テスラが2021年第1四半期決算を発表〜純利益は前年同期比2638%

テスラ社は現地時間の4月26日、2021年第1四半期(1月~3月)の決算を発表しました。総売上高、営業利益ともに前年同期を大きく上回り、純利益は前年同期比で2638%と過去最高になりました。マスクCEOは「2021年第1四半期は、多くの点で記録的」だったと話しています。

テスラが2021年第1四半期決算を発表〜純利益は前年同期比2638%

【参照資料】
テスラ社の2021会計年度第1四半期の決算報告
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※記事中写真はPDFから引用。

純利益が過去最高を記録

テスラ社の2021会計年度の総売上高は前期に続いて100億ドルを超え、103億8900万ドルになりました。営業利益は5億9400万ドルで前期の5億7500万ドルから微増でした。

しかし純利益は過去最高の4億3800万ドルとなり、前年同期比2638%と大幅に伸びています。前期の2億7000万ドルからでも60%以上増えています。

営業利益率は前期と同等の5.7%です。ここには前期同様に、2018年のCEO賞に起因するSBC費用(株価に応じた報酬などで発生する費用)2億9900万ドルが含まれています。この分を差し引くと約7.9%になるので、引き続き高い利益率を維持していると言えます。

付け加えると、すでにEVsmartブログでもお伝えしたように、今期は『モデルS/X』の生産台数が0台、納車台数が2020台と、収益率の高い上級グレードの車がゼロに近い状況でした。それにもかかわらず、従来と変わらない営業利益率を確保できているのは特筆すべきことと言えます。

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これに関連してテスラ社の決算報告書では、2017年にモデル3の生産を開始したときには1台あたりの平均コストが8万400ドルだったのが(売るほど赤字)、新工場での生産を開始したことや『モデルS/X』との混流を減らしたことなどにより、3万8000ドル未満まで下がったと述べています。

モデル3はこうしたコスト削減に伴って車両価格の大きな改訂がありました。コストを減らした分がそのまま利益になるのではなく、一定程度、市場に還元しながら利益率を確保していることになります。

ただ、中国製車両の増加は収益率を押し下げる方向にあります。そのため決算報告書では、『モデルS/X』をほとんど生産していないことと合わせて、車両の収益性は前年同期比で13%減少したと述べています。

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この他、特徴的な点として、設備投資額が継続して伸びていることが上げられます。設備投資額は、2020年の第1四半期の4億550万ドルが、第2四半期では5億4600万ドル、第3四半期は10億500万ドル、第4四半期は11億5100万ドルになり、今期は13億4800万ドルとなっています。工場の拡充が続いているため当然のこととは言え1年で3倍にもなっていて、どこまでいくのだろうと思います。

同時に研究開発費も増え続けています。これも2020年の第1四半期から見ていくと、1億2400万ドル、2億7900万ドル、3億6600万ドル、5億2200万ドルとなり、今期は6億6600万ドルです。1年で5倍以上になっていて、総売上高の約6.4%を占めます。天下のホンダも2019年度は5%台なので、テスラ社の投資額が非常に大きいことがわかります。

「モデル3が世界で一番売れているプレミアムセダン」とマスクCEO

イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は決算報告発表の時のオンライン会見で、「2021年第1四半期は、多くの点で記録的な四半期だった」と述べ、次のように続けました。

「電気自動車(EV)に対する顧客の支持(customer acceptance)に大きな変化が見られ、需要はこれまでで最高になりました。(中略)そして、『モデル3』は世界で最も売れているミッドサイズのプレミアセダンになりました。つまり、世界で最も売れている高級セダンなのです。 『BMW 3』シリーズは、最も長い間、ベストセラーのプレミアムセダンでした。『モデル3』はそれを超えたのです。しかも(モデル3は)生産開始からわずか3年半で、工場は2つだけなのです」

このことをよほど強調したかったのか、決算報告書では他のプレミアムセダンとの販売台数を比べたグラフも掲載しています。マスクCEOはさらに、「モデルYは世界でも最も売れる車になると思うし、それ以上に、2022年には世界で最も売れる車、トラックになる可能性が高いと思います」と自信を見せました。

また決算報告書では、今後複数年にわたって年間平均50%の成長が続くと予想しています。

なお、EVsmartブログでは、オンライン会見を翻訳した詳報もお届けする予定です。

中国での現地調達率が90%を超えた

自動車部門の総売上は90億200万ドルで、利益率は26.5%と高い水準を維持しています。ここに含まれる規制クレジットは過去最高の5億1800万ドルに達しました。自動車部門の利益率から規制クレジットを差し引いた利益率は22%です。

では規制クレジットはテスラ社の利益にどの程度影響しているのでしょう。決算報告書をひもとくと、4億3800万ドルの純利益は税引き後で、税引き前利益は5億3300万ドルとなっています。また営業利益は5億9400万ドルです。とすると、税引き前利益、営業利益のいずれも規制クレジットの金額を上回っていて、ギリギリ黒字になっていることがわかります。

あれ、と思って過去の分を見てみると、2020年の第3四半期も規制クレジットの収益より税引前利益の方が大きくなっていました。当然といえば当然なのですが、生産、販売台数が大きくなる中で、規制クレジットの比重は今後も少しずつ減っていくのかもしれません。

車の生産設備に関しては、特に大きな変化は見当たりません。アメリカではフリーモント工場での『モデルY』の生産が順調で、稼働率が上がっているとしています。またテキサス工場は、予定通り2021年後半には生産と出荷が始まりそうです。工場では生産設備の設置が進んでいて、試験運転を開始しています。

中国の上海工場での生産も順調で、ヨーロッパ、およびアジア、太平洋地域への出荷も続いています。ポイントは中国での現地調達率が90%を超えたことでしょう。決算報告書に詳細はありませんが、収益性の改善は現地調達率の向上によるコストダウンも大きいと考えられます。

ヨーロッパでは、ベルリン工場が2021年後半の生産、出荷に向けて順調に設備の設置が進んでいるようです。

ただ、世界的な半導体不足はテスラ社にも大きな影響を与えたと、マスクCEOはオンライン会見で話しています。マスクCEOによれば、新型コロナの検疫の問題でエンジニアを中国に派遣できなかったことから生産の拡大が困難でした。そのため駆動ユニットのほとんどはアメリカ、ネバダ州の工場に依存していたと言います。

他方、非常に早い段階で新しいマイクロコントローラーに移行できたことや、新しいサプライヤーから新しいチップを入手できたので、当面の問題は解決されたようです。

またアメリカで生産する新型『モデルX Plaid』についてマスクCEOは、「パラディウムという名前のプログラムの開発が予想以上に困難だったうえ、新型『モデルX/Y』に搭載する新しいバッテリーの安全性確保に時間を要した」と述べています。それでも新型『モデルX』は来月(2021年5月)には出荷できる予定で、2021年の第3四半期には『モデルS/X』ともに生産数を拡大できるという見通しを示しました。

テスラ社がロボティクス企業に?

オンライン会見でマスクCEOは、テスラ社に集まる車のデータのデータ解析に使用しているスーパーコンピューター『Dojo』について、今後の展望を語っています。テスラの車は8台のカメラを使って自動運転の制御をしていますが、『Dojo』はこれらの画像データ解析に使用します。

『Dojo』についてオンライン会見では、今後数年の間に『Amazon Web Services(AWS)』のような事業分野に切り込めるのかと言う趣旨の質問が出ました。AWSはテスラの車でも使っています。これに対してマスクCEOは「おそらく他の人もそれを使いたいと思うでしょうし、私たちはそれを利用できるようにします」と応じています。

『Dojo』の外部提供については、Forbs Japanが、2021年2月3日のオンライン会見でマスクCEOが、他の自動車会社にライセンスを供与する際のパッケージの一部になる可能性を示唆したことを報じています。

そしてマスクCEOは今期のオンライン会見で、次のような見解を述べました。

「多くの人々は、テスラは自動車会社か、おそらくはエネルギー会社だと考えています。でも私は、長期的にはテスラは、自動車会社やエネルギー会社であるのと同じように、AI ロボティクス企業(AI robotics company)と同じように考えるだろうと思います」

テスラ社は、社名から「自動車」の文字を省いた時に総合エネルギー企業になるという展望を明確にしました。それに加えて今後は、AIを駆使したロボティクスの分野にも手を広げていくということなのでしょうか。会社の進化が止まらない感じで、ワクワクドキドキはまだまだ続きそうです。

パワーウォールが人気で生産が追いつかない

決算報告書では『Powerwall(パワーウォール)』の需要が大きく、生産が追いついていないことも記しています。需要急増のきっかけは、今年2月にテキサス州で発生した大寒波による大規模停電です。

バックオーダーが増加したため現在は、『パワーウォール』単体での販売を一時的に休止し、『ソーラールーフ』とのセット販売のみにしているようです。今後、生産を増やすことができれば、単体での販売を再開するとしています。

同様に、太陽光発電の販売も伸びていて、第1四半期はこの2年半で最高の92MWが導入されました。昨年同期比では約9倍の容量になります。

このほか決算報告書では、テスラ車の中古車市場が拡大していることを報告しています。具体的な台数が出ていないのですが、数が増えるとともに財政面でも改善が見られると記載しています。

ビットコインでテスラが買えるようになった

最後になりましたが、過日、マスクCEOが暗号資産のビットコインを購入したことが話題になりました。決算報告書でもこの点についての記載があり、ビットコインの購入によって12億ドルの現金支出があったほか、負債などの返済のために現金及び現金同等物が前期の約194億ドルから約171億ドルに減少しています。

ビットコインの購入に関しては、オンライン会見でザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO)が、「お客はビットコインを使ってデポジットにしたり、最終的に車両を購入することができる」と述べているほか、すぐに使う予定のない現金を保管する場所を探していた中で、ある程度の利益を得るのと同時に流動性を維持するためだったと説明しています。

カークホーンCFOは「長期的にビットコインの価値を信じている」とも述べ、今後も車の販売などを通してビットコインを蓄積していく方針を明らかにしています。

また、4月27日にはビットコインの売却益も大きかったというマスクCEOのツイートや、ニュースが流れてきましたが、決算報告書には記載がなく詳細を読み解くのは難しいので、オンライン会見の詳報を待ちください。

ビットコインでテスラが買えるというのは、知りませんでした。調べてみると、マスクCEOが3月24日に、ビットコインでテスラが買えるようになったとツイートしていました。今年後半にはアメリカ以外でもビットコインを使えるようにするそうです。仮想通貨とは縁遠い筆者にしてみると、とっても不思議な感覚です。まあ、テスラ社の株と同じで暗号資産もビタ一文、持ってないんですけど。

ということで、テスラ社は今後も新しいことに挑戦し続けるということが、決算報告書からもよくわかりました。EVsmartブログでは今後も、テスラの決算報告に注目していきたいと思います。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 決算が英語で読めないんですけど、スーパーチャージャーの利益ってどれくらいなんでしょうか?EVの基本は家での充電なのは分かるんですけど、出先や旅行の際は充電スポットが必要になると思うんですけど、話を聞く限り利益率が悪くて回転率も悪いので維持できるかなと疑問なんですよね。なのでアメリカ全土で行ってるスーパーチャージャーの利益を知れたら参考になるかと。

  2.  ビットコインの売却と排出量取引がないと、本業の自動車売上だけでは赤字だったという報道もでています。株価も下がっているので、まだ道半ばではあるのでしょう。ライバルも力をつけてきているので安心はできないと思いますが、Teslaとイーロン・マスク氏にはまだまだこれからを期待しています。

  3. > テスラ社は、社名から「自動車」の文字を省いた時に総合エネルギー企業になるという展望を明確にしました。それに加えて今後は、AIを駆使したロボティクスの分野にも手を広げていくということなのでしょうか。会社の進化が止まらない感じで、ワクワクドキドキはまだまだ続きそうです。

    毎度々々わかりやすいまとめをありがとうございます!
    AI部門トップのAndrej Karpathy氏が何かで、FSDの応用例として自動倉庫とドローンを挙げていました。コレを聞いて、テスラはもしかするとその気になればAmazonのような小売業も割と簡単に実現可能なのでは?と気付いてハッとしました。

    他にも農業など無限に可能性が広がりそうな話で、本当にワクワクドキドキをこれからも提供してくれそうです。

    ちなみに自分は、ボーリングカンパニーの子会社化でも発表しないかなあと少しだけ期待をしていました。いやスペースXを含めた「Xホールディングカンパニー」をやったらいったいどんな巨大な企業グループになるのだろう。。笑

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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