ヤマト運輸が電気トラック『eキャンター』900台を導入開始〜輸送のEVシフト推進へ

ヤマト運輸は2023年9月12日、三菱ふそうトラック・バスの新型電気小型トラック『eキャンター』約900台を導入、ラストワンマイル輸送に活用することを発表しました。ヤマト運輸は今年度中に合計1200台の電気自動車(EV)を新たに導入予定です。宅配便最大手でのEV活用は日本の輸送変革の本格的なスタートになることが期待されます。

ヤマト運輸が電気トラック『eキャンター』900台を導入開始〜輸送のEVシフト推進へ

900台のeキャンターを来年3月までに導入

クロネコヤマトのヤマト運輸は2023年9月12日に群馬県高崎市の営業所で発表会を行い、三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)の新型『eCanter(eキャンター)』を、今年度中に約900台、導入することを発表しました。積載量は2トンで、全国のラストワンマイル輸送で活用します。

新型『eキャンター』は今年9月から来年3月までに順次、納車される予定です。

ヤマト運輸では現在、約3万9000台のラストワンマイル輸送用の小型トラックを保有しているので、900台は全体の約2%にあたります。このほか今年度中に、日野やいすゞの1トンタイプなど300台のEVトラックを導入予定です。既存の台数と合わせた累計台数は、約2200台(既存1000台+新規1200台)になる予定です。

ヤマト運輸は2030年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を2020年度比で48%削減し、2050年には実質ゼロにする目標を掲げています。そのために2030年までに2万台のEVを導入予定で、来年度からはホンダが発売予定の軽EV商用車も試験的に使っていくことが発表されています。

2023年6月には、発表会を行った群馬県と「カーボンニュートラル実現に向けた共創に関する連携協定」を締結し、再生可能エネルギーの導入拡大のほか。2030年度までに群馬県内の集配車両約850台をすべてEVにすることを決めました。

MFTBCから購入する900台のうち何台を群馬県に導入するかは公表されていませんが、今後も継続して数を増やすのは間違いありません。

また三菱ふそうトラック・バスは、2017年に発売した『eキャンター』を世界に500台以上、そのうち日本国内に190台を納入しています。新型『eキャンター』は2022年9月に発表していて、今回のヤマト運輸への納入が初めての実績になります。

大きな変革への第一歩になるか

ヤマト運輸の新型『eキャンター』導入は、同社の目標達成に向けた第一歩になります。全保有台数の2%という割合はまだ少ないですが、900台を約半年という短期間に導入するのはヤマト運輸としても初めてのことです。

MFTBCにいたっては、約8年間で販売した『eキャンター』の約1.6倍の台数を半年間で生産することになります。ちょっとした天変地異です。そのため生産ラインへの設備投資も進めているそうです。今はディーゼル車との混流生産ですが、将来的に数が増えればいずれは専用ラインができる、かもしれません。

両社にとって、この変化は大きいと思えます。このまま台数が増えて、街中でEVの宅配便を普通に見ることができるようになると、日本のモビリティー全体に大きな影響を与えるのではないでしょうか。

新型『eキャンター』導入にあたって、ヤマト運輸の長尾裕代表取締役社長は、3年後に宅急便のサービス開始から50年という節目を迎える中、「物流は非常に大きなGHG排出量を伴う事業。引き続き環境に対しての取り組みを着実に行うことによって、持続可能なビジネスの実現に力をつくしたい」と話しました。

力強く握手を交わす三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペン社長(左)と、ヤマト運輸の長尾裕社長(右)。

また三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペン代表取締役社長・CEOは、2039年までに国内の商品ラインアップのすべてをバッテリー、あるいは燃料電池の電気トラックに転換することで、タンクtoホイールでのCO2ニュートラルを実現、2050年までに国内保有車両を完全に電動化することを目指しているとし、「日本は先進的な脱酸素の輸送を必要としている。今回の取り組みでヤマト運輸と(目標に向けて)ともに歩めることを嬉しく思っている」と話しました。

ようやく日本の輸送にも電動化の波が来そうな予感がするのは気のせいでしょうか。うまく数が増えていってほしいと願うしかありません。

バッテリー容量や車体サイズは用途に合わせて28種類

三菱ふそうトラック・バス(以下、MFTBC)の『eキャンター』は、従来、形式がひとつしかなかったのですが、新型『eキャンター』は普通のトラックと同じようにホイールベースや車幅にいろいろなバリエーションが用意されていて、28型式に増えました。

型式のバリエーション

MFTBC公式サイトから引用。

バッテリー搭載量はホイールベースの長さ(シャシーの長さ)に応じて、1個41kWhのパッケージを1~3個、搭載します。容量は41kWh、83kWh、124kWhの3種類です。

ホイールベースは2500~4750mmまで5種類。車幅は1890mmの標準から、最大2220mmのワイド仕様まで数種類あります。積載重量は2トン~3.5トンです。

シフトレバーで回生ブレーキの強弱を0~3まで4段階でコントロールできます。0だと回生なしのコースティング、最強の3だとワンペダルで操作できるようになります。

MFTBC担当者によれば、3はちょっと強すぎるので2くらいがちょうどいいかも、とのことでした。個人的には街中ならワンペダルがラクなようにも思います。試乗機会があれば試してみたいです。

V2X機能も搭載しているので、導入台数が増える地域は災害時の対応にも活躍しそうです。

ヤマト運輸向けは2トン標準ボディーでひと工夫あり

今回、ヤマト運輸が導入するのは、ラストワンマイル用なので積載量2トンの標準幅のタイプです。ホイールベースは、街中での取り回しがらくな2500mmで、定員は2人です。ワイドボディーだと定員は3人になります。

搭載するバッテリーは1個なので、容量は41kWhです。最高速度は89km/hで、1充電の航続可能距離は116kmです。この値はトラック用の国土交通省審査値で、60km/h走行、半積載、平ボディという極めて限定された条件でのデータです。実際の航続距離は、積載量や走り方で大きく変わってきます。

充電時間は、急速充電は最大70kWだと0%から90%まで約40分、50kWだと約50分です。普通充電は最大6kWまで可能で、0%から100%まで約8時間です。急速充電は最後までそこそこ流れるようです。SOCが0%になることはめったにないでしょうから、70kWなら30分でほぼ満充電になるということだと考えられます。

荷室はドライ・冷蔵・冷凍機能の3室を備えています。電源は、通常はePTOで駆動用バッテリーからとりますが、エンジン車と同じように外部電源をつなぐことも可能です。

冷凍冷蔵庫用に外部電源用のコンセントとサブバッテリーを装備。

ヤマト運輸仕様で特徴的なのは、充電口の設置場所です。新型『eキャンター』は通常、充電口はキャブのすぐ後ろの、通常は燃料の給油口がある場所に急速/普通の2つが付いています。

でもヤマト運輸仕様は普通充電用の充電口だけを車体後方に移動させているのです。宅配便の営業所では通常、トラックは荷物の出し入れをするためにバックで駐車します。この時に充電がしやすいよう、充電口を後ろに移動させたそうです。

チャデモ規格の急速充電口は従来の位置(キャブのすぐ後ろ右側)。

トラックらしいクライアント向け対応です。むしろ小型トラックの場合は、この方法が標準になるかもしれません。

ちなみにヤマト運輸では、基本的には営業所での普通充電(6kW)を考えているそうです。ヤマト運輸は現在、営業所を集約しつつあると同時に長期目標に向けた再生可能エネルギーの導入も推進しています。

EVトラックは今後、地域特性に合わせて、可能であれば再生可能エネルギーも併せて導入する方針です。考えてみると、そうしなければトータルでのカーボンニュートラルは難しいですよね。

そのため基本的に営業所で充電することになるので、普通充電器の設置も進めているとのことでした。

この営業所には出力6kWのケーブル付き充電器が設置されていました。ラベルを見ると、ジゴワッツ製。

経験を踏み台に前進することを期待

輸送業界のEV化は、進みそうでなかなか進展してこなかったのが現状です。各社は数年前から、実証実験的なEVトラックの導入を発表していますが、実際の納車台数は不明です。計画通りに進んでいるのかどうか、機会を見て確認したいと思います。

ヤマト運輸も、道のりは平たんではなく、2019年に発表して導入を進めていたストリートスクーター社のEVトラックは、発表から約1年で頓挫。共同開発までしたのに残念な結果に終わっています。

【関連記事】
ヤマト運輸がDHL傘下企業とEVトラックを共同開発、の「謎」を解く!(2019年3月31日)

余談ですが、ストリートスクーター社はベンチャーとして創業した後、ドイツポストDHLグループの完全子会社になったのですが、2022年にオーディン・オートモーティブ社(本社:ルクセンブルク)が事業を買収。同年に、日本のストリートスクーター・ジャパンは社名がB-ONに変更されました。

ヤマト運輸が導入したストリートスクーター社のEVトラックは、2020年1月と2023年9月にリコールが発表されています。2020年のリコールは駆動用モーターの取り付けがあまく、「最悪の場合、電動機が脱落し走行不能になるおそれ」と記載されました。ボルトを締めつけるというリコール対応なので、製造過程のミスと考えられます。

2023年9月1日発表のリコールはブレーキキャリパの交換を要するもので、放置すれば制動力が基準値を満たさない場合があるとされています。

いずれも少々危険な、厳しい内容です。

このような前例に比べると、三菱ふそうトラック・バスのEVは従来型式の実績はあるし、なんといっても量産には慣れた会社ですし、車両そのものの問題はないと思えます。

一方で価格がどうなるかは未知数です。ヤマト運輸は導入にあたってメンテナンスなどをパックにした『eキャンター』専用のリースを使っているので、個別の価格はわかりません。でも台数を考えるとそれなりの値段になるのでしょう。

今後は、MFTBCがどのくらいの数を採算ラインとして想定し、どういう価格設定にするかで、普及のスピードも変わってきそうです。

MFTBCのデッペン代表取締役社長・CEOは今後について、こう話しました。

「新型『eキャンター』の良いところは、(積載量が)2トンで終わらず8トン以上にも対応できることだ。これにより様々な可能性が広がる。今回は900台(の注文)をいただいたが、2トンにとどまらず、また他社も私たちに続いていただければと思う」

複数の人や会社が参入することで市場が拡大していくのは自然の摂理です。トラックメーカー業界がMFTBCに続くかどうかもそうですが、継続してEVトラックを導入する企業が増えるかどうか、導入がメリットを生むかどうかは分岐点になります。EVトラック市場の今後の動向を、期待を込めて見守りたいと思います。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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