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スズキのEV「e ビターラ」発表会で社長に聞いた「EVがある暮らし」の魅力とは?

スズキのEV「e ビターラ」発表会で社長に聞いた「EVがある暮らし」の魅力とは?

スズキが同社初のEVである「e ビターラ」日本発売の発表会を開催しました。プレゼンテーションで示されたのが「EVのある暮らし」というキーワード。質疑応答の機会に、鈴木社長をはじめ登壇した3名のキーパーソンに「EVのある暮らしの何が魅力と思いますか?」と質問してみました。

目次

日本のEVシフト推進はスズキに期待!

2025年9月16日。スズキが同社初の電気自動車となる「e ビターラ」の日本発売を発表しました。実際の発売は2026年1月16日になる予定でまだ少し先ですが、先日のレポート記事でお伝えしたように、「EVもいいけど価格が高い」と感じているであろう多くの潜在的EVユーザーに「これなら買えるかも」と感じさせてくれる意欲的かつ戦略的な価格設定となったのが朗報でした。

日本発売発表会会場に展示されていた e ビターラ。

「日本でEVが普及しない」最大の要因は「欲しくて買えるEVがない」ことだと、かれこれ10年以上も感じています。ここ数年で日本国内で市販されるEV車種は増えましたが、テスラはもちろんのこと、ドイツ御三家など既存自動車メーカーから発売されるEVは、おしなべて500万とか600万円以上、なんとなれば軽く1000万円を超えるような高級車ばかりです。少なくとも私には買えない(人生のコストバランスとしてあり得ないから買おうと思わない)し、そもそも軽自動車王国の日本で、500万円超の高級車が新車販売シェアを大きく動かすほどに売れるはずがないのは当然のことでしょう。

私が考える「日本におけるEV普及の3条件」を示しておきます。

●300万円以下で新車が買えるEVが増えること。
●経路充電インフラが複数口設置で整うこと。
●目的地充電、基礎充電の設備が整うこと。

以上です。充電インフラは自動車メーカーだけの責務ではないので、自動車メーカーに期待するのは「300万円以下で新車が買えるEVが増えること」というポイントになります。

必要な性能を満たしながら安価なEVを実現することについて、伝説の「アルト47万円!」(軽自動車の新車価格は60万円以上が常識の1979年当時、初代アルトが47万円〜という衝撃的価格で発売された)を実現したスズキに、とても期待しています。そして、正直なところ「もうひと声!」の感想ではあったものの、発表された e ビターラの価格は、BYDやヒョンデなどのコスパに優れたEV車種にも対抗できる戦略的な設定だと感じました。

e ビターラ日本発売発表に先駆けて開催されたスズキ「技術戦略説明会2025」では、今回の e ビターラ(Bセグ)に続いて「軽セグ」「Aセグ」のBEVを発売することが明示され、鈴木俊宏社長が「『グローバル軽』を極めていきたい」と表明しました。

2026年には、BYDがすでに軽EVの日本投入を発表しています。ホンダ N-ONE e: が発売されたばかりですが、BYDの軽EVがコストパフォーマンスで現状の国産軽EVを凌駕してくるのは間違いないでしょう。日本の軽規格には合いませんが、ヒョンデのインスターも優れたコンパクトEVで、そのコスパは国産軽EVを明確に上回っています(関連記事)。

スズキは e ビターラに続く軽EVの発売時期をまだ明示していません。でも、国産EVとしてBYDやヒョンデと戦えるのは、スズキが繰り出してくれる軽EVやAセグのコンパクトEVではないかと、とても期待しているのです。

「EVのある暮らし」への理解を広げたい

さて、今回の『新型「e ビターラ」発表会』では、最初に登壇した鈴木社長が「(e ビターラによって)今までEVに乗ったことのない方へも積極的にアプローチするほか、充電設備や日々の使い方など、お客様に寄り添って『EVのある暮らし』を知っていただく活動につなげていきたい」という意欲を語ってくれました。

僭越な上から目線で恐縮ですが、日本でEVが売れないのは、作る側、売る側の人たちにもEVへの理解が足りないのがひとつの要因と感じています。はたして、鈴木社長をはじめ、発表会で登壇した販売部門の責任者である日本営業本部本部長常務役員の玉越義猛さんや、チーフエンジニアの小野純生さんは、EVのある暮らし、そしてEV(e ビターラ)の魅力についてどのように考えているのか。質疑応答の時間に質問してみました。

以下、まずは3人のキーパソンの回答を要約してご紹介します。

新型「e ビターラ」チーフエンジニア:小野純生氏

まず、EVだからといって特別な乗り物であるとは思っていません。たとえば、4WDを設定したのは私のこだわりです。やはり日本の中では雪国、山間地域の方も多く「EVに興味はあるけど4WDがないから」という声をいただいていました。e ビターラはお客様のライフスタイルを選ばず乗っていただけるEVに仕上げたかったという思いです。

日本営業本部本部長常務役員:玉越義猛氏

私としては「スズキらしさ」をEV、e ビターラでも実現していきたいという思いです。内燃機関のクルマからでも違和感なくEVに乗り替えていただくことに注力したいと考えています。(小野氏の意見と)重複しますが、私自身、全国のお客様を訪問するなかで、4WDでコンパクトなSUV電気自動車へのニーズを少なからず感じていました。まずは、その点をしっかり訴求していきたいと思っています。

スズキ株式会社代表取締役社長:鈴木俊宏氏

私はですね、EVってまだお客様もよくわかってないよねと思っています。航続距離が短いよねとか、充電時間が長いよねとかいうような、どちらかというとネガティブな情報ばかりが広まっているのかな、と。そういう中では、やはりEVをわかっていただくという地道な活動をやっていかなきゃいけない。また、個別のお客様のクルマの使い方をわかっている営業の担当者が「この使い方ならEVがいいですよ」といったコミュニケーションを取りながら普及させていくことも大切でしょう。

スズキとしては、この e ビターラが最初のBEVとなります。今後EVが普及していくためには、僕自身としては、やはり軽自動車が最もEVに適していると思っていますが、価格的な問題などを考慮すると、ある程度のサイズが必要になるというのも現状です。そして、後発となるスズキの強みは何かと考えると、やはりSUVであり、四駆だよねということですね。

EVだからといって、先進性をアピールするための一時しのぎのデザインでお客様を引き寄せるのは違うとも感じています。まずは e ビターラで「EVのある暮らし」への理解を広げていきながら、チョイ乗りできる軽自動車クラスのEVへ繋げていきたいと思っています。

【関連情報ページ】
SUZUKI EV Portal

軽EVがEV普及の鍵になる?

「EVのある暮らし、そしてEV(e ビターラ)の魅力は?」っていうのは、ちょっと広すぎて答えづらい質問だったかも知れません。お三方の回答は「コンパクトなSUV電気自動車の4WD」という、e ビターラのアピールポイントに集約される感じになりました。とはいえ、スズキのキーパーソンである3人の回答それぞれに、EV普及を進めるための大切なヒントが示唆されていたとも感じます。やや強引に、挙げておきたいと思います。

多様なライフスタイルを受け止めるEV車種のバリエーション

まず、チーフエンジニアである小野さんの回答から絞り出せるヒントは「お客様のライフスタイルを選ばず乗っていただけるEV」という言葉です。小野さんのこだわりとして「4WD」を例示していましたが、これは人によって「スーパーハイトワゴン」だったり「7人乗りミニバン」とか、ちょっとマニアックに「オープン2シーター」だったりもするでしょう。

残念ながら、今の日本で買えるEV車種は高級SUV(クロスオーバーを含む)と高級セダンがほとんどで、多様な自動車ユーザーのニーズに応えるバリエーションがありません。航続距離信仰とでもいいますか、500km以上もの一充電走行距離を求めれば60kWh以上の大容量バッテリーを搭載することになり、EVが高級車ばかりになってしまうのは当然です。

スズキには、航続距離は300kmだけど、こんなに楽しいカーライフを実現するよ! といった大衆価格のEVの提案を期待しています。

ダイヤルロック式の普通充電コネクターホルダー(10,340円)や、ケーブルを地面に引きずることなくすっきり収納できる充電ケーブル(28,600円)などのアクセサリー。実車発売前から、EVユーザーにしっかりヒアリングして開発されたことが感じられました。

「ICE車から違和感なく」に縛られるのはもったいない

玉越氏が挙げた「ICE車から違和感なく」という言葉も、EV関連の取材をしているとしばしば耳にします。だからといって、せっかくのEVらしいリニアでパワフルな加速を「もっさり」とデチューンしたりするのは、すごくもったいないことだと感じています。

シンプルに「EVは気持ちいい乗り物」であり、「EVを使いこなすためのカーライフを工夫するのが楽しい」ということを、作る側、売る側のみなさんにもぜひ体感し、具現化していただきたいと思います。

鈴木社長が指摘するように「先進性をアピールするための一時しのぎのデザイン」が、新型EVの魅力になる可能性は高くないでしょう。個人的な印象として、ガラスルーフやタッチディスプレイのUIなどについては、既存自動車メーカーがテスラに引っ張られ過ぎているのでは? と感じることがあります。

軽を中心にしたコンパクトEVに注力するスズキだからこそ。この価格でこんなに楽しいEVができました! とアピールしてくれるような、さらなる新型コンパクトEVの登場を心待ちにしています。

軽自動車が最もEVに適している

スズキ社長の「僕自身としては、やはり軽自動車が最もEVに適していると思う」という言葉には、おおむね、諸手を挙げて賛成します。EVのバリエーションとして大容量の高級EVが存在することは否定しないし、高級EVも魅力的なので、諸手を挙げて賛成したいのは「最も」を割愛した「軽自動車がEVに適している」というポイントです。

軽自動車にはサイズの制約があるので、搭載するバッテリー容量は少なくなります。車重のバランスなども考えると、ホンダ N-ONE e: の30kWhくらいがちょうどいいのではないかと思います。10km/kWhの電費性能だとすると、30kWhの一充電走行距離は300km。30kWhリーフをマイカーにしていた経験的にも、30〜50kWh程度のバッテリー容量が、安価なコンパクトEVとしてベターであり、日常的な街乗りはもちろん、たまの休日の遠出にも十二分に使えるEVになると感じています。

磨くべきなのは、300kmの条件として挙げた電費性能。そして、たまの遠出で利用する経路充電の手間を軽減するための、必要十分程度の充電性能です。充電性能について具体的に例示しておくと、普通充電は6kW対応必須。急速充電はできれば「2C程度」、つまり搭載バッテリー容量が30kWhであれば最大60kW、50kWhなら最大100kWくらいを受け入れる性能があるといいな、と思います。

一充電で300km(実用的には200〜250km程度)走れて、高速道路SAPAを中心とした経路充電スポットに複数口の急速充電器が設置されている環境になれば、安価なコンパクトEVであっても日本中、どこまでも走って行きたくなっちゃうことでしょう。

スズキが自社でバッテリー開発を手掛けることは当面ないでしょうけど、EVユーザーの気持ちを理解いただきつつ、軽EV、コンパクトEVは「かくあるべし」という魅力的な新型EVを繰り出してくれることを期待します。

2026年、グローバル軽EVを発売して欲しい!

日本車が世界を席巻できたのは、1970年代のオイルショックをきっかけに、ホンダのCVCCエンジンがマスキー法をクリアするなど、コンパクトカーを中心に高品質のクルマを作ってきたからだと理解しています。

EVやEV用バッテリー開発では出遅れてしまった印象が強い日本の自動車メーカーですが、サプライヤーを含めて、魅力的かつ大衆的なコンパクトEVを生み出すポテンシャルを秘めていることでしょう。

スズキの「グローバル軽EV」。なんとか来年、2026年にはその姿が見られますように!

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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