「EVモーターズ・ジャパン」の心意気~電動化は脱化石燃料を実現するための日本の生き残り戦略

福岡県北九州市に本社を置くEVモーターズ・ジャパンは、EVバスなどの電動商用車を独自開発して販売する電気自動車ベンチャーです。最近、いろんなニュースで気になっていた会社を訪問。代表取締役の佐藤裕之氏にお話しを聞いてきました。

「EVモーターズ・ジャパン」の心意気~電動化は脱化石燃料を実現するための日本の生き残り戦略

EVモーターズ・ジャパン ってどうなんだ?

取材当日。EVMJの本社は視察の方が訪れ大賑わいでした。

北九州市若松区にある「株式会社 EV モーターズ・ジャパン(EV Motors Japan※以下、EVMJ)」の本社を訪ねました。国道脇に建つ本社社屋は、自動車ディーラーだった物件を居抜きで使っている? のかと思ったら、元々は和菓子屋さんだったそうです。自動車メーカーと呼ぶにはまだまだ小規模ですが、EVベンチャーの拠点としては、ワクワクするような近未来への可能性を感じる雰囲気でした。

昨年あたりから、ことに電気バス導入などでEVMJが関わるニュースをしばしば目にするようになっていました。いくつか、ピックアップしておきましょう。

●2021年11月/第50回世界体操競技選手権大会でEVMJのEVバスが運行
●2022年2月/熊本県球磨村で電動スクールバス実証事業開始
●2022年4月/沖縄県那覇市でEVバス2台が路線バスとして運行開始
●2022年5月/愛媛県松山市の伊予鉄バスがEVバス導入を決定

などなど。今まで、日本国内でのEVバス導入事例といえば中国BYDの話題が中心でした。BYDジャパンでは2022年5月にも「新型電気バス記者発表会」を開催するなど、日本でのEVバスビジネスを拡大していく意欲を示しているところです。

そのBYDに「待った!」を掛けるようにして日本のEVベンチャーが突如台頭。はたして、どんな会社で、どんなEVを作ろうとしているのか、ずっと気になっていたのです。今回、EVsmartチームで動画発信を担当するテスカスさんが、熊本まで遠征して参加した「アリアで家電キャンプ(動画にリンク)」で、EVMJのプランニング担当である長秀俊さんと知り合うご縁に恵まれて、本社への突撃取材を行うことになったのでした。

EV Motors Japan代表取締役社長の佐藤裕之さん。

取材当日、インタビューに対応してくださったのは佐藤裕之社長です。会社設立や商用EV開発への理念、近未来へのビジョンなど、熱い思いをいろいろ聞かせていただきました。インタビューの内容は、テスカスさんが動画にまとめてくれました。

この記事読了後には、ぜひ動画もチェックしてください。

プロダクトのラインナップを確認

まず、EVMJが展開している商品ラインナップを確認しておきましょう。
(商品画像はEVMJウェブサイトなどから引用)

EVコミュニティバス(6.99m)

114kWhのLFPバッテリー(CATL製)を搭載し、一充電航続距離は290km(定速40km/h、負荷重65%、エアコンオフ時)。車両価格は2200万円程度。

EV路線バス・観光バス(8.5m/10.5m/12m)

10.5mタイプでバッテリー容量210kWh、一充電航続距離は280km(定速60km/h、負荷重500kg、エアコンオフ時)。車両価格は4300万円程度〜。装備品ににもよりますが、スタンダードなグレード車種は中国製EVバスよりも安く提供しています。

コンパクトEV物流車『E5』

バッテリー容量は32.3kWh(一充電航続距離210km)と43kWh(270km)の2タイプ。価格はそれぞれ380万円前後、480万円前後を想定している。

eトライク

ヘルメット不要、普通自動車免許で運転できる3輪EV。車検不要の「OAKシリーズ」と車検が必要で積載量が大きい「Bangeシリーズ」をラインアップ。BluetoothやUSBでスマホと接続して音楽も聴けます。

次世代CIGS軽量フレキシブルソーラーパネル

車両への搭載や事業所などの壁面発電を実現し、自立発電を実現するための超軽量&超薄型のフレキシブルなソーラー発電パネル。

リユースバッテリー

蓄電システムの導入でEVシフトをサポートするためのリユースバッテリー開発にも意欲的。

CHAdeMO2.0規格対応の急速充電器

超高出力急速充電(高電圧充電)に対応できる、CHAdeMO 2.0規格準拠の急速充電器を開発中。CHAdeMOでもCCS(コンボ)に負けない高出力規格はすでに確立しているのに、日本には対応した車両や急速充電器の製品が皆無。無ければ自分たちで作るしかない! という心意気の象徴です。

これでもまだプロダクトの一部ではありますが、EVMJが商用EVを軸として、ソーラーパネルやリユースバッテリーまで、幅広いプロダクト開発を手掛けていることがわかります。佐藤社長自身「われわれはエネルギーマネジメント企業です」と、何度か繰り返して強調されていました。テスラが自動車会社からエネルギー企業への進展を示したように、EV開発を突き詰めるとエネルギーマネジメントを重視するのが必然でもあると理解できます。

EVMJはただ多くのEVバスや物流車を販売することだけを目指しているのではありません。フレキシブルソーラーパネルを事業所やフリートの車庫の天井や壁面に設置して、大容量の蓄電システムを備え、多くのEVを運用するための電力まで自立できるソリューションを構築することを、目標として掲げているのです。

建物の壁面などでも効率よく発電が可能。
デザインの自由度も高い!

インタビューの中で佐藤社長は、日本がEVシフトする理由として「脱炭素だけではなくて脱化石燃料を実現するため」であると強調していたのが印象的でした。ウクライナ危機からの教訓でもあるように、自前のエネルギー資源に乏しい日本にとって、化石燃料を巡るエネルギー安全保障は国の根幹を左右する課題です。「だからこそ、日本は高効率なモビリティ電動化をやらなくちゃいけない。脱化石燃料を加速させて、CHAdeMOのアドバンテージでもある防災システムをうまく組み合わせていくことが重要です」と佐藤社長。この思いが、EVMJ躍進の原動力となっているのです。

佐藤社長(EVMJ)の心意気~ポイントを解説

佐藤社長のお話しを漫然と紹介してもやたらと長い記事になってしまうので、全体の流れは改めてインタビュー動画をご覧いただくとして。EVMJが展開しようとしているプロジェクトの真価を測るべく、気になったポイントをピックアップしておきたいと思います。

なぜEV開発を手掛けたのか?

EVMJは2019年に設立されたばかりの新しい会社です。でも、EVバスの開発自体はEVMJの前身ともいえる「ソフトエナジーコントロールズ(SEC)」で、2012年から手掛けてきました。きっかけは東日本大震災の津波被害です。

当時、福島県内にあったSECの回生電源実装工場も被災。行政機関などから災害に備えてバッテリーを核にした防災システム開発の要望を受けて、佐藤社長が提案したのがEVバスを活用したBRT(Bus Rapid Transit/鉄道に代わりバスを運用する公共交通システム)構築と、EVバスの非常用電源活用でした。

とはいえ、EVバスに防災機能を付加するといっても、最終的にはそのバスを製造しているメーカーが決めていくことです。「理想を実現するためには、自分たちで最終製品を作るしかない」という思いが、EV開発を手掛ける決意に繋がっていったのです。

多彩な商用EVをどのように開発できたのか?

佐藤社長はもともと日鉄エレックス(現・日鉄テックスエンジ)でリチウムイオン電池(LIB)充放電エンジニアとして充放電装置の開発などに携わるエンジニアでした。2009年に佐藤社長が設立したSECでは、LIBの充放電装置やインバーター、モーター制御装置などを開発し、日本国内の主要メーカーはもとより、中国でEVやLIB生産を手掛けるメーカーとも深い繋がりがありました。

EVバスや物流車などEVMJブランドの商用EVは、EVMJの要望に応えてくれる、中国メーカーが生産することで、短期間で、コストパフォーマンスが高い車両開発を実現しています。具体的には、大型バスは「Wisdom Motor」、商用EVなどはWisdomのほか「CRRC」、「北京汽車」などのメーカーと提携しているということでした。佐藤社長自身が長年バッテリー技術に関わり、中国企業との信頼関係があったからこそ実現できた協業といえるでしょう。

また「2020年を想定して中国政府がNEV(EVを含む新エネルギー車)への補助金を打ち切る方針を打ち出したタイミングと重なったのも好運だった」と佐藤社長。中国では16大都市にEVバスやEVタクシーなどの普及がすでに進んでおり、中国のメーカーとしても新たな販路を求めているタイミングで日本向けEVの製造をオファーすることができたのです。さらに、日本市場で受け入れられるEVを製造できれば、メーカーとして箔が付くという中国メーカー側の思いがあったようです。

品質や安全は大丈夫?

佐藤社長は中国メーカーと提携するのに際して、いくつかの条件を提示したそうです。

●EVMJのパワートレインを搭載すること。
●求める仕様を実現するためのパーツを使うこと。
●安全面などは国連規格の車両を製造すること。
●要求するデザインを実現してくれること。

細かく挙げていけばさらにあるのでしょうが、取材時の説明としてはこれだけで十二分に説得力を感じました。

「求める仕様」の具体例として、EV専用車両として最大限の軽量化があります。「たとえばEVバスに1トンのバッテリー(おおむね10kg/kWh程度)を搭載するには、その分だけ車体を軽量化するのが理想」と佐藤社長。EVMJのコミュニティバスでは、車体の一部に高強度複合材CFRP(Carbon Fiber High-Strength Composite Material)を採用。ステンレスのシャシーとともに、アルミハニカム構造の床材を採用するなど、徹底した軽量化と高強度の実現を追求しています。

CFRP素材を採用したバスのボディ。

CFRPやステンレスのボディやシャシー、アルミハニカムの床材など、こんなバスを日本メーカーが製造したら一体値段はいくらになるのか、素人にはちょっと想像つきません。でも、EVMJのEVコミュニティバス(6.99mタイプ)は約2200万円〜。エンジンのバス(1750万円程度〜)と競争力のある価格を実現しています。

アルミハニカム床材などの独自採用パーツ。

バッテリー制御やインバーターは長年蓄積した技術があります。さらに、パワートレインを構築するための基幹部品には、佐藤社長が「信頼している」というドイツ「ZF」の製品を採用しているということでした。

おりしも、8月2日のこと、ZFが2026年にも日本の商用EV市場に参入するという日経新聞の報道(会員限定表示)がありました。ZFジャパンからはとくにニュースリリースの発信などはないので確認中ではありますが、もしかすると、EVMJとの提携が「ZFが日本で商用EV市場参入」の重要なピースのひとつになっているのかも知れません。

ファブレスメーカーからの進化?

中国のメーカーと提携して製造したEVを日本で発売するという構図は、工場をもたない、いわゆるファブレスメーカーと呼ぶべきビジネスモデルです。

ところが、今回の取材で驚いたのが「2023年中の稼働開始を目指して、北九州に商用EVの組立工場を建設する」ということでした。佐藤社長に伺った話では、たんに中国から並行輸入したEVを日本向けに調整するといった「整備工場」ではなく、「プラモデルのようにプレハブ化したパーツを効率良く輸入して、車両の組立は新設する自社工場で行う」という構想でした。

これはもう、たんなるファブレスメーカーの枠組みを超越して、EVならではの新たな商用車供給のスキームを創り上げるためのチャレンジと評していいでしょう。EVMJではこの大きな構想を実現するための増資や運転資金調達計画を示していて、2022年6月には計画通り9億円余りの資金調達を実施したことが発表されています。

まだまだ進展中のチャレンジではありますし、国内工場で組み立てるとなると、並行輸入の特例が使えなくなって型式認定を取得しなくちゃいけないのでは? と、勝手な心配などしつつ。国内既存メーカーによるEV商用車開発が遅々として進まない(明るいニュースをあまり聞かない)現状を憂いてきた中、EVMJの心意気に多くの資金が集まる日本の底力に期待したいところです。

問われるのは「使い手」の心意気

EV普及とともに日本で「脱化石燃料」社会を実現することを目指す佐藤社長の心意気。また、長年の実績を手がかりとして、複数の中国メーカーやドイツのパーツメーカーと「よりよいEV」を実現するための仕組みを構築したEVMJのチャレンジには大きな期待を抱きます。

まさに「作り手の心意気」は満点です。とはいえ、本当に日本で商用車EVが普及していくためには、バス会社や運送会社などを中心に、フリートで車両を運用する「使い手」が、脱化石燃料へのビジョンに共感し、心意気を示すことが必要なのだろうとも思います。

6月に発表された第三者割当増資の出資企業を見ると、伊予鉄や西鉄、第一交通産業といった「使い手」企業が名を連ねています。でも、本当に商用EV普及を加速させていくためには、もっと多くの使い手企業が力を発揮すべき役割があるのではないでしょうか。

今回、本社取材を行ったものの、EVバスや物流車など、実際の車両にはまだきちんと試乗もできていないので闇雲に太鼓判を押すことはできません。とはいえ、開発途上であるからこそ、使い手の意見や要望が最終製品であるEVに反映する余地があるとも言えそうです。

興味を抱いた関連企業のご担当者さま、ぜひ、EVMJにコンタクトしてみてくださいまし。

繰り返しになりますが、YouTubeのEVsmartチャンネルで、EVMJ取材の様子を収録した動画(YouTubeチャンネルにリンク!)を公開しています。とくに後半、佐藤社長へのインタビューはEVsmartブログ読者全員、いや、自動車産業や行政に関わるみなさん、いやいや、心ある日本人全員に観て欲しいと思います。

EV Motors Japan 公式サイト

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 将来EVは、動いて働く蓄電池として循環型エネルギー社会のインフラを支えていくのだと思います。ここが化石燃料に頼る従来のガソリン車やハイブリッド車と根本的に異なる点だと思います。恐らく将来EVは個人が所有するのでなく、スマホで呼び出せば自動運転で目的地まで連れて行ってくれる様な公共交通機関になると思います。SFみたいな話ですが、米国のGMは、排ガスゼロ、交通事故ゼロ、渋滞ゼロを目指した技術開発を行っています。(https://www.gm.com/company/about-us)

    EVモータースジャパンには米国のGMに負けない様に頑張ってもらいたいと思います。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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