トヨタ『bZ4X』アップデートモデルで関西遠征【往路編】電気自動車として大きく進化

4月にバッテリー残量(SOC)の%表示を追加するなどのソフトウェアアップデートを実施したトヨタの電気自動車『bZ4X』で関西取材ツアーに行ってきました。印象を総括すると、SOC表示が追加されたことで格段に使い勝手がフレンドリーな電気自動車に進化したことを実感しました。

『bZ4X』アップデートモデルで関西遠征【往路編】電気自動車として大きく進化

SOC表示追加でEV長距離走行のストレスが軽減

2022年5月、トヨタブランド初の量産電気自動車として発売された『bZ4X』は、バッテリー残量(SOC)の「%表示がない」ことが電気自動車として大きな欠点であることを、EVsmartブログでは発売当初から指摘していました。EVでことに長距離ドライブをする際には、SOCの変化を確認しながら経路充電や目的地充電のプランを実行していきます。メーターに表示される航続可能距離(予測値)は直前の走行状態やルートの勾配によって不規則に変動してあまりアテにならないため、%表示がないと目隠しで闇鍋を食べさせられているようなストレスを感じていたのです。

でも、発売から約1年となった2023年4月、トヨタは『bZ4X』にSOCの%表示追加や、1日当たりの急速充電によるフル出力充電の回数を従来の2回程度から約2倍にするなどのソフトウェアアップデートを行うことを発表(関連記事)しました。5月以降、すでに納車済みの車両でも無償アップデートを行うとしています。

5月21日の日曜日、奈良県のならコープで開催されるEVイベントで講演することになったので、アップデート済みの『bZ4X』をトヨタにお借りして、大阪府堺市、箕面市、京都府京都市などで24日まで、4日連続の取材ツアーを組んで遠征してきました。ツアー成果の記事はこの後で順次公開していきます。

『bZ4X』アップデートモデルによる長距離ドライブのインプレッションは、往路編と復路編の2回に分けて紹介しようと思います。というわけで今回はまず往路編。ソフトウェアアップデートによってSOCの%表示が追加されたbZ4Xは、格段にフレンドリーな電気自動車に進化した! という印象です。EVにあまり興味のない方は「たかがSOC表示だけで何を大袈裟な」と思うかも知れないですが、SOC表示によってバッテリーと対話しながら走るのは、EVドライブの楽しさのひとつでもあります。

以前は「SOCがわからない」という欠点が目についてbZ4X全体を不完全なEVに感じてしまうところがありました。人間関係でも、ちょっとした癖や言動の傾向が気になって、あまり好きになれない人っていますよね。あんな感じです。

東京出発時のSOCは89%。自宅コンセントでフル充電するつもりだったのですが、充電量の上限が90%に設定されていたことに気付きませんでした。ま、浜松SAまでは問題なく到着できるだろうと予測してそのまま出発。

でも、アップデート版のbZ4Xと6日間を過ごしてみると、あら不思議。%表示がちゃんとあるというだけで、「モデルYやアリアに比べて……」と少し気になっていた静粛性も許せるし、ACCの出来の良さ(詳細は復路編でレポートします)など、「トヨタのクルマ」としての完成度の高さが輝きを増して見えるようになったのでした。

あとは、リース専用車っていうのが何とかならないものかと思いますが、まずは「トヨタのEV」が、晴れて正式な門出を迎えたことを祝福したい気持ちです。ただし、あくまでもbZ4Xは最初の一歩であるのも事実です。世界のトヨタがこれからのEV世界大戦を勝ち抜いていくためには、さらなるEVバリエーションの拡大や、EVとしての練度向上が求められることになると思います。

三重県伊賀市のホテルまで充電1回で到着

トヨタがEV世界大戦を勝ち抜くためのポイントのひとつが、充電の利便性です。今回の往路では、先だってニチコンマルチプラグ器(6口)とABBの150kW器(2口)が設置された新東名浜松SAで行った急速充電約30分を1回だけで、翌日の奈良市内での講演に備えて宿泊した三重県伊賀市の「ルートイングランディア和蔵の宿伊賀上野城前」まで、途中、岡崎市内でちょっと寄り道して約420kmを、余裕で完走することができました。

世田谷区内の自宅をSOC89%でスタートして、浜松SAまでの229kmは約18%を残して到着。消費した電力はSOCで71%程度となり、総電力量で計算すると電費は5km/kWhとなりますが、メーターの電費計は5.6km/kWhと表示されていたのはちょっと謎。まあ、新東名の120km区間を快走したし、こんなものでしょう。7割の力で東京から浜松SAまで走れればとくに問題はありません。

浜松SAに新設されたABBの最大150kW器は、なぜか出力70kW程度しか出なくて早々に停止。eMPには未確認でとくに出力制限の不具合情報も出ていませんが。eMPさん、スッキリ便利な急速充電ができるよう、よろしくお願いします!
開始時SOC終了時SOC充電時間充電電力量推計
ABB150kW器18%23%約3分約3kWh
ニチコン90kW器(1)23%49%約14分約18.5kWh
ニチコン90kW器(2)49%76%約15分約19.3kWh

急速充電結果を表にしました。先に1回30分の急速充電と書きましたが、実は細かく3回刻んでいます。

まず最初は、最大150kWの出力に対応するbZ4Xの性能を享受するため、ABBの150kW器に繋いでみました。ただし、この150kW器は70kW程度しか出力が出ない不具合を抱えているという事前の情報もあったので様子を見ていると、なるほど、開始から3分ほど経過しても71kWまでしか出力が上がりません。これなら、ニチコンのマルチプラグ器で充電する方が最大90kW出力なので効率的です。

しばらく待っても71kWまでしか上がりませんでした。

というわけで、充電器を移動。幸い、快適になった8台分のEV充電区画には私のbZ4Xが1台だけだったので、とくに気兼ねや配慮も不要でした。さらに、1回目のニチコン充電は15分経過する前に停止。もう一つ隣りの同じ充電器に移動&繋ぎ直して15分。合計で約30分間充電したのでした。

ニチコンなんちゃって90kW器の1回目は16分ほど残して手動で終了。

なぜこんな面倒なことをやってるのか。日本の急速充電事情に詳しい方はすでにご存じの通り、このニチコンマルチプラグ器は最大出力90kWであるものの、90kW(200A)で充電できるのは最初の15分間のみ。その後は自動的に50kW(125A)に出力が落ちる「ブーストモード」を採用した「なんちゃって90kW」仕様になっています。予定した30分間で最大限の充電結果を得るために、最大出力が継続する15分間で充電器を移動したということです。

最初の14分間で約18.5kWh、後半の15分で約19.3kWh、約29分の合計で37.8kWhほどの充電ができたので、90kW器での充電としてはなかなか優秀な結果と評することができます。

ただし、1台の充電器でそのまま30分間充電していたら、後半は125Aに自動的に制限されるので、30kWh程度しか充電できなかったと予測できます。これは、復路で確かめてみることにしましょう。また、今回は同時充電するEVが来なかったので関係ありませんが、6口の充電ストールで複数台のEVが充電すると、接続する台数や順番によって出力制御が行われる「ダイナミックコントロール」というややこしい仕組みも採用されています。

ニチコン2台目は15分で終了。この充電器、出力の電圧や電流値が表示されないのがやや不便。bZ4Xも、スマホアプリがあれば確認できるようですが、メーターに充電出力は表示されないのがやや残念な点でした。

トヨタがEV世界大戦を勝ち抜くためのポイントが「充電の利便性」であるとあえて指摘するのは、こうした公共充電インフラの不便さが、そのままbZ4Xの、ひいては日本で走るチャデモ急速充電仕様のEV、つまり、これからトヨタが続々と発売するであろうEVの性能になってしまうと感じるからです。まして、bZ4Xの印象が格段に向上した分だけ、充電インフラ側の中途半端な急速充電性能が気になってしまうのかも知れません。

とはいえ、充電インフラの性能はEVの性能そのものでもあります。日本国内の充電インフラネットワークを運営するe-Mobility Powerも前向きに取り組んでくれてはいますが、主体はあくまでも電力会社。ユーザー目線でEV性能を向上させるといった視点を求めるのは酷でしょう。欧米に比べて月額基本料金が高額で、ケーブルを挿すだけで認証&課金が行われるプラグアンドチャージや、充電終了後の車両放置に対するアイドルフィーなどの設定がないこと、従量課金の導入など合理的な仕組みへの進化が遅れ気味なことも気になります。

日本のEV普及は「結局はトヨタ次第」であると感じています。バッテリー容量を抑えた大衆価格で魅力的なEVの登場とともに、国内充電インフラの進化に対して、知恵もお金も出していただいて、ぐりぐりと前進させていただけることを期待しています。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)10件

  1. 途中から充電電流が激減する・・「急速充電器あるある」ですね。
    つい最近、日産ディーラーでテスラモデル3srを充電(ニチコンの新型50kW器)しました。
    soc17%からはじめ、出力125Aを確認し28分後に戻ったところ、何と出力が50Aに激減していました。電力量も30分で16kWhです。
    他の50W器なら同様の条件で22kWくらい入っていたので帰路の予定が狂いました。

    ニチコンの設置業者さんに問い合わせたところ、「充電器そのものは125Aを維持できる性能を持っているが、使用側で制限をかけることも可能である」という回答を得ました。
    ユーザーとしては注意が必要だなと感じました。

  2. レクサスEVの予約待ちのものです。
    とても興味深く読ませていただきました。
    トヨタも少しずつでもバッテリー表示方法が改善されてきて嬉しく思います。

    ただ気になるのは目的地を設定した時に、途中の通過サービスエリアや目的地の到着時のバッテリー残量予測の表示はされる様になったのでしょうか?
    出発前の航続距離と目的地までの距離を比較して、自分で充電場所を予測しないといけないのはナンセンス。
    その辺の表示も改善されていたら良いのですが。。

  3. 70kw程度しか充電されないという話は
    200A許容しているとしても電圧が異なり、
    充電する車両と充電率で異なることがありますね。
    (60~85kw)
    ABB150kw2口機は、200Aは連続許容。(1台利用 最大15分350A)
    350V程度で充電を開始し200A許容を
    70kw程度しか充電できないと認識した可能性でしょう。

    1. 七海(コテハン) さま、コメントありがとうございます。

      電圧や電流値は充電器にも車両にも表示されないのでユーザー目線としては「70kWしか流れない」ということになります。つまりは、1台だけで充電してるのに350A流れてくれないということですね。SNSなどの情報によると、他車種でも同じ状況のようです。

    2. あ、今気付きました。ニチコンのなんちゃって90kWより、200Aしか流れないABB150kW器30分のほうが15分2回なんてことをする手間なく、たくさん入ります、ね。ご指摘の通りです。

      実は今回、最初からニチコン15分×2回を試そうと思いつつ走ったもので、思い至りませんでした。

  4. 最近、急速充電が出来るfiat500eに乗りはじめました。
    急速充電初心者として
    気になるのが、ブログ投稿筆者の皆さんが、充電カードはどうしているのか、ということです。
    EVsmartの過去のブログなども拝見しましたが
    empやENEOS、エコQ電など、いろいろ出てきているので
    生活パターンの違う筆者さんごとに、どんなプランで充電しているのか知りたいです。
    私は東京在住で、fiat500eで青森まで行く事は無いと思いますが
    白馬や御殿場などには行きたいと思っています。
    高速道路SA PAで急速充電をしたい場合、都度払いで充電できる急速充電器がない場合もあり得るのですよね?
    充電カードを持っていることが
    遠距離を走る上では必須なのでしょうか。

    1. 岡本寛 さま、コメントありがとうございます。

      執筆陣の充電カード。試乗取材で、各自動車メーカーが用意している「広報車」をお借りする場合、各社、もしくはeMPの充電カードを一緒に貸し出してくれることが多いです。また取材用の充電カードがない場合などに備えて、編集部で日産ZESP3のシンプルプランのカードを用意していました。
      執筆者自身が所有するEVで行う企画では、各自のカードを使っています。

      EVでの長距離ドライブでの充電カードの必要性。人それぞれいろんな考え方はあるでしょうが、個人的には必須だと思います。実は今日、うっかり充電カードをオフィスに忘れて出かけてしまい、出先のコンビニQCを使おうとしてジャパンチャージネットワーク(eMP)のビジター認証を利用しましたが、新たに設定されていたLINE認証ってヤツが上手くいかず、やっぱり激しく面倒でした。

      eMPの制度に基づき設定されている月額料金。日本の充電インフラ拡充を応援するつもりで支払う気持ちではいます。
      でも、欧米と比べても高過ぎるのはいかがなものか、ではありますね。

  5. 記事大変興味深く読ませていただきました。
    文中にて、

     消費した電力はSOCで71%程度となり、総電力量で計算すると電費は5km/kWhとなりますが、メーターの電費計は5.6km/kWhと表示されていたのはちょっと謎

    とありましたが、これって「謎」というほどでも無いと思うのですがいかがでしょうか。十分おわかりだと思っていますが、SOCの「表示」と内部の管理しているSOCでは、値が異なります。
    一例になりますが、当方が所有しているIONIQ5だと、表示のSOCが「100%」である場合概ねBMSで管理しているSOCは「97%」程度であることが多いです。そして、この値は表示のSOCが「60%」付近で、表示と内部の値が均衡します。さらに、利用量が増えて表示のSOCが低下してくるとBMSのSOC>表示のSOCになっていきます。あまり下限までのチャレンジをしていいませんが、表示SOCが「10%台」の際には2~2.5%程度の差がありました。これは、表示のSOCが0~100%が車両搭載のバッテリ容量の0~100%と直接イコールにならない点が重要です。結果として、表示SOCを基準に計算した場合若干ですが使用量を多く見積もった形の計算がされることになり、km/kWhなどの計算値は下方修正されて算出されることになります。まぁ、この誤差がどの程度になるのかはもともと実際上表示上SOCとBMS上SOCの関係が動的変化をするからかなり難しいとは思うのでSOCから計算するとずれやすいのが現状です。可能であれば、OBDなどからの情報を取得して計算して頂けると有り難いなぁなどと思ってしまいました。
    もちろん、そこまでする必要は無いとも思いますが、EVSmartさんのようなEV系の情報を真剣に扱っておられるメディアであれば出来れば検討して頂けると幸いです。少しでも正しい情報を多く広めて頂いて無駄な誤解を減らして頂けるとうれしいです。この界隈はどうも微妙な情報をもとに変な煽りなどをして、無駄な争いが多い印象があります。その語論の際には少しでもより正確な情報をもとに行うべきだがなかなかこの手の情報が少ないのを危惧しています。海外ではといっても、国内では諸般事情(CHAdeMO)の違いで当てはまらないなんていうのを筆頭に国内での議論の際に有用な「正確な情報」を是非お届けいただけることを期待しております。

    1. みつかず さま、コメントありがとうございます。

      電費の誤差。充電量からの計算値とメーター表示が異なるのは「充電時のロスなんだろうな」と推測していました。でも、考えてみれば今回、充電出力や結果が表示されないニチコン器で、充電量はメーターのSOC表示からの推計ですから、つじつまが合いませんね。ともあれ、私は技術者でもなく、理由を語ろうとしても推測の域を出ないので、ユーザーレベルで把握できる情報として「ま、いいか」ということで。。。

      ルート設定時の残量予測などもそうですが、バッテリー&充電の情報や仕組みについて、メーカーからもさらなる説明があるといいな、とは感じているところです。

      >少しでも正しい情報を多く広めて

      これは、そもそもEVsmartブログの存在意義だと心しています。
      OBDツールを使ったデータ収集は、そのような企画を試すことも考えてはいますが、それ以前に発信すべき事柄が山積みだしな、という感じ、です。

    2. 寝起きに、ハタと思い出しました。bZ4XバッテリーのNETは64kWh(うろ覚え)ってアナウンスがありましたね。後ほど計算し直してみます。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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