ロサンゼルスにおける中国の存在感―ZEEKR(ジーカー)Gotion(ゴーション)VWなど

世界の市場で影響力を拡大している中国企業のEVや自動運転技術。アメリカ、ロサンゼルスでの「中国の存在感」について、アメリカ在住のアナリスト、Lei Xing氏のレポートです。

ロサンゼルスにおける中国の存在感―ZEEKR(ジーカー)Gotion(ゴーション)VWなど

【元記事】 China factor in LA: ZEEKR, Gotion, VW & more by Lei Xing

中国の影響力の大きさを痛感

世界中のあらゆるオートショーにおいて、中国ブランドが実際に出展しているか否かにかかわらず、中国の影響力、具体的には中国EVの影響力を感じないことはありません。

その大きな理由は、ここ数年のパンデミックとBYD、CATL、NIO、GWM、MGなど「中華EV企業」の台頭により、中国の新エネルギー車(NEV)市場が驚異的な成長を遂げたからです。コロナの期間に、こうした中華EVメーカーは、世界的な影響力を増しています。彼らは国内市場で力を発揮し、今では成熟市場である欧米を含む世界各地に、EVを輸出したりバッテリーを供給するだけでなく、現地生産のための投資も行っています。

先日書いたように、9月のデトロイト、10月のパリモーターショーでは、中国の影響力が顕著でした(China factor in Paris: crouching tiger, hidden dragon と “China factor” on display at latest international auto shows を参照)。

最近、11月に開催されたLAオートショーでも同様の状況でした。ここでも、基本的に中国ブランドの出展は一つもありませんでした。

オートモビリティLAと呼ばれるプレスデーも併催されるLAオートショーは、近年、デトロイトオートショーを一歩リードし、ポルシェ、現代(ヒョンデ)、起亜(キア)などのブランドが、新型車を発表するオートショーの年間カレンダーの重要なイベントとして認識しています。アメリカの西海岸に位置し、トレンドの発信地でもあるロサンゼルスは、大手メーカーや新興メーカーにとって、新製品を発表する特別な場として常に魅力的な存在です。

コロナの影響で1年間中断していたショーが去年復活し、フィスカー・オーシャンとベトナムのEVスタートアップ、VinFastのVF e35とe36(後にVF 8とVF 9に改名)がデビューしました。また、私にとって初めてのLAオートショーでした(Recap: new brands and EVs electrify AutoMobility LA を参照)。

今年は、Hyundai IONIQ 6、Kia EV6 GT、Toyota bZ Compact SUV Concept、Fiat 500e、VinFast VF 6/VF 7、そして話題の新型トヨタ・プリウス ハイブリッドのアメリカデビューなど、注目のEVが発表されました。今年のショーでは、さらなる中国の存在感を期待していたのですが、何と、オートショーの前日(11月16日)に存分に味わうことができました。

始まりは、ドイツのスポーツカーメーカー、ポルシェが911 Dakarを初公開した日中のイベントです。CEOのオリバー・ブルーメ氏が自らこの限定モデルを披露したのです。9月に親会社フォルクスワーゲン・グループのCEOをヘルベルト・ディース博士から引き継いで以来、ブルーメ氏が初めてオートショーに登場したのは、オラフ・ショルツ首相率いるドイツ代表団の一員として中国に立ち寄ったわずか2週間後でした。

オリバー・ブルーメCEOと筆者。

ブルーメ氏に中国訪問時のことを尋ねると、両国首脳が直接会ってオープンな対話をすることが重要であり、また彼自身、グループの新たなCEOとして中国を直に見ることも大切だったと答えてくれました。また、1月に再び1週間ほど中国を訪れるとも言っていました。ちょうどその頃、フォルクスワーゲン・グループは次期計画の詳細を発表することになっています。通常は毎年11月中旬に発表されますが、同グループがソフトウェアやEVの展開で逆風にさらされたため、遅れていたのです。

その夜、私はフォルクスワーゲンブランドの新CEOであるトーマス・シェーファー氏と、同社のID.シリーズの次期モデルの記者向け内覧会で会いました。4月までシュコダのCEOを務め、7月にフォルクスワーゲンブランドのCOO、そしてCEOに就任したこともあり、話は自然と過酷な競争環境にある中国における両ブランドの業績に及びました(シュコダが中国から撤退するという噂もすでに聞こえてきます)。

私は、自分が中国の業界を取材した経験から、大手輸入車メーカーは、EVが主戦場になると、エンジン車でこれまでずっと経験してきたような安定感のある経営は期待できず、ソフトウェアやコネクティビティ、スマート機能を素早くマスターし、急速に変化する消費習慣に変化し対応する努力をもっと加速させる必要があるという見方を彼に伝えました。フォルクスワーゲン・グループが最近、中国のチップメーカー、ホライズン・ロボティクスに出資したのは、スマートEVの新興企業に追いつくための舵取りの一つです。しかし、フォルクスワーゲンは、こうした新しい協力関係やプラットフォームが軌道に乗るのは、少なくとも2025年以降になるとみているようです。この予測が当たっているのかは、まだ分かりません。

この日の夜は、ようやく中国ブランドのイベントを見ることができ、大満足のうちに幕を閉じました。

ZEEKR M-Vision Waymo.

フォルクスワーゲンのイベントからさほど遠くない会場で、Waymoは次世代ロボタクシー「ZEEKR M-Vision Waymo edition」を、Geely Group(吉利集団)のプレミアムパフォーマンス・スマートEVブランドと共同で披露していました。このイベントのことは、ほんの数時間前にWaymoのSNSで知ったのですが、中国Geelyにいる広報の親しい友人のおかげで、イベントの終了間際にロボタクシーが片付けられる寸前のところで垣間見ることが出来ました。

M-Vision Waymo editionは、ZEEKRの欧州研究開発センター「CEVT」と、Geely Design Globalによって設計・製作された、初の完全自律走行型ライドヘイリング(配車サービス)専用車です。ZEEKRが同日発表したSEA-Mアーキテクチャをベースに、L4自律走行が可能なWaymoの最新世代Waymo Driverソリューションを搭載したロボタクシーです。

SEA-Mアーキテクチャは、自律走行車にはドライバーが不要なため、ドライバーを中心に車両を開発するという従来の考えを覆しました。フラットなフロアと「ホイールベース・全長比」0.64というオーバーハングを切り詰めたスタイルは、カプセルデザインによってキャビンスペースが最大化されています。そのため、広々としたインテリア、様々なシートとシート配置、Bピラーレス、自律走行とコネクテッドデバイスをサポートするロバストな電気/電子(E/E)バックボーンといったアーキテクチャの基本機能により、デザイナーはインテリジェントなモバイル「リビングルーム」を作る機会を得ることができたのです。

ZEEKRが2021年12月に、SEA-Mプラットフォームをベースにした車両の最初の顧客がWaymoであると発表してから1年足らずで、新しいロボタクシーが公開されました。このロボタクシーは2024年に生産が始まり、その後、Waymo Oneのライドヘイリング車両として投入される予定です。

投入時期がまた微妙で、昨今は米中政府が高まる緊張を和らげようとしており、北米自動車市場はますます他所者を排除する傾向が強まっている中で、中華EVメーカーが隙を突いて入り込んでくる状況です。つい最近も、ZEEKRは米国でのIPOを検討していて10億ドルの資金を調達すると噂されており、これが本当なら評価額は100億ドルに達します。

VinFastは、中華EVメーカーに先駆けて米国でEVを発売・製造すると思われますが、11月17日の記者会見で、中国の大手電池セルメーカーの一つGotion High-Tech(国軒高科)の協力を得て、ベトナムでLFPバッテリーを製造することを発表しました。

何という意外な展開でしょう?!

両社は、その1日後、合弁工場で起工式を開催。投資額は2億7,500万ドル、生産能力は年間5GWh、バッテリーセル換算で約3,000万個/年となっています。この施設はベトナム初のLFPバッテリー工場となり、2024年第3四半期に量産を開始する予定です。今回の発表は、10月初旬に発表されたGotionのミシガン州での正極材・負極材製造施設への23億6,000万ドルの投資計画に続くものです。

中国勢がさまざまな形でEV市場に進出していくのは、もはや時間の問題です。

翻訳/翻訳アトリエ(池田 篤史)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

執筆した記事