保の松原到着時には、174km走行してSOCは51%、走行可能距離表示は204km。復路が同じ距離であれば「無充電で往復できるじゃん」と思ってしまいがちですが、いかに大容量バッテリー搭載のEVとはいえ、SOCが20%を切ってから内心ハラハラしながら走るのは優雅じゃありません。
「140〜150kW」を受け入れることができる優れた急速充電性能がID.Buzzの特長でもあります。最近、幹線高速道路のSAPAに増えている最大150kWの高出力器が設置されているスポットを充電スポット検索アプリなどで確認しておいて、適切に「休憩&急速充電」を行うのがオススメです。
厚木のAudi Charging Station で経路充電

今回のドライブでは、神奈川県厚木市にある「Audi Charging Station 厚木」に立ち寄って充電してみました。新東名高速道路の厚木南インターチェンジを下りてすぐの場所にある、便利な高出力経路充電スポットです。
静岡市から東京への復路。高速SAPAで150kW器があるのは新東名の駿河湾沼津SA(通過時のSOCは20%くらいでした)ですが、今回はできるだけバッテリーを減らした状態からの急速充電を試すため、あえて厚木まで粘ってみた次第です。選択肢を拡大するためには「早く海老名SAの上下線に150kW以上(内心では350kW器の国内SAPA初設置を期待しています)を設置してほしい」とお願いしておきます。
EVの急速充電には「バッテリーのSOCが高い(残量が多い)と出力が抑制される」特性があるので、一般的には「SOCが40%を切ったら休憩&経路充電のタイミング」くらいを目安にするのが、スムーズなロングドライブを楽しむためのコツといえます。

さて、Audi Charging Station 厚木にはSOC13%で到着。ギリギリじゃないかと感じる方がいるかも知れませんが、そこは大容量EV。航続可能距離表示はまだ58kmもあるので、まったくドキドキすることはありません。
ここに設置されているのは、パワーエックスの蓄電型急速充電器で、最大出力150kWの2口器×2基で計4口が並んでいます。高速道路を下りることもあり、4口の高出力器があれば、当面、充電待ちに遭遇する心配はないでしょう。ただし、定置型バッテリーに蓄えた電気で充電する仕組みなので、連続して充電するEVがいるとバッテリーの電気が減って一定時間利用できなくなる場合があることは理解しておきましょう。

30分の充電で、確認できた最大出力は105.05kW。今回、プレコンディショニング(事前にバッテリーを温める)を手動でオンにしておいたのですが、140kWを超えるような出力を確認することはできませんでした。とはいえ、100kW超えはまずまず納得の高出力です。こんな感じで、高出力の急速充電器を選んでタイミング良く充電するのが、ID.Buzzでのロングドライブを楽しむポイントであることを実感しました。
30分間の充電でSOCは66%に回復。充電した電力量は43.99kWh。電費が5km/kWhとして、約220km走行分のエネルギーを補給できたことになります。

SOCが上がると、充電出力は低下してきます。
ガレージには出力6kWの普通充電器設置がオススメ
三軒茶屋の自宅には、SOC53%で帰着しました。翌朝の試乗車返却に備えて、ガレージに設置している200VのEV用コンセント(出力は3kW)で充電したのですが……。朝起きて確認してみるとSOCは97%で、満充電には少し届いていませんでした。

考えてみれば、84kWhのバッテリーで53%だったということは、満充電にするためには約40kWhの充電が必要です。つまり、3kWのコンセントでは13時間以上かかります。
それほど頻繁には乗らないというのであれば3kWのコンセントでも十分ですけど。アクティブにID.Buzzで駆け回りたい! という場合、自宅ガレージには出力6kW以上の普通充電器を設置しておくのがいいですね。
いずれにしても、自宅ガレージに「基礎充電」環境を整えるのが、華麗なるID.Buzzライフの必須条件といっていいでしょう。
集合住宅などで基礎充電環境をもてない場合、正直、大容量バッテリーで車両サイズの大きいID.Buzzを活用するのはかなりストレスを感じることになるでしょう。自宅周辺の急速充電スポットで「基礎充電代替」の運用をするとしても、国内で多く設置されている出力50kW以下の充電器では30分でも20%程度しか充電することができず、力不足が否めません。150kW器、少なくとも90kW器が周辺にあるか、あるいは、日常的に負担なく利用できる場所に出力6kWの普通充電器設置スポットがあるかどうか確認してから、ID.Buzzライフへの一歩を踏み出すのが賢明です。
ID.Buzzを試乗してみて、ひとつだけとても残念に感じたのが、室内のアクセサリーコンセントなど、駆動用バッテリーの電力を活用する、いわゆる「V2L(Vehicle to Load)の機能が搭載されていないことでした。屋外レジャーで活躍するシーンも多いでしょうから、クルマから電気を取り出せるとすこぶる便利です。まあ、ID.Buzzを新車で購入できるのは経済的に余裕がある方でしょうから、テスラオーナーが多くやっているように、大容量のポータブル電源を活用するのが吉、ってことですね。
なにはともあれ、ID.Buzz、魅力的なEVでした!
取材・文/寄本 好則






コメント