MINIの電気自動車『Countryman SE ALL4』長距離試乗/魅力的なミドルサイズの電気SUV

夏も真っ盛りの7月末に長野県白馬村で開催された『ジャパンEVラリー白馬2024』からの帰途、BMWが新たに日本市場に導入したコンパクトSUVの電気自動車(EV)、『MINI Countryman SE ALL4』に乗る機会を得ました。新型EVらしい性能を感じた道中のインプレッションをお伝えします。

MINIの電気自動車『Countryman SE ALL4』長距離試乗/魅力的なミドルサイズの電気SUV

MINIのEVシリーズに新モデル追加

BMWは2024年3月、コンパクトSUV『MINI Countryman』のラインアップに電気自動車(EV)の『MINI Countryman E』(ミニ・カントリーマンE)と『MINI Countryman SE ALL4』(ミニ・カントリーマンSE ALL4)を追加、発売しました。

両車の違いは駆動方式で、カントリーマンEは前輪駆動、SE ALL4は名前の通りの全輪駆動です。

全輪駆動は前後にモーターを搭載した2モーターになっていることもあり、出力が違いますが、そのほかの基本的なシステム構成に大きな違いはありません。

バッテリー容量はどちらも余裕の64.7kWhです。WLTCモードでは、満充電からの航続可能距離は450kmを超えます。なんの問題がありましょうや、です。

BMWは2019年から、『MINI』のラインアップにEVを揃えていました。でも日本市場での販売はなく、残念に思っていたのですが、今年はカントリーマンだけでなく、『MINI COOPER』と『MINI ACEMAN』でもEVを導入しています。

生まれ変わったミニのシリーズにまるごとEVを揃えたBMWにとって、EVが重要な存在であることがわかります。

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白馬村〜東京間、約280kmで新型カントリーマンEVを体験

さて、EVsmartブログですでにリポートした『ジャパンEVラリー白馬2024』に、筆者もスタッフとして参加していたのですが、白馬からの帰路では全輪駆動のカントリーマンSE ALL4に乗ることができました。

往路は、同じくBMWのSUVタイプのEV『iX3』で東京から白馬村に向かったのですが、2020年発表のiX3から、24年のカントリーマンEVでは、やはりというか当然というか、大きく進化していることが体験できたのでした。そんなiX3の試乗リポートも後日、お届けする予定です。

まずはBMWからお借りしたカントリーマンSE ALL4の概要から。前述したようにバッテリー容量は、ちょっと前ならプレミアムSUVにも匹敵する64.7kWhです。WLTCモードでの航続距離は、前輪駆動のカントリーマンEでは482km、全輪駆動のSE ALL4では451kmです。実走行でもALL4の451kmの80%程度をEPA換算推計値としても約361km。実用的に350km以上は走れそうです。

これなら、少しでもEVに慣れたユーザーなら長距離移動でも余裕があると感じるのではないでしょうか。EVが初めてでも、乗ってみれば必要十分の航続距離を体感できると思います。

一方で車のサイズは、ミドルクラスのSUVという印象です。巨大ではないですが、BMWが呼称するコンパクトSUVと言うには大きいと感じます。線引きは人によりますが、初見の印象は、「ミニ、ではないかなあ」でした。都市部の細い道を行き来するには、ちょっと注意が必要です。

運転操作はシンプルでクラシカル

運転席に乗り込んでスタートするまでの操作は、既存のエンジン車と大差ありません。センターコンソールに配置されているトグルスイッチの中の、パワースイッチを「ひねる」と、システムが作動します。

最近は標準になってきたスタートボタンを押す操作とは違う、ちょっとクラシカルな演出が小粋です。

ニュートラル、ドライブ(D)、回生強めの(B)、後退の切り替えも、センターコンソールのトグルスイッチです。ついでにパーキングのスイッチもセンターコンソールに並んでいます。

ただしエアコンの操作は、エンジン車のミニを引き継いだ丸いメインモニターのタッチスイッチです。個人的には、視線を前方から逸らさずに操作できる機械式スイッチの方が好きなのですが、ADAS(先進運転支援システム)での走行を基本に考えれば許容範囲かと思います。

ドライブモードはDとBの2種類で、Bにすると回生ブレーキの制御が強めになることに加えて、アクセルオフで停止までするワンペダル操作ができます。停止直前の制御はこなれていて、カックンとならずに止まることができました。

一方で、よくわからなかったのが、「エクスペリエンス」という機能。メインモニターの表示方法や室内の照明などを変えることができるのと同時に、エフィシェントモードでは出力特性を少し抑えてマイルドな加速感にするなどのパターンも選ぶことができます。

中には、シートの背もたれに搭載されたランバーサポートがマッサージ器のごとく動くパターンもありました。

ただ、種類が多くて筆者のような一見さんの試乗では、正直、使いこなすことができませんでした。単にモニター表示が変わるのか、あるいは走行モードやマッサージ器など他の機能にも影響するのか、短い時間では把握ができず、ちょっと悔しい思いをしました。

もっと長期間の試乗をする機会があれば、再度、試してみたいと思います。なおエクスペリエンス機能は、カントリーマンだけでなく『MINI Cooper』のEVも備えているので、次はクーパーに試乗して、なんとか全容を理解したいと思います。

コースティング制御が気持ちいい

ところで、最近のBMWの特徴なのか、Dモードでアクセルから足を離すと、コースティングになります。

個人的には高速道路走行時や交通量の少ない道路などでは、回生ブレーキで減速してしまうよりもコースティングで滑らかに前に進める方が走りやすいうえ、先に上り坂が待っている場合にはそのまま惰性である程度まで登った方が電費も良いことがあるので、ドライバーが自在にコースティングを操ることができるモードはEVに必須ではないかと思っています。

ただ、コースティングだと前に進みすぎて、車間距離が詰まってしまったりするのが難点です。これを繰り返すと、かえってブレーキを踏む回数が増えてしまって足も神経も疲れてしまいます。

この点でBMWは、前方の車などを検知して自動でブレーキを作動する衝突被害軽減ブレーキと組み合わせることで、コースティングをしつつ回生ブレーキを使いながら車間距離を維持して走ることができます。

この車間維持の制御が自然で、コースティング中でも不安がありません。以前、BMWのセダンタイプEV、『i5』の試乗をした時にも安心して乗ることができて気持ちよかったのですが、カントリーマンのEVでも同様の制御にしているようでした。

先進運転支援システム(ADAS)の制御もしっかりしていて、高速走行時は写真の真ん中付近をきちんとトレースしていました。渋滞での発進、停止もなかなか上手です。

足回りは少し硬い印象を受けました。道が悪いと路面の段差を拾ってしまいがちで、好みを言えばもう少しショックを受けとめてくれた方が、乗り心地がいいように思います。

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平均電費は7km/kWh超え

今回の試乗コースは、長野県白馬村から東京都世田谷区までの約263kmですが、出発前に世紀の難工事で知られる黒部ダムで電気バスと、今年で最後の運行になるトロリーバスに乗るために少し寄り道したので、総走行距離は約280kmでした。

この時の電気バスのリポートは後日、お伝えします。現地でわかったこともあったので、お楽しみに!

さて、7月末の暑い朝、7時に大町市の宿を出発しました。ここから黒部ダムに行くための電気バスが出る扇沢駅まで約18kmの道のりを、ひたすら上ります。スタート時、85%だったSOCがみるみる減っていき、着いたときには74%でした。

カントリーマンSE ALL4のバッテリー容量から算出した電費は、1kWhあたり2.53km。さすが、北アルプスの山道は厳しいです。

扇沢駅に車を止めて、電気バス、ケーブルカー、ロープウェー、トロリーバスを乗り継いで黒部ダム〜立山を往復した後、午後2時頃に扇沢駅を出発しました。標高が1433mあるので外気温は27度と表示されていますが、日差しが強烈で、日向にいると汗が噴き出します。

さて、どうやって帰京しようかと思案に暮れるまでもなく、SOCは74%で、モニターに表示されている走行可能距離は264km。グーグルマップで検索した東京までの距離と同等ですが、下りを考えると余裕があるかなと思いつつ出発しました。

実際に走り始めると、思った通り、SOCがほとんど減りません。結局、高速道路にのってすぐの梓川SAに着いたときには、43km走行でSOCは2%しか減っておらず、ほぼずっと下りだったこともあり走行可能距離が301kmに伸びていました。

これは極端でしたが、安曇野ICから中央道を経由して東京の自宅まで、途中、釈迦堂PAで2時間ほど仮眠(爆睡)をとりつつ、ADASを制限速度に設定して走行した高速道路では次のように良好な電費を記録しました。

●梓川SA〜双葉SA 6.67km/kWh(走行距離:95km)
●双葉SA〜釈迦堂PA 8.04km/kWh(26km)
●釈迦堂PA〜東京世田谷区 7.57km/kWh(98km)
●長野県大町市〜東京都世田谷区 7.21km/kWh(280km)

カントリーマンのメインモニターに表示されていた外気温は、梓川SAで37度、釈迦堂PAで36度、東京で34度だったこともあり、エアコンは23度設定でつけっぱなしでした。中央道は長野県から東京都心にかけて下り基調ですが、それでも平均7.2kmは、2トンの車重にしては良好と言っていいと思います。

もうひとつ追記したいのは、カントリーマンSE ALL4のナビで目的地を設定したときの、バッテリー残量予想が、ほぼ正確だったことです。今回試したのは双葉SAから自宅までの約126kmという短い区間だったのですが、ナビの予想では到着時のSOCが55%でした。

実際のSOCは58%だったので、誤差の範囲です。下り基調という変則的なコースでこれならかなり信頼できそうな気がしました。これも、機会があればもう少し長い距離でチェックしたいポイントのひとつです。

急速充電は90kW器で出力60kW超

なにしろバッテリー容量が多いので、白馬村からなら途中で充電をしなくても東京まで帰ってこられるのですが、それでは物足りないので途中で急速充電の様子を確認してみました。

それにしても、ノンストップで帰れるのに物足りないというのは贅沢な悩みです。

ということで、まず立ち寄ったのは梓川SAです。ところが、前述したように下りだったこともあり電費が極端に良くなってしまいSOC70%で着いてしまったのでスキップすることに。さらに100kmほど走って双葉SAの90kW器を使ってみました。結果は以下です。

【双葉SA(上り線)90kW器での充電結果】
到着時SOC 50%
充電スタート時 出力60kW
25分経過時 出力37kW/SOC83%
30分後 SOC85%(受け入れ電力量約22.6kWh)

充電の受け入れ電力は30分平均で約45kW(約0.7C)でした。また充電出力は、スタートから3分後で最大62kWまで出ているのを確認しました。これなら必要十分といえるのではないでしょうか。

カントリーマンEVのシステム電圧は286.3Vなので、90kWの急速充電器の上限200Aが流れると電力は約57kWになります。それを少し超えているのは充電開始時のSOCが50%で実際のシステム電圧がカタログの定格値より高かったためと思いますが、いずれにしても90kW充電器の最大性能は引き出しているようです。

まあ、30分入れたら満充電になるような充電ができれば言うことありませんが、バッテリーの負担も考えると微妙です。まずは必要十分な充電性能ではないでしょうか。

そんなカントリーマン SE ALL4のお値段は、税込み662万円からです。前輪駆動のカントリーマン Eなら593万円からです。CEV補助金は、V2Lにも対応していることもあり、充電インフラの設置基数がそれほど多くないBMWとしては最高の65万円です。

1000万円近くする大きなサイズのSUVタイプのEVが多い中、ミドルサイズのSUVは貴重な選択肢です。手元資金さえあれば検討対象のひとつになるなあと、熱帯夜が続く東京の空の下で考えたのでした。

主要スペック

MINI COUNTRYMAN SE ALL4MINI COUNTRYMAN E
全長×全幅×全高4445×1845×1640mm
ホイールベース2690mm
車両重量2020kg1890kg
最小回転半径5.5m
最低地上高171mm
定員5人
駆動方式AWDFWD
最高出力140kW/8000rpm×前後2モーター150kW/8000rpm
システム最高出力230kW(※)-
最大トルク247Nm/0-4900rpm×前後2モーター250Nm/0-5200rpm
システム最大トルク494Nm(※)-
一充電航続距離(WLTC)451km482km
電力量消費率(WLTC)162Wh/km(6.2km/kWh)154Wh/km(6.5km/kWh)
駆動用バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー
総電力量(グロス)64.7kWh
セル電圧3.67V
総電圧286.3V
容量116Ah
V2L対応
車両価格(税込み)662万円〜593万円〜
(※)欧州仕様値

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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