EUが「2030年には2021年比で37.5%のCO2削減」の規制案を決定

欧州連合(EU)は2018年12月17日、「2030年の自動車の二酸化炭素(CO2)排出量」を全体で37.5%削減する規制案を決めました。クリーンディーゼルやハイブリッドだけでクリアすることは難しく、EUの電気自動車へのシフトが急激に進みそうです。

EUが「2030年には2021年比で37.5%のCO2削減」の規制案を決定

電気自動車シフトは必須

欧州連合(EU)が公式サイトで2018年12月18日に公表したところによると、2030年における自動車(cars)・小型商用車(light vans)の二酸化炭素(CO2)排出量を2021年時点での排出量に比べ「全体で」37.5%削減すると発表しました。10月3日に「欧州議会(the European Parliament)」で決定していた「40%」からはやや後退しましたが、それでもEUの他部門が提示していた規制値の中では厳しめの値で決まりました。EU内の自動車メーカーは、販売のうち電気自動車(EV)の占める割合を大きく引き上げる必要に迫られるでしょう。

ここで「全体で」と表現したのは、「37.5%削減」が全ての自動車に一律に適用されるのではなく、各メーカーは販売車種構成と販売台数などから「それぞれ妥当な削減値」を割り当てられ、「自動車産業全体で37.5%の削減」が達成されるようにする、という意味だからです。なお、今後新車販売される小型商用車(light vans)に関しては31%削減としています。

欧州におけるEVのようす。日本とは大違いで、路上に駐車して充電できる施設が多数ある。EU公式サイト内のEU委員会(European Commission)のページより転載。
欧州におけるEVのようす。日本とは大違いで、路上に駐車して充電できる施設が多数ある。EU公式サイト内のEU委員会(European Commission)のページより転載。

今回の規制案は、「欧州理事会(the Council)」と「欧州議会(the European Parliament)」との間で妥結されました。「欧州理事会」は、EU加盟国の「閣僚級」代表によって構成される「EUの主たる決定機関」のことで、総務理事会、外務理事会、経済・財政理事会というように分野ごとに招集・開催されます。「欧州議会」は、諮問的機関から出発した機関で、特定分野の立法において理事会との共同決定権を持ち、EU予算の承認権や新任欧州委員の承認権などを持つ「議決機関」です。本ブログで10月3日にお伝えした「40%」の削減案は、このうち「欧州議会」が決定したものでした。削減案はこのほか「欧州委員会(the European Commission)」では30%削減、「欧州理事会(the Council / Consilium)」では35%削減をこれまで提案してきました。

12月17日の現地時間夕刻に決定された今回の規制案は、EUが策定している「クリーン・モビリティー包括案(the Clean Mobility Package)」の一部を構成することになり、EU内のモビリティーを近代化して21世紀後半に「気候変動に影響を与えない状態(climate neutral、カーボン・ニュートラル)」を達成するための重要な足がかりになる、とEUは述べています。EUがこの包括案を作ったのは、パリ協定のもと、運輸交通分野でのCO2排出を減らす動きを確実にするためと、それによってEUの国際競争力を保つためです。また、欧州に暮らす人たちに綺麗な空気をもたらすことにもなる、としています。

欧州議会(EU Parliament)はフランスのストラスブールにある。EUのサイトより転載。
欧州議会(EU Parliament)はフランスのストラスブールにある。EUのサイトより転載。

クリーン・モビリティで大気汚染を減らす

欧州委員会の中のエネルギー統一に関する委員会の副委員長であるマロシュ・シェフチョビッチ氏は、次のように述べています。
「私は、経済の将来は『まず明日どのように解決するか』にかかっていると信じています。『環境に負荷をかけないクリーンな自動車社会(clean mobility)』の実現はその一部です。今日の合意は、パリ協定の実現に向けての確実な前進になるのはもちろん、電池やその他の主要技術を含んだ欧州連合(EU)内の『価値連鎖(value chain)』への投資を促すことになるでしょう。
私たちの究極の目標は、最もクリーンで最も競争力のある自動車がヨーロッパで生産され、そうした自動車が最高かつ最新のインフラを使用し、大気汚染を減らすことなのです」

欧州委員会の気候行動・エネルギー担当委員であるミゲル・アリア・カニェテ氏は、次のように述べています。
「野心的でバランスの取れた合意を生み出した努力について、私は欧州議会と欧州理事会に感謝します。この法制によって、輸送部門からのCO2排出に対処する適切な目標とインセンティブを、現在私たちは策定しています。
新しい法制は、消費者がガソリンや軽油を買うために支払っていたお金を節約できるようにし、さらに、ゼロ・エミッション社会の実現に向けて自動車メーカーが積極的に技術革新を取り入れられるようにし、また、欧州がクリーンな自動車に関しての国際的リーダーシップをさらに強化することに役立つことでしょう。
今日の成果は、今週のCOP24(12月2日から14日にかけてポーランドのカトヴィツェでは開催された国連気候変動会議)の結論から考えると、より重要なものとなります。これは、EUのパリ合意への揺るぎない取り組みを明確に示し、EU加盟国が2030年目標を達成するのを助け、2050年までに気候変動に影響を与えない(カーボン・ニュートラルな)欧州経済の実現に向けて、私たちが正しい道を歩むことに貢献してくれるでしょう」

発表されている各種統計によると、EU内で販売されている「電気自動車(BEV、BEVx)」と「ハイブリッド車(HV)」のシェアは、両者を合わせても2017年時点でわずか「1.4%程度」に過ぎません。もっとも、これらのシェアはここ数年で大きく伸びてきています。今回合意に至った規制案が法制化されると、EU内の各自動車メーカーは急速に「電気自動車(BEV)シフト」に入ることでしょう。

実際のところ、生産台数のかなりの部分を電気自動車にしないと、37.5%の削減は達成不可能だと言われています。しばらく苦労は続くと思いますが、あと数年もするとクリーンな自動車の分野では、欧州メーカーは世界を牽引する存在になることでしょう。今後の動きに注目してゆきたいものです。

(文:箱守知己)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. この欧州や北米の一部の州にみられるこのようなCO2排出削減の動きが、胡散臭く見えるのは自分だけでしょうか?

    EUや自動車メーカーが言葉遊びのようにCO2削減を訴える割には産業構造の変革、エネルギー政策、そこに至る根本的な論議が殆どなされておらず、政治的思惑な側面しか垣間見えないのです。

    更に、CO2を排出するのは何もクルマだけではないにも関わらず『CO2削減=クルマのEV化』と結論づけられたかのような動きも胡散臭いとしか言いようが無い。

    国やメーカーがEV化をぶち上げても,いちばん難しいのはそれを消費者に売ることであるにも関わらず、EV化がすぐ進むような政治的思惑の印象操作に我々は騙されてはいけないと思う。

    地球の温暖化がCO2が原因であるという仮説を定説と捉えるならば、このような問題は100年単位で考えるべき問題。
    クルマで言えばEV化だけではなく、水素も含め、産業構造、エネルギー構造の変革を根本的論議するのが先でしょうに?

    1. そえてつ様、コメントありがとうございます!
      政治的思惑は当然あると思います。悪法も法なり。すべてが平等なわけではないんですよね。
      例えば細かいことですが世界中でこんなこともあります。
      https://driving.ca/tesla/auto-news/news/tesla-gets-creative-with-model-3-pricing-to-qualify-for-federal-electric-vehicle-rebates
      カナダでは、補助金を出すEVの対象として、テスラがモデル3のCAD47,600の価格を発表していたところ、CAD45,000未満の車両のみというルールを制定しました。これに合わせてテスラはモデル3の価格をCAD44,999に変更。
      https://www.electrive.com/2019/03/18/vw-wants-ev-subsidies-revamped/
      ドイツでは、フォルクスワーゲンが車両の長さに応じて補助金の額を減額するようロビーイングしています。4.6mを超える車両は補助金額が半分以下になるように、ですが、テスラモデル3の車両の長さは4.69mで、フォルクスワーゲン社、ひいてはドイツの自動車業界はテスラを排除するようなルールを決めようとしているわけです。

      >クルマで言えばEV化だけではなく、水素も含め、産業構造、エネルギー構造の変革を根本的論議

      この論議はすでにある程度国レベルで行われており、各産業においてアクションプランが定められています。そのうち、運輸部門については燃費規制が行われている、というのが日本の状況となります。グローバルレベルでは、京都議定書というのがあります。
      https://ja.wikipedia.org/wiki/京都議定書
      締約国数は192か国で、もちろん日本も締約しています。
      https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kptap/plan080328/d-01.pdf
      こちらが、日本政府の京都議定書に規定された目標の達成計画です。p29に産業別の計画が記載されています。

      もう一つ、今回のEU規制案に伴い、ペナルティが2021年から課せられます。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/fca-to-pay-tesla-for-eu-co2/
      そして、こちらの最も影響を受けない会社は実はトヨタなのです。胡散臭いとおっしゃっていますが、実はペナルティを受ける予定なのはほとんど欧州のメーカーです。自分で規制して、自らの領域を拠点にしているメーカーを罰するわけです。
      https://www.ft.com/content/74c04dc2-5b9c-11e9-9dde-7aedca0a081a
      中ほどの表、ルノーが利益ベースでは40%以上を罰金として科せられ(すなわち、利益が4割減となる)、金額ベースでは年間40億ユーロ(約4900億円)を支払うことになるフォルクスワーゲンが最も大きいのです。ちなみにここにはありませんが、トヨタのペナルティは、利益の3%程度と試算されています。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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