スマートブランドは2022年以降はBセグメントに移行
2019年3月にダイムラーと浙江吉利控股集団(ジーリー)は、50対50の対等出資でスマートを核としてEV(電気自動車)を開発、生産する合弁会社の設立に合意したことを発表しました。さらに2020年1月8日に両社は、合弁会社の「スマート・オートモービル・カンパニー」が中国当局の認可を受けて正式に設立されたことを発表しました。
【ダイムラーのニュースリリース】
Daimler and Geely Holding form global joint venture to develop smart(2019年3月28日)
Mercedes-Benz and Geely. Global joint venture formally established(2020年1月8日)
新しいスマート社の資本金は54億元(約840億円)で、ダイムラーとジーリーは27億元ずつを出資。本社は中国、上海にほど近い杭州に設置されます。スマート・オートモービル・カンパニーの取締役会は、出資比率にならってダイムラーAGから3人、ジーリーから3人の6人で構成されています。
合弁会社設立の発表時、ダイムラーAGのディーター・ツェッチェ会長(当時/2019年5月22日に退職)は次のように語っていました。
「220万人以上の顧客にとって、スマートはアーバンモビリティの先駆者です。このサクセスストーリーをベースに、電気自動車セグメントの強力なパートナーであるジーリーホールディングスと共にブランドをさらに強化することを楽しみにしています」
さらにジーリーホールディングス会長のLi Shufu氏は「私たちはスマートの価値を全面的に尊重しています。このブランドには独特の魅力と強力な商業的価値があります。ダイムラーとジーリーはこの挑戦的でエキサイティングなプロジェクトを通して、私たちの顧客により良いモビリティ体験を提供するために、プレミアムEVの導入をさらに進めていきます」とコメントしました。
ダイムラーもジーリーも、スマートブランドをベースにEV開発を進めていくという考え方を示しています。一方で両社は、2022年の発売に向けて「スマートの製品ポートフォリオは急成長中のBセグメントに拡張予定」という方向性を示しています。
となると、今のちっちゃいスマートはどうなるんだろうと、気になってしまいます。
Bセグメントへの移行でライバルはポロやミニに
初代スマートの発売は1998年。欧州に登場した2人乗りの超コンパクトカーは、都市部で個人が利用するクルマを持続可能なものにすることをコンセプトに掲げていました。2007年には限定生産ながらEVの「スマートed(electric drive)」をラインナップに加え、2012年には第2世代のスマートedを量産化。
これと並行してスマートは、サイズの少し大きなAセグメントのスマートforfour(フォーフォー)も販売していました。こちらは初代は三菱自動車工業のコルト、現在はルノーのトゥインゴと兄弟車です。ただ、個人的な印象ですが、とくに日本ではスマートフォーフォーはほとんど売れなかったこともあり、やっぱりスマートブランドと言えば2人乗りの超コンパクトカーが思い浮かびます。
けれども合弁会社が2022年の発売に向けて開発するEVは、スマートフォーフォーよりもさらに1サイズ大きなBセグメントが中心になる予定です。BセグメントはフォルクスワーゲンのポロやアウディのA1、BMWのミニ、プジョー208、トヨタのアクアなどがライバルになります。戦いの真ん中近くに突っ込んでいく感じでしょうか。
2022年以降のスマートは、中国の工場で生産される予定です。もちろん車は世界に向けて販売していく計画ですが、ターゲットはやはり中国市場にシフトすることが考えられます。
そうすると、大きいものが好まれる中国で超小さな2人乗りの車を買うようなユーザーが多いとは思えず、だからスマート・オートモービル・カンパニーの車がBセグメントに力を入れるのは納得感があります。
だからといって、いきなりCセグメントやSUVではないことを考えると、スマートブランドの基本コンセプトと、売れ筋商品との間でバランスをとったということかもしれません。
日米欧の大手自動車メーカーによるAセグメントやBセグメントの現行EVは、BMW「i3」や三菱自動車「i-MiEV」、フォルクスワーゲンの「e-up!」などが代表格でしょうか。この他、BMWは「ミニ」のEVバージョンを、ホンダは「ホンダE」を発売予定です。
このクラスでは車体の大きさから搭載バッテリー容量が若干、制限される傾向があり、「e-up!」や「ミニ エレクトリック」などは32kWh前後になっています。「e-up!」は2019年のフランクフルトショーでバッテリーが増量していますが、それ以前は約19kWhでした。「i-MiEV」は16kWhなので、同等です。
一方でBMWは2019年に「i3」のバッテリーを33kWhから42kWhに増量して、少し突出しました。まあ、ドイツ本国では約2万2000ユーロ(約260万円)からある「e-up!」に対して、「i3」は3万8000ユーロからとお値段も少し突出しているので、相応なのかもしれません。
この中に飛び込む新しいスマートのバッテリーはどうなるのか。価格はいくらになるのか。どのような付加価値をつけていくのか。今から少し楽しみです。
最新型はスマートEQの最後のモデル?
さて、新型のスマートEQが、2020年1月に欧州で正式にリリースされました。2022年には新会社のスマートが登場するので、メルセデスベンツのサブブランドになるEQを冠したモデルはこれが最後になるのでしょう。また、超小型モビリティのスマートも、もしかすると最後なのかもしれません。
【ダイムラーのニュースリリース】
The new generation smart: ground-breaking, digital, urban
ただし、スマートを作っている工場はメルセデスベンツが引き継ぎ、新しい小型EVを生産する予定です。ダイムラーは、現在スマートEQ フォーツーを生産しているフランスのハンバッハ工場と、スマートEQ フォーフォーを生産しているスロベニアのノボメスト工場は引き続き現行モデルの生産を続け、将来的にハンバッハ工場はEQブランドの小型EVを生産する方針を発表しています。ハンバッハ工場については、メルセデスベンツはEV生産のために約5億ユーロの設備投資もしています。
スマートEQのスペックはすでに様々な媒体で報じられていますが、簡単におさらいをします。モデルはスマート「フォーツー」のクーペとカブリオ、「フォーフォー」の3モデルで、バッテリーの搭載容量はどれも17.6kWhです。
航続距離はモデルによって重量が違うので若干の差がありますが、最大159km(NEDC)です。最高速度はどれも130km/h。充電は、オプションで22kWの急速充電機能付き車載充電器を搭載すると、3相の交流充電器があれば10%から80%まで40分で充電できます。通常は230Vの普通充電で、約6時間かかります。最高出力は60kW(82hp)で定格は41kW、最大トルクは160Nmです。
コネクテッドカーという基本コンセプトに変わりはありません。スマホのアプリやアップル・ウオッチから充電状況を確認したり、事前に車内の温度調整をしたりすることが可能なほか、自分の車の場所をリアルタイムで確認できます。また個人所有の車でも、リモートでキーレスエントリーできる機能があるなどするため簡単にユーザーグループ内で共有することができるなど、シェアリングにも対応しています。
今となっては性能面で特筆すべきものがあるようには見えませんが、都市部での利用という基本コンセプトからすれば、十分すぎる性能を持っているのではないでしょうか。このサイズの車で遠出をする人もいなくはないでしょうが、基本的にセカンドカーの位置付けだと思えば、必要十分の要素を備えているのではないでしょうか。
さて、そんなスマートが独中の合弁会社の開発でどのような姿になるのか。答えは2年後に出ます。
(文/木野 龍逸)