卒業制作でEVをカスタマイズ
東京オートサロンの会場を回っていたら、カスタムカーが並ぶ一角に小さな車をリフトアップしたピックアップトラックのような展示車を見つけました。車の横のステッカーをよく見ると、『eKクロス EV』とあります。
それにしては形が違うなあと思いつつ、展示パネルを読むと、やっぱりベース車両は三菱の電気軽自動車、eKクロス EVでした。
展示していたのは、静岡県静岡市にある静岡工科自動車大学校です。近くにいた学生さんに話を聞くと、「卒業制作で作りました」とのことでした。
説明してくれたのは、ボディエンジニア専攻科の三浦翔太さん。今回の卒業制作グループ、12人のメンバーをまとめたリーダーです。
バッテリー用にエアコンを残す
卒業制作にEVを選んだのは「新しいことをやりたかった」と三浦さん。デザインについては「(EVで)こういう車はあまり見たことがなかったので、内燃機関に負けないモンスタートラックのような車にすることをコンセプトにしました」と話しました。
主な変更点は、リフトアップと、屋根とドアの上部を切ってフルオープンにしたこと。それに後席をなくして荷台までフラットにしていること。
あとは、リアのドアは隙間を埋めて2ドアにし、荷台のサイド部分にしています。ドアは隙間を埋めてボディーパネルと一体にしています。とてもきれいに埋まっていました。
そのほかのパートはほぼ、元のeKクロス EVから流用しているそうです。
リフトアップした後部から下をのぞくと、「eK X EV」というロゴタイプが見えます。ロゴタイプのある板はバッテリーケース後部の「ふた」になっていて、はずすとバッテリーがまる見えになるそうです。ちょっと見てみたいです。
また改造で苦労したポイントのひとつは、エアコンを残すことだったそうです。eKクロスEVと、兄弟車の日産自動車『サクラ』は「エアコンの冷媒でバッテリーの温度管理をしているので、走るためには残さないといけない」からです。
ただ、「リフトアップしたために冷媒の配管を延長する必要があり、この作業がたいへんだった」とのことです。
エアコンは人間用ではなくて、バッテリー用なんですね。
なおeKクロス EVのカスタムカーは、ナンバーがないので公道は走れませんが、学校の敷地でテスト走行はしたそうです。
今のところナンバーをとる予定はないそうです。ちょっと残念ですが、ナンバー取得のためには改造したフレームの強度計算なども必要で、かなり手間もお金もがかかります。それはまたいつかのお楽しみ、ということですね。
電気への苦手意識をなくすようにしたい
今の自動車学校の中で、EVはどんな位置付けなのでしょうか。会場にいた、卒業制作の担当のキャリアサポート室長、瀧慎吾さんはこう話します。
「今はEVも増えているので、教材車両もいくつかあります。それらは必ず学生に触らせるようにして、社会に出たときに“EVだから(できない)”と言わせないようにしたいですね」
ただ、今はまだ、EVを志望してくる学生はあまり多くはないそうです。
「正直言うと、電気は苦手っていう子は多いです。やっぱり目に見えないものは苦手という意識はありますね。でもそういう苦手意識を除いてあげるのも大事なことだと思っています」
30年ほど、EVの市民団体、日本EVクラブに関わる中で、以前は筑波サーキットで開催していた日本EVフェスティバルにいくつもの自動車学校が、自作したコンバートEVで参加していました。それを見ながら、EVへの流れは強いのかなあと思っていたのですが、現実はまだ、高いハードルが残っているようです。
EVが普通に学校で専攻できるようになる日が、早く来ることを願っています。
オートサロンでカスタムEVが増えたらいいね
ところでオートサロンでは、当然ですがエンジン車のカスタムカーがほとんどです。近年はエンジン車からEVにコンバートした車の展示も出てきました。十数年前には、東京のトヨタ東京自動車大学校が『トヨタ800』のコンバートEVを展示し、優秀賞を獲得したのを覚えています。
その後もコンバートEVの出展はあり、今回の東京オートサロンでも、日産自動車が『R32型スカイライン GT-R』のコンバートEVを展示していました。4WDのシステムをアテーサE-TSから、前後にリーフ用モーターを2つ搭載した4WDに変更するなどして、R32GT-Rの楽しさを再現したそうです。
でもEVそのものをカスタムしたものは、あまり見かけません。そもそも、ベースになるEVの車種が多くないので当然かもしれません。
それでも、今回のオートサロンにはJPSカラーのロータス『JPSカラーのEV「ELETRE TYPE79(エレトレ タイプ79)』などのアッパークラスのEVも出てきています。また『テスラ』のカスタマイズは珍しくありません。
そんな中で見つけたeKクロス EVのカスタムカーは、これからEVベースのドレスアップが増えたり、大改造したりがオートサロンでも普通になる未来を感じさせてくれたのでした。
「がんばれ、自動車学校の学生さんたち!」と、陰ながら応援したいと思います。21世紀のモビリティーの変革のために。
取材・文/木野 龍逸