福岡県北九州市で「EVモーターズ・ジャパン」の商用EVの最終組立工場「ゼロエミッション e-PARK」の建設が着々と進んでいます。第1期工事が完了してお披露目した工場見学に訪れた機会に、代表取締役社長の佐藤裕之氏にインタビュー。環境エネルギーの浸透とゼロエミッション社会の実現に向けた構想やプロジェクトの進捗についてお話を伺いました。
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真新しい本社の会議室でインタビュー
株式会社 EV モーターズ・ジャパン(EVM-J)は、福岡県北九州市に本社を置く商用EVのベンチャー企業です。EVバスを中心に、商用EVから電動トライク、さらにCHAdeMO規格の急速充電器や定置型蓄電池、次世代CIGS軽量フレキシブルソーラーパネルなどのプロダクトを提供。「環境エネルギーの浸透とゼロエミッション社会の実現」をビジョンに掲げ、着実に事業が進展中です。
※冒頭写真は完成して間もない自社工場の試運転コース。
自社工場となる「ゼロエミッション e-PARK」は、第一期工事が完了して本社社屋や組立棟、デバッグ棟、試運転コースなど一部施設の運用が始まっていると聞き、工場見学の取材に訪れるとともに、代表取締役社長の佐藤裕之さんにインタビュー。佐藤社長へのインタビュー記事は2022年にも紹介しましたが、はたして、ビジョン実現に向けたプロジェクトがどのように進んでいるのでしょうか。
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大阪・関西万博には約150台のEVバスを納車

EV普及へのビジョンを語る佐藤裕之社長。
– 大阪・関西万博の会場で、会場内を周回するEVM-Jのバスに乗ってきました(レポート記事)。
佐藤(敬称略) われわれのEVバスは、会場内の巡回バスを中心に運用される小型のコミュニティバスと、主要駅などと会場を結ぶシャトルバスとして運用される大型バス、合計で約150台を納入しました。

万博会場ではEVM-JのEVバスが大活躍。
– 自動運転や走行中給電(非接触充電)が実際に運用されているのが感慨深かったです。
佐藤 レベル4相当の自動運転や非接触充電は、そうした技術開発に取り組んでいる国内メーカーと協業して車両を開発して運用しています。こうした先進技術は万博という特別な場所だから実現できているということではなく、条件さえ整えばさまざまな街で実用化できる状況になってきています。実際に、2024年の12月から愛媛県松山市で自動運転レベル4対応のEV路線バスが運行を始めてますし、沖縄県豊見城市でも実証を行いました。
– 進化のスピードが速いです。もう「やればできる」ということなんですね。
佐藤 今までのEVバスは、エンジン車からのコンバージョン(改造)が多く、エンジンスタートひとつとってもドライバーが操作する必要がある車両がほとんどでした。全ての操作を電気信号で行うレベル4相当の自動運転には、そもそも電気自動車として開発されたEVバスが適しています。
日本仕様の優れたEVバスを実現するチャレンジ
– 2022年に取材させていただいて以降、順調に納車実績を積み上げていらっしゃいますね。
佐藤 そうですね。万博への約150台だけでなく、全国のバス事業者様に多くのEVバスを納車させていただいています。北限は北海道で、青森県や宮城県などの東北地方にも納車しました。ご存じの通り、寒冷地はEVがあまり得意でないとされています。逆に、沖縄県や九州などの暑さも電池の特性からいってEVはあまり得意ではありません。寒冷地や酷暑への対応など、全国各地のバス事業者様への納入と運用を通じて、日本独特の気候に対応した優れた仕様のEVバスを開発することへのチャレンジを続けています。

2024年12月には「ゼロエミッション e-PARK」 第一期工事完成お披露目会が開催されました。
– ファブレスメーカーといえば、中国から完成車をもってきてバッジを付け替えるといったイメージがありますが、EVM-JのEVバスはインバーターなども自社開発なんですよね?
佐藤 そうですね、今、北九州に自社の組立工場を建設中ですが、それまでは最終組立の委託生産は中国の工場で行っていました。とはいえ、もともと中国メーカーの製品をそのまま運んできているわけではありません。たとえば、われわれのEVバスは、重要なパーツであるシャシーを塩害や融雪剤に対しても耐久性が高いステンレスで組んでいます。もちろん鉄製のシャシーに比べて長寿命ではあるのですが、金属の特性として硬いので、フィンランド製で弾性のあるステンレスを使っています。
また、足回りのパーツやヘッドライトはドイツ、ドアはオランダ、ワイパーはスペイン、モーターはアメリカ製などを指定して使っています。もちろん、中国製のパーツも使用しています。つまり、われわれが求める品質を実現するために、グローバルで最適なパーツを選択して、中国の工場で組み立てていたということです。
– あくまでもEVM-Jが設計した日本仕様のEVバスということですね。
佐藤 その通りです。日本のバスはおおむね20年程度は使われます。20年もつボディを実現するためにステンレスやカーボンを使い、軽量化のために床材はアルミのハニカム素材を使っています。また、EVバスは新しい事業領域なので機能のアップデートにも迅速に対応しなければなりません。インバーターをはじめ、パネルメーターやメインのコントローラーなど、日本の需要に合ったものを自社で開発製造するためにも、「ゼロエミッションe-PARK」が必要だったということです。
今後、日本の電動モビリティはどのように普及するのか

全国各地に続々とEVバスの納入が進んでいます。写真は2025年3月に納車された大分バスの大型路線EVバス。
– EVM-JではEVバスを中心に展開してますが、今後の電動モビリティ普及についてどのようにお考えですか。
佐藤 基本的に「経済合理性」がポイントになると思っています。EVとエンジン車を比較すると、航続距離と充電時間が課題といわれます。そうした課題を解消するために重要な視点が「地域交通」と「地域物流」だと考えています。
地域交通というのは、路線バスですね。毎日決まったルートを運行するのですから、航続距離は100km前後で十分という路線が多い。また、事業所に戻って夜間に充電すればいいですから、充電時間やインフラも問題にはなりません。同様に、ラストワンマイルの物流、つまり地域物流のモビリティもEVで問題はありません。
地域交通や物流の車両は、EVととても相性がいいんです。その上、部品点数が少なくてメンテナンスが楽になり、走行コストはガソリンやディーゼルに比べておおむね半額以下になる。つまり、経済合理性が成り立つんですね。
– EVは経済合理性が高いと、広く知ってもらうことが大切ですね。
佐藤 はい。まずは自治体や官公庁主導で公共交通へのEV導入を進めてほしいと思います。それが民間のEV導入拡大にも繋がっていくと思っています。実は、観光地のホテルの送迎用車両など、白ナンバーのバスの需要は非常に大きい。また、エンジンの保冷車は信号待ちでアイドリングストップすると冷蔵庫のコンプレッサーが止まってしまうのですが、EVならこうした課題が解決できます。ほかにも工場内の運搬車両など、EVが適した用途は少なくありません。EVを使うべきところからEVシフトを進めることが、モビリティのカーボンニュートラル実現に近付く賢明な方法だと思います。
– 大阪・関西万博に納入された約150台のEVバスは、万博会期が終わったら、大阪の街を走るんですよね?
佐藤 そうですね、会期後は民間で運用を続けていくと伺っています。大阪・関西万博の前はドバイ、その前は上海だったのですが、中国でも上海万博が終わった直後から一気にバスなどのEV化が進展しました。ドバイでも相当な数のEVバスが走ったと聞いています。今回の万博は「環境」や「エネルギー」が大きなテーマとなっています。EVMJのEVバスがトリガーとなって、会場を訪れるみなさんのカーボンニュートラルへの理解が広がることを期待しています。
適した場所からEVシフトを進めるべき
約1時間にわたって佐藤社長の熱い思いを伺いました。自社工場建設はもとより、3年前に伺ったビジョンが着実に実現している様子を見学できたのも、EV普及を応援するメディアとして勇気をいただくことができました。
EVM-Jには、野生動物を見学するサファリパークからも問い合わせが来ているそうです。動物にも乗客にも優しいEVバスは、まさにうってつけだと思います。
ほかにも、自社製急速充電器のことや、自社生産バスの型式指定に関することなども話題となりましたが、記事としては「EVMJのEVバスが日本のEV普及のトリガーとなる!」という主旨で端的にまとめてみました。
「日本はエンジンで成功した国であり、なかなかEVが広がらなかった。EVバスも多くがコンバージョンという改造車だったため、EVが本来もっている特性や性能を十分に発揮できていない面もあったでしょう。これからは専用設計で、日本仕様を突き詰めたEVバスをはじめとする商用車を見て、使っていただくことで、EVに対するイメージが変わっていくのではないかと思っています」と佐藤社長。
たんなるエンジン車の代替としてではなく、EVだからこそ実現できる快適で環境に優しいモビリティ社会が進展していくことを願っています。
取材・文/寄本 好則
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