後輪駆動になったボルボ『C40 Recharge』で長距離実走〜東京=兵庫【往路編】

夏恒例の電気自動車による「東京=兵庫」片道約600kmを往復する長距離実走レポート。今年はボルボ『C40 Recharge』で行ってきました。往路では後輪駆動になった新モデルの乗り味や使い勝手を確かめながら、余裕の充電2回で走りきりました。

後輪駆動になったボルボ『C40 Recharge』で長距離実走〜東京=兵庫【往路編】

EVであることを意識せずEVのメリットを満喫

私がEVsmartブログ編集長を引き受けて以来、例年の夏恒例にしている電気自動車による「東京=兵庫」往復レポート。今年は3月に後輪駆動に変更されたボルボ『C40 Recharge』で行ってきました。ボルボからお借りしたのはピクセルLEDヘッドライトなどを装備した「Ultimate Single Motor」というグレードで、車両本体価格は739万円(税込)です。

夜明けの浜松SAで充電中、虹が祝福してくれました。

C40 Recharge が日本で発売されたのは2022年1月でした。7月にはプラットフォームを共用するXC40 Rechargeも発売されて、当初の仕様でシングルモーターはともに前輪駆動でした。ところがそれから約1年、仕様変更された新モデルでは、2モーターのAWDがなくなって、シングルモーターは後輪駆動へと変更されたのです。

フルモデルチェンジではなく、イヤーモデルの仕様変更で前輪駆動が後輪駆動に変更されるなんてのは、自動車の歴史のなかでもあまり例がないことだと思います。本国などではAWDモデルもラインナップされていますが、シングルモーターは日本と同じ後輪駆動になっています。思い切った駆動方式の変更は、後輪駆動でも雪道などスリッピーな路面でもコントロールしやすい電気自動車の特性に自信をもってのことと推察します。

今回の試乗は高速道路走行が中心で、前輪駆動と後輪駆動の違いはさほど関係はなかったのですが、目的地だった兵庫県但馬地方の山道などでは、後輪駆動らしいスムーズで小気味いい走りを堪能できました。

C40 Recharge については、最初のモデルの発売から何度か試乗レポートをお届けしています。仕様変更された新モデルでもインターフェースなどに大きな変更はありませんが、まずはEVとしての特長をピックアップしておきます。

●スタートボタンがない。

C40 Rechargeには、いわゆるエンジン始動に当たる「スタートボタン」がありません。ドライバーがシートに座り、ブレーキペダルを踏みながらシフトを「D」か「R」に入れれば、自動でシステムが起動します。ドライバーがクルマを下りると自動でシステムが停止するので、急速充電をする時に「システム終了を忘れていてエラーが出る」といった面倒がないのもEVならではのメリットです。

一点、同乗者を車内に残してドライバーが下車するとシステム終了してエアコンも止まってしまうのにちょっと困りました。でも、これは専用の「Volvo Carsアプリ」(今回は用意していませんでした)があれば遠隔でエアコンのON/OFFといったコントロールはできるし、センター液晶画面のボタンで直接エアコンを始動することもできるようです。

●回生ブレーキの強度は「お任せ」で快適。

回生ブレーキの強度を変えるには、メイン液晶の設定から「ドライビング」を選び、ドライビングダイナミクスの「One Pedal Drive」のところで「Auto」「On」「Off」から選択します。

今回は、ACC(Adaptive Cruise Control)を使った高速道路走行が多かったこともあり「Auto」を中心に走りました。「Auto」にしておけば、前走車がいるなどの状況を自動的に判断して、コースティングからワンペダル(アクセルペダルを放すだけで停止する)まで、回生ブレーキの強さを自動で制御してくれます。

高速でも一般道でも、基本的に「Auto」で走るのが便利です。一般道でACCを使っていなくても、前走車がいなければコースティングでスムーズに走れるし、信号待ちなどで前走車が停止すれば勝手にワンペダルになって回生ブレーキが強く効きます。

そんなわけで、回生ブレーキのことをドライバーがあれこれ考える必要がないのは便利なのですが、ワインディングの下りなど「やっぱり回生の強度は自分でコントロールしたいな」と感じる場面がありました。通行量が少ない山道なので、前走車はおらず。「Auto」にしているとコースティングでどんどん加速してしまうのです。かといって「On」にすると、やや平坦になったところでコースティングを使いたいという時に、微妙なアクセルワークでコントロールしなければいけません。

ステアリングの運転支援制御のボタンで「←」のボタンがひとつ余っている(機能が与えられていない)ようなので、このボタンで手軽に「One Pedal Drive」の選択ができるといいのにな、と感じた次第です。

●ACCの使い方などもシンプル。

「ドライバーがあれこれ考える必要がない」というポリシーは、いたるところに徹底されているように感じます。たとえば、ACCの起動はステアリング左側、中央のスピードメーターマークのボタンをプッシュするだけ。上下に配された「+」「−」ボタンで、5km/h刻み、または1km/hずつ設定速度が調整できます。

その右側のボタンで車間距離設定も簡単調節。初めて乗った人でも、さほど迷うことなく使いこなすことができるでしょう。

レーンキープアシストなどのボタンはなく、細かな調整はメイン液晶の設定から使い勝手を変えることができるようになっていました。

ひとつだけ気になったのが、ステアリングに手を添えていてもかなり頻繁に「ハンドルを握ってください」というアラートが出てしまうこと。700万超えの高級車ですし、ここは今後の改善を期待したいところです。

全体として、EVとしての出来映えは「◎」でした。よく言われる「エンジン車から乗り替えても違和感なく」という印象です。仕様変更にともなって、バッテリーのネット容量が69kWhから73kWhに増量されて、WLTCモードの一充電航続可能距離は590kmになりました。普段使いでは、EVであることをほとんど意識しなくても、スムーズで静かな走りなどEVならではの魅力を存分に堪能できるボルボ車に仕上がっています。

もうすぐ日本でも正式に発売される「小さくても最高」な新型電気自動車、ボルボ『EX30』がますます楽しみになりました。

往路の充電は「余裕」で2回でした

70kWhを超えるバッテリーを搭載した電気自動車で、細々と急速充電結果をレポートするのはあまり意味がないなと感じつつではありますが……。今回の往路、走ったのは東京都世田谷区から兵庫県養父市までの約600kmでした。

出発はお盆渋滞を避けるため、8月10日の午前3時ごろ。自宅ガレージの200Vコンセントで充電して、SOC100%からのスタートでした。

最初の充電は、新東名浜松SA下り線。SOCはまだ44%もあって、もっと先まで走ることもできたのですが、そろそろトイレ休憩したかったし、新設された150kW器が空いていたので充電することを選択。

この先、高速道路上の90kW以上で充電可能な場所は、25kmほど先の長篠設楽原PA下り線か、さらに約170km(合計で200km弱)先の名神高速草津PA下り線となり、草津を目指すのはギリギリなので、浜松での充電を選んだ次第です。

夜明け直後の浜松SAでは、キレイな虹が快適な急速充電を祝福してくれました。浜松の150kW器は2口器。最初は充電終了間近なリーフ。その後入れ替わりでボルボのXC40が隣に入ってきましたが、この充電器は2台接続時でもそれぞれ90kWの出力が約束されています。最大150kWで充電できる車種なら少し残念なところですけど、改めて確認したところC40やXC40の最大受入出力は90kW(200A)のようなので、30分間フル出力で充電することができました。

SOC70%を超えて出力は約80kW。30分間でSOC85%まで回復しました。

2回目の充電は、名神高速草津PA下り線です。PA到着時のSOCは48%。養父市までの残り距離が188kmで、メーター表示の走行可能距離が220kmとなっていたので一気に走りきることも考えましたが、朝食を食べたかったし、ここから養父市までは上り基調の道になるので、余裕をもって走りきるための充電です。

新電元最大90kWの2口器が設置されている草津PA。先客にPHEVが充電していたので、本来であれば最大45kWに制限されるところですけど、エクリプスクロスPHEVは充電開始から時間も経過していて充電出力が小さかったので、C40は50kWオーバーで充電開始。

後続のアリアに充電器を譲り、同乗者の食事戻り待ち中の図。

朝食のうどんを食べて少し早めに充電器に戻ってみると、PHEVがモデルSに交替してて、C40の後ろにアリア、モデルSの後ろにIONIQ 5が充電待ちになっていました。SOCは81%になっていたし、残り時間も数分だったので充電を終了してアリアに交替しました。

メモ代わりの写真だけ撮って、3分ほど残して充電終了。

そんなわけで、ゴール地点とした「道の駅 ようか但馬蔵」には、SOC47%を残して余裕のゴール。

ステアリング左のボタンで表示されるトリップコンピュータを確認すると、走行距離596.7kmで、電費は15.6kWh/100km(換算すると156W/km、約6.4km/kWh)と、120km区間はしっかり120kmで走り、エアコンも遠慮無く使ったわりに、なかなか優秀な結果でした。

ゴール時間は10日の午前11時30分。充電(休憩)2回を入れて、東京から兵庫までACC任せで約8時間半で到着するという楽々ドライブになったのでした。

湾岸長島か鈴鹿あたりに浜松みたいな施設を希望

今回の往路ドライブで、経路充電インフラについて再確認できたことがあります。

ひとつは、「浜松(150kW器2口を含めた8基設置)のようなスポットがあれば、EVでのロングドライブのストレスはほぼ心配無用になる」ということです。今回の充電時も、私が充電を始めてからXC40が入ってきて、さらに90kWのマルチプラグ器にIONIQ 5(草津で充電待ちになった方)が入ってきましたが、それぞれ、ストレスなく30分間の急速充電を行うことができました。

浜松SAで充電開始直後。8基あれば3台並んでもノーストレス。

もうひとつのポイントは「浜松のような選択肢を早くもっと増やすべき」ということです。e-Mobility PowerやNEXCOが発表している増設計画によると、今回充電渋滞となっていた草津PAも、現在上下線ともに3口のところを、2023年度中に上りは4口、下りは8口に増設するとされています。とはいえ、新東名や新名神が東京=大阪間の大動脈であり、今後、さらにEV車種の増加が加速することを考えると、できれば100〜150kmに1カ所くらいの割合で「最大150kWを含めた6〜8基の経路充電スポット」を高速道路上に整備してほしいと期待します。

さて、後日の【復路編】では、昨年、メルセデス・ベンツEQBでやや残念な結果に終わった「兵庫→東京を充電1回で走破!」に再チャレンジしてみたいと思います。お楽しみに!

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. NEXCO中日本の発表資料によると、今年度中に湾岸長島で150kW級2口を増設、計3口に増やす予定。また、その前の刈谷も4口に増やす予定です。

    1. 12年目のアイミーブ乗り さま、コメントありがとうございます。

      はい、刈谷や湾岸長島の増設計画は発表資料で承知しています。
      https://x.gd/1qZzI

      ただ、新東名に比べると、名古屋以西の高出力器複数台のスポットが手薄に感じています。
      記事中でも記したように、
      高速道路の基幹路線では、100〜150kmに1カ所くらいの割合で「最大150kWを含めた6〜8基の経路充電スポット」
      を期待しています。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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