昨今は電気自動車のバッテリー生産にまつわるニュースが目立ちますね。旧来のエンジン車とは異なり、「バッテリーを制する者がEVを制する」という事実を、当ブログの読者の皆さんは既にご存じでしょう。世界的大企業が仮に、急に「EVを生産する」と言ったとしても、足下は見えていますから、「そう簡単には行かないよ!」と言えてしまうのが現代です。さて、「エバーグランデ・グループ(恒大集団)」(リンク先は中国語簡体字)は、中国で1〜2を争う資産家の「許家印(Xu Jiayin)」氏が率いる不動産コングロマリットで、その収益も中国でトップレベルです。今年(2019年)初めには、「サーブ(SAAB)」を持つ「NEVS(New Electriv Vehicle Sweden)」の株式の過半数を取得して、これを傘下に収めたことでも話題となりました。また、EVベンチャーの「ファラデー・フューチャー(Faraday Future)」への出資を決めたものの、もつれて裁判にまで発展し、関係を解消したことも記憶に新しいですね。
不動産が本業ですが、傘下には健康増進のための施設などを展開する「恒大健康(Evergrande Health)」、旅行業と旅行先の開発を行う「恒大旅遊(Evergrande Tourism)」といった企業を抱えています。今回の発表を聞いて公式サイトを訪れてみると、従来からある前述の2つのグループ企業に加え、「新能源汽車(新エネルギー車)」という項目が増えていました。 電気自動車(EV)に向けての意気込みを感じた瞬間でした。今回の投資は「恒大健康」の業務として行うと伝えている現地メディアもありました。
今回の発表(リンク先を日本人少し読みやすい繁体字にしてみました)では「1600億元」という投資額がまず目を引きます。日本円だとおよそ「2.5兆円」、USドルで「230億ドル($23 billion)」というとてつもない額です。中国広州の南沙という地区に3ヶ所の工場を持つようです。
EV年産100万台相当の大規模生産能力
バッテリーの年産は「50GWh」と、こちらもいきなり大規模生産を打ち出しています。仮にエバーグランデが今後製造するBEVが「日産リーフe+」と似たような60kWh前後の容量だとすると、BEVは「年産80万台強」に相当します(60kWh × 80万台 = 48GWh)。中国国内で普及しやすそうな、もう少し少ない「50kWh」と仮定すると、「年産100万台」(50kWh × 100万台 = 50GWh)の計算が成り立ちそうです。
テスラのギガファクトリーは2018年内に年産35GWhを目指していましたが、2019年4月にイーロン・マスクCEOがTwitterでぼやいた内容からすると、いまだに24GWh前後で伸び悩んでいる現状のようです。よって、エバーグランデもすぐに50GWhが生産できるとはにわかに信じられませんが、なにしろ資金力が凄い会社なので、実現の可能性はありそうです。
広州の共産党委員会、広州市人民政府、広州市南沙地区当局とそれぞれ調印する様子を写した写真が、公式サイトに公開されています。下の写真は、このうち広州市人民政府との調印の際の記念写真です。
筆者としては、生産されるバッテリーのケミストリが気になります。少し調べてみましたが、関連情報はまだ見つかっていません。この時期ですから、新鋭の「NMC811」が最も可能性が高そうな気がしますが、中国国内ではいまでも「リン酸鉄」のものもまだ結構作られているので、どうなるか注視してゆきたいものです。そして、本当に電池が大量に生産されて価格が下がり、80〜100万台のEVが毎年送り出される日を楽しみにしています。
(箱守知己)