【TECHNO-FRONTIER 2022】 2025年までに日本上陸を示唆するNIO『ES8』が日本初公開!

7月に開催された「TECHNO-FRONTIER 2022」で、中国のEVベンチャーであるNIOの『ES8』が日本国内で初公開されました。バッテリー交換式を採用して世界が注目する電気自動車展示を中国車研究家の加藤ヒロト氏がレポート。名古屋大学山本真義教授のインプレッションを紹介します。

【TECHNO-FRONTIER 2022】 2025年までに日本上陸を示唆するNIO『ES8』が日本初公開!

日本能率協会主催の見本市にNIO ES8が登場

中国のみならず地球規模で勢いのある電気自動車メーカー、「NIO(上海蔚来汽車)」。そのプレミアムなクオリティと他を凌駕する技術力は「中国のテスラ」というよりは、「テスラ越え」と形容する人もいます。

NIOは2014年に李斌(ウィリアム・リー)によって設立されたEVベンチャー。2016年には出力1341 hpを誇る純電動スーパーカー「EP9」をローンチ、世界的に有名なドイツのサーキット「ニュルブルクリンク」でラップタイム7分5秒12を記録。「世界最速の電気自動車」という称号を手に入れました。また、「電気自動車版F1」として知られる「FIA フォーミュラE 世界選手権」でもシーズン初年度より参戦しており、市販車はもちろん、モータースポーツにも力を入れている自動車会社です。

そんなNIOのフラッグシップである純電動SUVの『ES8』が、日本で初めて一般公開されました。一般社団法人「日本能率協会」が主催して、2022年7月20日から22日まで、東京ビッグサイト東展示棟で開催されたエレクトロニクス技術系の見本市「TECHNO-FRONTIER 2022」に出展されたのです。

NIOでは2018年に初の量産モデル『ES8』を発売。その後もSUVの『ES6』『ES7』、クーペSUVの『EC6』、セダンの『ET7』『ET5』など5車種を今日までにローンチしています。選択肢の幅の広さはもちろん注目に値するのですが、NIO最大の特徴の一つはなんといっても「交換式バッテリー」に対応しているということです。テスラをはじめ大手自動車メーカーも断念した交換式バッテリーを自社の全モデルで対応させています。

バッテリー交換ステーションは2022年7月現在で中国国内約1000ヶ所に設置されており、EVユーザーにとってフラストレーションとなりがちな充電時間に縛られることなく、ほんの数分でバッテリーを車体下部より交換、すぐさまストレスフリーの旅を続けることが可能です。NIOはこのシステムを「BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)」と呼ばれる月額制(サブスクリプション)で提供しており、バッテリー本体の購入を選ばず、「BaaS」を契約した人のみが使用可能となっています。

すでに、NIOは中国のみならず、ノルウェーにも進出済み。2022年中にドイツやオランダ、スウェーデン、そしてデンマークへの進出計画もあります。さらに2025年までに参入市場を25カ国以上にまで増やすとしていますが、その中には日本も含まれていることが2021年末に開催された発表イベント「NIO DAY」にて示唆されています。

昨年主催者展示の宏光MINI EVは「分解大会」を開催

TECHNO-FRONTIER 2022にES8が出展されたのは「いよいよ日本進出への布石?」と期待する方もいるでしょう。でも、今回出展したのはNIO自身ではありません。主催者企画として、日本能率協会が輸入して展示したカタチです。

EVsmartブログ読者であれば記憶にあるかもしれませんが、実は昨年のTECHNO-FRONTIERでは、当時「50万円EV」として話題となった超格安・超小型EV、上汽通用五菱の 宏光 MINIEVが主催者展示されました。EVsmartブログをはじめ多くのメディアが報道したことで、その後、日本でも宏光MINI EVの名前が一気に浸透した印象があります。

日本能率協会の担当者は「小さな電子部品やエレクトロニクス技術が集まって出来上がる究極の集合体がEVであり、来場者となる技術者に中国で最も売れているEVを見てもらうことで、何かのインスピレーションにつながれば」という主催者展示車に選んだ理由を述べました。

この宏光 MINIEVは展示されたのちに名古屋大学の山本真義教授主導のもと、同大学のエネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs)でも展示されました。そして同年10月には同じ場所でこの超小型EVの全貌を明らかにし、情報を共有することを目的とした「分解大会」(参加した際の東京からの遠征レポート記事はこちら)を実施、当日は日本の自動車部品メーカーやディーラーの整備士など多くのボランティア参加者によって分解が進められました。

昨年の分解大会でバラバラになる前の宏光MINI EV。分解中は撮影禁止でした。

そして、今年は主催者展示の対象車としてNIO ES8が選ばれました。繰り返しになりますが、2021年同様に日本初公開にメーカーは一切関わっておらず、日本能率協会が中国で調達、日本に輸入したという形になります。

筆者は朝一番でブースを訪れましたがすでに多くの来場者に囲まれており、人波が途絶えることはありませんでした。展示車両のES8は250V 32Aで充電中でした。

ES8は日本製EVが狙うレンジと合致

日本能率協会に主催者展示にNIO ES8を選んだ経緯を聞きました。

「昨年の展示が大変好評だったことを受け、今年も実施することを決定しました。ただ、昨年展示した宏光 MINIEVは分析を行った結果、格安EVでありながらも非常によくできている車であることは間違いないが、日本製EVが勝負を挑んでいくカテゴリーではないと判断。それを踏まえ、今年は日本が狙うレンジと当たってくるEVを見てもらいたいというコンセプトで日本勢の勝負ステージとなる『プレミアムクラスのEV』において、存在感を増しているNIOのモデルを展示する形になりました」

ちなみに、イベントの公式サイトでは当初、最新モデルであるES6の展示が予告されていましたが、諸事情によりES8に変更されたとのこと。そしてES8は昨年同様、イベント終了後は名古屋大学にて展示され、10月ごろに同じく「分解大会」が山本真義教授によって開催される予定です。

筆者は昨年の宏光MINI EV 分解大会にも参加しました。そのご縁で、山本教授にも初めて実車を目にするNIO ES8に対してどのような印象を持たれたのか伺いました。

NIOを初めて見てみて、中国のテスラと呼ばれるNIOは、既にテスラの模倣ではなくテスラとは別の思想の独自性を打ち出そうとしている熱量を感じました。
特にオールアルミボディやNOMI Mateと呼ばれるAI(人工知能)エージェントは、実際に接してみてそのレベルの高さに驚きました。
内外装の質感も非常に高く、ES8がNIOのフラッグシップモデルであることを充分納得させてくれる出来映えでした。
また、充電システムや搭乗者インターフェイスに様々なギミック的な機能が盛り込んであり、ユーザーに対して所有する喜びと新しいEVという価値観の提案を同時に具現化しようとしている印象を受けました。
今後、実際に様々な内部機構を分解解析していくことで、一般ユーザーには見えにくい部分への先進性や配慮、安全性や信頼性についても確認していこうと考えております。

【編集部注】 ES8の分解大会が開催されたら、ぜひEVsmartブログ編集部も参加したいと思います。宏光MINI EVはコンパクト車でしたが、今年の分解大会は大変そうです。昨年は分解しながらホームセンターに油圧ジャッキを買い足しに走るなんてシーンもありましたが、ES8はバッテリーやモーターなどの主要パーツの重量も昨年よりは随分ヘヴィーになるはず。できれば、ちゃんとしたリフトなどを備えた整備工場のような場所を準備したほうが危なくないかも、ですね。

トヨタ ミライやVW ID.3の分解展示も

TECHNO-FRONTIER 2022では、NIO ES8以外にも2台ほど新エネルギー車の展示がありました。その2台は分解展示という形で、出展者である「日経BP」が企画したもので、車種はフォルクスワーゲンの純電動コンパクト「ID.3」(アイディースリー)と、トヨタの燃料電池車「ミライ(Advanced Drive)」です。

両車とも完全に分解された状態で、車を構成する主要な部品が分析・解説とともに展示されていました。特に、フォルクスワーゲンID.3は日本にまだ上陸しておらず、完璧な状態の実車すら見るのは難しい状態です。そんなID.3を真っ先に輸入し、徹底的に解剖しようと考えた企画にはただ脱帽するのみという印象でした。

フォルクスワーゲン ID.3の分解展示を見て感じた一つの点が、システムを構成する主要コンポーネンツがどれもドイツ企業ではあるが、実際にはドイツ国内ではなく、ルーマニアやスロバキア、ポーランドなどの東欧を中心とする周辺国で生産されているという点でした。

一方で、トヨタ ミライの展示で見たコンポーネンツはほとんどが日本製で、たまに東南アジアの国で作られたものがあるといった状況でした。だからと言ってこの違いから何かを導き出せるほどの知識があるわけではないですが、「なるほどなあ」というのが、率直に感じた私の感想となります。

なお、日経BP主導で行われたこれら車種の徹底分解レポートは日経BPから販売されています。書籍のみだと税込88万円、オンラインサービス付きで税込132万円です。大学生の私には到底購入できるような代物ではありませんが、EVシフトへの立ち後れに危機感を覚える大企業の方、もしくは私的研究に活かしたいお金持ちの方にとってはきっと価格分の価値ある情報なのだろうと思いました。

ともあれ、ことに中国製EVに関して例年興味深い展示を見せてくれるTECHNO-FRONTIER、はたして来年はどんな主催者展示があるのか楽しみです。

(取材・文/加藤 ヒロト)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 日本勢はEVやる気なし、欧州勢やテスラは日本人にはもはや手が届きにくい価格なので、中国勢には期待しています。
    はじめは騒ぐ輩もいるでしょうが、今や中国製スマホが広く受け入れられているようにすぐ中国車も受け入れられることでしょう。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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