日本でもEV車種のバリエーションが増え、中古EVのタマ数が増えてきました。リセールが悪いと言われるEVですが、逆に考えると高級車が多い中古EVはお買い得では? サクラオーナーのジャーナリスト、中尾真二氏によるインタビューシリーズ企画第一弾です。
中古EVの真価に注目したい
隣の芝は青いもので、海外市場と比べると日本のEV市場は……という声はあるが、冷静に市場を振り返ると、輸入車ブランドはもとより、国内主要OEMでEVを販売していないところはほぼなくなってきた。
それに伴い中古EVを意欲的に扱う販売店が増えている。一般的にリセールが悪いとされるEVだが、中古車市場において、それはむしろ賢いユーザーにとって、程度のよいEVが破格で手に入ることを意味する。EVを購入するなら、中古EVが現実的かつ賢明な選択肢になってきているということだ。
マクロ的な視点で見ても、国内での中古EV市場を広げる意義もある。バッテリーや電子部品からはレアアースや貴金属などを抽出できる。このような資源は「都市鉱山」として注目されている。これまで日本の中古EVは多くが海外に輸出されていたが、資源の少ない日本にとって国富の流出に他ならない。
資源リサイクルだけでなく、大容量のEVバッテリーはパックやモジュールごとでも再利用価値が高い。HEMS(家庭用エネルギー管理システム)用の蓄電池、定置型蓄電設備にEVバッテリーをリユースする動きは世界中で行われている。
このような中古EV市場の高まりを受けて、編集部では中古EVを手掛ける専門店を中心に業界インタビューをお届けする。第一弾は、中古EV専門店のパイオニアともいえる「Ev CArS」を運営する株式会社ECOライフホーム代表取締役社長の佐久間竜一氏と、同店でカーライフアドバイザーを務める高橋佑介氏に話を聞いた。
「乗ればわかる」EVの魅力が専門店開設のきっかけ
Q. 本日はお時間をいただきありがとうございます。まずはEV専門の中古車店を始めた経緯や思いを教えていただけますか?

ECOライフホーム代表取締役社長の佐久間竜一さん。
佐久間氏(以下、敬称略) もともとはエネルギー関連の事業を20年以上やっていました。2005年ごろ、ガスや石油がメインだった給湯器に電気がでてきたのです。プロパンガスの1/10、都市ガスでも1/6というコストで効率よくお湯が沸かせることを知りました。私どもの業界でも勉強会や情報収集を行っており、これはお客様にお勧めできると考えて、オール電化の事業を始めました。
ただ、オール電化にすると、トータルの光熱費が下がるとしても電気の使用量は増えます。そのため太陽光発電、再エネなどオフグリッド系のサービスを提供しています。
Q. 高橋さんは、どんな経緯でこの仕事をするようになったのですか?
高橋氏(以下、敬称略) 私は自動車業界との縁はなかったのですが、地元の先輩であるYouTuber(EVsmartブログ著者陣でもあるEVネイティブ氏)の影響でテスラやリーフに乗せてもらってEVに興味を持ち始めたのがきっかけです。2022年に自分でもテスラを買い、こんなに面白い車があるなら、もっといろいろな人に使ってほしい。中古車店なら安い値段でユーザーを広げることができるのではないかと考え、先輩からも聞いていた「Ev CArS」で働かせてもらうことになりました。

カーライフアドバイザーの高橋佑介さん。
Q. なるほど。高橋さんもEVに乗ってファンになったパターンですね。私がサクラを購入したのもまさにリーフに乗った体験からでした。佐久間さんは、オール電化や再エネ事業をやっている中で、EVのビジネスを始めようと思ったきっかけはなんでしょうか。
佐久間 2019年ごろですが、青年会議所の行事で中国の深圳に行きました。ここで多くのEVが走っているのを目の当たりにして、ちょっと危機感を抱きました。ジェトロ(日本貿易振興機構)の講演では、バスなどの公共交通は90%くらいEVになっているとも聞いて日本とのギャップを実感したんです。
帰国後、テスラに興味を持ちまして、当時南青山のショールームに行ってテスラを試乗しました。その後、メルセデスのディーラーにも行って、EQCも試乗してみたんです。この試乗で、大きな感銘を受け、エンジン車とEVのギャップを感じたことを覚えています。またBMWや日産・三菱など国内でEVを取り扱っている全てのディーラーに行って、いろいろ話を聞きました。でも、当時のディーラーにはEVのことがわかる人がいなかったんです。ならば、これは自分が知識をつけて専門家になればビジネスになるのではないかと感じました。いろいろ調べて、必死に勉強して「CASE」というキーワードへつながり、今のEV専門店「Ev CArS」を始めたという経緯です。
再エネや電気工事も扱う専門店だからこその強み
Q. それが2020年ですね。当時はEV専門の中古車店はまだほとんどなかったと思います。EV専門中古車店のパイオニアであるというほかに、「Ev CArS」の強み、セールスポイントはどこですか?
佐久間 やはりエネルギー関連の業務を長くやってきているので、車両としてのEV販売だけでなく車種に合わせた充電設備のご提案やバッテリーの利用方法、V2Hまでトータルでサポートできることだと思っています。テスラはクルマとしてもすばらしいですが、充電環境によって車両へのイメージは変わってきます。
車種に合わせた充電環境へのアドバイスやサポートは従来の自動車業界の売り方ではカバーしにくい点でした。弊社では充電コンセントからデマンドコントロールなど高性能充電器まで、購入するEVに適した機器を選択し、自社での施工により安価で実際に設置するノウハウがあります。必要なら太陽光発電やV2Hのソリューションも提供できますし、事業者向けに急速充電器の設置や運用のアドバイスもしています。
Q. 中古車の場合、たくさんのEVメーカーの車種を扱う必要がありますが、具体的にどんな充電器を扱っているのでしょうか。
佐久間 たとえば、「Ev CArS」を運営するECOライフホームはテスラ「パワーウォール」(定置型蓄電池)の認定販売施工会社で、「ウォールコネクター」(高機能普通充電器)の推奨設置業者です。ほかにWallbox PulsarPlus(日本の販売代理店はユアスタンド株式会社)の認定施工店であり、EV充電用のコンセント設置工事からDELTAの高機能普通充電器や急速充電器設置まで手掛けています。
太陽光発電や蓄電池・V2H・EV充電関係では東京電力グループや日本瓦斯さんなどの業務提携があり、シャープ、京セラ、ニチコン、パナソニック、カナディアンソーラー、Qセルなどほとんどの国内外メーカーさんの販売施工認定を受けています。
設置場所(家庭や事業所)の電力契約や車種、バッテリー容量に応じた電力マネジメントや充電環境をご提案できるということですね。

店舗には実際に使用できるさまざまな充電器が設置されていました。
今、中古EVは狙い目なのか?
Q. ズバリ聞きますが、今、中古EVというのは狙い目なのでしょうか。車種が増えることで、中古EVも多く、手ごろな値段で出回るようになったと思います。売れ筋やオススメ車種はありますか?
佐久間 具体的な車種を挙げる前に説明すべきことがあります。「Ev CArS」では、EVを3種類に分けて考えています。というのは、ひとくちにEVといってもニーズや利用法がまちまちで、適したユーザー層も異なるからです。順に説明しておきますね。
●電気の自動車
まず、初期のリーフ、eNV200、ミニキャブミーブ、アイミーブなどは「電気の自動車」と呼んでいます。走行距離が限定的な社用車や営業車、業務用の車や日常の足、農家の軽トラックといった使い方であればコストパフォーマンスは高いでしょう。
このカテゴリーで目立つのが、三菱のアイミーブが採用していたSCiBバッテリーへのニーズが高いことです。バッテリーの耐久性が高く流通するタマ数が少ないので、プレミアが付くほど人気です。SCiBの「ミニキャブミーブ トラック」はとくにタマ数が少なくなっているので値段が下がりません。

「電気の自動車」のなかでも人気が高いミニキャブミーブ トラック。ほぼ倍のバッテリーを搭載した日産サクラの中古と価格はほぼ同じでした。
●普通のEV
次のカテゴリーは「普通のEV」と呼んでいます。現行リーフ、アリアやサクラ、メルセデス・ベンツのEQシリーズ、BYD、BMWやVW、トヨタ、ホンダ、スバルなどです。「テスラ以外のEV」という言い方がわかりやすいかもしれません。日常の足、ファミリーカー、法人の営業車としてのEV。一般的なオーナーカーとしてのEVです。
航続距離性能などは10年前の「電気の自動車」から飛躍的に進化しているので、マイカーや法人の営業車として活用する上で問題はありません。

「普通のEV」日産リーフはコストパフォーマンスが高い。
●EV CAR
3つ目のカテゴリーが、テスラに代表される、機能アップデートが可能であったり、EVならではの体験をもたらしてくれるEVです。これは、店名になぞらえて「EV CAR」と呼んでいます。充電性能や動力性能、ADAS系の制御がアップデートされるなどの付加価値があって、従来の中古車や他のEVとは区別しています。またこのカテゴリーでも年式によって充電性能やバッテリー性能は変わります。この分類には、IONIQ 5などヒョンデのEV車種も入ると思っています。

「EV CAR」で人気&オススメはやはりテスラ車。独自のスーパーチャージャー網が拡充中。
ことにエンジン車から初めてEVに乗り換える場合、この「EVには3種類ある」といったポイントを含めて、あらかじめEVsmartブログなどでEVについて車種やEV充電環境の理解を深めてから購入するのが、後悔しないコツと言えるでしょうね。
10年落ちでも価値が落ちにくいEVがある
Q. 一方で、EVはリセールが悪いという意見もあります。EV専門の中古車店としてはどうなのでしょうか?
佐久間 確かに、EVはリセールが悪いといわれています。これは高額な補助金がでている以上やむを得ないことです。中古車の価格はどうしても補助金を差し引いた金額をベースとして計算されてしまいます。
ただし、新車で購入したEVを数年で手放す際の下取り額はエンジンの人気車種に比べて安いかもしれませんが、搭載しているバッテリーの価値以下には落ち込むことが少ないといえます。また、EVならではの付加価値が高まり、ある程度まで価格が下がるとエンジン車と比べ逆に価格が下がりにくくなります。先ほど述べたSCiBを搭載したミニキャブミーブは、10年落ちの軽トラックでも100万円以上が相場です。これはガソリン車では考えられません。中古EVを買いに来る方というのはEVの実性能を理解しバッテリーの価値をわかってきているのではないでしょうか。
Q. 中古EVの人気はEVやバッテリーへの理解が深いユーザーに支えられている面があるということでしょうか。
高橋 もちろんそういう方も多いです。一方で、EV初心者の方も少なくありません。たとえば、国や自治体の再エネ、蓄電池や充電器などの補助金や助成を受けるとき、EVを所有していることが前提だからという理由や、移動とV2H、電気代の節約が両立できるということで買いに来る方もいます。
営業車の場合、1日の走行距離が見合えば中古のEVはコストパフォーマンスにも優れています。
プロに聞く狙い目の中古EVは?
Q. その中で人気車種やおすすめの車種にはどんなものがありますか?
高橋 使い方やライフスタイルによって異なるので難しいですが、「EV CAR」がほしいならやはりテスラということになります。日常の街乗りで十分というのであれば「電気の自動車」がお買い得ですし、なかでも耐久性に優れたSCiBを搭載したEV(i-MiEVやミニキャブMiEVの一部)は自信をもってオススメできます。SCiB のEVには10年経ってもSOH (バッテリーの健全度を示す指標)105%という劣化知らずの数値をもった個体が珍しくありません。
佐久間 EVの中古車はさまざまな機能やバッテリーの劣化など、本当の理解と目利きが重要です。EVの場合、外観や内装だけ見てもバッテリーの状況はわかりませんから。
Q. バッテリーの状態やSOHはどのように目利きしているのでしょうか。メーカーによってはディーラーでもSOHの数値を教えてくれないところがあります。
佐久間 テスラはユーザーが充電などのログを見ることができます。これでかなりの分析が可能です。SOHの計測器やリーフスパイのような機器やアプリもありますが、現在はあまり使っていません。むしろ、オーナーの使い方、利用スタイル、整備記録をしっかり確認すれば、セグ欠け表示だけでもバッテリーの状況をかなり正確に判断することができます。
Q. バッテリーの保証について「Ev CArS」でなにかプログラムがあったりするのでしょうか。
佐久間 基本的にはメーカー保証による対応になります。ただ、メーカーも大手中古車会社も、バッテリーの価値を指標化したいという要望はあります。バッテリー保証や中古EVの性能評価については、今後業界全体での取り組みが整備されれば、さらに中古車市場、バッテリーのリユース市場が活性化するのではないでしょうか。
中古車の充電無料プラン、バッテリー保証など
Q. たとえば、初期のテスラには、車両によってスーパーチャージャーの永年無料が付いていたかと思います。それを新しいオーナーが引き継げるかという点も気になるのでは。
高橋 SC無料が紐付いていたのはかなり初期の車両で、今はもうほぼ出回らなくなっています。一方で、車両の機能は普通の「オートパイロット」にも関わらず、展示車両に「フルセルフドライビング搭載」などと表記しているケースもあるようです。売る方も買う方も情報を整理できていないことがあるので、気になる点はしっかり調べて確認するのがオススメですね。
Q. EVメーカーでも認定中古車制度を敷いているところがあります。認定中古車と比べて「Ev CArS」で下取りしてもらう、あるいは購入するメリットというのはどうでしょうか。
高橋 比較するのは難しいですが、専門店なのでEVを欲しいというお客様のニーズに寄り添っているという点でしょうか。当店ではオークションに出すために仕入れることは原則ありません。在庫の回転も速く(取材当日、屋外には展示車があったが、ショールーム内は1台もなくガランとしていた。前の週に納車が続いたとのこと)、買い取り、販売ともにサービスに還元できるように努力しています。
Q. 最後にEV購入のポイントについてまとめていただけますか?
佐久間 先ほど述べたようにEVといっても「電気の自動車」から「EV CAR」まで幅広いことと、充電環境はお客様によって様々ですので、自分のライフスタイルにあったEVを理解し、EVと充電設備を選ぶことが重要だと思います。使い方やライフスタイルに合わないと、不満を感じたまま手放すことになって「もうEVは要らない」ということにもなってしまうでしょう。しかし、好みやライフスタイルに合えば、次も必ずEVを選ぶようになると思います。EVをよく理解して自分に合った一台を選ぶ。これが一番のポイントだと思います。
高橋 セールスの現場で特に注意して確認しているのが、自宅や職場での充電環境です。サクラなどは自宅で基礎充電ができると、その後の便利さがまったく違います。「Ev CArS」では、充電環境の選択から施工までしっかりサポートしています。
(インタビューここまで)
今回のインタビューでは、EVは車両そのものの価値だけでなくバッテリーの付加価値が無視できないということを改めて認識した。また、EVは基礎充電環境を整えてこそ真価を発揮することを再確認できた。
EVの中古車市場はエンジン車に比べてまだまだ発展途上といえるだろう。本当に「中古EVはお買い得?」なのか。さらに取材を続けたい。
取材・文/中尾 真二
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