EV放浪記2.0【017】商用EVベンチャー「フォロフライ」の整備研修会に潜入してみた

愛車のHonda eを走らせつつ電気自動車関連の話題をレポートする連載の第17回。商用EVメーカーのフォロフライが開催しているEV整備研修会で勉強させてもらいました。点検項目数が内燃車より40%減というシンプルさは、現役整備士のみなさんにもちょっとした驚きだったようです。

EV放浪記2.0【017】商用EVベンチャー「フォロフライ」の整備研修会に潜入してみた

商用EVベンチャーが認定整備工場拡充へ

フォロフライ(本社・京都市)は、商用EVを自社開発している新興メーカーです。2022年9月に商用ナンバーを取得した1tクラスの『F1VAN』は、丸紅オートモーティブが販売代理店となり、関東・中部圏を中心に北海道から沖縄まで各地の宅配業者などが導入。増え続ける車両のメインテナンスや修理を行うために、各地で認定整備工場のネットワークを拡充しています。

認定要件のひとつが、EV整備研修会(無料)を受講してもらうこと。フォロフライのEVを安心して整備できるように、車両の特徴を知ってもらい、メーカー側の考え方を伝えるのと同時に、受講をきっかけに整備の現場とメーカーとの間でコミュニケーションの活性化を図るのも狙いだそうです。

今回の研修会は、千葉県印西市の三井住友海上千葉研修所で開かれました。午前中は座学で、フォロフライの技術担当者が、F1VANの基幹部品の役割や配置について説明にあたります。駆動用バッテリーや駆動モーター、車両制御システムの中核となるVCU(ビークルコントロールユニット)、MCU(モーターコントロールユニット)などについて、概略図をもとに接続関係などが解説されました。

3年近くEVに乗ってはいても、詳細な構造についてはなかなか知る機会がありません。初めて耳にする言葉がいくつも出てきましたが、交流を直流に整流したり、最適な電圧に変換したり……、車両内部で電気をいかに制御するかがEVにとってすごく重要だというのは理解できました。

整備士のみなさんは、すでに電気の扱いはお手のもの

続いて、高電圧回路の取り扱いなどについて学びます。「42Vの電圧でも死亡することがある」らしく、絶縁グローブや絶縁工具などの必要性について説明がありました。

意外だったのは「皆さんご存知でしょうけれど」とか「釈迦に説法で恐縮ですが」といった受講生への気遣い。EV整備はそんなに機会がないはずなのに……と思っていましたが、イマドキの整備工場は駆動用バッテリーやモーターの扱いはお手のもの。ハイブリッド車を整備しているからです。労働安全衛生規則に則って、ほとんどの整備士は低圧電気取扱業務や電気自動車等の整備業務に係る特別教育を受講済みなのだそうです。

つまり、バッテリーやモーターの取り扱い方など基本的なことについては、はいはい、わかってますよ……という感じなのでしょう。G-SCANという診断機もお馴染みのツールのようです。素人の私は、用語の多くが意味不明でググったりメモを取ったり大忙しでしたけれど。

整備時の車両問診表の書き方や、保証修理・リコール・部品発注の流れなど実務的な説明も聞いたあと、午後からはいよいよ実車確認の時間です。三井住友海上火災保険の整備業代理店など約2200社で構成される「アドバンスクラブ」という組織があって、この三井住友海上千葉研修所では、同クラブに加盟している整備工場のメカニック向け研修会や研究会が開かれています。

なので、研修所といっても整備工場そのものと呼べるぐらいの設備と工具が揃っています。そこに用意されたEVは、新車種の4人乗り『F1VS4』。2シーターの『F1VAN』は物流事業に特化した設計ですが、こちらは人員の移動にも対応できて、後部座席を折り畳めば荷物用のスペースも確保できるという多用途モデルです。

リフトアップされた車両を前に、午前中の講義内容を復習するように、駆動用バッテリーやモーターなど基幹部品の配置や形状を順番に確認していきます。私は何を見ても新鮮でしたが、整備士のみなさんもクルマの細部まで熱心に確認していました。

やはり、特有のシンプルな構造がみなさん興味深かったようです。EVはエンジン車よりも整備工程が少ないと言われますが、実際に比較すると、通常の事業用貨物で点検項目数が123項目あるところ、フォロフライのF1VANは74項目。じつに約40%減。自家用貨物の場合も同程度少なくなるそうです。

「BEVは見るのも初めてでしたが、すごく単純なのでハイブリッド車よりもはるかに整備がしやすそう。商用車で余計な装備がないのも理由でしょうが、単純であればあるほどメインテナンスは楽だし、トラブルも少なくなります」。整備士の一人は、そう話していました。

EV整備の知見を広げる貴重な機会

本格的な整備作業の前には必須となる駆動用バッテリーの遮断については、しっかり実演もありました。駆動用バッテリーから「サービスプラグ」を外すことで遮断されるのですが、車体の下に潜り込まなくても、座席を倒せば手が届くようになっていて「これはいい」「簡単に作業できる」と高評価。整備士ならではの目線ですね。

実車を前にすると、みなさん聞きたいことがどんどん湧いてくる様子。デジタコ(運行記録計)がつくことは想定しているのか、TPMS(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)の感度はどれぐらいなのか、などなど、車両を囲んで質疑応答が続きました。

すでに顧客がF1VANに乗っていて、点検を頼まれているという整備士の方もいました。「予備知識がなくても問題なく作業はできています。ただ国産車、ハイブリッド車といろいろ違いも感じていたので、こうやって実車を前にしてメーカーの方と話ができるのは、ありがたいですね」

今回の研修会は「アドバンスクラブ」の活動をサポートするエーシー企画株式会社がフォロフライと協力して開催。エーシー企画のモーター企画開発部部長、桜井孝尋さんは「整備工場としても、EVについての知見を広げて、実車を見る機会を持てることはメリットになる。これからの事業として他社と差別化できる武器にもなりうる」と話していました。

全国組織のアドバンスクラブでは、整備業界の将来を見据えた調査や研究もしていて、経営に資する情報やサービスを加盟社に提供するのも役割のひとつ。電気自動車はこれから普及が広がると見られているものの、まだ現場レベルでは整備する機会があまりないそうなので、こういう研修会は貴重なのでしょうね。

フォロフライ技術本部第一開発部部長の山田浩之さんによると、認定整備工場は現在60カ所。研修会はこれまで、千葉で3回、関西で1回開催していて、今後は九州など各地方でも整備研修会を開催していきたいとのことです。

「実車を見てもらって、基本的な知識を共有しておけば、どこがどう壊れたのか、車両固有の問題なのか、そうでないのか、といったことも診断しやすいですし、メーカーとして対応するケースでも話がスムーズになると考えています」

お邪魔させてもらったのは、EVの基本構造を知りたいという個人的な興味もあったのですが、印象に残ったのは、EVを開発しているメーカーの技術担当者と日々のメインテナンスを担う整備士がクルマを挟んで話し合っている姿でした。メーカーとしても現場からの的確なフィードバックが必要でしょうし、整備士にすればスムーズにトラブルを解決できることが仕事の要。ユーザーにとっては、困った時にマイカーを託す整備士は最も身近な代弁者です。コミュニケーションを深める取り組みは、なかなか素敵なことだと思いました。

私のHonda e(2021/4/29〜2024/3/24)

総走行距離 5万4367km
平均電費 8.8km/kWh
累計充電回数 急速391回、普通98回

取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 日産e-NV200亡き後(日本で造れよ、4ナンバーで)軽のミニキャブMiEV/EV以外の選択肢が無くなっているので
    フォロフライには期待していますが、以前Pモードが無いのはどうよ?
    という記事以降目にする機会も無かったのですが
    あらためて取り上げてみてほしいと思いました。

    1. 期せずして以前の書込みを見て笑ってしまいました、
      e-NV200。
      試乗記楽しみにしています。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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