EVのラインナップ数は日本市場トップのBMW
BMWは2021年11月、プレミアムミドルクラスのSUV「X3」の日本市場のラインナップに電気自動車(EV)の『iX3 M Sport』を追加しました。日本での新型EV発売は、2016年に投入した「i3」以来、5年ぶりでした。
BMWは2030年にグローバルでEVの販売比率を50%にすることを目標にしています。目標に向かって、現在は日本で、『iX』、『iX3』、『i4』、『i7』、『iX1』、『i5』、『iX2』、『i5ツーリング』(日本発売順)の8モデルを揃えていて、日本市場のブランドではいちばんEVの車種が多くなっています。
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ところで、EVsmartブログではこれまで、なんと「iX3」の試乗記をお届けしていませんでした。今さらという感じではありますが、日本EVクラブが7月末に長野県白馬村で開催した「ジャパンEVラリー白馬2024」のスタッフとして筆者が出向いた際、東京から白馬村までの約260kmをiX3で走ることができました。
カタログスペックとはいえiX3 M Sports(新車価格は922万円〜)のバッテリー容量は80kWhで航続距離は500km超です。もう、なにも考えずに無充電で到達できる距離です。EVは、お金を出せば航続可能距離が長くなるという一例です。
一方で、日本市場導入から3年、それに先立つワールドプレミアからは4年が経過したiX3に、道中、いろいろと感じたこともあったのでした。
異常気象がノーマルになる異常さ
iX3試乗の当日、出発した午前8時頃には東京の気温は30度を超えていました。この日、東京の最高気温は34.8度、目的地の白馬村でもお昼には30度以上になりました。我慢は体に悪いので、エアコンは22~23度設定でがんがん使うことに。異常気象がノーマルになってきた異常さをかみしめます。
なおエアコンの操作はモニターのタッチパネルではなく、使いやすい一般的な機械式のスイッチです。
ルートは、東京の高井戸インターから中央高速で白馬村の道の駅を目指します。基本的に登り基調なので電費は少し低下しますが、「ほぼ満充電」に近い状態なので充電しなくても走り切ることはできます。でも翌日も走ることを考えて、どこかで1回は充電しておくプランです。
宿は他のスタッフのEVへの充電で、充電器が埋まっている事態もありえたので、リスク回避の意味もありました。結果的には、宿の普通充電器が増えていて、埋まる心配は無用でした。
さまざまな制御が進化する前の原点か
先に「ほぼ満充電」と書いたのは、iX3は車載モニターにSOCのパーセント表示が出ないからです。燃料タンクのレベル表示を踏襲したものしかありません。もちろん、BMWの新しい車種はパーセント表示が出ます。白馬からの復路で試乗した「MINI Countryman SE ALL4」にもちゃんとパーセント表示がありました。
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SOCを数値で出さないのは、BMWも4年前は、EVをエンジン車の延長線上で考えていたということかもしれません。実際に使ってみないと見えないEVの特性があることを、改めて感じます。でも見方を変えると、iX3からMINIまでの4年間で、ユーザーインターフェースを含めていろいろな進化があったことになります。実験的な要素が詰まっていた「i3」に続いて初めて本格的な量産を狙ったiX3は、今につながるEVの原点に近いのかもしれません。
考えても表示が変わるわけではないので、SOCの数値が出ないと電費計算がしにくいなあと思いつつ、白馬を目指しました。
操作系はエンジン車を踏襲
運転に関わるiX3の操作系は、ガソリン車から乗り換えても違和感なく運転できるようになっていると感じました。
ドライブモードは、回生ブレーキの強さの違いで「D」と「B」の2種類。Bにすると回生ブレーキが強めになるとともに、出力がゼロになるアクセルの中立点が変わって、ワンペダル操作ができるようになります。
出力制御は「スポーツ」、「コンフォート」、「エコプロ」の3種類です。試しに、Dモードでアクセル開度を変えずに、エコプロからコンフォート、コンフォートからスポーツにモードを変えてみました。エコプロからコンフォートでは、速度表示が1.5倍くらいに上がる印象でした。時速40kmが60kmになる感じです。
コンフォートからスポーツでも出力があがりますが、それほどでもありません。ただスポーツだと、Bにしていてもワンペダルではなくなるので、B+コンフォートからスポーツにすると出力の違いが大きくなります。心構えをしておかないと、ちょっとビックリするかもしれません。
なおDモードでも、アクセルペダルから足を離すと若干、回生ブレーキが効いているように感じました。ガソリンエンジン車で、マニュアルのギアが4速や5速に入っている時の減速感というか、AT車の減速感というか、その間というか、そんな感じです。これも、エンジン車からの乗り換えなら違和感が薄いかもしれません。
最近のBMWのEVは、Dモードでアクセルオフにするとコースティングになり、前方に車両がいる場合は自動で回生ブレーキを作動させて車間距離をコントロールする制御がとても乗りやすいのですが、iX3はまだ、そうした制御が入っていないようでした。
ここでもまた、この4年間でEVに必要なものがいろいろ組み込まれてきたんだなあと、時間の流れを感じたのでした。
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電費はそこそこの6km/kWh弱
東京を出発して、途中、何度か集中工事の長い渋滞につかまりながら、加えて寝不足による睡魔のために釈迦堂PAで仮眠をとりながら、白馬村の道の駅に着いたのは13時半過ぎでした。トータルの電費は、車両表示で5.7km/kWhでした。車重が2200kgあることと、上り基調であることを考えると、そこそこ良い電費といえるかもしれません。
なお、東京から釈迦堂PAまでの98kmでは電費は6km/kWhで、高速道路上の最後のSAだった梓川SA(東京から約233km)までは5.6km/kWhでした。
さて、この4年間でいろいろな機能が追加されたと書いてきましたが、運転支援のADASについては過不足なく使えました。車線維持も、右寄りでも左寄りでもなく、不安のない位置をキープして走れました。
乗り心地は、個人の感想ですが、少し硬い印象を受けました。道の良い高速道路などではいいのですが、一般道で舗装が荒れているとゴツゴツを拾うところがあります。もう少しショックが少ないとなお、良いだろうなと思いました。
ヘッドアップディスプレーの表示はシンプルで見やすいと思います。最新の車のようなナビのAR表示などはありませんが、とくに不満はありません。
車のサイズ感は、あたりまえですが広い道ではいいのですが、都内の住宅街に入るときには緊張します。全長は5mを切っているので最近のプレミアムSUVとしては短いとはいえ、なかなか神経を使います。ただ、後輪駆動のためか全輪の切れ角が大きく、横幅の広さを補う取り回しの良さはあります。
一方、当時は最新の電動パワートレインを搭載していたiX3ですが、車体の作りは内燃機関からのコンバートと思えるもので、この点は世代の古さを感じざるを得ません。
ボンネットの中は、モーターが後輪側にあることもあってガランとしていて、ステアリングシャフトのジョイントがよく見えました。今ならフランクを付けるためにもう少し整理するのでしょうが、そうしたこともなく、ただ空いているという感じです。初期のEVでは時折、こうした作りを見ることがありました。
急速充電器で謎の47kW充電
最後になりましたが、急速充電をしてみた結果をお伝えします。iX3は150kW対応で、EVsmartブログで以前、新電元のデモ機を使わせていただいてテストした時には最高で126kWが出ていました。
iX3の総電圧は345Vなので、出力電流は性能上限の350Aが流れていたことになります。
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ところが、今回、道の駅白馬の90kW器で充電したところ、充電開始から終了までずっと電流が125Aで、急速充電器の上限値である200Aは出なかったのでした。車両のモニター表示では最高で46kWでした。
不思議です。
最終的に、充電器側の表示でSOCは33%から60%になっていました。総容量は80kWhなので、27%が入ったとすると約21.6kWhです。バッテリー容量が50kWhくらいなら、これでいいかもしれません。でも80kWhあることを考えると、125Aしか流れないのはちょっと残念です。
急速充電器は相性があるので、他の場所で充電したらどうなるのかわかりません。少なくとも150kW器のテストではちゃんと出力が出ていたので、違う結果になる可能性もあります。このあたりは改めて確認すべき宿題として残ってしまいました。iX3オーナーで心当たりがある方いらっしゃれば、コメントで教えていただけるとありがたいです。
ひょっとして中古車がお買い得?
急速充電の謎は横に置いておくとしても、iX3は全体に一世代前という感じが否めず、それは中古車価格にも表れているようです。中古車サイトのカーセンサーを見ると、1~2年落ちで走行距離は数千キロから1万キロ程度のiX3の認定中古車が、450~500万円で出ています。
新車なら税込みで922万円からなので、中古車の場合CEV補助金は使えませんが、かなり安いです。価格の下落幅が大きいということではありますが、この値段で80kWhのバッテリーが手に入るのはお買い得かもしれません。走行距離が数千キロなら、バッテリーへの影響はほぼないと考えていいのではないでしょうか。
以上、新車の発売から時間差ができてしまいましたが、今だから見えるというか、結果論というか、最近のEVの進化を感じる結果になった試乗レポートをお伝えしました。
取材・文/木野 龍逸