EVで世界を変えつつあるテスラの定置型蓄電池「Powerwall(パワーウォール)」を事業所などに初期投資&メンテナンス費用不要で設置して、全国規模のVPPを構築する取り組みが始まりました。高圧受電の事業所などが対象で、2025年度内に100台を設置、その後さらに拡大を目指します。
テスラの蓄電池を使った全国規模のVPP構築プロジェクト
法人向けリースやファイナンスサービスを提供する芙蓉総合リース株式会社と、電力小売や蓄電池提案などの事業を展開する株式会社グローバルエンジニアリングが、2025年6月からテスラの定置型蓄電池パワーウォールを無償設置して、全国規模のバーチャルパワープラント(VPP=Virtual Power Plant=仮想発電所)を構築するサービスを開始したことを発表しました。
サービスの名称は「DERアグリゲーションサービス」です。「DER」は「Distributed Energy Resources」の略で、「太陽光発電設備や風力発電、蓄電池など、全国各地に分散したエネルギー資源」のこと。「アグリゲーション」は直訳の「農業」ではなく、VPPを構築するために必要な各地で分散発電された再エネ電力(リソース)を集約&制御(アグリゲーション)する「リソースアグリゲーション」というエネルギービジネス用語です。
本サービスでは、グローバルエンジニアリングが電力供給を行っている特別高圧及び高圧受電の事業所などを対象にパワーウォールを無償で設置。出力抑制が見込まれる昼間の時間帯などに蓄電池を充電し、太陽光発電が減少し電力料金が割高となる夕方時間帯に放電を行うなど、グローバルエンジニアリングが運用コントロールを行って初期投資などを回収していく計画です。設置するパワーウォールは芙蓉総合リースが所有するリース物件となるため、設置するユーザーにとっては初期投資やメンテナンス費用不要で電気料金の低減を図りつつ、災害などによる停電の際は、蓄電池に充電されている電力を利用することができます。
設置先の想定としては、高圧受電している事業所、工場、病院などとなり、テスラの発表によると「まずは、2025年度内に100台のPowerwallを設置、その後さらに拡大していく予定」とのこと。EVや定置型蓄電池の普及拡大によって話題になることが多い「VPP」ですが「全国規模の本格的な取り組みは日本初」となります。
高圧受電している事業所などのご担当者、あるいは社長さんなどで「いい話じゃないか、ぜひうちにも!」と検討してみたいという方(グローバルエンジニアリングの電力供給と合わせての導入が必要です)は、グローバルエンジニアリングにメールでお問い合わせください。

オフィスへの導入イメージ。

病院への導入イメージ。
●株式会社グローバルエンジニアリング公式サイト
(メールアドレス/eigyou@g-eng.co.jp)
「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」
テスラのパワーウォールは、国などの補助金交付の条件とされる「JET認証」を取得していないため、補助金は使えません。それでもこのサービスの蓄電池にパワーウォールを選んだのは1基当たり「13.5kWhの大容量」や「5kWの高出力」、遠隔制御する「ソフトウェア」などの機能と、長い目で見たコストパフォーマンスがVPP構築というプロジェクトのツールとして最適だったからです。
そもそも、テスラはかねて「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」というミッションを掲げ、2017年にはアメリカ本国の社名を「Tesla Motors, Inc.」から「Tesla, Inc.」に変更(2024年には日本法人も「Tesla Motors Japan合同会社」から「Tesla Japan合同会社」に変更)しました。このサービスでは、テスラは「蓄電池のサプライヤー」という立場ではありますが、関係者によると、再エネや蓄電池普及というエネルギー変革の具現化に向けて「各地に設置された複数台のパワーウォールを遠隔制御するためのソフトウェアの提供や開発サポートなどにも協力していく」とのこと。
今回、まずは高圧受電契約者限定のサービスとして開始されましたが、関連制度の整備などによって「2026年以降は低圧受電の需要先にも拡大できる可能性」があるとのこと。
今のところ、VPPは電気自動車、というかチャデモ規格の特長である「V2H」機能の恩恵としてセットで語られることも多いですが、車庫に停めたEVを常に系統電力網(家庭)に接続し、駆動用バッテリーの電気を頻繁に出し入れすることにはさまざまなストレスが伴うのが現実でした。機能とコストパフォーマンスに優れ、デザインの見た目もかっこいいパワーウォールの無償設置によるVPPに参画できるのであれば魅力的。我が家には太陽光発電パネル(PV)を設置していないですが、今回のリリースを見るとPV設置はとくに条件とはなっていないので、EV普及とともに再エネ普及を願うEVユーザーとして選択しない理由はないでしょう。また、補助金頼りではないビジネスモデルとして成立するのであれば、とても素晴らしいことだと感じます。
今回のサービスはグローバルエンジニアリングというアグリゲーター(電力の需給調整を行う事業者)の一企業が軸になったプロジェクトであるものの、これが「上手くいくぞ!」ということになれば低圧受電の家庭用を含めて、さまざまなアグリゲーターによるVPP構築サービスが発展していくのではという期待が膨らみます。「DERアグリゲーションサービス」の進展と成否に注目していきたいと思います。
取材・文/寄本 好則
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