2025年までに急速1000基を目指して加速中
「ENEOS Charge Plus(エネオスチャージプラス)は、2025年度末までにENEOSのサービスステーション(SS)などへの1000基設置を目標として充電網拡大を進めているEV充電サービスです。そのうちの一部の充電スポットで、7月から60分充電可能というサービスが試験的に始まっていて、地元の東京・晴海でスタートしたのを機にマイカーのHonda eで充電してみたというリポートをお届けました。
その折も、簡単なコメントはいただいたのですが、30分充電という「業界の常識」に一石を投じる試みですし、ぜひ詳しく話を聞かせてほしい、とお願いしたところ、ENEOSさん、快諾してくれました。
急速充電「60分」を提供する理由は?
東京・大手町の本社で取材に応じていただいたのは、ENEOS株式会社EV事業推進部EV事業企画グループのグループマネージャーを務める森真治さんです。ENEOS Charge Plusの事業化を立ち上げ当時から担当してきて、当初から60分充電の必要性を感じていたとのこと。そう思ったきっかけは、2022年6月にNECから充電器事業を受け継いだ際に、一部施設で急速充電器の稼働率が上がらない現実を目にしたからだそうです。
「例えば商業施設で地下3階4階などに充電器があると、駐車場から売り場まで10分近くかかる。30分制限だとすぐに戻らなくてはならないので、急速充電器はほとんど使われていませんでした。一方で普通充電器は比較的稼働している。それだったら急速充電も制限時間を60分にすることで、利便性向上につながるのではないかと考えました。高速道路などでは充電渋滞も起きていますが、商業施設ではその心配がないところも多数ありますので」
まずは利用者の反応を探ろうと、長時間充電のニーズがあると判断できた複合施設を中心に、60分充電を実験的にスタートさせたそうです。実施後は、X(旧Twitter)やコールセンターを通じて「60分にしてくれてありがとう」とコメントが届いたり、「うちの近所も60分にしてほしい」と要望が来るなど、反応は上々。
このため、事業者の同意を得られたところから60分充電サービスを徐々に拡大して、対象となるSSは9月2日現在で22ヵ所に。また当初は8月末までとしていた期間も延長され、9月以降も一部の店舗では引き続き実施するとのこと。ただ、今後どこまで拡大するかについては検討中で、60分充電は、経路充電(長距離移動時の注ぎ足し充電)よりは目的地充電(長時間滞在する場所での充電)での活用を重視していく可能性があるそうです。
「SSなどの経路充電では、充電率が減っているからチャージするという緊急性にも対応できなくてはいけません。『充電時間は30分』というのは一般常識的なものとして利用する皆さんの頭にあるので、そこも考慮しなくてはいけません。一方で、目的地充電は『ついで充電』のような利用法も多い。そうした性質の違いを考慮するつもりです」
せっかくなので、60分充電のことだけでなく、ENEOS Charge Plusが今後、どういう充電ビジネスを展開していくつもりなのか、いろいろお聞きしました。以下、一問一答形式でお届けします。
Q. 公共の急速充電は100kWを超えるような充電器も増えてきています。高速化の予定はありますか。
他社製の90kW器を備えたENEOSのSSもあるのですが、厳密にいうと我々はまだ50kW器までしか持っていません。今後、100kWを超えるハイパワーを準備し、需要が見込めるエリアを中心に展開していく予定です。
Q. 複数口化についてはいかがですか。
検討中の案件ではあります。EVが普及するタイミングで、充電渋滞というのは解消すべき課題になるはずです。ただ複数口の50kW器を2台が同時に使うと、どうしても充電速度が遅くなりますので、ハイパワー化に合わせて複数プラグにする方が利便性が良くなるのではないかと考えています。
Q. 従量課金制についてはどうお考えですか。新興のEV充電サービスが先行していますし、大手のe-Mobility Powerも時期は未定ながら導入する考えを明らかにしています。
複数プラグで充電する場合は、充電量に応じたkWhあたりの従量課金が必須になると考えています。ただ既存の充電器にまで従量制を広げるのが妥当かどうかは検討課題です。ハイパワー充電器の導入について発表する際には、お答えできるようにしたいと思っています。
Q. ENEOSのSSは現在全国に1万2000ヵ所あります。ユーザーとしてはそのすべてに充電器が備わっていれば……と妄想してしまいますが、EV用充電ネットワーク拡充のロードマップを教えてください。
SS以外の目的地充電なども合わせて、2025年に1000基、2030年に最大1万基、という数字を掲げています。SSには消防法の規定もあるので、達成するために防爆充電器(防爆構造適用急速充電器)を開発中です。特に都心部などの小さなSSでは、充電器と給油施設との距離、充電用スペースや導線の確保が課題になります。少しでも設置場所を増やせるように、と考えています。
Q. 先行したEV充電サービスが月額会費制を基本とする中で、ENEOS Charge Plusの会費ゼロというのはユーザーには魅力的です。ハードルの低さを意識されたのですか?
自動車の燃料供給をビジネスとしてきたので、ガソリンスタンドの考え方が基本にあります。例えばEneKey(ENEOSのクイック決済ツール)を使っている方は、EVに乗り換えても私たちのお客さまであり続けてもらいたい。EneKeyは無料サービスですし、ENEOSカードも年1回使えば会費無料のプランを用意しています。これがEVに乗り換えたら有料で、毎月何千円もかかるというわけにはいかない。ENEOSを使っていただいている何千万人もの方が期待しているのは、都度、必要な時に必要な分だけ購入するということ。なので会費無料でやることは必然だと考えています。
Q. 固定収入となる月額会費がないとビジネス的に難しい部分はでてきませんか。
もう少し稼働率が上がれば、つまりEVが普及して台数が増えれば、採算は取れるようになります。会費でいただくか充電料金でいただくかが違うだけで、収益力の特別低いビジネスモデルだとは思っていません。電力料金に左右される部分はありますが、充電料金は将来的に黒字化できる価格設定にしています。ただ、EVは基礎充電をベースに考えるものですし、採算を上げるために無理にSSでの充電をお願いするのは違うと思っています。
充電だけでなくEVライフサポートの「プラス」を提供
Q. 私の自宅近くのENEOS SSには充電器だけでなく洗車機や空気入れもあって便利です。
ガソリン車からEVにしたことで、日々のメンテナンスをどうすればいいかわからない、気軽に立ち寄れる場所がなくなった、といった声を聞きます。ENEOSには、国家資格を持った整備士がいるなど、多くのSSが、日々のメンテナンスから車検を通すことまで対応できます。愛車のメンテナンスを通じてみなさんのカーライフを支えてきたと自負していて、EVであってもそこは変えないつもりでいます。
Q. たしかに一般的な充電スポットでは、そうした付加サービスはできないですね。
充電のためにSSに来ていただければ、そこで数々の便利なサービスを受けられる。洗車機や空気入れは第一段階で、メンテナンス関連は今後も増強していきます。たとえば充電中に掃除ができると便利という声があるので、充電器の隣に掃除機を置くことも試してみたいと思っています。
じつはENEOS Charge PlusのPlus(プラス)という言葉には、そういう意味が込められています。充電=チャージだけでなく、カーライフとしてサポートしていく。チャージのその先へつないでいく、ということです。どうせ充電するならENEOSに行こうか、という世界観を目ざします。
(一問一答ここまで)
なにしろガソリンスタンド業界最大手ですから、全国に約1万2000ヵ所あるENEOS SSの中で、急速充電器が設置されている場所はまだ少数派です。でも、大手町の本社を訪ねて「おおっ」と思ったのは、受付の横にENEOS Charge Plusの急速充電器の本体が展示してあったこと。EV用充電サービスにかける本気度を感じさせてもらった取材でした。60分充電に続いて、どんな「プラス」が登場するのか、楽しみです。
じつはこの日、EVユーザーでもあるモータージャーナリストやインフルエンサーを集めたENEOS Charge Plusグループインタビューも開かれました。どんなEV充電サービスが望ましいのか、ユーザーはENEOSに何を期待しているのか、別記事でお届けしたいと思います。
取材・文/篠原 知存
前に充電している人がいるときにENEOSで60分も待っていられない。ENEOSにはENEOSのHPから苦情を入れた。
30分で足りないこともあるから、60分の枠を作ると言う事は、確かに一部のニーズには応えられると思います。しかし充電器が1台ですので、そこを目指していこうと思っても、充電器が使用中の場合、ものすごく待たされるかもしれないと思うと、ENEOSは選択肢から外れます。つまりグランドデザインとして複数台設置することを前提としないと、トータルとして不便なままだと思います。これはリーフなどで充電経験が悪いものだったのに対して、テスラでは充電経験が良いものである(充電時に、お互いが仲良くなる)と言う全く異なった経験を作り出すことがわかっていないからだと思います。一台で続けても運用実績は悪いと思いますし、そもそも良いユーザエクスペリエンスを提供できないので、継続性は乏しいと感じます。
料金体験に関しては、タクシーの時間距離併用性と同じように、接続時間である程度チャージされるほか、充電量に依存した料金の請求が必ず必要だと思います。この両者をうまくバランスして支払い額を決めるようにすると、長い時間の無駄な充電がなくなります。
個人的には「おかわり許容」よりも「少ない充電設備をみんなでシェア」を優先するべきだと感じています。
ENEOS絡みの決済のみ60分充電OKとのことなので、規定時間経過後5分以上放置していれば、ペナルティとして充電課金より高い価格を駐車料金として課金を再開して充電用駐車スペースでの放置を防ぐ仕組みの導入が必要だと思います。
マナーとして、おかわり充電時は車内に待機して充電希望者(車)が現れたらすぐに充電を中止して充電用駐車スペースから離れて並び直すことをENEOSからも強く発信して欲しい。
車両側の性能にもよりますが、充電の終わり付近は、非常に充電効率が悪くなることも正しく伝えて、無駄な長時間利用を減らすことも推進してください。
もちろん、お伝えしない方が、会社的には儲かると思いますが、その充電器を目指してやってくる人がいることも忘れないでください。
待機車両がいないときに、「おかわり」を許容できる仕組みの方が、ありがたいと思います。
長沼さま
コメントありがとうございます。
多くのEVで満充電近くなると充電効率が落ちるのは、おっしゃる通りです。前回の60分充電体験記でもお伝えしたように、私のHonda eもSOC80%あたりから20kW前後しか出なくなります。
また、60分充電で待機が増える懸念は、私も感じていましたので取材でも質問しました。記事内で「SSなどの経路充電では、充電率が減っているからチャージするという緊急性にも対応できなくてはいけません」という森さんの言葉を紹介したように、ENEOSさん、「その充電器を目指してやってくる人」のこともしっかり考慮されていると思います。
充電効率ダウンについては、当ブログの過去記事でも何度か紹介されていますが、新しくEV・PHEVに乗る方も増えていますし、正確な情報をより多くの人が共有できるようになるといいですね。