BMW『MINI Cooper SE』箱根試乗レポート/扱いやすくて満足度が高い電気自動車

BMWジャパンが『MINI』ブランドから発売した電気自動車(EV)『Cooper SE』に試乗する機会を作ることができました。都内近郊のちょっとしたドライブではなんの不安もなく走れるので、箱根の山越えで芦ノ湖まで行ってみました。試乗でわかったことをお伝えします。

BMW『MINI Cooper SE』箱根試乗レポート/扱いやすくて満足度が高い電気自動車

エアコン23度設定で箱根へゴー

年の瀬も押し迫った2024年12月25日。夜のクリスマス忘年会に備えて体力を温存したいところでしたが、これまで試乗ができていなかったBMW『MINI Cooper SE(ミニクーパーSE)』の広報車(取材用に貸し出してくれる車両)を借りることができ、急遽試乗取材を敢行することに。ということで、朝早く東京都内を出発しました。

朝6時で日の出はまだでしたが、天気予報は晴れ。ガソリン車のイグニッションキーを踏襲した、ひねるとオンになるメインスイッチを回してシステムを立ち上げます。

外気温表示は3度。自宅から出発する時のバッテリー残量(SOC)表示は84%。車両表示の航続可能距離は218kmです。

箱根までは100km前後なので、のんびり行けば充電なしで往復できそうな感じです。でも途中で、急速充電の性能も試してみたかったので、電費はあまり気にせず、エアコンを23度に設定して出発しました。

BMWは2024年3月に、『ミニクーパーS/SE』と『MINI Countryman(カントリーマン)E/SE ALL4』を発表しました。ミニクーパー2車種は同年夏過ぎにデリバリーが始まりました。

ミニクーパーEVの全長は4mを切っていて、大きなSUVが多いEVの中ではコンパクトです。バッテリー容量はSEが49.2kWh(ネット)、Eが36.6kWh(同)で、普段使いに不安はありません。車両価格は個人的に手が出しにくい高級車レベルですが、基本的に車は小さい方が好きなので、乗ってみたい1台でした。

●BMW MINI Cooper SE 531万円〜
バッテリー容量 49.2kWh(ネット)
●BMW MINI Cooper E 463万円〜
バッテリー容量 36.6kWh(ネット)

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サイズも適当で扱いやすさは満足

というわけで朝6時過ぎに都内を出発。東名高速道路から小田原厚木道路を経由して箱根駅伝ミュージアムに向かうルートを進みました。道中は渋滞もなく、東名高速はスイスイと流れていました。

ミニクーパーSEは、幅はそこそこありますが全長が短いので、世田谷区や杉並区のゴチャついた道でもスムーズに走れます。

運転席周りはシンプルです。スピードメーターはヘッドアップディスプレーか、円形のメインモニターに表示されます。

ドライブモードは「D」と「B」で、Bにするとワンペダル操作が可能です。切り替えはセンターコンソールのトグルスイッチです。スイッチ類のクラシカルな演出はカワイイです。

Dモードは、BMWの他の車種と同じようにアクセルペダルから足を離すとコースティングになりますが、運転支援機能のおかげで前方の車との車間距離を自動で調整してくれるのがとてもラクです。しかもブレーキの調整具合が上手で、自然に車間距離を詰めてくれます。

このほかメインモニターでは、「コア」「ゴーカート」「グリーン」の選択ができます。一般的なノーマルモードはコアで、グリーンは出力特性を緩やかにしたエコモードに相当する感じです。

ゴーカートモードのディスプレイ表示。

ゴーカートモードは、いわゆるミニのゴーカートフィーリングを模したようで、疑似排気音が出て、よりレスポンスのいい走りができる出力特性になります。峠道でセレクタをBにしてゴーカートモードにすると、EVならではの楽しくて気持ちいい走りが楽しめます。機会があればぜひ試してみてください。

前席のシートは、適度にからだを抑えてくれていい感じです。後席は、長時間乗るのは厳しいかもしれません。足元も狭いし背もたれも直立していて、ちょっと窮屈です。基本は2人のり、必要があれば4人乗ることができるという使い方になりそうです。

メインモニターは迫力ある大きさです。ただ表示の文字がもう少し大きいと、老眼混じりの目にはやさしいかなと感じました。一方でヘッドアップディスプレーの速度表示は見やすかったです。

ちょっと気になる乗り心地

ただ、気になったのは一般道での乗り心地でした。

足まわりが硬い印象もそうなのですが、路面の波打つ感じをそのままトレースするので、場合によっては上がったり下がったりが続くことがあるのです。突き上げ感があるわけではないのですが、忠実に、道路のうねりに合わせて上下している感じです。船に乗っているような感じとでも言えばいいのでしょうか。

路面がいい高速道路ではとても快適なのですが、一般道ではちょっと落ち着かない印象を受けました。

もうひとつ気になったのは、低速域での電子音です。EVのようなモーター駆動の車は、低速で走行する時に「フュイーン」という感じの接近通報音と呼ばれる音を出すようになっていますが、それとは別に、ミニクーパーSEは、止まる寸前のところで「コーン」という音が聞こえました。インバーターの音かとも思ったのですが、ちょっと感じが違います。

発進時はある程度アクセルを踏むためか、あまり音が聞こえないのですが、流れが悪くなってノロノロ走る時などは耳に入ってきます。渋滞で周囲の音が大きければ気にならないし、慣れればいいのかもしれませんが、あまり気持ちのいい音ではないので今後の対策を期待したいです。

電費はなかなかいい感じで満足

さて、東名高速から小田原厚木道路に入ったところで、天気は快晴だったのですが外気温の表示がマイナス2度になって、足元に少し肌寒さを感じたので、暖房の温度設定を25度に上げました。

バッテリーに余裕があるのはわかっていたので、残りの航続可能距離に無頓着すぎて、23度と25度の違いを確認するのを忘れてしまいました。技術の向上は人間性能を低下させることがあります。もう、あまり気にしないで走ることにしました。

なおドライブモードはグリーンにしていました。峠道をとばすわけではないので、出力を少し抑え気味にした方がアクセル開度に神経質にならなくていいからです。それにアクセルをしっかり踏み込めば、グリーンでも大トルクは出ます。

小田原厚木道路を降りたら国道1号線に入り、箱根湯本駅から箱根駅伝のコースを上っていきます。箱根湯本駅まで来たところで、メーターの電費表示は7.2km/kWhでした。高速道路も混んでいなかったので、WLTCのカタログ値(約7.52km/kWh)に近い電費でした。これだけパワーがある車で1kWhあたり7kmを超えるのは上等です。

箱根湯本駅を過ぎて激坂を登り始めると、さすがに電費は落ちていきます。交通量が少なく、すいすい上っていくので電費には余計に厳しい感じではあります。

登り始めて約15分、箱根登山鉄道の踏切では6.2km/kWhまで落ち、国道1号線の最高標高地点では5.6km/kWhになっていました。さすが箱根駅伝5区の上りです。

そこからは下りなので少し回復し、8時少し前にゴールの駅伝ミュージアムに到着。走行距離93.5kmで電費は5.9km/kWh、SOCは52%になっていました。

パワーがある方が電費がいいことも

ミニクーパーのEVは、カタログ値ですがバッテリー容量が少なくて電圧が低い「クーパーE」の方が、パワーのあるクーパーSEより若干電費が落ちます。

【トリムによる電費と電圧】
●MINI Cooper SE  133Wh/km(約7.52km/kWh)
バッテリー容量 54.2kWh(総電圧398.2V/容量136Ah)
●MINI Cooper E  127Wh/km(約7.9km/kWh)
バッテリー容量 40.7kWh(総電圧323V/126Ah)

WLTCだと高速道路のモードがあるので、EVの場合、パワーがある車のほうが電費は伸びる可能性があります。ガソリン車でも高速道路で軽自動車の燃費が伸びないのと同じ理屈です。

箱根の上り坂は勾配も厳しいので、パワーがあるミニクーパーSEは電費の落ち込みを抑えることができたのかもしれません。もう少しバッテリー残量が減るかと思っていたので、この電費には感心しました。

さて、箱根駅伝ミュージアムからは、天気も良かったのでもう少し登って大観山駐車場経由で戻ることにしました。芦ノ湖からは晴天の富士山が見えたので、大観山ならもっと見えるかもという期待もありました。結果は、残念ながら雲で見えず。わずか15分で雲の中とは、山の天気は変わりやすいです。

大観山到着時のSOCは46%。次の目的地を東名高速の海老名SAにしてクーパーSEのナビをセットすると、予想残量が36%と出ました。これならある程度、急速充電の性能が試せそうだなと思いつつ、ターンパイク箱根を下っていきました。

富士山は雲の中でした。

SOC40%で充電電力60kWは少し複雑な気持ち

ターンパイクは、途中で白バイを見かけたこともあって、回生ブレーキで速度を抑えながらおとなしく下りました。下りきった料金所付近でSOCは50%まで回復。約10kmの下りで4%ほど戻ったことになります。

SOCがネット容量をベースに表示していると考えると、下りで回復した電力量は約2kWhです。パワーエックスのプレミアム(再エネ100%)一般利用料金(75円/kWh)だと150円分です。eMPの実証実験なら2月3日から3月31日までは82.5円+充電時間料金(27.5円/分)だから、kWh課金分として165円を得した感じです。

そんなこんなで海老名SAに到着。90kW器はリーフが使っていたので待機スペースに並びました。数分後に充電が終わった時、「使いますか」と聞かれたので「はい」と答えたら、リーフの方は50kW器に移っておかわり充電をしていました。よほどお腹が減っていたのでしょうか。

さて、海老名SAに到着した時のSOCは40%。ナビ予想より4%ほど多く残していました。

充電を開始してすぐ、電流は144Aまで上がって横ばいになりました。この時の電圧は424Vだったので、充電電力は約61kWというところでしょうか。外気温は9度でした。

海老名SAの90kW器は電流の上限200Aのはずなので、もう少し流れるかと思っていたのですが、40%スタートだとこれが限界なのでしょうか。SOCをもっと減らしておけばよかったと反省です。

以降の充電出力は以下の通りでした。

●充電電力
SOC50% 58kW
SOC60% 51kW
SOC70% 43kW
SOC79% 22kW

SOCは、30分で40%から79%まで回復しました。バッテリーのネット容量から考えると39%分なので約19.2kWhになります。

SOCが80%近くになるとバッテリー保護のためあまり電流が流れない制御になっているEVは多いので、SOCが40%からの30分で20kWh入ればまずまずと言えるかもしれません。

一方で、急速充電の受け入れ能力が95kWあるのなら、SOC50%くらいまではもう少し出力が出てほしい気持ちもあり、ちょっと複雑です。

充電口はリアフェンダーの左右に配置。急速充電は左側です。

総合的に見ると、個人的にはこのサイズが日本の道路事情に合っていると思うので、パッケージとしてはとても魅力的だと思います。バッテリー容量の50kWhというのもちょうどいいサイズに感じます。

箱根試乗のフィーリングはかなり満足度の高い結果でした。あとは車両価格ですね。MINIというブランドが好きな方には、ぜひ一度試乗してみていただきたいと思います。

BMW MINI Cooper SEBMW MINI Cooper E
全長×全幅×全高3860×1755×1460mm
ホイールベース2525mm
最低地上高124mm
車両重量1640kg1560kg
最小回転半径5.1m
定員4人4人
タイヤ(前・後)205/50R17195/60R16
駆動FWD
最高出力160kW/7000rpm135kW/5000rpm
最大トルク330Nm/1000-4500rpm290Nm/1000-4000rpm
一充電航続距離(WLTC)446km344km
交流電力量消費率(WLTC)133Wh/km(約7.52km/kWh)127Wh/km(約7.9km/kWh)
駆動バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー
総電圧398.2V323V
容量136Ah126Ah
総電力量54.2kWh(グロス)/49.2kWh(ネット)40.7kWh(グロス)/36.6kWh(ネット)
V2X対応
充電可能電力普通:11kW 急速:95kW普通:11kW 急速:75kW
車両価格(税込み)531万円〜463万円〜

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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