IAA TRANSPORTATION 2024 in Hannover 現地レポート/商用車EVシフトの潮流を実感

ドイツのハノーバーで開催された「IAA TRANSPORTATION 2024」。テスラ『セミ』が注目を集めたことは以前お伝えしましたが、そのほかにも、世界における商用車の電動化=EVシフトの大きな流れを感じる内容でした。EVバスなどの開発を手掛けてきたEVエンジニア、福田雅敏氏の現地レポートです。

IAA TRANSPORTATION 2024 in Hannover 現地レポート/商用車EVシフトの潮流を実感

41カ国からの出展が集まり大盛況

2024年09月17日 ~ 2024年09月22日、トラック、バス、自動運転技術、電池や充電設備、燃料電池や水素関連技術、次世代モビリティや輸送システム、関連IT技術欧州最大の商用車や次世代輸送システムの展示会「IAA TRANSPORTATION 2024(旧ハノーバー商用車ショー)」が開催された。2年に一度の開催。ミュンヘン(前フランクフルト)で行われる乗用車ショー「IAA MOBILITY」と交互に開催されている。

今回は、41か国から約1,700の出展者が集まり、2022年と比較して21%の増加となったと言う。ドイツ以外からの参加は過去最高の72%に達し、145を超える世界初および欧州初公開が発表され、この業界におけるモビリティの未来がすでに現実のものとなりつつあることがアピールされた。来場者数は約145,000人に達し、2022年と比較して約10%の増加を記録している。

これだけの規模のショーなので、すべてを紹介することはできない。筆者が注目したものを中心に紹介させていただくこととする。IAA TRANSPORTATION はEVショーではないが、展示車両の6~7割がEVトラック、バスだったという印象である。

多種多様な大型EVトラックが集結

はじめに紹介するのは地元ドイツのダイムラー・トラックスのメルセデス・ベンツから。ワールドプレミアされた量産型「eアクトロス600」のトラクターヘッド。800ボルトの電動アクスルには2つの電動モーターと4速トランスミッションが搭載しており、長距離輸送に特化した設計となっている。モーターは連続出力400kW、207kWhのバッテリーパックを3つ搭載し、総容量は621kWhとなる。長寿命のリン酸鉄リチウムが採用されている。充電は将来的にはメガワット充電(MCS)に対応予定。SOC20%から80%までを30分で充電することが可能と言う。

また、「eアクトロス600」の試作車による1か月で18か国、1万kmを走破した実証車両も展示されたほか、展示会場外には試乗車も用意されていた。

他にも、会場内外にFCEVや「eアクトロスベース」の架装車、FUSO(三菱ふそう)の欧州向け新型「eキャンター」が展示されていたほか、メガワット充電器なども展示されていた。

さらに欧州のトラックメーカー「MAN」、「VOLVO」、「SCANIA」、「IVECO」、「DAF」など大手各社が、大型のトラックのEVを出展しており、欧州は大陸だけに大型の荷物輸送用の大型車両のEVが多かったのだと感じた。バッテリー容量は選べるものが多いが、概ね400~600kWhがこのクラスの標準となっているようである。

また、このEVsmartブログでも既に紹介されているが、TESLAのトラクターヘッド「SEMI」も展示車と試乗車が用意され注目を浴びていた(関連記事)。

変わったところで目に付いたのが、スペインのバスメーカーIrizarが作ったバスのようなノンステップ型のEVトラック「ie truck」である。ゴミ収集車など頻繁に乗り降りが多い使われ方をする用途のトラックに向いていると思われる。

BYDの世界初公開車種も登場

続いてヨーロッパでは中型クラスになると思われるEVトラック。日本ではEVやEVバスで有名な中国のBYDである。日本では発売されていないのでなじみがないがヨーロッパ市場向けに4台を出展していた。そのうち、新型の電動商用バン 「E-VALI」はワールドプレミアとなる。また、「EYT 2.0」は欧州初公開された、電動ターミナルトラクターで、港湾や物流センターにおいて活躍する車両である。

このほか、電動トラックの「ETM6」と「ETH8」も出展され、これらの車両は、特に欧州市場のニーズに応えるために開発されたBYDのePlatformを基盤としている。

続いて小型トラック。今回発表されたのは、イタリアIVECOと韓国HYUNDAIの提携により生まれたIVECOの「eMOOVY」。車体はHYUNDAIのバンをベースとしてるEVトラックである。ダンプに架装されていた。注目は、CCS2の普通充電口から電気を取り出せること。V2Lが装着されていたのである。



ここで変わったトラックを紹介する。TESLAの「サイバートラック」を彷彿するデザイン。中国のKAIYUNの3台。名前もなく、それぞれの動力源が、EV、ガソリン又はディーゼル及び燃料電池のレンジエクステンダーEVとなっている。ボディはステンレスで、今回展示されていたのはショーモデルとのこと。中国では小型のピックアップを販売している会社である。

ここで小休憩。とにかく会場が広い。ホールもそうだが屋外展示場も。さらにダイムラーのように会場外の駐車場を使って試乗会も行われている。筆者は3日半取材したが、それでも全部見られたとは言えない。

絶景を見られたのはこの仮設の観覧車。トラック3台を横づけにして組み立てられる。まるでレースのルマン24時間耐久レースの様である。これも海外ならでは。しかも無料で乗れる。残念ながら、並ぶ時間を惜しんで観覧車には乗ることが出来なかった。それともう一つ、基本B2Bのショーなので、大手OEMやTier1のブースでは、ビール(ワイン)や軽食が振舞われる。会期中ビールに困ることはなかった。

また、広い会場内なので、無料の循環バスが走っており、EVバスや自動運転EVバスもその中にいた。

小型商用EVにも多様な可能性を感じる展示

それでは後半戦に突入しよう。中型のEVまでを紹介してきたので、ここからは小型のEV商用車に。まずはピックアップから。

中国MAXUS。上海汽車(SAIC)グループである。ピックアップとミニバン(大小)を出展していた。ピックアップには、フランクが装備されていた。アメリカのピックアップに遜色のない出来映え、たいしたものである。数年前にミニバン数台が日本に輸入され、配送業者で使われたことがある。今も日本への導入が検討されているのもしれない。

同様にミニバンの新型を発表し、小型EVまで展示していたのがルノーである。ルノーのミニバン、マスターの新型が出展されていた。EVとFCEVと2つエネルギー源を持つものが同時に発表されている。因みにEVの方は、87kWhのバッテリー(数種類選択可)で航続距離は460kmと発表されている。

他にも、RENAULTPRO+のミニバンコンセプトや昔発売されていた超小型EVのTWEZYの商用車版ようなコンセプトカー「BENTO」も出展されていた。まさに弁当の宅配用である。

ルノーと同様にFCEVのミニバンを展示し、その中に欧州L6e規格のEVオペル・ROOXS-KARGO-EV(シトロエンAMIの姉妹車)が積まれていた面白い写真も紹介しておく。ベースはステランティスグループのミニバンのオペル・MOVANOである。シトロエン、プジョー、フィアットそして、トヨタも欧州では販売している。

そしてこの展示会でも注目されていたのが、CES2024や先日のEVsmartブログでも日本導入がレポートされたKIAのPV5である。Easy Swap Technologyと称して、運転席から後ろを車体(荷台)交換ステーションで交換するコンセプトである。ただ、今回の展示会ではリアボディが交換できることをあまりアピールしておらず、ヨーロッパや日本ではEasy Swap Technologyは導入されないのかもしれない。おそらくだが、日本では認証の問題でNGとなる可能性が高い。



そして、地元ドイツのVWから2台の新型ミニバンが発表された。e-TRANSPORTER(白)とe-CARAVELLE(青)である。他にもID.BUZZ-CARGOの冷凍車の展示もあった。

またこれはVWのブースではないが、ID.BUZZをピックアップに改造したものが展示されていたので、紹介しておく。単なる参考出品だそうだ。

さらにコンパクトな商用EVも

そしてさらに小さくなる。日本では、AFS2.0として発売されている軽自動車のEVがCES2024では右ハンドルの展示だったが、今回は、LINXYSのブランドで左ハンドルで展示されていた。30kWhのバッテリーや200kmの航続距離などスペックは同じであった。

トルコからも小型EVの商用車が出展されていた。トルコの大手企業グループであるANADOLU ISUZUがAOSと言うブランドで小型EVトラックを出展。日本のISUZUも出資する企業である。このEVsmartブログで昨年レポートしたbusworld2023(関連記事)ではEVバスを展示していた。

ISUZUのエルフより小型のEVで、多くの荷台バリエーションを持つことが特徴と言うことである。

FCEVもたくさん出展されていた

そして今回、思いのほか出展が多かったのが、FCEVの出展である。既に、ルノーやオペルを紹介してきたが、トヨタもハイラックスのピックアップをベースに出展していた。そして、そのFCシステムも展示していた。このFCシステムは現行MIRAIと基本同じものである。

そのトヨタがいくつかの企業にFCシステムを供給している。busworld2023ではバスに供給しているのを紹介したが、今回はトラックを紹介する。

一つは、ドイツのPaul社。メルセデス・ベンツの大型トラックをFCEVに改造していた。また、その隣には、HyundaiのFCEVトラックXCIENTが展示されていた。
もう一台紹介する。これもドイツSeLv。ドイツ・アーヘン大学発のベンチャー企業である。フォードの大型トラクターヘッドF-MAXベースにFCEVに改造されている。他にもトヨタのFCシステムを搭載した車両が数台今回出展されているとのことであった。

イタリアのIVECO。アメリカの新興トラックメーカーのNIKOLA と提携関係にある。こちらも外の展示場にFCEVのトラクターヘッドを展示していた。かなり人目を引いていたのが印象的であった。アメリカのNIKOLAとエンブレムのみ異なるようだ。IVECOが車体を提供し、NIKOLAがFCEV化している関係だ。

このほか、日本の改造車の祭典オートサロンのトラック版のような展示も外の会場で行われていた。EVやFCEVをベースとしたトラックも並ぶ。カラーリングが派手だが、トラックとしてはかなり車高も低い。トラックのレーシングカーと言った感じである。

室内会場で試乗会も開催

室内会場では、試乗会も行われている。IAAが開催される展示場はホールそのものが広いので、ホール内で試乗会ができる。EVの大型トラックが中心だが、VW ID.BUZZやMAXUSなども試乗できる。わずかだがバスもあったが、やはり一番人気は、TESLA SEMIであった。

EVバスにも注目

ここまでは、トラックを中心に商用車を紹介してきたが、バスも商用車であり展示もトラックと比較すると少ないが各国から出展されていた。

まずは、オリンピックのあったフランスから。パリ市では、恐らく現在200台を超えるEVバスが走っているはずだが、その多くがbluebusである。小型とパリ市を走る大型EVバスが展示されていた。

続いて中国のWISDOMMOTORS。あまり聞きなれない会社かもしれないが、日本でここのEVを販売しているのが、北九州市のEV販売業者であるEVモーターズジャパンである。大阪万博にもここの中国製EVバスが100台納入される。今回は、EVバスのほか、FCEVバスも出展されていたが、いずれも日本には輸入されていないモデルである。


他にも、トルコのHABAS、日本にも輸入されている中国ASIASTARのほか、中国のEVバスが多く出展されていた。

このIAAでは、車体のほかにも、急速充電器やEVトラック、バス用モーター、バッテリーパック、FC(燃料電池)システムなども展示されていた。

展示全体を通して実感できた大型商用EVのトレンドとして、急速充電器は1MW(1,000kW)、バッテリーパックは1台あたり600kWh、モーターは500kWといった感じであった。

ハノーバー市内における充電インフラの状況など

IAAに絡み今回の展示会場であるハノーバー国際見本市会場の充電器の設置状況を確認してきたので報告する。

敷地内4か所合計58口の普通充電器が設置されている。出力は11kW。急速充電器は敷地内には無いようだが、隣接したホテルに300kWと150kWが設置されているとある。その中で今回確認したのは、北の地下鉄駅近くににあるP4にある普通充電器の12口。うち11口(11台)が埋まっている状態であった。

これもIAAとは関係しないが、商用車なのでついでに。ハノーバー市にはかなり多くのメルセデスベンツのEVバス eシターロが走っていた。バスをよく見ると天井にパンタグラフを搭載していた。あとで調べたところ、2019年の情報だが、メルセデスがハノーバー市向けに48台受注したとの情報があった。

どこで充電しているのか興味があったが、街中には見当たらなかった。たまたまIAA会場に行く地下鉄(と言っても、地上に出ているところ)の中から、偶然EVバスが停車場で充電しているところを目撃。後日そこを訪れた。一般の入場は出来ないと断られたが、どうしても見学したいとお願いしたところ、黙認するようなことを言っていただき、EVバスが入ってくるところから、パンタグラフが上がり充電するところを見学&撮影することができたので紹介しておく。

ここでは、だいたい10~15分の停車中に補充電すると言う。基本は車庫で充電する。15分程度の充電を終えたバスはSOCが91%だった。出力などを聞いたが、ドライバーは知らないとの事だった。車庫で満充電するにはだいたい1時間ほどかかるとのことだった。EVバスのバッテリー容量が292kWhなので、恐らく充電器の出力は300kW程度であろう。あくまで参考情報である。

IAAのショー会場では、商用車にもかなりの電動化が進んでいる、もしくは開発が進んでいることが実感できた。特に大型車が多かったのが印象的だった。今年初めにレポートしたCES2024でも商用車の電動化がかなり進んでいることが確認できた。世界的傾向として「EV減速」の情報があるが、今回のショーを見る限り、これまで開発してきたものはショーに出したいと言うのが本音だろうし、実際街中でEVバスを良く見かける姿に確実に商用車にも電動化が進んでいると感じた。

また、想像以上に水素(FCEV&水素エンジン)にも力を入れていることも感じた。やはり水素は充填速度が速いのがメリットと各社言っており、BEVでは大容量のバッテリー搭載が不可欠になる商用EVこそ、水素のメリットがあるとも言えるのだろう。

次回2年後のIAAはどうなっているのか再度確認に行きたい。

取材・文/福田 雅敏

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この記事の著者


					福田雅敏

福田雅敏

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で38か国訪問している。通勤などの足には、クラリティ FUEL CELL(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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