フォルクスワーゲンTech Dayで確認できた電気自動車『ID.4』の潜在能力

フォルクスワーゲン・ジャパンがメディアやジャーナリストを対象としてテストコースで限界性能などを体感できる「Volkswagen Tech Day(最新BEV試乗体験会)」を開催して、EVsmartブログも参加してきました。自動車評論家、御堀直嗣氏のレポートです。

フォルクスワーゲンTech Dayで確認できた電気自動車『ID.4』の潜在能力

テストコースでBEVならではの走行性能を体感

フォルクスワーゲン・テック・デイと銘打つID.4の試乗会が、栃木市内のテストコースで開催された。タイヤのグリップ限界で、EVの走行性能がどれほど優れているかを体験できる場となった。

設定された項目は、低ミュー(μ=摩擦係数)路での坂道発進/スラローム/定常円旋回、そして、舗装路でのハンドリングコースと、回生の体験である。

低ミュー路とは、たとえば雨天のぬれた路面や、雪道、氷結路(アイスバーン)などの路面状況をいう。路面の摩擦係数(ミュー=μ)は、乾燥した舗装路で0.8前後、濡れた舗装路では0.6~0.4、雪道は0.5~0.2、表結路が0.2~0.1とされる。

この真夏には、テストコースといえども、雪道や氷結路を設定できない。そこでタイル舗装や水の散布で滑りやすさを模擬した、摩擦係数0.3の圧雪路相当、0.1の氷結路相当に加工した路面で疑似体験した。

黒いタイル舗装部分が圧雪路、青いタイル部分が氷結路相当。ID.4は氷結路でも安定した坂道発進をすることができた。

低ミュー路での坂道発進は、圧雪路相当の急坂の途中で一旦停止し、そこからアクセルペダルを踏み込んで坂道発進を試みる。通常であればタイヤが空転してしまいそうな路面の滑りやすさだが、ID.4は何事もなかったかのように登りはじめた。次に、一旦停止した状態から、ややアクセルペダルを深く踏み込み、あえてタイヤが空転する状態をつくってみると、タイヤがわずかに空転する様子は伝わるが、まもなくグリップして前進しはじめた。その際、車体の進行方向が斜めになるなどの不安な様子はなく、安心して真っ直ぐ坂道発進できた。

次に、同じ登り坂で、左側は氷結路を模擬したより滑りやすい路面、右側は圧雪路という、左右のタイヤで路面の滑りやすさが異なる状態での坂道発進を試みた。ここでは、さすがに左右でタイヤのグリップが異なるため、クルマはわずかに斜めの姿勢になったが、それでも、やがて左右両輪とも適切なグリップを得て、坂道発進を無事にこなした。

ちなみに、同じ条件でガソリンエンジンの前輪駆動車(FWD)で模擬走行する様子を見学したが、左右で路面の滑りやすさが違うと、再発進できずに終わった。

雪道など低ミュー路での安定感はBEVの特長

ID.4は、後輪駆動(RWD)のEVだが、EVの走破性の高さを実感した。雪国では、永年にわたって4輪駆動(4WD)車が冬場の運転の安心を約束すると信じられてきたが、EVでは、2輪駆動(2WD)でも高い水準で走破性を発揮できる潜在能力を備える。

圧雪路を模した低ミュー路での、スラロームと定常円旋回では、ハンドル操作した際の手応えや、安心感を体験することになった。

時速20キロメートルほどで走り、ハンドル操作をすると、前輪が的確に進路を定め、これに後輪が追従して安定した旋回を行うことを体験する。そこから、やや速度を上げていくと、前輪が横滑りをしてカーブを大きく曲がろうとしたり(これをアンダーステアという)、クルマが旋回をはじめたところでさらにアクセルペダルを踏み込むと今度は後輪が横滑りをして小回りするようになったり(これをオーバーステアという)、姿勢の乱れを生じはするものの、それに応じてアクセルを微調整したり、ハンドルで修正したりすると、間もなく安定した走行を取り戻す。タイヤが滑っても、不安はあまり覚えないはずだ。

これも、EVならではのよさが効果的に働いている。エンジンに比べ、モーターはおよそ1/100早い応答性をもつ。このためアクセルペダルの操作通り素早く速度調節ができ、クルマが姿勢を回復しやすくなる。さらには、アクセルペダルの操作に応じて、加速のみならず減速も回生の働きで素早く効くので、エンジン車に比べ速度調節を瞬時にでき、それがクルマの姿勢の回復を早めることに役立つ。

このエンジン車と違う独特な感覚は、文字ではなかなか伝えにくい。雪道を走る経験の少ない人は、事前にはタイヤが滑るのではないかとの不安を感じやすいが、いざ運転してみると、EVであればあたかも舗装路を運転しているかのような安心を覚えるだろう。それは、加減速の応答の速さと、それを支える回生の働きにある。

またEVならではの特徴として、数百キログラムのバッテリーを床下に車載しているので、低重心になり、そもそも安定性がよい。さらには床下一面にバッテリーを車載することにより、前後の重要配分が均等化され、クルマの挙動変化に前後の偏りが少なくなる。そのうえで、バッテリーはもちろん、モーターなど含め、部品の多くが前後タイヤの内側に配置できるため、一度は姿勢を崩しても元へ復帰しやすい特性もある。専門用語でいえば、慣性モーメントが小さいことによる修正のしやすさ、ということだ。

低ミュー路という、いかにも不安定で、もしかすると道を外れたり、スピンをしたりするかもしれない危険な路面状況でも、EVの特性が、より安全かつ安心な移動をもたらすことを、ID.4を通じてテストコースで実感することができた。

舗装路のコースではID.4との一体感が印象的

乾いた舗装路でのハンドリングコースでは、やはりEVであるからこその加減速の応答のよさや、低重心、前後重量配分の適切さなどとともに、右へ左へと屈曲路が連続する場面で、運転者の操作の通りに進路を定めていく安心と嬉しさを体感させた。ID.4は、SUV(スポーツ多目的車)的に背の高い車種だが、あたかも車高の低いレーシングカーを操縦しているかのような一体感と喜びがある。それはある意味で、エンジン車のスポーツカー以上かもしれない。

さらにモーター駆動のEVでは、回生を活用することで、カーブへ向かっての減速を手短に、確実に、余計な操作(アクセルからブレーキへのペダル踏み替え)なしに行うことができるようになり、カーブへ向けハンドル操作する準備を整えることができる。この点で、的確な回生の働きは不可欠だ。

ID.4は、走行モードでスポーツを選び、シフトをDからBへ切り替えることで回生の効きを強めることができる。ただし、私にはそれでもまだ回生の効きが足りないと感じた。アクセルペダルを戻すほどに、もっと回生が効いてくれれば、ブレーキペダルへ踏み替える必要が減っていく。ことに高い速度から小さなカーブへ入って行こうとする場面では、余計な操作はない方が減速に集中し、適切な速度でカーブに入っていくことができる。それは、次の直線路への加速の準備にもつながる。

世の中には、変速したりブレーキを踏んだりすることが、運転のリズムをつくるとの意見もある。だが、プロフェッショナルドライバー以外、操作が増えれば増えるほど、速度調節の厳密さは下がっていく。それによって、周回タイムの短縮を難しくしたり、速度超過となってしまったり、ひいては事故につながったりしかねない。回生を活かしたEVのワンペダル走行(完全停止しないまでもワンペダルで意図的に速度を制御しやすいという意味で)は、安全運転の要でもあり、BEVならではのドライビングプレジャーを演出する。

その点について、ワンペダル操作は扱いにくいとの声もある。だが、それはペダル操作が粗いせいだろう。丁寧なアクセル操作を身に着ければ、ワンペダル操作のよさを実感し、なおかつ丁寧な運転が安全運転にもつながる。極論すれば、EVは安全運転を促す最適なクルマなのだ。

ほかにも、欧州は、日米に比べ速度域が高いので、強すぎる回生は、運転しにくさを生むのではないかとの意見もあるようだ。しかしそれも、丁寧なアクセル操作をすればどのような速度でも滑らかな運転はできる。ただし、高速道路のようにほぼ一定速度で巡行する場面では、回生を弱めたほうが、滑らかさが高まるのは事実だ。したがって、回生の強弱を得られる選択肢としてのスイッチが必要だろう。ID.4ではセレクターのDモードとBモードによって回生の強さを選択できる。

回生ブレーキの強さにはやや物足りなさも

回生効果の体験では、先のようにもっとも強く働くと思われるBモード設定にしても、ID.4はやや物足りなさがあったのは事実だ。

一方、時速50キロメートルから一気にアクセルペダルを戻して回生を一辺に利かせた際も、減速によってクルマの前が沈み込むような様子を感じなかった。これは、後輪駆動のID.4では後輪で回生による減速度を出すので、前へつんのめる姿勢となりにくかったり、床下のバッテリーによって前後の重量配分が均等になっていたりということに加え、サスペンションの上下動による姿勢変化が大きくなりすぎない設計となっているのではないかと推測した。

サスペンションアームの上下動に際して、車体が前のめりとなったり、後ろへ沈み込んだりすることで、前後のタイヤへの荷重の移動が大きくなり、走行に悪影響を及ぼすことがある。そこで、サスペンションが上下動しても、車体全体が水平を保ったまま沈み込むようにして安定を保つ設計手法がある。

極端な例が、レーシングカーのサスペンションはそうした設計になっている。なぜなら、レーシングカーはアクセル全開と、フルブレーキングを繰り返す運転となりがちであるからだ。そうした極端なペダル操作でも、クルマが安定した走りができるようにサスペンション設計している。

同様の手法を、ID.4も採り入れているかもしれない。

いずれにしても、EVであることによるモーター駆動と回生の活かし方、そしてバッテリーの車載による低重心や前後重量配分の均等化など、EV特有の潜在能力が、安心で安全な走りをもたらすうえ、運転者の意図した通りに走行姿勢をつくり込めることによる喜びをEVがもたらすことを、ID.4は改めて教えてくれた。

EVとは、そのように、走りの全方位でエンジン車を大きく上回る存在であり、だからこそ、環境適合しながら運転する喜びが得られるのである。こうしたEVの特性を存分に認識し、開発されたEVは、いずれも優れたクルマとなる。そのうえで、各自動車メーカーがそこにどのような商品性を与えるか、EV時代は、すでにEVの基盤性能を熟知したうえで商品性を創造し、競う時代に入ってきている。

【参考】
摩擦係数(μ:ミュー)/タイヤ関連用語集(【DUNLOP】ダンロップタイヤ 公式サイト)

取材・文/御堀 直嗣

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 教えて下さい。
    比較対象のエンジン車は何でしょうか?
    またタイヤはどちらも同じ銘柄のタイヤだったのでしょうか?
    具体的な銘柄も教えて下さい。
    圧接路の登り坂をiD4は夏タイヤで登れるのですか?
    詳細情報知りたいです。

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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