日本初、ツーリングワゴンタイプのEV
BMWは2024年2月7日、プレミアムクラスの『5シリーズ』に、日本で初めてのステーションワゴンタイプの電気自動車(EV)『i5 Touring』を追加、発売しました。新らしく加わったのは、『i5 Touring eDrive40 Excellence』『i5 Touring eDrive40 M Sport』『i5 Touring M60 xDrive』の3グレードです。
言うまでもありませんが、M60 xDriveはAWDで、他2つはRWDです。
まだ詳細は明らかではないので、BMWのグローバルサイトで欧州仕様の仕様を確認しようと思ったら、5シリーズのツーリングワゴンはドイツを含む欧州の多くの国と日本は同時発売でした。納車時期は異なると思いますが、日本でもヨーロッパと同時にEVモデルが追加されるというのは、日本市場でのEV拡大に本腰を入れている様子が伺えます。
ちなみにグローバルのリリースには「2024年5月」に「launch」とありますが、UKでも予約は始まっているので、実質的にはすでに売っていることになります。市場導入の定義はちょっと難しいですが、実車を見ることができたりするのかもしれません。
価格はセダンより少し高め
今回、日本に導入するツーリングのグレードは以下になります。
●BMW i5 Touring eDrive40 Excellence 1040万円
●BMW i5 Touring eDrive40 M Sport 1040万円
●BMW i5 Touring M60 xDrive 1600万円
(参考)
・BMW i5 eDrive40 Excellence 998万円
・BMW i5 eDrive40 M Sport 998万円
・BMW i5 M60 xDrive 1548万円
グレード構成はセダンタイプと同じで、グレードごとの価格設定もセダンと変わりはありません。さすがプレミアムクラスです。腰が引けます。
ちなみに5シリーズのツーリングは、日本ではディーゼルエンジン車(48VマイルドHEV)とEVのみに追加されていて、ガソリンエンジン車はありません。欧州ではガソリンエンジンのハイブリッド車(HEV)もあります。
一方、イギリスではディーゼル車がなくて、ガソリン車のみです。ハイブリッド形式は、プラグインハイブリッド車もラインナップされています。
なぜ日本にガソリンエンジンやPHEVを入れないのかは、ちょっと気になる部分です。
なお日本でのディーゼルエンジン車はマイルドHEVのAWDのみの設定で、価格は890万円から。FWDとAWDの違いをあえて無視すると、EVとの価格差は150万円〜50万円です。AWDになると、EVは2モーターなのでシステム構成がまったく変わってしまいますが、価格差は600〜700万円になります。
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基本システムはRWDモデルと同様の超ハイスペック
BMW i5 Touring eDrive40 | BMW i5 Touring M60 xDrive(※) | (参考) BMW i5 M60 xDrive(※) |
|
---|---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 5060×1900×1515 | 5060×1900×1505 | 5060×1900×1505 |
ホイールベース(mm) | 2995 | 2995 | 2995 |
駆動方式 | RWD | AWD | AWD |
定員 | 5 | 5 | 5 |
最高出力(前/後) | 250kW(後) | 192kW/250kW | 192kW/250kW |
最大トルク(前/後) | 400Nm(後) | 365Nm/430Nm | 365Nm/430Nm |
バッテリー | リチウムイオン | リチウムイオン | リチウムイオン |
総電圧 | 400V | 400V | 399V |
総電力量 | 83.9kWh | 83.9kWh | 83.9kWh |
一充電走行可能距離(WLTP) | 483〜560km | 445〜506km | 315mile(504km)※ |
急速充電対応出力 | 205kW | 205kW | 150kW |
価格(税込み) | 1040万円 | 1600万円 | 1548万円〜 |
※は欧州仕様 ツーリングはすべて欧州仕様のデータ |
i5の基本グレードと言えるi5 Touring eDrive40は、最高出力250kWの後輪駆動(RWD)です。最大トルク400Nm、バッテリー容量83.9kWhという基本性能は、セダンと同じです。
スポーツブースト、またはローンチコントロールを作動させると。0-100km/h加速は6.1秒です。日常の走行なら十分パワフルです。
MスポーツのxDrive(AWD)、i5 Touring M60 xDriveは、後輪の最高出力250kWに加え、前輪のモーターが最高出力192kWで、システム最高出力は442kW、最大トルクは795Nmです。
Mスポーツ・ブーストかMローンチ・コントロールを作動させると。0-100km/h加速は3.9秒です。セダンのi5に試乗したときに少しだけ試してみた時には、首が少し後ろにもっていかれました。ブーストは約10秒間作動しますが、そんなに長い時間使うとえらいスピードになってしまいます。日本の道路ではとても試すことはできません。なお最高速度は、欧州仕様では230km/hに制限されています。
これらの基本性能はセダンタイプと同じです。バッテリー容量は、日本のカタログ値では83.9kWhですが、欧州仕様では81.2kWhのNET値が公表されています。
WLTPでの一充電航続距離は、Touring eDrive40は483〜560km、i5 Touring M60 xDriveは445〜506kmです。念のため、実用に近いとされるEPA基準換算の推計値(WLTP/1.121)では、Touring eDrive40は約432〜約500km、M60 xDriveは約397〜約451kmとなります。
なお現行のセダンタイプ、i5 M60 xDriveは最長504km(EPA換算推計値約450km)でした。基本システムは同じなので、航続距離にそれほどの違いが出るとは思えません。
参考までに、セダンのi5 M60 xDriveの実電費は、東京〜名古屋を日帰りで往復した時には、電費は5km/kWh前後でした。単純計算で、400km弱は一気に走ることができます。
個人的には、そんなに長い距離を一気に行くことはほぼないだろうし、途中にトイレ休憩などはとりたいので、ある程度の充電インフラがあればそれを使いながらの方がいいかなあとは思います。とくに日本では、それほどの容量は必要ないかもしれません。
そう考えると、コスパという庶民的なことを考えると、一般的な車と言うよりは限定された人向けの車なのだろうなという印象は強いです。
急速充電性能は十分
急速充電は、日本仕様は150kW対応まで。欧州仕様は205kWです。巨大なバッテリー容量を考えると205kW対応がほしくなるのはわかりますが、実際の充電ではフルに最高出力が続くわけではないし、以前、i5で東京〜名古屋を往復した際には、i5の急速充電性能があって、150kWの充電器があれば十分かもしれないと感じました(30分でSOC推計約38kWh充電できた)。
バッテリーは急速充電の前に温度が最適化され、充電効率を向上させています。気温が氷点下の状態で充電を試したことがないのですが、10度前後の気温では充電スタート時からすぐに、急速充電器の性能を使うことができていたと思います。
すいすいと入ることもあって、前述したように150kWの充電器があればとても利便性は高いし、90kW器でもそれほど不満なく使える気がしました。もちろん、充電後にまた一気に200kmとか300kmを走るには出力不足ではありますが。
バッテリー容量が巨大になるとインフラ整備との兼ね合いが難しくなるというのは、実際に巨大容量のEVに乗ってみると実感するところであります。
普通充電は、日本とアメリカでは標準で最大11kW、オプションで最大22kW対応にすることができます。ちなみにEU、中国、韓国などでは標準で最大7.4kWになっています。
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生産はドイツ、ディンゴルフィン工場
i5のシリーズは、ドイツのディンゴルフィン工場で、内燃機関(ICE)の5シリーズモデルとともに単一生産ラインで生産されます。
これまでの自動車は、複数の車種を同じラインに流して作っていく混流ラインが多かったのですが、ギガキャストを含めて生産技術の考え方が根本から変わってきているので、今後は混流ラインがいいのかどうか再検証されるかもしれません。
車と言えばSUVになってしまったのかと思うくらいSUVが多くなっているし、実際に、世界で一番売れている単一モデルの車が、SUVのテスラ『モデルY』なので仕方がない部分はあるのですが、個人的にはステーションワゴンは大好きです。好みで言えば、ハッチバック>ステーションワゴン>セダン>SUVやミニバン、という感じでしょうか。
それ以前に、小さな車の方が好きではありますが、それはともかく、今回、ステーションワゴンがBMWのラインナップに加わったのは朗報です。今後はエントリークラスのモデルにもステーションワゴンが入ってくる可能性が出てきました。
繰り返しですが、バリエーションが増えるのはEV普及にとってプラス以外のなにもでもなく、大歓迎です。欧州と同時に日本で発売されたというのもビックリなことです。
プレミアムクラスなのでバカ売れするわけではないでしょうが、こうしたクラスの車からEVが増えていき、インフラが整備されていくと、いずれ全体への波及効果があるかもしれません。そんな期待をしてみたいと思います。
文/木野 龍逸