マイカーのHonda eを走らせつつEV関連の話題をレポートする連載の第31回。米国製EVバイク「ライブワイヤーワン」をサーキットで全開走行させてきました。ハーレーにはゆったりライドの印象がありますが、スポーツバイクとしての性能も相当なものです。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
再試乗でサーキット走行を体験することに……

ライブワイヤーワン(Livewire One)は、2019年に米国ハーレーダビッドソン社が発売した電動スポーツバイクです。現在はハーレーから分社化された「ライブワイヤー」が欧米で販売中。日本には未導入ですが、どうしても欲しいと購入される方もいるらしく、電動バイクの開発や販売を手がける株式会社MIRAI(愛知県一宮市)が輸入してナンバーを取得した1台を先ごろ試乗させてもらいました。
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記事にも書きましたが、筆者が購入に至らなかった理由は急速充電。ライブワイヤーワンは、付属のケーブルでAC100Vのアース付きコンセントから充電できて、J1772規格の公共充電器などAC200V普通充電も利用できます。ただ急速充電口は、北米で普及している「CCS1」の規格。日本で一般的なCHAdeMO(チャデモ)が使えません。でも、アダプターを使えばいいかも、と思いつき、帰京して「CHAdeMO→CCS1」のアダプターを借りられるよう手配。再試乗することにしたのでした。

ライブワイヤーワンの充電口。
つまり、再試乗はアダプターを介した急速充電のテストが主目的だったのですが、もうひとつやってみたかったのがワインディングロードの試走。前回は街乗りだけで終わってしまったので、峠道とかも走ってみたいです、とお願いしました。すると、MIRAI代表の岸本ヨシヒロさんからこんなお返事が。
「サーキット走行もしてみますか? 低速中速はもちろんフルスロットルを試せますよ」
いやいやいや……と一瞬思ったものの、滅多にないチャンスですし「楽しそうですね! 走ってみたいです」とお返事しちゃっていました。
※冒頭写真のライダーは、岸本さん。
岸本さんが一緒なら、きっと大丈夫

ライブワイヤーワンとゼロSR/F。
マイカーのHonda eにアダプターを積んで、東京の自宅から向かったのは愛知県蒲郡市のサーキット「スパ西浦モーターパーク」。トランスポーターでライブワイヤーワンを運んできてくれる岸本さんと現地集合します。じつはスパ西浦は岸本さんがライディング教室のインストラクターを務めていたり、開発中のEVバイクのテストに使っていたりする、いわゆるホームコースなのでした。
筆者は学生時代にミニバイクでちょろっと走ったぐらいのサーキット経験しかありません。しかもライブワイヤーワンは、0-100km/hが約3秒という爆速マシン。車重も255kgあってリッターバイク級。乗りこなす自信はまったくナッシング。
サーキットの近くに前泊して、朝イチでスポーツ走行に必要なライセンス講習を受けました。きっと不安が顔に出ていたのでしょう。スタッフさんからは「岸本先生が一緒だから大丈夫ですよ」と励まされてしまいました。実際、先生はZero Motorcycles(ゼロモーターサイクルズ)のスポーツバイク「SR/F」も一緒にトランポに積んできてくれて、先導走行もしてもらえることに。心強い限りです。
全長1,561mのスパ西浦は、JAF(日本自動車連盟)とMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)の公認サーキットです。複合コーナー、連続ヘアピン……コース図を見るとかなりテクニカル。立体交差があって、高低差もついています。

いよいよサーキット走行に挑む筆者。
革製の上下に着替えたりしていると、すぐに2輪のスポーツ走行タイムになりました。ライブワイヤーワンでいざ出走。リッターバイクや250ccレーサーなどが猛スピードで周回する中、岸本さんのゼロSR/Fを追走します。ライン取りを真似て、各コーナーのクリッピングポイントなどを確認しながら慣熟走行。
「速い人は勝手に抜いていってくれるので、自分のラインは変更しなくて大丈夫。変に動いた方が危ないですよ」というアドバイスに従って、アウトインアウトを基本にした走行ラインで、徐々にペースアップを図ります。416mのストレートで全開走行にもチャレンジしました。
ストレートでは250ccレーサーに追いつく直線番長
ストレートエンドでオーバー150km/hからフル制動。左回りの複合コーナーは下り坂。さらに左の第3コーナーに回り込んで立体交差をくぐる、というのがコース序盤。
かなりフロント寄りの荷重になっても、不安は感じません。気持ちよく向きを変えてくれます。立体交差下で右へ切り返し、さらにS字コーナーへ、と左右の体重移動が続くパートも、スムーズにコーナーをトレースできます。
ただ、3つのヘアピンが連続しているコース後半は、攻略に苦労しました。いろいろ工夫してみたものの、最後までうまく走れずじまい。でもこれは筆者の力量不足で、バイクがタイトコーナーを苦手としているわけではありません。
最終コーナーを立ち上がりながらの全開加速は、圧巻です。250ccレーサーにも追いついてしまう直線番長っぷり。どうせすぐコーナーで抜かれるので追い越しませんが、無音で並ばれた側は気持ち悪かったかもしれません。
変速機を持たない電動バイクには、当然クラッチもシフトペダルもついていません。右手の捻り加減だけで思い通りにパワーを引き出せます。街でのんびり走ったときは、左の手足が手持ち無沙汰で、どこか物足りなく感じたりもしていました。でも、自分の限界に近いライディングだと、必要な操作が少ないのは大きなメリット。ブレーキングや重心移動に意識を集中できます。電動スポーツバイクの大きなアドバンテージだと思いました。
最大出力110馬力の『ZERO SR/F』にも試乗

岸本さんの走行風景。
スポーツ走行は2時間弱あったので、岸本さんにもライブワイヤーワンに乗ってもらいました。当然ながら、速さとスムーズさが全然違います。同走のリッターバイクをごぼう抜き。ストレートでメーター読み180km/hまで出たそうです。
私のほうもゼロSR/Fをお借りして何周か試させてもらいました。これまたモンスター級の電動バイクです。加速はやっぱり爆発的。最大出力も車重もそれほど変わりませんが、SR/Fのほうが軽快な乗り味です。腕利きがタイムアタックするならSR/Fでしょうか。
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もちろんライブワイヤーワンも、サスペンションはよく動いてくれますし、どんな速度域でもブレーキがしっかり効いてくれます。自分のペースだとパワーは持て余すほどでした。それにしてもこの2台を乗り比べる機会なんてレア中のレア。ありがたい限りです。
岸本さんの全開インプレッション「素直な乗り味に好感」

素人の感想はこれぐらいに。2012年よりTEAM MIRAIを運営して英国のマン島TTレースでクラス3位、米国のパイクスピークヒルクライムレースでクラス優勝など輝かしい戦歴を誇る電動バイクレースの第一人者、岸本さんによるインプレッションもお届けします。岸本さんがライブワイヤーワンをサーキットに持ち込んだのは今回が初めて。日本国内では、このバイクのサーキット走行自体が稀有な出来事だと思います。
「ハーレーっぽさを感じるロングホイールベースのバイクなので、サーキット走行はあまり期待していなかったのですが、よく走るのでびっくりしました。加速は市販のリッターバイクと競争できるポテンシャルがあります。ハンドリングは素直でバンク角に応じて旋回力を発揮します。GSX-Rなどスズキ系のバイクに近いかも。重心がかなり低くバンキングに合わせてぐっと曲がっていく。素直な乗り味に好感が持てました」
「攻めても膝は擦るけどステップやサイドスタンドは擦りませんでした。自分も最前線でEVバイク開発のお手伝いをさせてもらっていますが、ハーレー初の電動バイクということで、開発時に相当時間をかけて乗り味の研究やスポーツ走行のテストを重ねたことが容易に想像できます。コンマ何秒を削っていくような本当のレースに挑戦するなら話が変わってきますが、エンジョイライドや走行会レベルならフルノーマルでも十分楽しめます。今回、全開走行させてみましたが、ライブワイヤーワンの評価はもっと高くても良いと思います」
街乗りもスポーツ走行も楽しめるオールマイティーなスポーツバイク、という評でした。「スポーツ性能はSR/Fの方が高いけれど、加速やハンドリングの味付けはライブワイヤーがうまいと感じました。パワーデリバリーだけでなく、エンブレにあたる回生量をいろいろ試せるのも良かったです。メーター表示の言語は日本語対応ですし、面白いバイクなので、早く日本に導入してほしいですね」と岸本さん。
日本では2020年12月に受注を始めた直後に販売中止となり、そのままになってしまっていますが、ハーレーダビッドソンジャパンさんには英断を期待しています。
借用アダプターでのCHAdeMO急速充電は断念

サーキット走行を終えて、今度は街へ繰り出して急速充電チャレンジです。先述したように、充電口がCCS1のライブワイヤーは、日本では公共の急速充電器を利用できません。前回の試乗後に、あれこれ考えているうちに、思い出したのでした。もしかしてアレが使えるのでは、と。日本でも充電口がCCS1のままで販売されていているフィアット『500e(チンクエチェントイー)』のCHAdeMOアダプターです。このアダプターがオーナーに提供され始めた直後、500eとHonda e、初代リーフの小容量バッテリー車三つ巴でチキチキ東京―大間キャノンボール対決(関連記事)をしたこともありました。
対決時の500eは広報車でしたが、その後、500eのオーナーになった知人がいます。フィアット用CHAdeMO→CCS1アダプターを貸してもらいたいと頼んだところ、二つ返事でOKをもらえて、愛知に携えてくることができました。

ライブワイヤーワンで蒲郡市内の急速充電スポットへ。最初に見つけたのはコンビニに設置されているABB製の90kW器。サイズも重さもかなりある500e用アダプターですが、ボディ上部にある充電口にCCS1側を挿すと、変にぶら下がったりせず、ちょうどシート上でCHAdeMO側の充電ケーブルをつなげました。
揺らさないように気をつけながら、ビジター充電の操作をします。液晶パネルのボタンを押すと、バイク側のメーターに「接続しています」という表示が出たので「おおっ!」と思ったのは一瞬だけ。すぐに「EVSE(Electric Vehicle Supply Equipment)障害」という表示に変わってしまい、充電はできませんでした。充電器側にもエラー表示が。

編集部注※充電器やアダプター、バイクが故障しなくてなによりでした……。
知人からは「500eでも充電できないことがある」と聞いていたので何度か挿し直してみましたが、やっぱり無理なようです。その後、FLASH製のCHAdeMO充電器でもうまくいかず、さらにチキチキ東京―大間で作動が確認されていた東光高岳製の50kW器も回ったのですが、やはり充電不可。3種3基試してダメだったので、あきらめました。
アダプターを使った充電の試みは失敗したものの、サーキットでの高速ライディング体験が楽しすぎて、もう急速充電はどっちでもいいかな、と思い始めています。タイトな連続ヘアピンをクリアできなかったことに悔しさもあり、ライブワイヤーワンをもっとしっかり乗りこなしたいという願望も。

ライブワイヤーワンへの思いが深くなりました。
このライブワイヤーワンは岸本さんのショップで販売中。ただ、購入となると、お気に入りのバイクを手放さないと置き場がないし、なにより費用をどうするか、などなどクリアすべき課題が……。第3弾として、購入ルポがお届けできればいいのですが、さてどうなりますか。
私のHonda e(2021/4/29~2025/12/10)
総走行距離 7万8295km
平均電費 8.9km/kWh
累計充電回数 急速534回、普通148回
取材・文/篠原 知存






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