著者
充電スポット検索
カテゴリー

世界ではモビリティの脱炭素化が進んでいる/2026年、日本のEV普及をさらに前進させるために大切なこと

世界ではモビリティの脱炭素化が進んでいる/2026年、日本のEV普及をさらに前進させるために大切なこと

国際環境NGOのClimate Group(クライメートグループ)が「モビリティ分野の脱炭素の戦略ー世界的EV加速と日本の対応」と題するフォーラムを開催。世界ではEVシフトが加速している現状を再確認するとともに、EVへのスムーズな移行に向けた課題を示しました。2026年、日本のEV普及を前進させるために大切なことってなんでしょう?

目次

EVへの円滑な移⾏に向けた政策要件などを提言

2025年11月27日、気候変動対策を推進する国際的な非営利団体(NGO)であるClimate Group(クライメートグループ)が、「モビリティ分野の脱炭素の戦略ー世界的EV加速と日本の対応」(主催:Climate Group、共催:環境エネルギー政策研究所)と題するフォーラムを開催しました。行政や企業の関係者が参加して、日本におけるモビリティ電動化の最新動向や課題を共有し、将来展望と連携の方向性を探ることを目的としたイベントで、昨年(関連記事)に続き2回目の開催となります。

フォーラムでは、基調講演に続いて多彩なキーパーソンが登壇し、6つのセッション(プレゼンテーション)が展開されました。おもなテーマと登壇者は以下の通り(登壇順)です。

「OEM観点での脱炭素化の課題と取組み」
トヨタ自動車株式会社 サステナビリティ推進担当 統括部長:大塚 友美氏
「トラック・バスの電動化に向けた取組みと課題」
三菱ふそうトラック・バス株式会社 Zero Emission Transportation Solutions:Simon Schmid氏
「商用EV普及に向けた急速充電器」
ニチコン株式会社 NECST事業本部 副本部長:関 宏氏
「東京都における電動化の取組みと課題」
東京都環境局気候変動対策部 マンション環境性能推進担当課長:矢嶋圭氏
「商用車の電動化政策とデコ活の紹介」
環境省 モビリティ環境対策課脱炭素モビリティ事業室 自動車脱炭素事業専門官:山本彩永氏
「再エネ電力を活用したEV充電への取組み」
株式会社エネゲート 理事:貝原 一弘氏
「日本市場へのEV投入: 解決すべき課題と価値創造」
本田技研工業株式会社 エネルギーサービス事業開発部部長 エグゼクティブチーフエンジニア:木村 英輔氏

Dominic Phinn氏。

今回印象的だったのが、クライメートグループのモビリティ部門を統括するDominic Phinn(ドミニク・フィン)氏による基調講演でした。

クライメートグループでは事業で使用する電力を再エネ100%とすることを目指す「RE100」や、業務車両を100%EVにすることを目指す「EV100」といった国際イニシアチブを主導しています。モビリティ部門の責任者であるフィン氏は、多くのグローバル企業と協業し、企業所有車の電動化を支援するとともに、政策立案者に対して、モビリティ部門の脱炭素化とネットゼロ経済への移行加速に向けた政策提言を行っています。

基調講演でフィン氏は、グローバルなネットワークによって「ネットゼロ社会」に向けたエネルギー転換を進めるための取り組みとして、EV100について説明しました。EV100に加盟している企業数はグローバルで約130社。日本では、イオンモール、アスクル、NTT、東京電力ホールディングス、高島屋、関電工、ニチコン(加盟順)の7社が加盟しています。

日本に拠点をもつ海外企業のひとつであるアストラゼネカは、昨年のカンファレンスに登壇し、日本国内で保有する約2000台の社有車を100%EVにする取り組みを紹介しました。その後、EVsmartブログでは北海道で実際にEVを導入した様子をレポートしました。

【関連記事】
EV100%を目指すアストラゼネカの挑戦【前編】約2000台の社用車をEVにする理由(2025年1月27日)
EV100%を目指すアストラゼネカの挑戦【後編】札幌でEVを営業車に使っている生の声(2025年2月8日)

EV100加盟企業の、国別のコミットメント台数も紹介されました。日本は1万9400台。加盟7社で2万台近い(海外企業も含んでいるのだと思います)のはすごいですが、例示されている各国の数字と比べると、文字通り桁違いに少ないのが口惜しいところです。日本がEV普及後進国になってしまっている現状として受け止めておきましょう。

需要と供給が増えればEVは普及する

フィン氏の基調講演では「EVへの円滑な移⾏に向けた政策要件」という提言が示されました。

クライメートグループの視点は政策提言なので、具体的な内容としてはターゲット設定やインセンティブなど政策の方向性が主軸になっています。とはいえ、これをユーザー視点で考えても真理はひとつ。シンプルに「需要」と「供給」が増えればEV普及は進んでいくという当然のことになります。

2025年は、ホンダの軽乗用EV「N-ONE e:」発売や、量産電気自動車の草分けである日産リーフがフルモデルチェンジを果たすなど、日本のEV普及がさらなるステップを重ねる年となりました。先日、2026年1月からのCEV補助金で、EVの上限が90万円から130万円に増額されたこともあり、500万円以下で購入できる魅力的なEV車種のバリエーションが増えました。

【関連記事】
国のEV補助金増額で「300〜400万円台」が大激戦/実質価格帯別に選択肢となる車種をチェックしてみた(2025年12月23日)

2026年はさらに、スズキ「eビターラ」やBYDの軽EV「ラッコ」の発売が発表されていて、ホンダ「Super-ONE」発売が予定されているなど、幅広いユーザー層にとって手が届きやすいEV車種が増えることが見込まれています。私は以前から、日本でEV普及が進まない最大の原因は「欲しくて買えるEV車種の選択肢が少ないから」と言ってきました。でもこれからは、日本で多くの人がEVを拒絶する理由は「EVへの無知」とか「ただの食わず嫌い」ということになっていくのだと思います。

年末年始、自らのEVシフトついて考えてみてほしい

2025年、日本のメディアでは「EV失速」といった言葉が目立ちました。でも、世界のEVシフトは失速なんてしてません。先日、欧州委員会が2035年に内燃機関自動車の新車販売禁止の方針を緩和したことを受けて「ほれ見たことか」と鬼の首を取ったようにEV否定を主張する声もあります。でも、エンジン車の販売にはバイオ燃料使用などの条件が付されているし、自動車メーカーに求める2035年のCO2排出削減目標を2021年比100%減から90%減へと変えた程度で、EVを中心としたZEVへのシフトという大きな方向は変わっていません。欧州委員会の発表は、エンジン車復権ということではなく、EVで台頭する中国への牽制と理解することもできます。

気候変動抑制のため、世界はモビリティの脱炭素化を決意して前進しています。エネルギーの多様化は有意義な方策のひとつとはいえ、化石燃料からの脱却は、ことに日本にとって、エネルギー安全保障の新しい時代を迎えるためにも重要です。

エンジン車が好きという心情は否定しません。でも、EVにはエンジン車と次元が異なる魅力があります。シンプルに表現すると「気持ちいい」モビリティであり、中国をはじめとする世界の自動車ユーザーは、「EVでもいい」ではなく「EVがいい」ということに気がつきつつあります。自動車は日本の基幹産業であるだけに、自動車はEVがいいというのが世界の常識になったとき、日本の自動車メーカーが世界で戦えるEV車種をラインナップしていなければなりません。

「需要」がなければ「供給」も広がらないのは世の道理。日本の自動車メーカーに、より多く、より魅力的なEV開発を促すためにも、多くのユーザーが「よりよいEV」を求めることが大切です。2026年が「日本のEV普及にとっての分水嶺」となるように、この年末年始には、ひとりでも多くの方に「自分がEVに乗り替えるなら」と、リアルに考えてみて欲しいと思うのでした。

EVsmartブログは、今日のこの記事で年内打ち止め。年明けは1月5日からの再開とする予定です。

クライメートグループの公式サイトで、「ゼロエミッション車に向かう世界の中の日本」と題する報告書が公開されています。三菱でi-MiEV開発を担当した和田憲一郎氏と、日産でリーフのデザインディレクターを務めた井上眞人氏によるレポートで、日本の自動車産業のZEV移行が遅れると日本の雇用と経済が危機に陥ると警鐘を鳴らす内容です。2022年のレポートから3年が経ち、状況はさらに進んでいる印象です。

報告書から引用。

【関連ページ】
Japan and the global transition to zero emission vehiclesゼロエミッション車に向かう世界の中の日本(クライメートグループ公式サイト)

よいお年をお迎えください!

取材・文/寄本 好則

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

コメント

コメントする

目次