グローバルで劇的に伸びている「BYD」
BYD Auto Japan(BYDオートジャパン)は、中国のメーカーである「BYD」の日本向けEV乗用車の販売やアフターサービスを担う販売会社です。代表取締役社長には、三菱自動車やフォルクスワーゲン販社で実績を重ねてきた東福寺厚樹氏が就任。EVバスやフォークリフトなどを含めた、BYDの日本進出全体を担うBYDジャパンの劉 学亮社長が会長を務めます。
12月5日には、EV乗用車の日本進出第一弾となる『ATTO3』の価格を440万円(税込)と発表。CEV補助金(今年度同様であれば85万円)を活用すれば300万円台で、バッテリー容量58.56kWh、BYD調べのWLTCモードで485km、実用的にもおおむね400kmの一充電航続可能距離をもつEVが手に入るのは、日本のEV普及にとっても期待感が拡がる発表でした。
はたして、BYDオートジャパンではこれからどのように中国製EVを日本で販売していくのか。東福寺社長に直接お話しをうかがう機会をいただきました。
【Q(筆者)】発表されたATTO3の価格に、BYDへの期待感が拡がったと感じています。日本進出発表時に紹介されたブレードバッテリーの釘刺し試験映像や、ATTO3がユーロNCAPで5つ星を獲得したことは承知していますが、今後、日本の市場の中で中国製EVの信頼感を作り上げていくために、さらにアピールしたいポイントはありますか?
【A(東福寺社長)】「信頼性が高いですよ」と自らアピールしても、お客様にはなかなか実感していただけないでしょう。今、中国のNEV市場を中心に、グローバルでBYDの乗用車販売は爆発的に伸びていて、来年くらいには自動車全体の販売ボリュームとしても世界のトップ15くらいには入るのではないかという状況です。BYDについてもさまざまなメディアで報じていただくことが多く「追い風」になっていると感じています。ともあれ、実績を積み重ねていくことが、信頼感獲得のための最大のツールになると思っています。
【Q】研究者の方から「先行して市場を獲得しているEVバスのバッテリーが劣化しているという」話を聞いたり、中国国内での車両火災事故のニュースもありました。そうした懸念はどう思われますか?
【A】バッテリー劣化の話は初耳でした。ご承知の通り、BYDでは2015年から日本にもEVバスを導入していて、今、累計で75台ほど納めてきていますが、まだ1台も現役を退いてはいないですね。バスの耐用年数は15〜20年くらいと聞いていて、BYDとしてもその期間中にバッテリーの載せ替えは必要ないだろうという見方になっています。乗用車のバッテリーにも同様に自信を深めつつあるところです。
車両火災は『Han EV』の事故がネットで流れた件だと思います。ただ、あの事故については第三者の調査機関が原因の特定を進めているところですが、ひとまずの結果として駆動用のブレードバッテリーに安全性の問題があったわけではないと聞いています。あってはならないことですが、残念ながらEVに限らず、どのメーカーの自動車においても一定の割合で火災事故は起きているのが現実です。中国製EVだから危ないというようなご懸念には及ばないと考えています。
われわれもEV乗用車の日本導入準備を進める中で、交換用バッテリーの在庫をどの程度準備すればいいかという検討をしています。中国の本社からのデータによると、バッテリーの不具合率が「0.07%」、つまり1万台で7台程度となっています。従って、全国展開するディーラーで交換用バッテリーを在庫するまでもなく、横浜の大黒ふ頭に開設するPDIセンターに保管庫や交換施設を設けて、日本全国の事案をそこで一手に引き受ける体制にしようとしているところです。
社長自身がBYDに人生を賭けたポイントは?
【Q】ユーザーの信頼感確保以前に、三菱自動車やフォルクスワーゲンでキャリアを重ねてこられた東福寺社長ご自身が、BYDオートジャパンへの転身を決断されたポイントは何だったんですか?
【A】2021年のはじめ頃、エージェントを通じてお話しをいただきました。当時から「ウォーレン・バフェット氏が投資した企業」として、もちろんBYDには注目していました。今回のお話しをいただいて、自動車業界にとって100年の一度の転機といわれる中で、自分自身の年齢も60歳を超えた最後の働き場所として面白いと感じましたね。
私にとって今の上司に当たる劉 学亮会長(BYDジャパン社長)からも「いい人をどんどん集めて、23年の1月までに日本で乗用車のビジネスを立ち上げて欲しい。こんな仕事、一生に一度あるかどうかでしょう」と逆に言われて、やりきってみようと決断しました。
【Q】ビジネスとしてのやりがいや面白さは抜群ですね。とはいえ、肝心の商材であるBYDのEVについて、可能性を信じるきっかけはあったのでしょうか?
【A】正直なところ、最初は実際のモノが日本になかったので、確信はもてていませんでした。でも、今年(2022年)の2月でしたか、ドルフィンが1台日本に入ってきて、BYDジャパンの関係者10人ほどで横浜の倉庫へ見に行ったのですが、塗装などを含めてとても出来のいいクルマという印象でした。
後日、専門の会社に依頼して動力性能やユーザビリティなどを網羅した性能チェックを行いました。カテゴリーとして競合となる日本メーカーのエンジン車2台と、ドルフィンを入れて3台で比較して、「これは、いけるぞ」と、期待が確信に変わりましたね。
【Q】日本メーカーのエンジン車を完全に凌駕していた?
【A】ドルフィンはクラスが上のATTO3と同じ「プラットフォーム3.0」を採用していますから、動力性能は圧倒的に上回っています。人間工学的にスイッチの位置がどうかとか、運転しやすさなどのユーザビリティでは国産メーカーに一日の長がある点は見つかりました。
日本進出に向けて「ここはこうしたほうがいい」という点は随時リストアップして、日本発売までに改善できる点、マイナーチェンジやフルモデルチェンジで対応すべき点などに整理して、本国と話を進めているところです。
【Q】日本からの要望にきちんと応えてくれそうですか?
【A】今のところ、前向きな姿勢をはっきりと感じています。もちろん、グローバルで共通の部分の変更が難しいことはこちらも承知していますが、日本の市場環境に合わせられる部分は合わせていこう、と。
第二弾となるドルフィンの価格は?
【Q】実は、EVsmartブログでは『中国「BYD」から日本に電撃! EV 3車種の日本発売決定を発表〜期待の価格を予想してみた』という記事で、ATTO3の価格を「400万円台前半」と予想していて、今回、それが的中しました。第二弾となるドルフィン、次のシールについても予想していて、ことにドルフィンのスタンダードグレード(バッテリー容量44.9kWh)には「200万円台後半」、つまり300万円以下を実現して欲しいと期待しているのですが、いかがでしょう。
<記事中の予想価格>
●ATTO3/400万円台前半(58.56kWh)
●DOLPHIN(スタンダード)/200万円台後半(44.9kWh)
●DOLPHIN(ハイグレード)/300万円台前半(58.56kWh)
●SEAL(スタンダード:RWD)/500万円台前半(82.56kWh)
●SEAL(ハイグレード:AWD)/600万円台前半(82.56kWh)
【A】ご想像の通り、今回価格を発表したATTO3は三兄弟の次男坊なので、この予想にあるように三車種の真ん中に位置する価格になりました。ドルフィンはATTO3より安く、シールは高めの価格設定になります。
一方で、ドルフィンはサイズはコンパクトではあるのですが、ホイールベースが少し短い程度で、ATTO3と同じプラットフォームで、共有している機能部品も多く、コスト的に安価にするのが難しいところがあります。
競合とのバランスや、お客様にバリューフォーマネーを感じていただけるかということを重視して価格は決めなきゃいけないという話は深圳(本国)ともしているところです。現状の予定としては、日本での認証を取れるのが6月くらいで、8月くらいからの輸入開始になるので、それに間に合うようにギリギリまで検討していくことになると思っています。
当面の販売目標台数は?
【Q】販売目標台数は発表しないということでしたが、たとえば、全国のディーラー網100店舗を構築する2025年までに、1店舗で年間にこのくらいは売れていなければ事業として難しくなるといった目安や規模感はないでしょうか?
【A】全国100店舗という目標も、五月雨的にオープンしていくので一概に言えないし、地域的なばらつきはどうしても出てくると思いますが、今、日本の自動車ディーラーの平均である年間200台程度が当面の目標になるかと考えています。
ただ、既存のディーラーでは乗り替え需要も大きな割合をもっている中、われわれは「保有0」からのスタートです。無理に目標台数を定めて追いかけても、提携する販売会社さんにとってもわれわれにとってもあまりハッピーな状況にはならないでしょう。
まずは、1台でも多く購入していただいた上で、「清水の舞台から飛び降りる気持ちで買ったけど、意外にいいよ」といった口コミをお客様のSNSで発信していただくなど、少しずつ拡げていくことが大切だと思っています。
(インタビュー、ここまで)
EVとしての魅力が勝負を分ける
東福寺社長へのインタビューで強く感じたのが、「中国製EV」という先入観やうわさ話で論じてもしょうがないという当たり前のことでした。
『BYDの乗用車EV「ATTO3」価格発表~400万円で400kmの衝撃的コストパフォーマンス』という記事でもご紹介したように、BYDではATTO3を無償で貸し出す代わりにSNSでEV体験を発信してもらう『eモビリティパートナープログラム』を実施。毎月10人×10回で100名の募集に対して、すでに5000人ほどの応募が集まっているそうです。
私自身、ATTO3にはお台場の試乗会で少し乗っただけ。きちんと判断するためには一度ぜひ長距離試乗などを行ってみなければではありますが、EVとして魅力的で、バリューフォーマネーに優れていれば、想像を超える勢いで日本市場にも拡がっていくに違いないと思っています。
仮に、バッテリー容量44.9kWhのドルフィンが私の予想通り300万円を切るような価格で発売されたら、20kWhで約240万円〜(Gグレードは約294万円〜)の日産サクラもぶっ飛びます。
東福寺社長をはじめとする、BYDオートジャパンのみなさまの辣腕とチャレンジに期待しています。
取材・文/寄本 好則
BYDさんには是非とも商用車をリリースして欲しいです。
グローバルだと言うまでもなく勢いのあるメーカー
しかし日本市場では未知のメーカー
昨今の円安を踏まえた上での値付けなのでしょうけど
本国で16.58万元(約320万円)ほどで売っている製品に440万と言うのは・・・
国内でのリセールはまず期待できないので下取りは輸出頼み
気にせず乗り潰す前提だとちょっと高すぎる
あのBYDが日本市場参入ということでかなり大きな期待をしていたけれど
この値付けだとIONIC5や新型プリウスPHVがガチンコだし
日銀利上げや円高情勢を踏まえた価格改定や、販売時の大幅な値引きなどないとかなり厳しそう
勝負は販売網が整ってより低価格なドルフィンを販売するときかと思いますが
ターゲットであろう20代から40代が安心して買えるような
販売環境整備頑張ってください
ブランドやデザインや乗り心地や感性品質がどうのこうのと言う以前に、EVの選択肢が広がることに対して大きく期待します。
ここまでテスラだらけになったら、もはやテスラを買う気がしない、という方の気持ちもよくわかりますし。
それと、いよいよ充電インフラを本気で何とかしてくれ〜、ということになりますね。