2025年のゴールデンウィークも、多くの観光客が訪れた『立山黒部アルペンルート』。2025年4月15日から立山トンネル(大観峰↔室堂)の区間でBYDのEVバス『K8』が走っています。世界有数の山岳観光ルートを走るEVバスの乗り心地を、モータージャーナリストの諸星陽一氏がレポートします。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
立山黒部アルペンルートとは?
戦後の高度成長期、関西地区の電力不足を解消するために建設された黒部ダム。その黒部ダム建設時に使われた道路やトンネルなどを利用して、富山県側の富山地方鉄道立山駅と長野県側の扇沢駅(関電トンネル電気バス)を繋ぐ山岳観光ルートが『立山黒部アルペンルート』と呼ばれています。
ルート上の乗り物案内

立山黒部アルペンルート公式サイトから引用。
富山県側から順に、以下のような「のりもの」を利用します。
●立山駅↔美女平:ケーブルカー
●美女平↔室堂:ディーゼルバスおよびハイブリッドバス
●室堂↔大観峰(トンネル):EVバス
●大観峰↔黒部平:ロープウェイ
●黒部平↔黒部湖:ケーブルカー
●黒部湖↔黒部ダム:徒歩
●黒部ダム↔扇沢(トンネル):EVバス
立山黒部アルペンルートを自家用車などで巡ることはできません。とくにトンネル内は排ガスの換気装置なども備えてないため、電動車であることが重要なポイントとなっています。
以前はトンネル内の電動バスは架線から電気が給電されるトローリーバスでしたが、2018年に黒部ダム↔扇沢のルートを走っていたトローリーバスが役目を終えて、2019年から充電式EVバスに更新。室堂↔大観峰のトローリーバスも2024年で終了し、今年から充電式EVバスに更新されました。
立山トンネル区間の『K8』納車式へ
この室堂↔大観峰ルートに採用されたのがBYDのEVバスである『K8』です。2025年の山開きに合わせて『K8』の納車式が行われるとのことで、4月15日、会場となる室堂に向かいました。
※冒頭写真は左からBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長、BYDジャパンの石井澄人副社長、張俊衛社長室室長。
当初の予定は立山駅からケーブルカーでアクセスする予定だったのですが、あいにくの荒天となりケーブルカーが運休。富山県側からのアクセスはできなくなってしまいました。しかし、長野県側はさほど天気が悪くないという情報があって急遽自走(シーライオン7の試乗も今回の取材の一貫でした)で長野へ移動、扇沢から室堂を目指しました。結果、大観峰に無事到着し室堂まで「K8」に乗りました。
室堂(標高:2,450m)~大観峰(標高2,316m)と標高2500m近い高地を走る『K8』は、何か特別な仕様変更を施したモデルではなく、街を走る路線バス仕様そのままです。そのため、降車ボタンもありますし、USBポートも装備されています。
駆動用バッテリーはリン酸鉄リチウムイオンで、容量は314kWhです。バッテリー搭載位置は床下ではなくルーフ上です。モーターは100kW×2基で左右の後輪にそれぞれ配置されるインホイールモーター式となっています。
大観峰から室堂まで乗車して折り返し、さらに室堂から大観峰まで乗った印象は、じつにトルクフルでスムーズな加速を感じられました。バッテリーがルーフに積まれているということは、重心が高くクルマの安定性的には不利なのですが、そうしたネガティブな印象もありませんでした。
扇沢↔黒部ダムルートの電気バスはパンタグラフで充電可能
富山県側からアクセスする当初の予定では大観峰でUターンする計画だったので、黒部ダム↔扇沢の電動バスには乗れないはずだったのですが、ルートを変更したおかげで、黒部ダム↔扇沢の電動バスにも乗ることができました。

関電トンネルのEVバス。(撮影/木野龍逸)
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黒部ダム↔扇沢の電動バスはディーゼルバスをベースとしたコンバートEVでした。パンタグラフからの超急速充電を可能にするなどユニークな仕様となっているモデルですが、乗り心地という点では「K8」の勝ちという印象。黒部ダム↔扇沢のバスでは微振動がつねにありましたが「K8」にはそうした振動もなく、非常に快適でした。
立山黒部アルペンルートは閉鎖されたルートとなるため、ナンバーを取得せずとも運用が可能なのですが、BYDが納入した8台の「K8」はすべてナンバーを取得しています。ナンバーを取得したことで補助金が交付されるメリットがあるとのことです。
ただし、ナンバーが付いているので当然車検を受けなくてはなりません。普段の整備はトローリーバス時代に使っていた整備施設を利用して整備できますが、車検は指定工場での整備が必要になるため、山を下りて車検を受けるとのことです。一般車は走行できませんが、関係車両だけが走行できるルートがあり、雪がなくなればそのルートを使って山を下りるそうです。「K8」も運用は4月15日からですが、昨年の雪が降る前に室堂まで運ばれてスタンバイしていたとのことです。
さて、なんといっても気になるのは充電でしょう。「K8」はCHAdeMO規格の急速充電のみの対応です。バックヤードに最大出力90kWの充電器が備えられ、約3.5時間で充電は完了するとのこと。一充電での航続距離は240kmで、8台の「K8」のうち6台を稼働させ、残り2台はバックアップにまわる運用方法です。
BYDは日本での乗用車の一般販売は2023年スタートのATTO3からですが、電動バスについてはすでに10年の販売実績があります。とくに電鉄系では多く採用されているとのことで、信頼性の高さは実証済み。現在も電気バスは小型が1種、中型が1種、大型2種用意されています。
公共交通のEVシフトは「できるところから進めていく」のが賢明です。走行ルートが限定されていてそれほど長くない立山黒部アルペンルートは、まさにEVバスが最適なルートだと思います。ケーブルカーやロープウェイも楽しいし、黒部ダムや室堂の絶景は、一生に一度は訪れたい場所。読者のみなさんも、機会があればぜひEVバスに乗りに行って(それが主目的かよ! と突っ込まれそうですが)みてください。
取材・文/諸星 陽一
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