東京大学などがEV普通充電器の「プラグアンドチャージ」実証実験の成功を発表

東京大学生産技術研究所、ユアスタンド、日東工業、三菱自動車がEV用普通充電器でのプラグ&チャージ(PnC)実現に向けた実証実験を行い、充電器とEVの接続を特定できることを確認したとする成果を発表しました。日本におけるEV公共充電の「常識」になることを期待します。

東京大学などがEV普通充電器の「プラグアンドチャージ」実証実験の成功を発表

※冒頭写真は東京大学生産技術研究所のYouTube動画から引用。

東大やユアスタンドなどが共同発表

2025年2月27日、東京大学生産技術研究所、ユアスタンド株式会社、日東工業株式会社、三菱自動車工業株式会社が、EV用普通充電器での充電において認証用の充電カードやアプリを使わなくても充電できる「プラグアンドチャージ=Plug & Charge(PnC)」の実現に向けた実証実験を実施。離れた場所にある2つの充電器それぞれにEVを接続し、どの充電器にどのEVが接続されているか特定し、認証に利用できることを確認したという成果を発表しました。

「PnC」とは充電器のケーブルをEVに接続するだけで認証や課金を行うシステムで、EV充電の利便性を高めることが期待されています。テスラ社のEVをテスラが独自に展開する急速充電インフラである「スーパーチャージャー」で充電する際は当初からPnCが利用できましたが、日本ではチャデモ規格による急速充電器、交流200V電源による普通充電器ともに、まだ対応する市販EV車両や充電器はありません。

ことに日本国内でEVの普通充電に用いられている規格では、EVと充電器の間に相互の個体識別機能が備わっていないため、充電するEVの特定や認証には充電専用のカードや専用のアプリが必要でした。

充電器が流す認証用電流の波形を照合

今回の実証実験では、日東工業のMode3普通充電器『Pit-2G』から送信される確認用の電流と、三菱自動車の軽商用EV『ミニキャブEV』、テスラ『モデル3』のコネクティッド技術を用いて送信される電流の信号を、ユアスタンドが構築したシステムで連携し、東京大学のシステムで充電器とEVそれぞれから送信されたデータを照合する仕組みになっています。

今回の実験システムの基本構成。(充電器とEVを2組用意)

EVに充電プラグが挿しこまれた際に、充電器とEVから送信された電流データ(電流波形)を照合して、データが一致した場合に自動で充電が開始され、EVを特定して、充電料金の課金を行うことも可能です。

この技術において、EVには早く正確に変調電流に応答することが求められるため、三菱自動車はミニキャブEVの充電電流の応答性を確認。結果として、ミニキャブEVで変調出来うる最大値まで電流を変調したところ、高い応答性が得られ、変調指示との差が小さいことが分かったため、本技術に対応できることが確認できたとのこと。

三菱自動車 軽商用EV『ミニキャブEV』の電流応答特性。

また「離れた場所にある2つの充電器それぞれにEVを接続し、それぞれに異なる変調電流パターンを与えて電流波形を照合したところ、どの充電器にどのEVが接続されているか特定できたため、認証に利用できることを確認」できたとしています。

東京大学生産技術研究所のYouTubeチャンネルで実証実験の解説動画が公開されているのでご参照ください。

【関連情報】
東京大学 生産技術研究所のプレスリリース

広く実用化するには自動車メーカーなどの連携が必須

充電器側に制御機能を備えた「Mode3」と呼ばれる規格で、通信機能を備えた普通充電器は日本国内の公共用普通充電器(おもに目的地充電施設など)ではすでにスタンダードな機器として拡がっています。今まで、固有の充電器とEVの接続を確認する方法がないことがPnC実現の大きな壁となっていたので、今回の新技術にはEVユーザーとしても期待が膨らみます。

いくつか気になる点があったので、まずは何かと取材させていただいているユアスタンドにメールで質問したところ、ユアスタンドの浦伸行社長と、東京大学生産技術研究所の馬場博幸特任准教授から即日回答(浦社長の回答に馬場特任准教授が追記など補足)をいただきました。一問一答スタイルで紹介します。

●車両データを得る「コネクティッドシステム」の通信方法と、ユーザーのコストは?

今回の実験では三菱自動車のミニキャブEVからは、実験用に構築した車両クラウドから電流値を取得し、テスラはAPIで電流値を取得しました。テスラのように、車両によっては充電中の電流値を取得することができます。
充電器に流れる電流と、プラグインしたあとに車両に流れている電流を例えば2分間分なら2分間分を一度に取得して、その電流の変化パターンが一致している場合に認証とみなす技術です。電流を変化させる機能は、Mode3充電器の標準機能なので特別な充電器も不要です。今ある技術で追加設備が不要なので、圧倒的にコストが低いことがこの技術の最大の特徴だと考えています。

●実用化には、すべからく自動車メーカーがこの規格(方法)に対応する必要があるかと思いますが、認識は正しいでしょうか。

ご認識の通りです。自動車メーカーが車両中の電流値を取得できるようにしてくれればこの方法で普通充電器のPnCが可能です。一方、少々古い時代のコネクティッド車などは、例えば、電流値をクラウドに上げていなかったり、その更新頻度が一時間に一回のみなど、実用には困難なケースがある模様で、このようにデータ対応しない自動車メーカーの場合は、これまで通りアプリで充電器を認証する使い方になります。

●三菱以外の自動車メーカーとの連携、また、Hondaとプラゴが進めている急速充電におけるプラグアンドチャージとの連携などはお考えでしょうか。

今回実証に参加した企業は、オープンな技術として今後広めていきたいと思っています。そのため、来年以降は今回参加した以外の自動車メーカー、充電器メーカー、充電サービス事業者とも協力して技術を広げていきたいと考えています。
ホンダ社とプラゴ社の急速充電との連携というより、この技術はEVユーザーが日常的(8~9割くらい?)に利用する普通充電でのプラグアンドチャージの技術なので、自宅や職場での日常的な充電には我々の技術を使っていただいて、お出かけした際に充電する場合は急速充電のプラグアンドチャージを使ってもらえればいいかなと思っています。

(質問&回答ここまで)

引き合いに出した「Hondaとプラゴ」については、『ホンダとEV用公共充電ネットワーク構築で協業/プラゴの大川社長に直撃インタビュー』という記事で紹介しています。

プラゴの大川社長も「(PnCは)すべてのEVメーカーや充電器メーカー、充電サービス事業者が関わるべき、いわば協調領域の課題だと考えている」という思いを語ってくれました。同じPnCでも急速充電と普通充電で方法などが異なるのは承知の上で、最後の質問はEV業界全体での連携の可能性を確認したいという意図があったのですが、ユアスタンドの浦社長も「EV業界全体で協力して技術を広げたい」というお答えでした。

まだ「第一歩」を踏み出した段階ともいえますが、今後の進展に期待したいと思います。

もう一点「なるほどなぁ」と感心したのが、テスラ車がすでに実装しているコネクティッド技術のレベルの高さです。モデル3による実験の様子は動画でも紹介されていますが、とくにテスラが関わらずとも、オーナーに開放されているAPIの機能でこれくらいのことはできてしまうということでしょう。コネクティッドカーとして、テスラがぶっちぎりで先行しているんだなぁと実感した次第です。

こうした技術は標準化されないとユーザーの利便は高まりません。認証に「例えば2分間」はちょっと長いかなと感じますが、実用化に向けてさらに進化していくのでしょう。この方法がベストかどうか、素人には判断できないけれど。日本国内でEVを発売する自動車メーカー各社には「一致団結してPnC実現を目指してほしい」とお願いしておきます。

取材・文/寄本 好則

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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