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テスラが日本でいちばん売れてるEVになる? 日産のEVが売れないのは、なぜ?

テスラが日本でいちばん売れてるEVになる? 日産のEVが売れないのは、なぜ?

日本経済新聞が「テスラが国内EV首位肉薄」と題して、8月の国内EV販売でテスラが日産自動車と約100台差となってその「背中を捉えた」と報じています。500万円超えの高級車であるテスラは本当に売れているのか。なぜ、日産のEVは販売台数が落ちているのかを考えてみます。

目次

テスラのEV月間販売台数が日産に肉薄!

2025年9月4日、日本経済新聞が「テスラが国内EV首位肉薄 300万円台で攻勢、日本勢の遅れ突く」という記事を発信しました。

【関連ページ】
テスラが国内EV首位肉薄 300万円台で攻勢、日本勢の遅れ突く(日本経済新聞)

記事へのテキストリンクが切れてしまったり、購読していない方は全部を読めなかったりすることもあるかと思うので、Grokに要約してもらった概要を紹介しておきます。

<記事のポイント>
●販売台数の接近

2023年8月の国内EV販売で、テスラが日産との差を約100台に縮めた(2023年1月は6000台以上の差)。
●価格戦略
テスラは実質300万円台からの値引きで、高級車イメージを払拭し、購買層を拡大。
●出店拡大
テスラは日本での店舗網を強化し、販売攻勢を加速。
●日本勢の遅れ
日産など日本メーカーの新車投入の遅れをテスラが突き、市場シェアを拡大。

重要なポイントとしては、8月のEV販売台数で、日産が前年同月比48%減の1120台だったのに対して、テスラは前年同月比で2.1倍の約980台となり、2023年1月には6000台以上あった差が約100台まで肉薄したというニュースです。

日産がヤバい状況に陥っているのは先刻承知。とはいえ、世界に先駆けて量産EVの日産リーフを発売し、軽EVの日産サクラで日本のEVシフトをけん引してきた日産が、日本では実質モデル3とモデルYの2車種だけ、しかも最廉価でも500万円以上の高級車しか販売していないテスラにぶち抜かれてしまうのは、日本のクルマユーザーとして「ヤバいよ、ヤバいよ〜」という気持ちになってしまうのは否めません。

テスラのEVは本当に売れているのか?

モデルY(ジュニパー)

ちょっと落ち着いて、いくつかの事実を整理していきましょう。

まず、テスラのEVは本当に日本でもそんなに売れているのでしょうか。答えは、イエスです。

日本国内における電気自動車の売上とシェアを確認』という記事で説明しているように、テスラでは日本国内の販売台数を公式に発表していないので、JAIA(日本自動車輸入組合)の月次新規登録台数速報で普通乗用車の「Others」のほぼ全数がテスラ車であると推定しています。

2024年1月から2025年8月まで、「Others」の登録台数推移をグラフにしてみました。

縦棒のブルーが月次台数、オレンジ棒が2024年、2025年それぞれの累計台数です。

2024年は年間で5653台(月平均約539台)だったのに対して、今年、2025年は8月までの期間ですでに6570台(月平均約798台)と、昨年より1000台ほど多く売れていることがわかります。今年はあと4カ月。月間1000台程度のペースで積み上がっていくとすれば、年間1万台の大台に手が届きます。

テスラのEVはなぜ売れているのか?

モデルSとモデルXは右ハンドル仕様がなくなって、テスラジャパンの公式サイトで現在注文できるのは在庫車のみ。日本で買えるテスラの新車は実質的にモデル3とモデルYの2車種のみという状況になっています。

自動車メーカー(もしくはインポーター)にとって、販売できる手駒が2車種だけというのは、いかにも心許ないラインナップといって差し支えないでしょう。ところが、8月の輸入車新規登録台数を確認すると、テスラはボルボを抜いて6位にランクインしています。

<2025年8月 外国メーカー車新規登録台数ランキング>
1位●Mercedes-Benz:3,480台
2位●BMW:2,473台
3位●VW:1,587台
4位●Audi:1,379台
5位●BMW MINI:1,400台
6位●Others(テスラと推定):983台
7位●Volvo:787台
8位●Porsche:607台
9位●Land Rover:497台
10位●Jeep:610台

それぞれ、日本で発売されたのはモデル3が約6年前の2019年。モデルYは約3年前の2022年です。3〜6年というと、新車としては目新しさを失って販売台数が落ちる時期というのが、自動車としての常識でした。

それなのに、なぜテスラは販売台数を伸ばし続けているのでしょうか。日経では「実質300万円台からの値引き」や「店舗網の強化」といった理由を指摘しています。

とはいえ、実質300万円台というのは在庫車限りの特別値引きを勘案した額で、しかもちょっと盛りすぎ(実際のタマで試算するとモデル3RWDで400万円台前半といった感じ)という印象です。また、店舗網(販売拠点)の拡充は今まさに現在進行中で、9月オープンを入れてもまだ25店ほどなので、今年に入っての販売台数増加の要因とは言いがたいところです。

いくつか、EVユーザー的に実感できる「テスラが売れる理由」を挙げてみたいと思います。

頻繁なアップデートでEVとしての魅力が成長

モデル3(ハイランド)

2019年に発売されたモデル3は、2023年に「ハイランド」と呼ばれる新型にアップデートされました。また、2022年に発売されたモデルYも、2025年1月には「ジュニパー」と呼ばれる新型に生まれ変わっています。両方とも車名は変わっていませんが、中身は別モノ。乗り心地やUIなどが進化した最新EVになっています。

さらに、テスラの強みがOTAによる頻繁なソフトウェアアップデートです。納車されてからでも、OTAで自分のクルマが進化して、EVとしての魅力が成長していくのです。

パフォーマンスというフラッグシップの存在

モデル3&Yは最も手頃なRWDでも車両価格は500万円超えの高級車ではありますが、さらに、AWDで0-100km/h加速が3秒ちょっと、車両価格700万円以上の「パフォーマンス」と銘打つフラッグシップモデルをラインナップしています。パフォーマンスの性能をイメージしつつ、手が届くテスラ車を楽しむことができるのが魅力になっていると思われます。

日産のGT-RやホンダのタイプRで、エンブレムチューンを楽しむような感じですね。しかも、たとえば現行のモデル3の場合、最もお手頃なRWDでも0-100km/h加速は6.1秒。十二分にスポーツカーレベルの性能を発揮してくれます。

新型モデルYのパフォーマンスは先日欧州で受注開始されたばかりで、まだ日本でオーダーすることはできません。でも、日本と同じ右ハンドルのオーストラリア&ニュージーランドで受注が始まったという知らせがありました。もうすぐ、日本でも受注開始されることになると思われます。

独自急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」の拡充

テスラではスーパーチャージャーと名付けた独自の急速充電ネットワークの整備拡充を進めています。2025年8月末時点で、その数は130拠点以上、ストール数(充電口数)は690を超えています。しかも、ほとんどのストールがV3、もしくはV4と呼ばれる高出力器で、モデル3やモデルYでは最大250kWという超高出力の急速充電が可能です。ことに、2023年以降の新規開設は急ピッチになっていて、テスラ車オーナーの満足度はぐんぐん高まっているといえるでしょう。

高速道路SAPAにテスラ専用の充電器設置が難しく、一度高速を下りなければいけないといった課題はあるものの、日本で市販されているEVとして、テスラのEVは急速充電の利便性が抜群であることは明白です。

なぜ、日産のEVは売れないのか?

機を見てチャレンジングな値引きを実施。アップデートで魅力が成長。充電ネットワークの利便性向上など。先に挙げたテスラが売れている理由を、ことごとく逆にすると現在の日産EVの状況になってしまうのが、日産のEVが販売台数を落としている要因といえそうです。

日経の記事が指摘する「日本勢の新車投入の遅れ」は、まさに日産の現状です。気になる新型リーフはアメリカで「2025年秋」と伝えられている受注開始もまだ始まっておらず、いつになったら日本で買えるのかわかりません。今や日産全体のフラッグシップともいえるアリアは、日本で大ヒットするには車両価格が高すぎる印象が否めません。

【関連記事】
新型リーフの「ユーザー希望小売価格」を考えてみた/日本で買えるEVの競合車種と比較検討(2025年6月20日)

今、最大の売れ筋である軽EVのサクラは2022年の発売からすでに3年が経過。昨年、Gグレードに駐車支援システム「プロパイロット パーキング」が追加されるなどのちょっとしたマイナーチェンジがあったものの、テスラのように「魅力の成長」といえるようなアップデートはありません。2022〜2023年には月間4000台を超えることもあった販売台数も、最近は「なんとか1000台」という状況になっています。

日本のEV市場は「まだまだこれから!」

テスラの新規店舗開設など意欲的なチャレンジは続いています。一方、新型リーフの日本発売はまだしばらく先になりそうですし、EV販売台数で日産はおそらくテスラに首位を明け渡すことになるのでしょう。とはいえ、日本のEV市場は、まだ「市場」と呼べるほどの規模にも到達していないのがちょっと切ない現実です。

前述の『日本国内における電気自動車の売上とシェアを確認』の記事から、2018年以降の「燃料別推移(月)」をピックアップしておきます。

この記事はサクラが登場した2022年、「これから日本でもEVのシェアが右肩上がりになっていくかも」と期待して毎月更新のウオッチング企画としてスタートしました。でも、残念ながらその後に続く国産の魅力的なEV車種はなく、今、鳴かず飛ばずの状況が続いています。

グラフの上端にへばりついた緑色の部分がEVのシェア。こんな誤差のようなところで首位を競い合うのも切ないことに感じます。

日本において、さらに本格的なEV普及を促すのは、軽EVをはじめとした大衆的価格の、魅力的なEV車種(それもできれば国産メーカーで)が登場するかどうかにかかっているといってもいいでしょう。

テスラのコンパクトモデルや、BYDの軽EVにはもちろん期待していますが、そんなこんなを超越するくらいインパクトのある新型国産EVの登場に期待しています。

文/寄本 好則
※記事中テスラ車画像提供元:Tesla, Inc.

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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