EVモーターズ・ジャパンが新型EVバス3車種を発表/来年春ごろ予定の本格試乗が楽しみです

オリジナルの電気バスを企画、開発、販売するEVモーターズ・ジャパンは2024年10月に、3種類の電気バスを一気に発表しました。実車の確認もできるとあって、発表会には多数のメディアが参集し盛況でした。最新の電気バスを紹介します。

EVモーターズ・ジャパンが新型EVバス3車種を発表/来年春ごろ予定の本格試乗が楽しみです

すでに日本各地で79台の電気バスを納入

株式会社 EV モーターズ・ジャパン(本社:福岡県北九州市)は2024年10月17日、開発中の新型電気バス3台のメディア向け発表会を実施。翌日、東京都江東区で開催された「バステク in 首都圏」に出展してお披露目しました。発表した新型バスは、11人乗りのマイクロバス『F8 Series1 マイクロバス』、10人乗りの乗合バス『E1』、全長10.5mの大型路線バスの3種類です。

いずれも開発中なのでこれから細部に変更があると思いますが、2025年春頃の発売を目指しています。

価格は、10.5m大型路線バスは5000万円前後、マイクロバスのF8は3000万円前後、乗合バスのE1は1000万円台半ばから後半くらいになる予定です。

2019年に設立されたEVモーターズ・ジャパン(以下、EVMJ)は現在、電気自動車(EV)の観光バス、乗合バス、コミュニティー向けの小型バスのほか、私道走行用のグリーンスローモビリティー、トライクなどを販売しています。

電気バスについては、2024年10月までに自治体やバス運行会社、企業向けに79台を納入してきました。

もっとも多いのは6.99mのコミュニティーバスで、40台を納入しています。10.5mの路線バスでは、富士急グループに13台を納入しているのが目を引きます。

【EVMJ納入実績】
6.99mコミュニティバス 40台
10.5m路線バス 27台
8.8m路線バス 7台
8.8m観光バス 5台
合計納入台数 79台

また2025年に開催予定の関西・大阪万博までに、大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)に対し小型コミュニティバスの『F8 Series4 Mini Bus』を35台、大型路線バス『F8 Series 2 City Bus』を115台納入する予定です。すでに一部のバスの納入が始まっていて、万博会場の工事関係者の送迎などに利用されているそうです。

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本社のある北九州市では組立工場を建設中で、来年以降の稼働を目指しています。国内生産が始まれば、バスを中心とした自動車メーカーとして大きな一歩になるはずです。

日本の電気バス市場ではBYDがトップシェアを維持していて、日本国内ですでに累計300台以上を納入しています。日本の既存メーカーは新しい電気バスを継続的に出していないこともあって影は薄いままです。

EVMJの生産が軌道に乗れば、BYDを追いかける一番手になるのは間違いありません。生産設備が稼働した時には、現地取材をしたいと思っています。いましばらくお待ちください。

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バイワイヤーの「F8シリーズ1マイクロバス」

それでは、EVMJが新たにお披露目したバスを紹介していきます。1番手は『F8 Series 1-Micro Bus』(以下F8シリーズ1)です。

F8シリーズ1は、全長5.99mと6.99mの2サイズがあり、6.99mは低床のノンステップ(20人乗り)と、高床のワンステップ(24人乗り)があります。

このうち今回プロトタイプが公開されたのは、全長5.99mの11人乗りマイクロバスです。

公開されたF8シリーズ1は、VIP仕様で内装が豪華でした。シートは厚めの座面が座り心地よさそうです。床はフローリングで落ち着きます。もちろん、これらはオプションです。

標準装備されるのは、周辺確認用の360度カメラや後方視認用の電子ミラー、クルーズコントロールやレーンキープアシストなどの運転支援装置などです。

バッテリー容量は118kWh、総電圧は418.6Vで、充電は普通充電とチャデモに対応します。EVMJでは急速充電器も販売しているので、複数台運行で予算に余裕があれば車体と合わせて装備するのもありです。

バッテリーには、F8シリーズ1だけでなく、今回発表されたE1乗合バス、10.5mの大型路線バスともに、水冷の冷却システムを採用しています。それほど高速巡航するわけではないでしょうが、日本の夏を考えると温度管理は大事です。

特徴的なのはステアリングやアクセルなどをバイワイヤーにしていることです。EVMJでは将来的に、F8シリーズ1を自動運転化することも見据えてバイワイヤーにしたそうです。自動運転が実現すれば、社会課題として挙がっているドライバー不足対応の手段になります。

その他、F8シリーズ1と、後述するE1乗合バスはいずれもV2Hに対応しています。V2Hを軸にした給電機能があれば緊急時に電源をとることができるほか、平時でも再生可能エネルギーの増加による昼間の余剰電力を貯蔵して活用することが可能です。

こうした利用方法は、自治体で導入する時の理由付けになりそうです。

旧普通免許で運転可能な「E1乗合バス」

「E1乗合バス」は、全長5380mmで、定員10人の小型の乗合バスです。用途は公共交通の他、自治体でのスクールバスやシャトルバス、デマンドバスなどを想定しています。高齢者の送迎用にデマンドバスを走らせる自治体は増えているので、需要はありそうです。

そしてE1乗合バスは、旧制度の普通免許で運転できるよう、定員を10人に設定しています。

運転免許は、2007年6月1日以前の取得なら車両総重量が8トン未満まで、2017年3月11日までに取得した普通免許なら総重量5トン未満まで運転できます。乗車定員はいずれも上限10人です。

E1乗合バスは総重量4600kgなので、2017年3月11日までの普通免許ならOKです。2017年3月12日以降に取得した普通免許では車両総重量3.5トン未満までしか運転できませんが、準中型を取得すれば7.5トンまで可能です。

地方自治体では人口減と人手不足で鉄道はもちろん、バス路線も維持が難しくなっている地域があります。旧普通免許で運転できるバスなら、ドライバーの間口が広がります。

そういえば運転席周りの雰囲気も、シフトノブの取り付け方やセンターモニターなど、普通乗用車と似ている印象を受けました。

そもそも車幅も全長も、最近の3ナンバーの普通車とあまり変わらないし、運転しやすそうなサイズに思えます。これなら公道で試乗できそうなので、車が完成したら乗ってみたいですね。

エアサス仕様で乗降を容易に

ニーズに応えるという意味では、エアサスを採用し、車体を下げて乗降口を低くするニーリングができるようにしているのも対応策のひとつです。

バスの乗降口が高いのは、乗るときもそうですが、体の自由がきかないと降りるときがけっこう怖いんですよね。ニーリングできるのは、高齢者の多い地方自治体にはありがたい設計ではないでしょうか。

ところでEVMJでは、物流車のラインアップに「E1」というEVがあって、E1乗合バスは基本的にはこのEVをベースにしています。とは言え、足回りをエアサスに変更したほかドライブトレインも新調しているので、新モデルと言っていいように思います。

そもそも物流車のE1は前輪駆動ですが、E1乗合バスは後輪駆動です。

さらにE1乗合バスは、モーターと減速機を一体化したeアクスルを採用しているほか、インバーターも自社開発のものを新たに採用しています。ということで、中身はほぼ、新モデルです。

なおプロトタイプでは充電口が急速充電用しかなかったのですが、普通充電にも対応予定です。EVMJでは充電器も販売しているので、基本的にはセットで売り込みをしていく方針だそうです。

また、バスなので柔軟に架装の仕様変更もできます。EVMJでは、ニーズに応じて車椅子用のスペースを作ったり、座席配置をいろいろ変更することも考慮しているそうです。

価格は1000万円台後半を目標にしています。補助金を含めれば1000万円台半ばになるので、コスト的にも既存のディーゼルバスに対抗できる可能性があります。維持費は安くなるし、運転のしやすさでいえばEVが上なのは間違いないんですから。

自社生産を目指す「10.5m大型路線バス」

最後に紹介するのは、10.5mの大型路線バスです。EVMJでは従来から、10.5mの大型路線バスを販売していました。今回は新型車の位置づけになります。

前モデルからの変更点は、バッテリーの大容量化、駆動方法の変更と出力向上、アルミ採用による軽量化などです。バッテリーは、従来の210kWhから282kWhに増量されました。これによりスペック上の航続距離は280kmから350kmに伸びています。

駆動は、従来の1モーターから2モーターに変更されました。並列に配置した2つのモーターの出力軸を一つに集約して車軸につなげているそうです。デュアルクラッチと似た構造という説明もありましたが、よくわからなかったので、完成車ができたときに詳細を確認したいと思います。

制御用のインバーターはE1乗合バスと同様、自社開発のものを採用しています。2モーターなのでインバーターも2つ搭載しているそうです。コストが割高になりそうですが、どのような狙いだったのか、これも改めて取材したいと思います。

各座席や、車内各所の支柱などには充電可能なUSBコンセントもありました。タイプAとタイプCが揃っているのは現代的です。

でも、なんと言っても注目したいのは、EVMJが新型10.5m路線バスについて、北九州市で準備中の自社工場で生産し、型式認定を取得して販売する計画を持っている点です。

今回のマイクロバス、小型バスを含めて、これまでのEVMJの車両は欧州、台湾などからパーツを購入し、中国で組み立てを行っていました。これを日本で生産することで、信頼性をさらに高める考えです。

10.5m大型路線バスは、国産使用の第1号になるわけです。これは楽しみです。

小さなEVに関しては日本でもスタートアップが生まれる気配がありますが、乗用車より大きな車では難しそうな印象もあります。硬直化した産業構造の中では、新規参入は容易ではありません。だからこそEVMJの目標には期待したいと思ってしまいます。

急に気温が下がって、秋がなくなってきた感もある今日このごろですが、年が明けて寒さが緩む2025年の春、EVMJの新型バスに試乗することを楽しみにしたいと思います。

F8 Series1 マイクロバス 5.99mF8 Series1 マイクロバス低床/ノンステップF8 Series1 マイクロバス高床/ワンステップ
全長×全幅×全高5990×2150×2840mm6990×2150×2840mm
ホイールベース3500mm4500mm
車両重量5600kg6225kg6375kg
車両総重量6205kg7325kg7695kg
最小回転半径6.5m8m
定員11人20人24人
駆動RWDRWDRWD
最高出力160kW
登坂能力20%以上
一充電航続距離260km(参考値)250km(参考値)
モーター永久磁石式
駆動バッテリー
種類リチウムイオン
総電力量118kWh
総電圧418.6V
車両価格(想定)3000万円前後
E1乗合(エアサス仕様)10.5m大型路線EVバス
全長×全幅×全高5380×1900×2720mm10490×2498×3265mm
ホイールベース3130mm5650mm
車両重量3900kg11700kg
車両総重量4600kg16045kg
最小回転半径6m8.5m未満
定員10人79人
駆動RWDRWD
最高出力
登坂能力25%以上15%以上
一充電航続距離215km(設計値)350km(※)
モーター
駆動バッテリー
種類リチウムイオンリチウムイオン
総電力量105.3kWh282kWh
総電圧
車両価格(想定)1000万円台後半5000万円前後
(※)定速40km/h、満載、エアコンオフ

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取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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