7月には名古屋でも開催予定
「人とくるまのテクノロジー展」は、公益社団法人 日本自動車技術会が主催する展示会です。1992年に第1回が開催されて以来、年々その認知度が高くなり、今や世界に誇る技術展示会となりました。
5月は横浜開催でしたが、7月5日(水)~7日(金)の日程で、愛知県名古屋市で「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展NAGOYA 2023」として、セントレア空港直結のAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)にて開催されます。入場には事前登録が必要(無料)なので、入場希望の方は公式サイトの来場登録ページにアクセスし登録を行ってください。
バッテリー液冷システムなどに注目!
さて、3日間の日程で開催された「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMA 2023」には約500の企業、団体などが出展、3日間で6万3810名が訪れました。そんな展示会を歩いたなかで気になった展示をいくつか紹介しましょう。
まず、最初に紹介したいのは「東京R&D」が開発に着手したFCEVスポーツコンセプトです。東京R&Dは自動車メーカーをはじめとして、さまざまな試作車の製作に携わってきただけでなく、レーシングカーの開発や製作も行う研究開発企業だけに、FCEVスポーツコンセプトには大きな期待が持てます。
公開されたのは設計図だけですが、それを見ると3つの水素タンクを搭載したモデルであることがわかります。また、同時に、2000年に東京R&Dが製造、市販した「VEMAC(ヴィーマック) RD200」という2シーターのスポーツカーも展示され、注目を集めていました。VEMAC RD200をベースに、FCEVスポーツが開発されるわけではないとのことですが、このような流麗なモデルとして登場することを期待せずにはいられません。
チューニングパーツなどで有名なHKSは2021年から台湾のXING MOBILITY社と協業を行っています。そのHKSが展示したのがXING MOBILITYのバッテリーを液冷するシステムです。
多くの液冷システムがバッテリーケースやモジュールを冷やす方式を採用していますが、HKSのシステムは冷却液にセルが直接浸かっている方式。このため間接冷却式に比べ冷却性能が向上し、セルの性能を最大限に引き出すことが可能とのこと。液浸のためバッテリ全体の熱暴走を防ぐことができ、安全面でも優位だといいます。
HKSのバッテリー液冷システムに見られるように、バッテリーをいかに冷やすか? は市販EV開発における重要な項目になっています。
現在、液冷システムの配管は多くが金属製もしくは一部でゴム製が使われていますが、これを樹脂製にしようとことで開発されたのがポリプラ・エボニックの「MLT8E」。もっとも高性能なものもあるが、BEV用としてはちょうどいい性能のレベル3を確保し、コストも抑えられているとのことでした。金属ホースやゴムホースと比べて軽量であり、取り回しも楽に行えるそうです。
バッテリーはセルのまま車載されるわけではなく、ケースに収められモジュール化され、さらにはそれをカバーして搭載するわけですが、このカバーにも各種の性能が求められます。樹脂パーツを得意とするダイキョーニシカワでは、EV用バッテリーのカバーも製造しています。
ダイキョーニシカワのバッテリーカバーは、同社の量産実績SMC材に対し発熱速度50%低減、難燃性 5VA達成、4×10の10乗オームの絶縁性抵抗、600V以上のトラッキング指数を実現。また、樹脂の熱分解および燃焼ガスの拡散を抑制する事で延焼サイクルを停止させる樹脂材料を開発し、中国の標準規格を樹脂バッテリーカバーでクリアする技術力も持っているとのことです。
駆動系の技術も展示の注目ポイント
EV系の展示で目に付いたのがe-アクスルをはじめとしたモーター駆動系の多さです。すべてを網羅はしていませんが、目に付いたものを紹介します。
ジャトコは2種のe-アクスルを展示しました。1つは平行軸用のコンパクトなe-アクスルで、15インチのノートパソコンサイズというコンパクトさ。平行軸用なのでエンジン車でいうところのFFもしくはRR、MRというレイアウトになるでしょう。出力は60kW程度とのことなので、軽自動車よりも少し大きな出力が得られています。
もう1種のe-アクスルは変速機付きで大型車やピックアップトラックなどへの搭載を前提としています。変速機、つまりトルク増大機を搭載することで、3倍程度のトルクの確保が可能となり、重量の重い大型車などへの搭載を目論んでいます。
ZFが展示したeビームアクスルはピックアップトラックや貨物車への採用を重点において開発されたもの。後輪駆動車のリヤのホーシング内にモーターや減速機構すべてが収められています。eビームアクスルは400Vシステム、800Vシステムのどちらでも使用可能で、最大出力は180kW~350kWを達成。リヤホイールステア(4WS)にも対応できるといいます。構造自体がシンプルなのでバッテリーさえ搭載できれば、既存のピックアップトラックや1ボックスバンなどにも使えるのではないかと思うほどでした。
アメリカン・アクスル&マニュファクチャリングも同様のe-ビームアクスルを展示していました。
それに加えて注目したのが、3-IN-1ホイール・エンド・モーターです。3-IN-1ホイール・エンド・モーターはサスペンションアームに駆動システムを取り付けたようなメカニズムで、各輪を独立してモーター駆動するシステムのユニットとして使われるものです。システムが大柄で、インホイールモーター化できてない部分と、最低地上高が低くなってしまうところが気になりますが、今後、小型化されれば期待できるものだと感じました。
さらに筆者が感心したのが、日本自動車技術会の企画展示コーナーに置かれていたポータブル電源です。このポータブル電源は日産自動車、フォーアールエナジー、JVCケンウッドの3社が協同で開発したというもので、昨年4月にリリースされているのですが、実物を見るのは初めてでした。
リーフなどの日産の電気自動車に使われたバッテリーをリユースして作られています。出力はAC100Vだけでなく、DC5VのUSB-A、USB-C、DC12Vのシガライターソケットも用意されています。リーフのバッテリーのリユースにはいろいろなアイディアが出されていますが、このように小さなものまで使えるのは、あのセルならではだと感心しました。使っているうちにバッテリーが弱ってきたら、簡単に交換できるようになっていればさらに素晴らしいとも思った展示物でした。見た目的には、完全にできあがっている印象だったのですが、市販はまだ先との答えだったのは少し残念なところです。
いずれにしても、「人とくるまのテクノロジー」は、電動化に向けて進んでいることが実感できる展示会でした。
取材・文/諸星 陽一