中国でのモデルYの需要が伸びると予想している?
ロイター通信は、LG化学が年内に韓国内の工場で生産したバッテリーをテスラ社に供給する予定があることとともに、テスラ社がLG化学だけでなく他のバッテリーサプライヤーにも供給を増やすよう求めていると、この問題に詳しい複数の情報筋が語ったことを伝えました。
【参考記事】
LG Chem to produce Tesla batteries in South Korea this year as demand grows: source(7月3日付ロイター通信)
テスラ社の上海ギガファクトリーでは現在、モデル3を年間20万台規模で生産しています。同じく上海ギガファクトリーに建設中のモデルYの生産ラインも、テスラ社の決算報告書によれば、年間の生産規模は20万台になる予定です。
このような生産規模の拡大に合わせて、テスラ社はバッテリーの確保に力を入れてきました。そのため上海ギガファクトリーでは昨年、LG化学だけでなくCATLからもバッテリーを調達しています。
ということは、ロイター通信の“LG化学だけでなく他のバッテリーサプライヤー”というのはCATLを指す可能性が高く、CATLに対しても生産量の増加を求めていることになります。さすがに記事では供給量の数字までは出ていませんが、モデルYの生産が始まれば、早い時期から人気が高まる可能性があることが推察できます。
LG化学のEV向けバッテリー生産容量が世界2位に浮上
今回のロイター通信の報道について、テスラ社もLG化学もコメントを出していません。それでも韓国市場でのLG化学の株価(外部リンク)は、7月1日の49万1500ウォン(約4万4044円)が、7月9日の終値では53万9000ウォン(約4万8378円)と年初来の高値を付けています。
もっともLG化学の株価は、ここ数日の上昇はもちろんですが、今年は新型コロナの影響で3月中旬に一時的に値を下げたものの、年初の31万4000ウォン(約2万8134円)から上昇を続けていました。この7か月間で60%近く値を上げたことになります。株価のチャートを見ると、まるでテスラ社の株価を追いかけるような値動きになっていて興味深いものがあります。
自動車メーカーが軒並み不調になる中で、テスラ社とその関係筋の業績は、それだけ期待されているということなのでしょう。
ところで、LG化学の業績の裏付けになりそうな記事がありました。韓国メディア「THE INVESTER」は今年5月13日に、市場調査会社の「EV VOLUMES.COM」のデータを引用しつつ、2020年第1四半期にテスラ社が生産した8万8461台のうちの14%がLG化学のバッテリーを搭載していたと伝えています。
さらにこの記事では、市場で販売されたEVが搭載しているバッテリーの総容量で、初めてパナソニックを抜いて世界一になったとしています。記事によれば、LG化学の総容量は6.3GWhで、パナソニックは5.8GWhでした。その次はCATLの約3GWh、サムスンSDIの約1.4GWhと続きます。
もうひとつ、別の指標もありました。6月12日付の「The Korea Herald」は、中国の市場調査会社「China Battery Enterprise Alliance」によるデータとして、中国市場のEVが搭載しているバッテリー容量の、メーカー別供給量を紹介しています。記事によれば、中国市場でのトップはCATLで6.2GWhで、それに続く2位がLG化学の約2GWhでした。ちなみに3位はBYDで1.9GWhでした。
このLG化学の総容量は、ほぼテスラ社向けのものと思われます。LG化学がテスラ社にバッテリーの供給を開始したのは昨年9月の上海ギガファクトリー稼働後ですが、これからモデルYの生産が始まることを考えると、今やLG化学は、テスラ社にとって最重要の調達先になったと言っていいかもしれません。
世界規模で供給先を増やしていくLG化学
LG Chem Advanced Automotive Battery & Polymer Pouch Cell PR(YouTube)
(LG化学のEV用バッテリーPR動画。2013年に公開された古い動画ではありますが。。。)
LG化学については、EVsmartブログでもいくつかの関連記事を出してきました。主な記事のひとつは、昨年9月の、上海ギガファクトリーでの生産車両のためにLG化学の電池を調達するというものです。パナソニックと蜜月にあったテスラが初めて、パナソニック以外のメーカーからバッテリーを調達しました。
【参考記事】
テスラがLG化学から中国(ギガファクトリー3)生産車両のバッテリーを購入(2019年9月2日)
もうひとつの記事は、GMがLG化学とバッテリーのセルを生産するための合弁会社を設立したという内容でした。この合弁会社の投資規模は23億ドルにのぼります。
【参考記事】
GMとLG化学が世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表(2019年12月25日)
こうしてみると、今後もLG化学は急速にシェアを伸ばしそうに見えます。いや、LG化学だけでなく、CATL、BYD、サムスンSDIなど、アジアのバッテリーメーカーは揃って、搭載車両を増やしていきそうですし、EV市場拡大に伴って、これからは良質なバッテリーの獲得競争が起きるのかも知れません。
前述したように、GMはLG化学と合弁会社を設立しています。またフォルクスワーゲンは、中国の新興バッテリーメーカー「国軒高科股份有限公司」(Guoxuan High-tech Co., Ltd.)に興味を示しています。
【参考記事】
フォルクスワーゲンが中国のバッテリーメーカーの株式取得に向けて協議(2020年1月24日)
昨年来、世界の自動車メーカー各社は、バッテリーメーカーの囲い込みを加速させているように見えます。でもバッテリーの生産能力は、短期間で増強できるものではありません。至近では、トヨタの「RAV4 PHV」がバッテリー生産量の限界のために、発売からわずか3週間で国内での受注を停止したことが、状況をよく表していると思います。だとすると、既存メーカーの生産計画をどのくらい抑えられるかが、今後数年間のEVの生産能力の上限を決めることになるとも言えそうです。
翻って日本の自動車メーカーがどうしているのかというと、基本的には国産バッテリーの調達を進めてきましたが、世界的に見れば生産設備はごく限定的です。自前でバッテリーを作っていた日産も、NECと共同で設立した会社を手放してしまいました。トヨタは新たなバッテリーメーカーを設立しましたが、合弁相手はHEVで協力関係にあったパナソニックです。他にもGSや東芝などがEV向けバッテリーを作っていますが、日本企業の動きに、世界的な広がりが見えないのが気になりますし、それ以上に、想定される生産量が圧倒的に少ないのも不安材料です。これではコスト削減にも限度があります。
現時点では、悲しいかな日本の自動車メーカーのEVに対する優先度は欧米に比べて低いのが現実です。なので今はただ、EVを増やそうと思ったときにはバッテリーの調達が難しくなっている、なんていうことが起きないことを祈るしかありません。その時までに日本のバッテリーメーカーも奮起をしていればいいのですが、さて、5年後、10年後はどうなっているのでしょうか。
(文/木野 龍逸)
>基本的には国産バッテリーの調達を進めてきましたが、世界的に見れば生産設備はごく限定的
国産バッテリーメーカーは技術力というより、経営力がなかったのです(今となっては生産力もだが)
旧電電公社時代からキャリアの下請けとして電話機やガラケーを作っていたメーカー
国鉄の下請けとして鉄道車両を作っていたメーカー
などこういう「下請け意識」は親会社元受け会社の意向によって経営が左右される
上の例は元国営の親方日の丸意識がありますがまあ自動車は民営なのに序列意識がある
受注先(ここでは自動車メーカー)がEVに消極的なら、消極的になるという
子会社ならともかく、別の会社なのに…
世界シェアのことなんて最初から頭にない
それなりの歴史があるメーカーばかりなので製造業も基本的にはシェアの大きい企業が研究開発などの投資も幅広くできて有利
という基本を知らないはずはない
そういう意味で、よりひどい状況にあるといいます
確かにこのまま行くと日本のEV 用リチウム電池生産事業もかってのシャープに代表される液晶事業、東芝のメモリー事業や半導体事業の様に当初はシェア、性能面で圧倒していてもコスト面で遅れて行き、手放さざるを得ない状況になる可能性はあるなと思いますね。