まず大きなポイントから。
- 10/19以降に生産されるテスラモデルS、モデルX、モデル3の車両はすべて、ハードウェアIIと呼ばれる、完全自動運転(レベル5自動運転)が可能なハードウェアを搭載して出荷される。
- ハードウェアII(AP 2.0とも呼ばれる)には、8つのカメラと12個の超音波センサー、前方ミリ波レーダー(波長3.9mm)、NVIDIA Drive PX 2が搭載される。従来のモービルアイベースのシステムと比較して処理能力は40倍、テスラ開発のディープニューラルネットワーク(DNN)を搭載。
- 何百万キロにも及ぶ実際の運転データでテストを行う間、現在のオートパイロット機能で提供されている機能がハードウェアII搭載車では一時的に利用できない(詳細確認中)。自動緊急ブレーキ・側面衝突警告・レーンキープ・レーダークルーズコントロールなど。これは、新ハードウェア搭載車はオートパイロットが事実上利用できないことを意味する。米国では2016年12月にはOTA(ワイヤレス自動アップデート)でこれらの既存機能だけなく、後述するエンハンストオートパイロットの機能も利用可能になる予定。
- 各国で法律の承認が得られれば、エンハンストオートパイロット機能に加えて完全自動運転機能を追加することにより、ロサンゼルスからニューヨークまで、2017年の終わりまでには車に指一本触れることなく自動運転できるようになる。
流れとしては、現在がオートパイロットV1であるとすれば、エンハンストオートパイロットがバージョン2、その後バージョン3で完全自動運転を目指す、ということになるようです。エンハンストオートパイロットのハードウェアは発表時点(2016年10月)、ソフトウェアがダウンロードされてエンハンストオートパイロットが利用可能になるのが2016年12月(米国)、完全自動運転は2017年末を予定しているということになります。
テスラが公開している自動運転のデモ動画です。デモとはいえ、実際にカメラの映像を使ってカリフォルニア州の公道を一般道から高速、そしてまた一般道、会社の駐車場に入って人を降ろし、最後は自動的に駐車スペースを見つけて駐車しています。身障者用の駐車場は、許可証を持っていない場合は自動的に避けるそうです。英語というか言葉は一つも入っていませんので、一度ご覧ください。
ではもっと細かい内容をご紹介していきます。
まずセンサースイートですが、カメラ8基と前方レーダー、超音波センサー12基は以下のような仕様になっています。
機材 | 番号 | 名称 | 視認距離 | 用途 |
---|---|---|---|---|
カメラ | 1 | ナロー フォワードカメラ | 250m | 高速運転用 |
2 | メイン フォワードカメラ | 150m | 通常運転用 | |
3 | ワイド フォワードカメラ | 60m | 120度の視野角を持ち、信号や割り込み車の検出用。都市部で使われる | |
4,5 | フォワードフェーシング サイドカメラ | 80m | (左右)90度の視野角を持ち、高速道路での割り込みや視界の悪い交差点で使われる | |
6,7 | リアフェーシング サイドカメラ | 100m | (左右)後ろ向きではあるが車両の前方に設置され、車の両サイドの死角をモニターしたり、車線変更や高速道路での合流に使われる | |
8 | リアビュー カメラ | 50m | 今までのバックカメラの高性能版。自動駐車時に使われる | |
レーダー | 1 | 前方ミリ波レーダー | 160m | 3.9mm波長のミリ波レーダーで、霧・塵・雨・雪や前方車両の下部なども通り抜けて、前方の物体を検知し対応するのに使われる。時系列のスムージングを用いて、LIDARにおける点群データを生成できる |
超音波センサー | 1-12 | 車両全方位をカバーする超音波センサー | 8m | 特殊コード化された信号を用いて高感度化。横の車線からにじり寄ってくる車両の検出や、自動駐車で使われる |
2016年12月に米国で利用可能になるエンハンストオートパイロットには、今までのオートパイロットに加え、大きく3つの機能が追加されています。
- 高速道路に乗るところから降りるところまでの支援。高速道路に入ると、自動的に加速して周囲の速度に合わせて合流。その後も走行中のレーンの速度が遅くなれば速いレーンに自動車線変更し、別の高速道路に乗り継ぎ、出口まで自動で運転。出口では自動的に流出し減速してからドライバーに通知します。
- 自動ハンドル操作の機能向上。今までのオートパイロットでは曲がれなかった急なカーブや複雑な道路も走行できるようになります。
- サモン機能の機能向上。サモンとは、車に「乗らずに」車外から車を少し走らせる機能で、今までは直進前進後退のみでしたが、角を曲がったりなど、より複雑な環境でも使えるようになります。
つまり一言で言えば、今までのオートパイロットでは高速道路で車線を走り続け、ドライバーが安全確認後、ドライバーのウインカー操作で自動車線変更していたのが、エンハンストオートパイロットでは、高速に乗るところ・自動車線変更・高速道路の乗り継ぎ・高速から降りるところまでを一貫して、レベル2自動運転(つまり、完全自動運転ではなく運転支援)で走行できるようになるということです。
2017年末になるという完全自動運転の内容はまだあまり明らかにされていませんが、そもそもこれには法律だけでなく様々な社会システムの整備が必要です。レベル5自動運転車が事故を起こした場合は車両(コンピュータ)の責任になると考えられていますが、自動車メーカーが全ての責任を負ってくれるのか、また任意保険は自動車メーカーがかけるのか。安全面だけではありません。レベル5自動運転車は自動で走行できますので、例えば自分で所有する車をテスラネットワークに参加させれば、勝手に人を乗せてカーシェアリングができてしまいますし、課金システムを付ければタクシーも無人で営業できてしまいます。テスラ社は、テスラ車はテスラネットワークにしか参加させない、と表明しており、Uber/Lyftなどの今後自動運転車を導入すると思われるネットワークとは競合であるとの認識をしているようです。
テスラの目指している完全自動運転について、分かっていることだけをまとめておきましょう。
- 車に乗り込み、行き先を言えば走り出します。行き先を言わなくても、カレンダー(この機能はすでにあり、Exchange OnlineやGoogle Calendarなどと自動同期)を見て移動を開始。予定がなければ家に戻ります。
- 自動で交通状況を判断しながら、レーンの白線のない市街地を通り抜け、信号・一時停止標識・ラウンドアバウト交差点に従い、ぎっちり車間の詰まった高速道路を高速で走行できます。
- 目的地に着いたら車を降りると、車は駐車場検索モードに。自動的に障害者スペースなどを避け、自動的に駐車します。
- 用事が終わったらスマートフォンアプリのサモンをタップ。車は自動的に駐車場を出て、迎えに来てくれます。
- 自動接続機能のあるスーパーチャージャーを使えば、車は自動でスーパーチャージャーステーションに駐車し、自動で充電し、旅行を継続します。
なかなか野心的ですね。本当にできたらすごいことです。実際、オートパイロット機能も、テスラが他社に先駆けて実装し、米国では2015年10月(日本では2016年1月)に実現しました。エンハンストオートパイロットまでは何とかできそうにも思えますが、完全自動運転はなんといっても市街地があります。楽しみにしておきましょう。
今回のリリースは非常によく考えられていると思います。ハードウェアIIおよびエンハンストオートパイロットを今の時点で発表しなければ、テスラの自動運転の開発は(もちろんすごいわけですが、多くの方の高い期待値よりは)遅れているとみなされ、新車の買い控えが起こった可能性が高いと思います。また、発表はするものの、ハードもソフトも先の日程を発表すれば、ハードウェアIIが搭載されるまでの売り上げはほぼゼロになってしまうでしょう。とはいえソフトはまだテスト中。ハードだけ、「発表時点で製造中の車両には全部搭載」と言えば、最も多くの顧客や潜在顧客を納得させることができると思われます。
ハードウェアIIとエンハンストオートパイロットのコストは米国で約50万円、完全自動運転オプションは前払い(!!)の場合約80万円とのこと。来年末米国で発売される予定の350万円のモデル3に80万円の自動運転はちょっと高いような、、気もしますね。
最後に、完全自動運転のデモ動画から気になったショットを選んでご紹介します。
写真ではドアが開いており、乗員が乗り込みつつあります。
動画を見ていただくと分かりますが、結構絶妙なタイミングで右折して、さらに左車線に入ります。
信号は各国違いますし、特に日本では矢印信号があったり、ほとんどの信号が目には見えませんが点滅しています。これらへの対応は大変そうですね。
画像でもウィンカーが点滅しているのが見えます。
流出後はちゃんと減速しています。
目的地を、住所レベルではなく、このビルのこのドアの前、くらいのところまで伝えるにはどうするのでしょうね?詳細地図をズームして、ここ、と指示するのでしょうか。
人の認識もきちんとできるようになっているようです。この後、動画では自動的に駐車スペースを発見し、自動的に縦列駐車します。
最後に「Googleも自動運転車作ってたよね?」と思い出した方!最近のGoogleからの情報はあまり多くないのですが、私が見つけた限りで最新の走行中動画をご紹介します。
George Hotz率いるcomma.aiの走行中動画も。
はじめまして。
参考になりました。
子供の頃に読んだ百科事典の未来予想図が現実のものとなりつつあり、すごく楽しみです。
他の方も仰っているように、今は「運転支援」かもしれませんが、5年後、10年後標準規格などができて、車両間でのやり取りが可能になればもっと信頼性・安全性が高まると思います。
高齢の方が起こす悲しい事故の防止や過疎化地方への対応を期待します。
BMW乗り様、お世話になっております。
おっしゃる通りだと思います。
私は毎日車に乗るのですが、はっきり言って偶然の事故というのは非常に少ないと感じます。いろんなところで事故を見かけますが、直線で見通しの良い場所での追突事故というのがとても多いように思えます。結局、ドライバーの不注意によって引き起こされている事故が多いのだとしたら、自動運転や運転支援を導入することにより、事故が減少するのではないかと考えています。米国NHTSAも同様の声明を出しています。これから数年、テスラの運転支援の成果が出てくることと思いますが、期待して見守りたいと思います。
ほぼ同様のデモは2年前にメルセデスでも公開していたので、あまりインパクトは受けないが、霧、雪、夜間等の悪条件下、砂漠のような道の無いところ、相手が突っ込んでくるような所謂トロッコ問題でどの様な挙動を示すのかを早く公開して欲しいものだ。
それと自動運転とか、オートパイロットとかの言葉は使わないで欲しい。今はあくまで運転支援です。
とは言え、自動運転技術開発には期待している。ドライバーだけでなく、社会的に信頼されるようになって貰いたい。
堤様、コメントありがとうございます。
これから、様々な例外条件でのテストが必要なのだと思いますが、「ソフトウェアがレールである電車」であるかのごとく、自動運転車はソフトウェアの塊です。そのためどうしてもテストにはベータが必要で、多くの実走行シナリオが求められています。今までの車両開発のように、完全を期して開発しても、ソフトウェアはどうしても予期せぬバグを生みます。結果として、いったんはエンドユーザーにベータとしてリリースし、それでバグをつぶしていくためのデータ収集を行う必要があると思います。
各社これからフリートラーニングには力を入れていくでしょう。恐らく本気のメーカーから、より多くのセンサー、データセンターへの接続環境を備えた車をより多くのユーザーに提供していくようになると思われます。
用語の問題は面白い問題だと私は思っています。実はオートパイロットとは、飛行機における、パイロットが責任を持つパイロット監視下の操縦支援機能のことなのです。そもそも運転支援の意味を持つ言葉を勘違いして使っていたのは誰なのでしょうか。
これが、モデル3にも搭載されると思うと待ち遠しいです。
願わくば、オプション料金が許容範囲内でありますように・・・
(モデルSの完全自動運転オプションは、日本だと約90万円)
このような対応は、あらかじめハードウェアを搭載して出荷しておき
あとからOTAアップデートで機能をアクティベートしたり、不具合を修正できるテスラだからこその芸当ですね。
テスラのオーナーも今回のようなやり方は、AutoPilotで経験済なので抵抗もないと思います。
現在、モデルSにはAutoPilot未対応、AutoPilotV1対応、AutoPilotV2対応予定の3種類があることになります。
できれば、ハードウェアのバージョンを分かりやすく区別できる方法が欲しいところです。
国産車などでも、マイナーチェンジなどでは型式が変わらない場合もあることを考えるとその程度なのかもしれませんが、テスラの場合、機能の進化が凄まじいので型式など分かりやすい区別の仕方があるとうれしいですね。
(他社なら間違いなくフルモデルチェンジクラスの変更ですし)
よく自動運転で、事故の問題や責任の問題が話題になりますが、少なくとも日本においては、運転席には自動車運転免許という国家資格を有する有資格者が乗り、国から運転する許可を得ているわけですから、自動運転であっても現在普及しているクルーズコントロールと扱いは同じだと考えます。
どちらかというと、制限速度が事実上形骸化していたり、道路交通法を守っていても信号無視をしてきた自転車と事故を起こすと自動車の方が罪に問われたりする運用の問題が大きいと思います。
この状況で自動運転をさせようとすると、常に徐行するしかありません。
(一般道では、最低速度はないので合法)
mania3bb様、コメントありがとうございます!
そうですね、モデル3で高額のオプションというのは確かにどうなんでしょうか。車両価格の1/4にもなるオプションというのは例がないかも知れませんね。
逆の考え方もできるかも知れません。今回のエンハンストオートパイロット(EAP)や完全自動運転(FSD)については、車だけの機能ではありません。車でディープニューラルネットワークを処理し、その結果を運転に生かしながら、自車の情報をテスラのデータセンターにアップロードしつつ、他車の学習内容をダウンロードして将来の運転に生かす、というフリートラーニングの考え方は、まさに運転初心者がベテランの運転手さんのアドバイスを得て、だんだん上達していくかのようなプロセスを辿っていきます。このプロセスを支援してくれるサービスにも車を走行させる限りお金がかかり続け、テスラが負担し続けてくれるわけですから、ある意味多少高額になるのは仕方がないのかも知れません。
ハードウェアバージョンの違いは、テスラにて簡単にVIN番号から確認することができます。
>少なくとも日本においては、運転席には自動車運転免許という国家資格を有する有資格者が乗り、国から運転する許可を得ているわけですから、自動運転であっても現在普及しているクルーズコントロールと扱いは同じだと
取りあえずはEAPまではその扱いでよいでしょうね。問題はFSDです。究極的には、お子様や高齢者・身体障害者などの方々も車で移動されたいと思うでしょうし、都市部に済む若者は、自分で運転するのではなく無人の激安自動運転タクシーに乗りたいと思うかも知れません。ちなみに、電気自動車車両の減価償却方法は難しいので燃料費だけで言うと、テスラモデルSで200Wh/km。200Whの電力量は昼間の東京電力の電力料金で6円くらいになります。初乗りを1.5kmとすると初乗り料金はおおよそ9円ということになります。
自動運転車ネットワークが生成するビジネスもまた、社会を変えていきます。スマートフォンがガラケーから半分くらい市場を奪い、新しいコンテンツによる収益を生み出し、いろいろな産業をなくしたように、自動運転車ネットワークもいろいろな新しい収益モデルを生み出しつつ、他の産業に多大な影響を与えると考えられます。このネットワークは法律で除外し続けても、あまり意味がありません。なぜなら、日本の法律に従いドライバーを完全自動運転タクシーに乗せたとしても、そのドライバーは何もすることがなく、給与は圧倒的に低く抑えることができるからです。極端な話、ドライバーは寝ていても自動運転車は営業ができてしまうわけですから。
このような変化(ディスラプションと呼ばれています)は受け入れる以外方法がないと言われています。IT産業に従事する者はその怖さをよく理解しています。他の産業でも、ディスラプションの怖さ・速さを早く理解し、政府は正しい方向に舵を切るべきだと思います。
I’m afraid to accomplish to suit to the differnt country, culture, climate, and the moral. Tesla will be able to do that, indeed!
Dear Philips2042,
I agree. It is going to be very difficult task, especially here in Japan, where people and government is very conservative and risk-averse, with mixed traffic on the road and strange flickering LED traffic signals. However Tesla has one of the best logging system in the industry with cameras and 3G connection, so they at least have ways to learn and solve issues.
今後の 自動運転化が更に具体化され テスラの目指す所の訳ですね
私は GPSや監視システムが有る 飛行機ですら出来ないものが出来るのか?
大丈夫なのかしらと 思ってしまいます。
老齢化が進む 日本や世界では 必要だとは思いますが 不安ですね
勿論 障害のある方にも これが出来れば 素晴らしいと思います。
但し 飛行機の天気や気流の変化 飛行機器や操作装置の故障等が起きた時の対応は?
何か有った時に 飛行機の様に YOU HAVEが出ない様にしてもらいたいと思います。
現在の想定は 道路上の事だけですから 災害で道路が消滅していたり 火災の時や
水害時のアンダーパスへの侵入など アブノーマル時に対応できるかどうかですね。
そこで 停止するだけしか出来なければ 無い方が良いと思います。
私は運転の支援システムは 非常に有効だと思いますが
完全自動化は 技術者の奢りだと思います。
スージーパパ様、コメントありがとうございます!
そうですね、うまく行かなかったら、、と考えるのは誰しもあることだと思います。ただ、子供が成長するときに失敗しながら学んでいくように、新しいものができるときは失敗はつきものだと思います。
統計的な話になりますが、一般の人が運転していて、注意が散漫になったり故意にスマホを見たりテレビを見たりする瞬間は、自動運転車がミスする確率よりはるかに大きいと感じています。今まで、ほとんどの事故は悪天候や悪路・災害時に発生しているわけではありません。ほとんどが不注意による事故なのです。これをゼロに近くできるという意味で、おそらく自動運転車の導入は、事故率を結果としては下げることになると思います。私は毎日高速道路を走りますが本当にたくさんの、不注意による事故を見てきています。ほとんどが、まっすぐな、大してスピードも出ない、上下線が分離されている見通しの良い道です。このような環境で、自動運転車がミスをすることのほうがあり得ないと思います。
数年間、自動運転車にチャンスを与える価値は十分にあると考えています。