BYDの米国市場本格参入への機は熟したか?/唐(Tang)EV試乗インプレッション

日本の乗用車市場への進出を果たした中国のBYDは、アメリカでも進出に向けた動きを進めているようです。EVsmartブログの著者陣であるアナリストの Lei Xing氏が機会を得て試乗。「唐EVは米国市場で受けるSUVだが、アメリカで認められるために課題は山積している」とするレポートをお届けします。

BYDの米国市場本格参入への機は熟したか?/唐(Tang)EV試乗インプレッション

【元記事】Is BYD ready for prime time in America? My thoughts after driving the Tang EV by Lei Xing.
(明日公開予定です)

アメリカでも電気自動車で乗用車試乗進出へ

BYDは現在、アメリカでのEV販売に向けてディーラー網を構築しているのでしょうか?

答えは、どうやらYESともNOとも言い切れないようです。

中国の大手NEVメーカーBYDは最近、公式Twitterアカウント(@BYDCompany)を通じて、同社がサンフランシスコのベイエリアにあったトヨタディーラーを引き継いだとするツイートは事実ではないとコメントしました。また、実際のところ「件のディーラーや、以下にタグ付けしたウェブサイトとは一切関係がなく」、「何か発表することがあれば、公式チャンネルを通じて発表します」とツイートしています。

問題のディーラーの敷地内にはBYDのロゴが掲げられていて、そのロゴの影にはトヨタのロゴと看板がはっきりと見てとれます。BYDが言及していたウェブサイト(bydberkeley.com)はその後削除されましたが、以前にはサンフランシスコ郊外にあるBYDバークレー・エクスペリエンス・センターと思われる施設の情報が掲載されていました。

当面はBYDの公式発表を信じる事にしましょう。ただ、ひとつ確かなことは、販売拠点がどこになるかはさておき、同社がEVを販売するためにアメリカに進出するということで、ポイントはその進出時期や方法であって、BYDが進出するかしないかという次元ではないのです。

実際、BYDがロサンゼルスのダウンタウンに北米本社を設立したのは2011年末で、すでに10年以上前からアメリカに進出しています。また、カリフォルニア州ランカスターに55万平方フィート(約51,000平方メートル)のバス生産施設を所有しています。同社の米国サイトによると、「BYDは2013年に米国人従業員6人でスタートし、現在では従業員数は1,000人を超えている」とのことです。

BYDは昨年、世界最大のNEVメーカーとなりました。その顧客の大半が中国国内とはいえ、180万台以上もの販売実績があります。しかしながらアメリカにおいては、全く認知がないわけではないにしろ、一般的な消費者にとっては依然なじみの薄い謎のブランドなのです。

他方でBYDはヨーロッパ、カナダ、中南米などの中国以外の多くのEV市場で製品を発売し、急速にグローバル展開を進めています。

BYDアメリカから試乗のオファー

このような状況のなかで、今年の初めにBYD アメリカから、中国市場で最も売れている車種の一つ、漢(Han)EVをアメリカで試乗してみないかと持ち掛けられたとき、私は喜んでその申し出を受け入れました。

2月下旬の娘の冬休み期間中に、家族でロサンゼルス近郊の友人を訪ねる計画があったのですが、私が西海岸に滞在しているその数日間、BYDが漢EVを使わせてくれることになったのです。車の手配の都合上、実際借りることができたのは唐EVでしたが、こちらもBYDの電気/電動SUV「王朝(Dynasty)」シリーズの中では人気の高いモデルです。

BYDアメリカの担当者によると、私が試乗した2021年式唐EVは、当時アメリカで2~3台しかないうちの1台で、私は社外の人間として初めてこの車をアメリカの公道で運転することができた数少ない人の一人だったので、控えめに言ってもかなり興奮しました。

私は普段、試乗レビューはしませんが、21年式の唐EVを借りてからの24時間、さまざまな天候の中で運転ができたので、同モデルの長所と短所をお伝えしつつ、「BYD、米国市場への本格参入の機は熟したか?」という問いに答える価値があると思ったのです。

(唐EVと機能面で類似点が多い漢EVのレビューは、人気ユーチューバー、ダグ・デムーロ氏の最近の動画「The BYD Han Is China’s Ultra-Quirky Take On a Luxury Sedan」をお勧めします)

私が試乗した唐EVは、86.4kWhのBYDブレードバッテリーを搭載した7人乗りで、航続距離はNEDCモードで505km、WLTPサイクルで400km。30%から80%までの急速充電は約30分、0-100km/h加速は4.4秒、100-0km/hの制動距離は36mです。

サイズは、レクサスRXやトヨタハイランダーとほぼ同じです。実際、私が試乗した「スノーホワイト」カラーは、フロントとリアに龍の顔を象った特徴的なデザイン「ドラゴンフェイス」を採用しているものの、街中を走っているとBYDに詳しい人でもない限り、RXやハイランダーと遠目で区別するのは難しいでしょう。パッと見てBYDだと分かる特徴があるわけではありませんが、BYDらしさは十分に備えています。

2月23日の昼前に車両を受け取り、外観を確認した私は、すぐにBYDアメリカの担当者に問題点を伝えました。車両の左右後方にある充電ポートのキャップのプッシュオープン機構が安っぽく感じられ(キャップを押すと、カチッと大きな音がする)、クルマの高級感にそぐわなかったので、「細かなディテールが大事ですよ」と伝えました。

車を借りた時点で、航続距離は250マイル(400km)ほど残っていました。娘を連れてユニバーサル・スタジオ・ハリウッドに行き、車は駐車場に停めておきました。夕方、帰りにHOLLYWOODの看板を見に行って、翌朝ガーデナの友人を訪ね、前日にクルマを預かった場所でBYDアメリカの担当者に車両を返却したのは昼過ぎのことでした。返却時の航続距離は約90マイル(145km)で、BYDアメリカ本社まで運転して戻るには十分な距離でした。

試乗した2日間はロサンゼルスで豪雨が続き、標高の高い場所や山間部では数十センチの雪が降り、さらにはめったに見られない暴風雪警報が出ているタイミングでしたが、それでも高速道路や一般道の走行における唐EVの操縦性は素晴らしいものでした。また、その週の初めにテスラモデル3を借りていたので、2台の乗り心地や操縦性を比較することができたのですが、唐EVは重くて大きいSUVにもかかわらず、モデル3とそれほど大きな差はなかったのです。

では、全く問題がなかったかというと、決してそうではありません。

唐EVの全体的な印象は、ほどよい大きさで、デザイン性の高いSUVだということです。走りも乗り心地もよく、内装も高級感があります。回転式ディスプレイやカスタマイズ可能な室内照明、カラオケなどの一風変わった機能(上記のダグ・デムーロ氏のレビューを参照ください)もありますが、車内が広く、米国市場に適した車だと思います。私の娘はタッチスクリーンが大好きで、(テスラでもそうですが)メニューを色々といじって遊んでいました。

とはいえ、いくつかの機能については、まだまだ改善や最適化の余地があります。先ほどの充電ポートの問題に加え、車両自体はかなり新しいにもかかわらず、シートを含む内装に高級感があるのに何故か摩耗してヤレた感じがあります。インパネや音響システム、タッチスクリーンのメニュー操作、画面への指紋の付着なども、まだ最適化できるでしょう。アクセルを離したときの回生ブレーキの感触は、特にテスラと比較すると改善の余地があります。また、運転席のボタン類の操作の複雑さについては、テスラのような極端にシンプルでないにしても、ゴチャゴチャとミニマリストのバランスを考えて最適化すべきです。

ナビゲーションやApple CarPlay/Android Autoも利用できず、BYDアメリカの担当者には、ADAS機能は米国の公道ではホモロゲーションされていないため、試さないようにとも言われました。

この21年式の唐EVが米国市場に投入されることはまずないでしょう。あくまで将来のBYDディーラーや投資家の参考のために、またホモロゲーションのために米国に持ち込まれたものです。それでも、アメリカの消費者のテイストに合わせて多くのディテールを改善することはできるでしょう。そうした改善を踏まえた次世代唐EVは、米国市場を本気で席巻できる有望な候補になれるのかもしれません。

全体として、私は唐EVを10点満点中7点と評価します。良いクルマです。BYDは20年前に自動車製造に参入して以来、確かに大きな発展を遂げました。その間の変革と、ここ数年の急成長について、王傳福会長と彼のチームに賛辞を送ります。繰り返しとなりますが、この車が米国市場で通用するEVや自動車になるために、そしてBYDが米国市場に本格参入するためには、様々な改善が必要でしょう。

翻訳/翻訳アトリエ(池田 篤史)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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