専用アプリで手軽に利用可能
『eemo』とは、小田原、箱根などの神奈川県県西エリアに特化して展開される、エネルギーマネジメント連動型EVカーシェアリングサービスです。EVカーシェアリングとエネルギーマネジメントに取り組む株式会社REXEV(レクシヴ)とエネルギー地産地消を実践する湘南電力株式会社、そして小田原市が協力して実現したプロジェクトで、2019年9月には環境省の「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業のうち脱炭素型地域交通モデル構築事業」に採択。まずは3年間の補助事業としてスタートを切りました。
2020年3月から試験運用が始まって注目していたのですが、いよいよ6月1日に一般向けのサービスが正式にスタートしたので、新型コロナで微妙な時期ではありますが、感染防止にしっかり配慮して取材に行ってきました。
ステーションリスト
6月1日には小田原市内を中心とした9カ所のステーションがオープン。全部で20台の日産リーフ(40kWh)が配備されています。なにはともあれ、まずは利用方法をご紹介しておきましょう。
①入会してアプリをDLする。
利用するには、『eemo』の公式サイトで入会手続きが必要です。個人か法人で入会可能。「いつも使いプラン」と「たまに使いプラン」から利用プランを選択し、必要事項を記入して個人の場合は免許証の写真を添付して送信。クレジットカード情報などを入力します。手続きが完了したら専用アプリをインストールします。
入会金などの初期費用や月会費は実質0円なので、気軽に利用することが可能です。
②アプリから予約する。
アプリを立ち上げて、地図から利用したいステーションを検索。利用時間などを指定して予約します。小田原から離れた場所で操作しても、地図検索で希望の場所を表示できます。空車があるステーションは水色のフラッグが立っていてわかりやすい。
③アプリで解錠して利用。
まずはアプリで解錠。グローブボックスからリモコンキーを取り出して利用します。ステーションに停車中は充電コネクタが挿してあるので、必ず抜いて、充電スタンドにきちんと戻してからスタートします。
④返却
元のステーションにクルマを戻し、充電コネクタを接続します。
ちなみに、ガレージで待機中は充電ケーブルが常に繫がった状態とはなりますが、常に100%満充電で待機させることはないとのこと。システムから入った予約時間の長さに合わせて、適切な残量まで充電して貸し出すようマネジメントされているそうです。満充電放置は電気自動車にとって電池劣化の大きな要因となるので、とても賢明なサービスですね。
6月30日までは無償で利用可能
新型コロナ禍の移動自粛期間中のオープンとなったわけですが、「コロナ禍でも外出せざるを得ない方を応援!」ということで、6月30日までの1カ月間は無償で利用することが可能になっています。無償利用期間中は、会員登録時にもクレジットカード情報の登録は任意。カード情報を入力しなくても会員登録が可能です。
ちなみに、カーシェアリングでそんなに遠出する人は少ないでしょうが、出先で充電が必要になった時のために、車内には『ZESP3』のカードが備えてあります。充電料金は無料(『eemo』が負担)とのこと。ありがたい! 都道府県をまたいだ移動自粛要請も解除されました。夏休みには観光庁の「Go Toトラベルキャンペーン」も実施されそうだし。この機会に小田原、箱根へ『eemo』で旅してみたい、ですね。
【料金プラン】
地域で発電した電気で走る
さて、『eemo』には次のような特徴があります。
①地域で発電した再生可能エネルギーの電気で充電。
②電気自動車を地域の蓄電池として活用。
③小田原・箱根を中心としたエリアに特化。
小田原市では、そもそも「エネルギー地産地消」に向けた動きが活発でした。2012年にはメガソーラー市民発電所や屋根貸し太陽光発電を運営する『ほうとくエネルギー株式会社』を設立。地域で発電した再生可能エネルギーによる電気を地域の経済に還元するため、2017年に小田原市内のエネルギーインフラを担う企業が中心となって『湘南電力』の株式を取得して事業を受け継いでいます。地域で発電した電気を、地域で小売りする仕組みがすでに稼働していた、ということです。
EVカーシェアリングも、エネルギー地産地消を普及させるためのビジネスモデルとして発想されました。太陽光などの再生可能エネルギー発電は気象条件などによって出力が変動します。調整のために大容量蓄電池を備えるのはあまりにもコストが掛かる。そこで、停まっているEVを蓄電池として活用し、地域の交通課題解決にも貢献できれば一石二鳥。地産地消の再生可能エネルギー普及を応援する『湘南電力』が届ける電気でEVに充電し、、『REXEV』がエネルギーマネジメントやカーシェアリングに実務を管理する、というのが『eemo』の仕組みです。
地域の協力は不可欠なので、小田原市と協力契約を締結、連携してプロジェクトを進めています。『eemo』は環境省の補助事業になっていて、市の委託を受けて『REXEV』と『湘南電力』が運営していますが、市からの出資は受けていません。『ほうとくエネルギー』や『湘南電力』と同様に、あくまでも地域の企業経営者を中心とした人たちの熱意が集まって前進し、実現したプロジェクトなのです。
まずは9カ所20台でスタートしましたが、地産電力の蓄電という機能を考えれば台数は多い方がベターです。『eemo』ではこれからの3年間でステーション50カ所、100台のEVを導入する計画とのこと。『REXEV』では充放電のコントロールを最適化するAI導入に向けた実証も進めているそうです。
ビジネスとしての採算ラインは1日4時間程度の稼働(クルマが利用される)とのこと。私も少しだけでも借りてみようと取材前日に予約を取ろうとしたのですが、今は無償だからでしょうか、希望の日時はなんと20台全車の予約が埋まっていました。無償期間が終わっても、この調子でたくさん利用されるといいですね。あ、でもあまり稼働しちゃうと蓄電機能がスポイルされるのがちょっとジレンマ、ですね。
ほかの地域や企業、集合住宅などへの導入も応援します!
環境をお題目に掲げたこういうプロジェクトって「行政が予算で補填する採算度外視の計画でしょ?」なんて穿った見方をする向きもあろうかと思いますが、少なくとも小田原の場合はそんなことはありません。今回、取材に対応してくださった湘南電力社長の原正樹さんは、地元のエネルギーインフラ企業である小田原ガスの社長でもあります。都市ガスにとってはライバルともいえる地産地消の電力普及に、意欲的に取り組んでいるんですね。小田原といえば戦国の雄、北条氏のお膝元です。まさに、人は石垣、人は城(因縁の信玄ゆかりの名言ですが)。『eemo』は、原さんのような「人」の熱意が集結して走り始めたプロジェクトなのです。
地域発電に地域電力会社、さらにEVカーシェアリングまで組み合わせて突き進む小田原市の事例はかなり先進的で完成度が高い取り組みといえます。でも、全国各地で地域活性化や社会課題解決に関心が高く「こういうの、やりたいな」と思う人もいることでしょう。
『REXEV』では、福島県でEVエネルギーマネジメントシステムの実証実験を進めるなど、小田原に限らず、全国各地に同様のプロジェクトを広げることを目指しています。企業のフリートをEVにしてソーラー発電で活用する。あるいはマンションなどの集合住宅で住人向けのEVカーシェアリングを導入するといった計画も、『eemo』のノウハウがあれば比較的スムーズに実現できるはず。
こういうプランって、思いついても「何から手を付けていいかわからない」というのもよく聞く話。条件や環境、導入規模の希望などもさまざまなので「まずは相談してください!」(REXEV取締役の藤井崇史さん)ということでした。
【関連サイト】
●『REXEV』ウェブサイト
●『湘南電力』ウェブサイト
●『ほうとくエネルギー』ウェブサイト
全国各地に、こういう事例が増えることを願っています!
追記(2020年6月30日)
SNSなどで、この記事を見ると「再エネ電力だけで充電しているように感じる」などのご意見をいただき、改めて詳細な電力供給状況などを確認しました。以下、メールで追加取材した質問と、eemoからいただいた回答です。
Q. eemo の充電電力は全て湘南電力が供給していますか?
eemoの充電電力は全て湘南電力で供給する訳ではありません。REXEVがステーションの電気の契約主体となる場合(主に新設の場合)は、湘南電力の再エネ100メニューにて電気が供給(7月1日以降)されます。REXEV以外(ステーション設置場所の需要家)がステーションの電気の契約主体となる場合は、その需要家が契約している小売電気事業者により電気が供給されます。
Q. 個別に再エネ発電設備があるステーションではその電気も利用していますか?
eemo充電の再エネ比率は、電気を供給している小売電気事業者(およびメニュー)の電源構成と同じ(通常の契約者に送られている電気と同じ)となります。ご指摘の通り、ステーションに自家消費型の発電設備がある場合は、その発電量を加味した再エネ比率となります。
Q. 湘南電力の再エネ比率について、FIT電力と非FIT電力は区別していますか?
湘南電力の再エネ比率(FIT、非FITそれぞれ)については、以下ページの電源構成より確認いただけます。
『湘南電力ウェブサイト/電源構成紹介ページ』
地域電力会社として安定した供給電力を確保しながら再エネ比率を高めていくのは大変なことでしょうが、その中でエネルギー地産地消や再エネ普及を推進する湘南電力の取組は、改めて価値あることだと感じます。
カーシェアリングのEVは再エネ電力だけで充電していると誤解が生じるのもよくないので、記事タイトルなどを一部修正しました。ステーションごとの電力の再エネ比率は、eemo アプリでも確認できます。
(取材・文/寄本 好則)