欧州に比べてもお買い得価格のEX30
ボルボのEVラインナップの中で最も小さなSUVタイプの電気自動車である『EX30』は、2023年6月に発表され、日本では同年11月に発売されました。納車開始時期は2024年2月で、欧州とほぼ同時でした。
EX30は欧州ではバッテリーサイズが51kWhと69kWhの2種類あるほか、駆動方式もRWDとAWDがあります。日本に入ってきたのは69kWhのRWDモデルだけで、ほぼフル装備の車両価格は税込み559万円からです。プレミアムブランドとはいえ、バッテリー容量を考えるとお買い得感があります。
ところで英国のトリムを見ると、51kWhのRWDモデルの価格が3万2850ポンドからなので、日本円にすると約620万円。日本と同じ69kWhのRWDだと3万7050ポンドで、約700万円にもなります。涙が出るほど円安の現状を考えると、日本の車両価格がかなり低い設定になっていることがわかります。ボルボ・カー・ジャパンの頑張りが見えます。
なお51kWhのEX30は、(LFP)バッテリーを搭載しています。日本では69kWhモデルだけなのでバッテリーは三元系(NMC)です。
LFPバッテリーモデルは以前から日本にも入るという話があったのですが、しばらく音沙汰がありませんでした。でも話が立ち消えになったわけではなく、準備は進んでいるようです。英国と日本の価格差を考えると今でも限界ギリギリには見えますが、LFPバッテリーモデルの価格がどうなるのか、ちょっと期待してしまいます。
雪道でのEVの良さを知ってほしい
2025年2月、ボルボ・カー・ジャパンが雪深い新潟県の上越市を中心に雪上での試乗会を実施したので参加してきました。
実は今回の試乗会では、ボルボが欧州で2月10日に発表した『EX30 Cross Country(EX30クロスカントリー)』が出てくるのかと思ったりしたのですが、そんなに早く乗れるわけもありません。
ちなみにEX30クロスカントリーは、AWD(全輪駆動)になっているだけでなく、EX30に比べて車高を高くしたり、専用大型ホイールのほかにオプションで18インチのオールテレーンタイヤが用意されていたりと、都市部はもちろん、悪路走行にも対応したモデルになっています。
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ボルボ・カーズのジム・ローワンCEOはEX30クロスカントリーについて、マイナス20度になるスウェーデンの厳しい冬でも自然を楽しめるよう「単に車としてではなく、充実した体験をお届けしたい」と話しています。
ボルボ・カー・ジャパンによれば、まだ導入時期は決まっていないものの、できるだけ早い時期に日本でも発売したいとのことでした。全天候型の小型SUVタイプのEVの登場は楽しみです。
では今回の試乗会は何が目的かというと、ボルボ・カー・ジャパンは、RWD(後輪駆動)でもEVなら安心して雪道を走れることを見せたいという思いから実施したそうです。雪道と言えば日本では4WDが信仰されていますが、実はEVはモーターの駆動制御をきめ細かくできることから、2輪駆動、さらに雪道で不利とされるRWDでも比較的スムーズな雪上走行をこなせるのが特徴と言われています。
筆者もお手伝いをしているEVの市民団体、日本EVクラブが数年前に長野県白馬村で雪上EV試乗会を実施した時は、FWD(前輪駆動)の日産『リーフ』のほか、RWDの軽商用EV『ミニキャブMiEV』を使って、白馬村の人たちにEVの雪上走行を体験してもらいました。
この時は新雪の中でもスタッドレスタイヤがあれば十分に走ることができるだけでなく、雪道を走り慣れた白馬村民の方からも「エンジン車より扱いやすい」という感想が出ていました。それにミニキャブMiEVは、白馬村の日本EVクラブメンバーが実際に使っている車でした。
確かにAWDはどんな道でも強いし、万一のスタックから脱出する時にはデフロックがあればなおさら安心ですが、普段の走りではそこまで必要ありません。雪国でも、全部の車がAWDというわけでもありません。
EVなら雪道でも安定した走りができることを感じて欲しいというボルボ・カー・ジャパンの気持ちは、とてもよく理解できます。ということで、2月下旬に新潟県上越市の妙高方面で、EX30の雪道体験をしてきました。
思い切りアクセルを踏んでもスリップしない
筆者はもう20年以上スキーに行っていないこともあって雪道はご無沙汰です。EVは安心とわかってはいるものの、最初はちょっと緊張しながら、そーっとアクセルを踏んでいました。けれども、周りに車がいないのを確かめて試しに停止状態から乱暴にアクセルを踏んでみた時に、「あ、大丈夫だ」と確認できました。タイヤがまったくといっていいほどスリップしないのです。
誇張ではなく、発進時にアクセルを思い切り床まで踏みつけても、ほんとに滑りません。「これっぽちも」という感じです。そこから足を離して普通にゆっくり踏んでいくと、走り出します。EVの制御が高度なのは、頭ではわかっていましたが、ここまでとは恐れ入りました。
妙高周辺は雪深いことで知られています。道中、雪の壁ができていた道もありました。それでも主要道路は除雪されていて、道はところどころ凍っていましたが、新雪をごりごり進むシチュエーションはありませんでした。
そして妙高高原インターチェンジから西側の山に向かった県道ルートでは、RWDということを忘れるくらい、なんの不安もなく道をトレースできたのでした。
アクセルワークに気を遣わず雪道を進める
EX30のアクセル操作は、ワンペダルモードと、普通にブレーキを使う通常モードがあります。その両方を試してみましたが、慣れの問題があるだろうなと感じたほかは、どちらでも自然に走ることができました。
通常モードの時には、アクセルオフで軽い回生ブレーキが効いて減速します。以前、ボルボ・カー・ジャパンに聞いた話では、通常のエンジン車の減速感に近い制御にしているとのことでした。だから平坦な道や上り坂では、エンジン車から乗り換えても違和感のない走りができるような印象を受けました。
それに対してワンペダル操作は、下り坂で威力を発揮してくれました。下手にブレーキを踏むのが怖い下り坂は、ワンペダルにして減速を車の制御に任せると、なんとなく運転がうまくなったような気持ちになるくらい、スムーズに走ることができました。
ただし、下り坂途中の信号などで停止する場合は、滑りやすい路面だと制動距離が普段より長くなるため注意は必要です。さすがに、通常とまったく同じというわけにはいきません。
一般路から外れた広い場所で、旋回しながらアクセルをオン/オフしたり、速度を少し上げて急にステアリングを切ったりも試してみました。それでも車の挙動は安定していて、同行したEVsmartブログの寄本編集長ともども「お〜、これはいいわ」と笑顔で雪原を駆け回ってしまいました。
速度を上げて乱暴なステアリング操作をすると、雪上のRWDは明後日の方向に進んでしまいそうです。でもEX30は、アクセルを踏んだまま思い切りステアリングを切っても勝手に減速して、スリップを最小限にとどめてくれます。旋回中も、アクセルを乱暴に踏み込んだりすると自然に駆動力を落とし、スリップで制御を失ってしまうのを抑えてくれます。
至れり尽くせりです。
こうした制御が介入するとドリフト走行はできないのですが、そんなこと、普通はしません。まあ、ドリフト走行をしたい人は別のクルマで楽しめばいいだけという気はしますけども。
という感じだったので、久しぶりの雪道でもまったく不安なく走ることができました。もちろん急ブレーキを踏めばアンチロックブレーキが作動して制動距離は伸びますが、それはどんな車でも同じです。
最新のEVの制御の精緻さを実感することができたのは、個人的にも大きな成果でした。それに、ボルボ・カー・ジャパンの狙い通り、「EVならRWDでも雪道で問題はない」ことを体感できました。EVが雪道に強いことは知ってはいましたが、予想以上の能力に脱帽の1日だったのでした。
細かな制御も進化して乗りやすくなった
ここからは雪上EV試乗会以外で感じたことを紹介したいと思います。
まず「おっ」と思ったのは、「停止直前でカクカクする動き」をしていたのが、解消されていたことです。EX30が出てすぐに都内で行われた試乗会で乗ったときには、ワンペダルで停止する間際や、徐行程度の速度になった時にアクセル操作を少しすると、動きがカクカクすることがありました。
原因はわからないのですが、試乗会の時にはボルボ・カー・ジャパンでもこの挙動は把握しているという説明があったので、ソフトウエアのアップデートなどで対策されるのだろうなと思っていました。この動きが今回、なくなっていました。ちゃんと対策されたようです。
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ボルボ『EX30』試乗レポート〜上質でコスパが高い電気自動車であることを実感(2024年3月21日)
また再始動のたびに、3段階ある運転支援システムの車間距離の設定が「長め」にリセットされてしまう点も解消され、前回の設定を引き継ぐようになっています。
これらのように、操作系の細かい部分がソフトウエアのアップデートで改善されています。こうしたアップデートは継続される予定です。
一方で、ハードウエアの改善は、当たり前ですが、簡単にはできません。例えばウインドウの開閉スイッチがセンターの肘掛け部分にあるのですが、腕を不自然に折り曲げないと操作がしにくい位置に付いています。
加えて、同じスイッチで前後のウインドウを操作するのですが、前後の切り替えが接触するだけのタッチスイッチなので、前を向いたままだと前後どちらのウインドウが動くのかわからないのです。
スイッチを操作して初めて、前のウインドウが開くのか後ろが開くのかわかるという感じです。これはちょっと困りました。
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また、ステアリングの左から出ている操作レバーが、ライトのパッシング、前後ワイパー、ウインカーの3機能を集約しているのですが、これもちょっとわかりにくい印象でした。
東京までのロングドライブで運転を代わった寄本編集長は、ウォッシャー液を出そうとしてパッシングしてしまっていました。こういった操作は慣れるとは思いますが、一般的な輸入車のようにワイパーレバーは右から出ていてもいいかなと思いました。
このほか、これは筆者の個人的なものかもしれませんが、注意力散漫への警告が何度も出たのが気になりました。普通に運転していたのですが、なにが問題なのか、警告の頻度が妙に高かったです。以前の試乗ではこんなことはなかったので、不思議です。
そんなこんなはありますが、EX30は基本的に、何も考えずに乗ることができる高級EVであることは間違いありません。その分、運転に集中すれば、覆面パトカーや速度違反取り締まり装置にも、早めに気がつけるかもしれませんし、気がつけないかもしれません。
ボルボ伝統の安全安心なEVだと思いますし、LFPバッテリーのトリムが日本に導入されれば、日本市場での存在感がさらに増していくのではないでしょうか。
EX30 Ultra Single Motor Extended Range | |
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全長×全幅×全高 | 4235×1835×1550mm |
ホイールベース | 2.650mm |
最低地上高 | 175mm |
車両重量 | 1790kg |
車両総重量 | 2065kg |
最小回転半径 | 5.4m |
定員 | 5人 |
駆動 | RWD |
モーター | 永久磁石同期電動機 |
最高出力 | 200kW/6500-8000rpm |
最大トルク | 343Nm/0-4500rpm |
一充電航続距離(WLTC) | 560km |
タイヤサイズ | 245/45R19 or 235/45R20 |
駆動バッテリー | |
種類 | リチウムイオンバッテリー(NMC) |
セル数/セル電圧 | 107/3.67V |
容量 | 169Ah |
総電力量 | 69kWh |
定格電圧 | 400V※ |
急速充電対応電圧 | 80kW前後 |
価格(税込) | 559万円〜 |
※仕様書のシステム電圧は392V |
取材・文/木野 龍逸