BYD Auto 深圳本社訪問記【後編】「技術は提供するが社会を変えるのはそれぞれの国」という姿勢

電気自動車販売で世界トップを競うBYDが、アジア太平洋地域のメディアなどを集めたイベントを開催した。訪問記の後編、本社ビル訪問やアジア太平洋地域のセールス部門トップ、Liu Xueliang氏のプレゼンテーションやインタビューの内容を交えてお伝えする。

BYD Auto 深圳本社訪問記【後編】「技術は提供するが社会を変えるのはそれぞれの国」という姿勢

高速道路ではEV商用バンを多数目撃

プログラムの2日目は深圳本社訪問とショールーム見学だ。試乗プログラムが珠海サーキットだったのでバスで再び深圳市内へ移動した。高速道路利用でおよそ3時間の行程だった。

途中で深圳国際空港の前を通るのだが、現在拡張工事が行われていた。周辺の土地はまだ余っているのか、重機による造成が進められていた。BYDはこの事業を含む深圳市の開発事業にEVのダンプトラックも提供しているという。深圳空港の拡張工事では300台のBYD のEVダンプが稼働しているそうだ。

深圳までの高速道路ではやたらとEV(NEV)の商用バンをみかけた。中国ではNEVは緑色をしているのではっきり区別することができる。日本だとハイエースに相当するミニバンのNEV率は90%以上といってよい。

サービスエリアで充電していたEVバン。

休憩したサービスエリアに止まっていたEVバンの運転手によれば、航続距離は250kmくらいだが、1日の営業距離数は、経路1〜2回の充電で500kmくらいならさほどの不便を感じることなく運用可能だそうだ。商用バンこそ、車両が多少高くてもメンテナンスや燃料代などランニングコストが下がれば導入効果はあるのだろう。市内のラストマイルだけでなく中距離のルート配送でもEVのメリットは高いことを示している。

BYDの主要4事業とは

BYD本社ビルはアメリカ国防総省の五角形を六角形にしたような外観を持つ。ペンタゴンならぬヘキサゴンビルだ。敷地面積はおよそ380万平方メートルといわれる。敷地内にはサッカーグランドやテニスコートもあり、同社が製造販売する小型モノレール(SkyShuttle)が走っている。

敷地内には駐車場もふんだんにあり(普通充電器のスポットも多い)構内は車でも移動可能になっている。ときおり偽装された車両(おそらく試作車両・試作部品を取り付けた車両)も往来するなどちょっとしたカオス状態だ。

ショールームは本社エントランスホールと同じ階に設定されている。ショールームといってもちょっとした博物館規模のスペースがあり、BYDグループの4つの主要事業に関する技術や製品が見られるようになっている。4つの主要事業とは、自動車、軌道交通(モノレール)、新エネルギー、電子機器になる。もともとはバッテリーメーカーだが、4つの事業領域はすべてバッテリーのアプリケーション分野だ。BYDは単なるバッテリーメーカーではなく、バッテリーを軸としたアプリケーション、ソリューションビジネスを展開するコングロマリットといえる。

BYDの創業は1995年。自動車の製造販売は2003年から(西安泰川汽車買収)とされる。EVの最初のヒットは「e6」だという。簡単な沿革紹介のあと、BYDを支える優秀なエンジニア(社内表彰された従業員)や取得特許の一覧も紹介された。特許の一部は海外で取得したものだ。

自動車関連事業のコーナーでは、e-Platform3.0の展示やアクティブ制御サスペンション、IVIなどデジタルコックピットが紹介されるが、筆者が興味を持ったのはDMシリーズの内燃機関とハイブリッドシステムの展示をしっかり行っていたことだ。BYDも完全EV化を宣言している自動車メーカーのひとつだが、HVやPHEVも持っている。サポートやメンテナンスがあるという理由もあるが、既存技術をないがしろにするわけでもない姿勢が見て取れた。

もうひとつの注目はEVバスのカットモデルだ。BYDのEVバスの構造や、駆動輪のインホイールモーターの様子がわかる展示だった。みたところハブやサスペンション、リンク部品に接続されるアクスルのようだ。出力軸やハブなどは同軸上にありブレーキも一体化している。ホイールの大きさには収まっていないが、薄型でコンパクトにまとめられている。

大きなモーターの左右にシャフトを伸ばしてアクスルとした製品もあった。これはトラックのアクスルとして利用する。6×4のように駆動輪が複数の場合でも、プロペラシャフトやリンク類なしにアクスルごとに駆動輪を設定できる。なお、大型トラックやダンプでは6×4や8×4といった軸数と駆動輪数を表現する。6×4は3軸6輪のうち2軸4輪が駆動輪であることを示す。

また、BYDのEVバスは、ロンドンの2階建てバスにも採用されている。

ガラス越しに熱気を感じたバッテリーの釘挿し試験

電子部品では、小型のバッテリーやスマートフォンのケース素材などの説明を受けた。スマートフォンバッテリーは同社の礎を築いた製品だ。金属と樹脂を融合させたケース素材もBYDが得意とする製品という。金属製のスマートフォンケース(筐体)はアンテナの配置が限られる。BYDのケースは樹脂と金属をうまく融合させ強度やデザイン性と電波特性を両立させるという。

バッテリーや小型の電子機器器の製造に欠かせないのが、金型などの微細加工に利用されるCNC加工機、ワイヤー放電加工機だ。ミクロン単位の細かい切削技術が必要だが、その応用例として卵の殻に微細な彫刻を施したもの、各種立体金属加工(彫刻)のサンプルを見せてくれた。このような展示は、国内の工作機械展に行けば見ることはできるが、中国の精密加工技術もそのレベルに達しているということだ。

次に紹介されたのは、今回の視察の主題ともいえるバッテリーの貫通試験だ。3元系(NMC)小型バッテリーとLFPブレードバッテリーの釘貫通試験を行うガラス張りのコーナーがショールームの中に設置されていた。取材としては工場や試験施設の中での実験を期待したが、来訪者向けの実演として行われるものだ。そのため気持ちショー要素が感じられ若干のリアルさに欠けるが、釘貫通試験のためにショールームに実験設備と同じ施設を作ってしまうところにBYDの企業としての勢いを感じる。

三元系のバッテリーは釘がセパレーターを貫通したところですぐに爆音を上げて炎上した。その瞬間、ガラス越しに熱気を感じたほどだ。LFPバッテリーは釘が貫通しても膨らんだり燃えたりすることはなかった。これも日本のバッテリー展などでは映像で見たことはあるが、ガラス越しとはいえ実験室で実演を見たのは初めてである。

最後はBYDのエネルギー事業として定置型蓄電池による再エネ発電所の模型や蓄電池製品(ESS:エネルギーストレージ)の説明を受けた。LFPバッテリーによるストレージは350kWhから515kWhまでいくつかモデルがある。出力は1000V以上で100~200kW以上となっていた。

家庭用のヒートポンプシステムやバッテリーを利用したオフグリッドシステムも展示していた。ヒートポンプやPV+家庭用ESSによるオフグリッドは、現在欧州でちょっとしたブームになっている。高騰する光熱費対策と、各国政府がヒートポンプや家庭用蓄電池に補助金を出しているからだ。

BYDの戦略は日本製造業に近い

今回の本社訪問ではレセプションで挨拶をしたAsia Pacific Auto Sales代表であるおLiu Xueliang(劉 学亮)氏とのQAセッションなど話す機会も設けられた。一連の取材と氏とのやりとりで感じたのは、BYDの戦略はEVや「チャイナスピード」のような中国先進企業のイメージとは裏腹に、従来型のビジネスを重要視している点だ。オンライン販売よりディーラー展開を重視する戦略はそれをいちばん現している。また、EVはスマートフォンのように単なる技術ではなく社会やビジネスを変える存在であると認めつつ、日本(他)への戦略としては、「BYDは技術としてのEVは提供するが、社会やビジネスを変えるのはそれぞれの国だ」ともいう。

BYDはEVの価値は車両ではなくソフトやデータ、それが生み出す新しいビジネスにあると認識している。そのソフトやサービスの部分は各国の事情や特色があるので、そこは現地に委ねるという。これは、アップルやテスラが、テクノロジーを背景にした新しい提案やライフスタイルを積極的に提案していくのとは異なり、イノベーションの素材となる技術、車両を提供する、新機能や技術ありきで製品を提供する日本式の製造業のスタイルに通じるものがあると感じた。

それを補強するものとして、QAセッションで「SEALのターゲットは?」という質問に「とくに設定していない」と答えたことを指摘しておきたい。ターゲット層をとくに設定していないのは、そもそも日本にEVの選択肢が少ないからというのが大きな理由だが、SUV、コンパクト、スポーツセダンと広角なポートフォリオで市場の手ごたえ、反応をさぐりつつマーケティングの方針を絞っていく考え方をとっている。

トヨタが市場の趨勢が見えないうちは全方位やマルチパスウェイを最善とする考え方と同じと言っては言い過ぎだろうか。

サーキットでの待ち時間にも熱い思いを語ってくれた劉社長。右は筆者。

垂直統合と水平協業を割り切る合理性が強み

その一方で、入念なしたたかさも感じる。このような戦略はおそらく欧州では少し違ったものになるはずだ。たとえばEUでのSEALの価格は約€44,900。これをオーストラリアドルに換算すると74,000AUDとなり、先日発表された5万AUDと大きな開きがある。関税率、諸費用の違いなどもあり差額のみで単純な比較はできないが、いずれにせよBYDにとって海外での車両販売価格は戦略価格であることには違いない。

エンジン、サスペンション、電装品、バッテリーなどをグループ企業で抱えるBYDは典型的な垂直統合企業といえる。しかし、販売チャネル、サービス網、ソフトウェアでは現地ごとに合わせるパートナーシップ戦略や水平協業を示唆している。

これは強みである反面、新しいビジネスや社会を変えるという点において、イニシアティブをとらないということになり、状況しだいでは弱みにもなりうる。極端な例を挙げれば、サービスプロバイダーやアプリケーションプロバイダーが主導権を握る市場では、それらのサービスに対応するハードウェアやデバイスを供給するサプライヤーの立場になる可能性もある。もっとも、OSを西側製品(Windows、Android)に委ね、レノボやHUAWEI、シャオミなどデバイス市場で覇者となるスキームが確立されている中国では自然な戦略なのかもしれない。

今回のツアーに参加してBYDの弱みというか改善してもよいと思ったのは、運営の細部が「雑」な部分だ。雑というのも日本基準での話なので、グローバルでは問題にならないレベルともいえる。たとえば台風の影響でサーキットプログラムが変更になったなら、その情報共有はもう少し明確にしてほしかった。置き撮り用に車両を用意してくれたのだが、前日までの雨で水滴が残っていたり、サーキット試乗で車両の設定やスタッフの対応がまちまちだったりしたことなどだ。

海外カンファレンスや海外企業の取材に慣れていればどれも気になるレベルではない。このレベルを気にしていたら海外で取材はできない。基本的に海外スタンダードでは、日本のような先を読むおもてなしはしない。日本はいわずとも理解してくれる先回り的なサービスを美徳とするが、海外では要求に対してどう応じてくれるかを評価する(なので日本式のおもてなしが新鮮で喜ばれる)。

必要なリクエストはその都度すればたいていのことは対応してくれる。今回もBYDスタッフは日本の細かいリクエストにも真摯に対応していた。取材対応から話を拡げすぎかもしれないが、日本市場の中でBYDのサービスがどのように進展していくか注目したい。

取材・文/中尾 真二

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

執筆した記事