12回目を迎えたEVの祭典、ジャパンEVラリー白馬(7月12〜13日)には、今年もユニークな挑戦をしているEVエバンジェリストが参加していました。その一人が日本一周中の三菱i-MiEVオーナー。69日間かけて前半を終えたとのことで、どんな旅だったのかインタビューさせてもらいました。
定年退職を機に電気自動車日本一周にチャレンジ
日本列島のステッカーを貼った白いi-MiEV(2010年式)のオーナーは、長野県在住の権田秀夫さんです。EVラリーの常連であり、会場でも日本一周に挑戦していることを紹介されていました。
「定年退職したら、しばらくは悠々自適な生活をするつもりで、1年目は好きな旅行をしようと考えていました」(権田さん)
これまでも、海外よりは国内を旅することが好きだったそうです。今年4月に無事に仕事を勤め上げて、いよいよ日本一周にチャレンジ。とはいえ、2017年に中古で購入した権田さんのi-MiEVは、走行用バッテリー容量が16kWh。最新のEVとは比べものにならないコンパクトな電池しか積んでいません。
カタログ上の一充電航続距離は164km(JC08モード)とはいえ、経路充電でSOC(充電率)100%にするのはなかなか困難です。30分の急速充電1回で期待できる航続距離は「気候のいい時なら80km、冬場は50km」が目安だとか。かなりハードな充電旅になることは必至です。
「i-MiEVでやることになったのは、たまたま自分が乗っていたからですが、職場のみんなからは心配されましたね」
実際、旅のあいだは1日3〜4回充電するのが当たり前。北海道では1日7回充電したこともあったそうです。

ジャパンEVラリー白馬でも「ハッピーチャレンジ賞」を獲得!
訪れてみたい場所を繋いでいく贅沢な旅
さて、日本一周といっても、人によってイメージがいろいろあるでしょう。なるべく海岸線をたどる、道の駅を制覇する、観光スポットをめぐる……。権田さんの場合は、都道府県庁を目指しながら、著名な観光地もできるだけ回っていく、という方針で、ルートを組み立てているそうです。
「ひとつの県に3日ぐらいかけています。4月から5月にかけては天気も良くなかったので、ときどきオフの日も作って、訪れた街で映画を見たりもしていました。宿泊については、ずっと車中泊では体力的に持たないと思ったので、ビジネスホテルやカプセルホテル、健康ランドなどを、ネットで予約しながら利用しています」
長野の自宅を出発したのは2025年4月13日。桜前線を追いかけるように北上しました。高田城址公園(新潟県上越市)から、一度福島へ入って三春滝桜(福島県三春町)を鑑賞。山形の霞城公園(山形市)、秋田の横手城(横手市)、角館武家屋敷(仙北市)、桜・菜の花ロード(大潟村)などを経て、青森の弘前城(弘前市)へ。4月27日に青函フェリーで北海道に渡り、五稜郭(函館市)、大通公園(札幌市)、さらには旭山公園(旭川市)まで訪ねて桜を鑑賞したそうです。ずらっと並んでいる桜名所を聞くだけでうらやましいですね。

秋田県大潟村の「桜・菜の花ロード」。
「旭川から先は充電設備も少なくなってしまうので、桜を追いかけるのもそれぐらいにして、そこから本州に戻ることにしました」
5月の連休は北海道で過ごし、苫小牧まで戻ってきてフェリーで青森の八戸へ。そこから岩手、宮城、福島と太平洋側を南下。もりおか歴史文化館(盛岡市)や小岩井農場(岩手県雫石町)といった施設や、奇跡の一本松(岩手県陸前高田市)、南三陸町旧防災対策庁舎(宮城県南三陸町)などを訪れました。防災に関係した仕事をされていたそうで、いくつかの震災伝承施設は見逃せなかったといいます。
そのあたりから「少しプランニングの仕方が変わってきた」と権田さんは振り返ります。「最初のうちは、朝起きて『今日はどこへ行こうか』と考えるような感じだったんです」。自由でいいですよね。旅はかくあるべし、とも思えます。ただ、たどってきたルートの近くに「座敷わらし伝説の宿」があったことを、通り過ぎてから気付いて後悔したのだとか。
「その宿の宿泊予約は1年先まで埋まっているのですが、昼間は開放されていて見学できたんです。見逃してしまったのが残念で、これはしっかりリサーチした方がいいと思い直しました。ひとつの県に3日ほど滞在するペースはそれほど変わらないけれど、前半は桜を追いかけて大胆に移動していたのが、後半は見学を意識して刻んでいた印象があります」
関東地方は、茨城、栃木、群馬、埼玉、東京と反時計回りに訪問。続いて千葉をぐるっと回って、アクアラインで神奈川へ。静岡を西端に近い浜名湖まで走ってから、山梨経由で長野の自宅に戻ってきたのが6月20日でした。
前半(東日本)の走行距離は約6000km

新潟県柏崎市にて。
東日本を巡った前半の旅。69日間で走行距離は6028.1kmに達しました。充電料金や宿泊費、高速代、フェリー代などを合わせてかかった費用は約100万円だったそうです。
気になる充電回数は、なんと176回。三菱の電動車両サポート会員カードに加えて、エコQ電などのアプリもいくつか用意して臨んでいます。ただ、記録を見せていただくと、料金が安く済む三菱ディーラーでの充電が多めです。2009年に世界に先駆けて量産型EVのi-MiEVを発売して以来、三菱が全国のディーラーを中心に作り上げてきた充電網は、やっぱり頼りになるということですね。
権田さんは、三菱ディーラーに立ち寄るついでに、デリカミニのCMキャラクター「デリ丸。」のご当地アレンジを写真に収めるのも楽しみにしているそうです。「わんこそばデリ丸。」を探して立ち寄った岩手三菱自動車販売千厩店では、スタッフに取材されてお店のブログに記事が載っています。
日本一周の半分、東日本編を終えた権田さんですが、じつは今回の旅に出る前から、仕事やプライベートで、全国すべての県庁所在地は訪問済みだったそうです。
「でも、車で行くと全然違いますよね。公共交通機関だと、駅のまわりや目的地の周辺だけになってしまう。これまで行けなかったところ、立ち寄ってみたかった場所を訪ねることができたのはよかったです。そこでの暮らしがどんな感じなのか、とか行ってみて初めて感じられることもあります。とても勉強になりました」
一方で、グルメについてはついつい後回しになったとか。出張などの際にはリサーチを欠かさず、地元の美味しいものを堪能していたそうですが、今回の旅では、行きたい場所や見たい景色が優先。弁当を車中で食べたりもしていたとか。私もひとり旅では粗食が多いので、気持ちは理解できます。
日本一周の旅は「一筆書き」
「やっていて気づいたんですが、日本一周って一筆書きなんですよ。気になった場所を訪ねたりするのに、なるべく引き返したりしないようにつないでいくのって、結構なスキルがいることがわかりました」
加えて、航続距離が短いi-MiEVですから、電欠しないように充電スポットを頻繁にルートに織り込む必要もあります。
「さすがに高速道路では何度かおかわり充電をさせてもらいました。新潟から福島に抜ける磐越道が一番ヒヤヒヤしました。電池が減ってきているのに対面通行になってしまって、これで止まったりしたら大顰蹙(ひんしゅく)だと思って。航続距離ひとケタでなんとかサービスエリアの充電スポットにたどり着きましたけれど」
目的地までの充電プランを立てるのは、EVライフの楽しみのひとつですが、i-MiEVだとかなり難解なのかもしれません。それはそれで面白そうではありますが。
ちなみに、一番印象に残っている場所は、リニア見学センター(山梨県都留市)。「試験走行を見られて楽しかったです。新幹線の倍ぐらいのスピードなんですよね。カメラを構えていた人たちが、みんな撮れなかったぐらい。私はビデオだったのでしっかり撮れました」。
もうひとつ挙げてくださったのが、八ッ場ダム(群馬県長野原町)。「ちょうど放流していて迫力があって、すごくきれいなブルーでした」。どちらも長野の隣県だというのがちょっと意外。幸せの青い鳥、という言葉を思い出しました。
後半にあたる西日本編は、8月末からスタートすることを考えているそうです。航続距離を優先してエアコンをつけずに走るため、暑い季節はお休み。
「東日本編で訪ねたのが18都道県、10日もかけた北海道をひとつと数えるのもどうかと思いますけれど(笑)。残っているのは29府県ですが、沖縄をどうするか考えています。フェリーで航送すると10数万円かかっちゃうんですよね。でも行かないと『ほぼ日本一周』になっちゃいますもんね。車を置いて私だけ渡るとか……うーん」
しかし、お話を聞いていると、自分でもやりたくなってきます。そう伝えると、すかさずこんな返事が。
「ほんとおすすめです。機会があったらみなさんも日本一周するといいと思います。すごく勉強になりますから。大人の社会科見学って楽しいですよ」
西日本編についても、もちろん取材させてもらうつもりですが、できればどこかでランデブーなどしてみたいです。「後半戦も安全運転で完走して、航続距離の短い軽EVでも日本一周できるという実績のひとつになればと思っています」と権田さん。読者のみなさんも、どこかで日本列島のステッカー付きi-MiEVと遭遇したら、ひと声応援をお願いします。
とりあえずは、無事に半周、おつかれさまでした!
取材・文/篠原 知存
※記事中の旅写真は権田さんにご提供いただきました。
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