ETC決済必須? 発表された「高速道路外のEV充電器の活用」案の問題点を考える

2023年3月末に経済産業省と国土交通省から発表された高速道路のEV充電インフラの促進策、その一つとして「高速道路外のEV充電器の活用」が含まれていました。ただしこの案には期待と同時に多くの問題点もあり、今回はその背景を理解した上で、改善案を提案します。

ETC決済必須? 発表された「高速道路外のEV充電器の活用」案の問題点を考える

※冒頭写真は、新東名浜松SAのスマートICで一時退出してスーパーチャージャーで充電中のテスラ モデル3。

喫緊の課題となっていた高速道路の充電インフラ拡充

数年にわたり停滞していた国内のEV(プラグイン車=BEV+PHEV)販売ですが、車種の増加に伴い2021年頃から徐々に増加。さらに2022年に日産サクラと三菱eKクロスEVが発売されたことをきっかけに、新車販売に占めるEVのシェアは前年から2倍を超える勢いで大きく増加しています。ところが高速道路の充電インフラはここ数年で大きく増加することはなく、高速道路のSAPAでは慢性的な充電渋滞が発生、喫緊の課題となっていました。

そんな中、満を持して経済産業省と国土交通省から共同で発表されたのが、「高速道路における電動化インフラ整備加速化パッケージ」です。この発表には4つの大きな促進策が盛り込まれていて、資料の1番、2番、4番では補助金の増加や政府の積極的な支援により、2025年度までに高速道路の急速充電器の口数を2020年度比で2.7倍に増やすとされています。

発表内容の概要(画像:経産省・国交省資料より)

そして高速道路上の充電器を増やすことと並んで、もう一つ重要な促進策が3番の「高速道路外のEV充電器の活用の検討」です。これは一度高速道路から降りて一般道で充電した場合でも一時退出とみなし、降りなかった場合と同様の通行料金とする制度です。実は現在でもETC2.0を用いた似たような「賢い料金」という制度があり、SAPAの空白地帯などにおいて、代わりに一般道の道の駅を活用するという社会実験が行われています。

【参考】
高速道路における電動化インフラ整備加速化パッケージ(経済産業省・国土交通省)

実はこの制度、2022年11月11日に開催された「第24回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」において、当時EVsmartの運営に携わっていた安川氏からも提案していたものでした。具体的には、現在全国約30箇所にて社会実験が行われている「賢い料金」をすべてのICに拡大するもので、整備が遅れているSAPAの充電設備を補完する制度として、筆者としても大いに期待していました。

【関連記事】
EV普及に向けた充電器整備について「再エネタスクフォース」で提言~ユーザー本位の改革を要望(2022年11月19日)

ところが当時この提案を受けた国土交通省の担当者は「一時退出した車両が充電したかどうかを確認することが課題」という旨の回答をされていて、一抹の不安を感じたことを覚えています。そしてこの不安が見事、今回の発表の問題点につながるのでした。

今回の発表の要点と問題点

それでは、今回の発表はどのような内容だったのでしょうか。

高速道路外のEV充電器の活用について(画像:経産省・国交省資料より)

上記の資料によると、一時退出として通行料金を調整するには、

1.指定のICでETC出口から退出
2.高速道路外のEV充電設備で充電し、ETCカードで課金・決済
3.同じICのETC入口から1時間以内に再入場

という条件を満たす必要があります。確かにこの方法であれば確実に充電したことを確認できますが、同時に多くの問題点も見えてきます。

問題1:決済端末の費用

問題の根底にあるのは、一時退出した充電の決済方法をETCカードに限定しようとしていることです。ETCカードは高速道路や有料道路の通行料金を支払うための仕組みであり、一般的な決済目的で作られておらず、汎用的な決済端末では対応していません。専用の決済端末を開発する必要があり、他に使い道がなく、少量生産のため必然的に価格も高価になると見られます。

問題2:既設の充電器の改修費用

新規設置する充電器なら本体と決済端末を同時に工事可能ですが、既存の数千箇所の充電器は1基ずつ改修が必要です。一時退出で利用できる急速充電器を限定するとしても、数百カ所にはなるでしょう(そうでないと意義が薄れます)。高価な決済端末の新設と合わせて、高額な負担が必要になる可能性が高いでしょう。

問題3:改修にかかる期間、対応範囲

改修に必要な財源を考慮すると、必要十分な充電器に設置することは困難であり、使えるICや充電器がごく一部に限定される可能性があります。また、仮に財源が確保できた場合でも、設置されるまで数年単位の時間がかかると思われます。

問題4:既存充電プランとの兼ね合い

多くのEVオーナーは自動車メーカーが提供する充電プランに加入していますが、ETC決済に限定する場合、これらの料金が適用されないことになります。例えば日産のZESP3のプレミアムプランでは毎月定額で100分〜400分の充電が可能ですが、ETCで決済する場合はこの定額の枠が使えないことになります。

また、eMPネットワークによる公共の急速充電器は、課金システムに複数のベンターがあり、システムが複雑になってしまっていて、たとえば充電後放置などへの対策といった柔軟なシステム改善さえ滞っているところです。「充電したことを確認」という、必要性がよくわからない理由で、さらに混迷を深めるような施策はいかがなものかと感じます。

このように膨大なコストがかかる割に実際に使えるICや充電器が非常に限られてしまったり、支払い方法が分散してしまうことにより、ユーザーの利便性が大きく低下することが予想されます。

背景と提案

それでは経済産業省と国土交通省は一体なぜ、このようなユーザーの利便性を損なう方法を検討しているのでしょうか。この疑問を国土交通省の担当者に確認したところ、以下のような回答がありました。

●もしEVの充電以外での一時退出も料金調整の対象とした場合は高速道路の運営者側に損失が発生するため、補填するための財源が必要になる。(ガソリン車ユーザへの負担増が懸念される)

●そのような財源の確保は困難であるため、確実に充電したことを把握する必要があり、現在はETCカードを使って決済する方式を前提に、e-Mobility Power社と詳細を検討中。

●他の充電事業者やe-Mobility Powerに加盟しないメーカー独自の充電網(テスラ、アウディ、ポルシェ、レクサスなど)についても間口は閉ざしておらず、対話する用意はある。

●パブリックコメントなど、一般の利用者などから意見を募る予定はない。

確かに国土交通省の懸念については、ある程度は理解できます。高速道路の運営者側からすると、充電しない車両まで一時退出を認めてしまうと損失が出るという解釈になるようですから、一定の配慮を示す必要があったのでしょう。しかし、その損失をカバーするのに、損失以上のコストをかけるようでは無意味です。このようなコストがかかる案を示したからには、予想される損失とコストを提示する必要があるのではないでしょうか。

また、損失を回避することは、EVユーザーの利便性を蔑ろにする理由にはなりません。ここまで利便性を無視した発表を見てしまうと、「日常的にEVを使用しているオーナーは議論に参加しているのか?」という疑問すら湧いてきます。そもそも高速道路の運営者側がSAPAに必要な出力や数の充電インフラを整備できていれば、なんの問題もありません。インフラの整備が遅れている責任を棚に上げた挙げ句、ユーザーの利便性を損なうような方法を押し付けるように見えてしまうのは、筆者だけでしょうか。

僭越ながら、最後にコストを削減しながらユーザーの利便性を損なわない方法として、筆者から以下のような提案を申し伝えたいと思います。

【提案1】
既に実施されている「賢い料金」と同等の一時退出の仕組みを「すべてのEV」「すべてのIC」に拡大してください。もし損失が発生するのであれば明確に金額的な予想を立てた上で、必要なインフラを整備してこなかった高速道路の運営者側の責任も加味し、その一部を国から補填するよう予算を計上してください。

【提案2】
充電待ちが発生した場合や充電器の性能、車両側の条件などによっては1時間では戻れないケースが発生する可能性が大きいため、最低でも2時間程度の一時退出時間を認めてください。

【提案3】
どうしても(コストをかけてでも)「一時退出した際に充電したこと」を確認したいのであれば、高価なハードウェアや大がかりなシステム追加が必要なETC決済にこだわるのではなく、各充電事業者との間でAPI通信などを用いたシステム連携を行い、ソフトウェアで完結するような安価でスケーラブル(容易に拡大可能)な仕組みで充電情報を取得してください。具体的な検討においてはデジタル庁や民間のIT企業など、IT分野に精通した有識者を参加させてください。

【提案4】
このようなEVに関わる政策の検討においては行政や事業者間での議論だけでなく、必ず日常的にEVを使用しているEVオーナーも参加させ、その意見を尊重してください。また、必ずパブリックコメントなどを通じて消費者である一般のEVオーナーからも広く意見を募集してください。

高速道路上の充電インフラが足りないという問題は、一朝一夕で解決できる問題ではないかもしれません。しかしながら、より低コストで利便性の高い方法があるならば、間違いなくそのような方法を採用すべきでしょう。日常的にEVを使用しておらず、IT分野の専門家でもない行政や事業者の担当者間の議論だけで、ベストな方法を見つけることは至難の業です。ぜひとも一般のEVオーナーを含め広く意見を募集した上で、少しでも効果的な方法を実現してほしいと切に願います。

取材・文/八重さくら

この記事のコメント(新着順)11件

  1. 仮に本当に一時退出で充電してたとしてもその間に退出しないと行けないとこに飲食してたり買い物だったりしてまた乗ったとしたら、対象以外の人らは不公平感を感じざるおえない

    1. なんで?何に対して不公平?
      何か損害が貴方に発生しましたか?
      こういう考え方がまかり通るから
      すべき事ができなくなっていくんですよ。
      そもそも損失という概念がおかしい。何も損してないじゃん。新たな損害は何も発生してない。

  2. そもそも高速料金が完全に距離比例になっていれば、どこで降りてどこで乗ろうと、通しで乗ろうと、別に調整は必要ないはずです。長く乗るほど割安な料金体系では無く、完全な距離制にすれば良いだけの話。それならEVだけではなく、すべての車に公平です。充電ついでにちょっとした買い物も出来てしまうし、混雑で時間内に戻れなかったときなどを考えるとスマートな施策では無いです。

  3. 出入りが自由になると割高に感じるSA等の飲食が減るとか、給油も外に流れるなどの影響を気にしているのではないでしょうか。なので充電以外の目的はダメ、と。
    詳しいことは全くわかりませんが、システム的には大した障害はなく、一時退出くらいやろうと思えばすぐにできてしまうのではないかと思いますが、どうなんでしょう。
    外にあった方が、様々な人が利用できるので有効に使える気がします。

  4. 普通車、大型車、牽引車などの車両に応じたETCのセットアップする術があるのだから、一段階目としてEV用のセットアップ枠を用意すればいいのではないかと思います。

    若しくは、一般道に設置したEVチャージングステーションと名するゲートにETCゲートを設置して、EV車としてセットアップした車のみ入れるようにすればいいのではないですかね。それで囲い込みができるのではないかと思います。

    という議論も頭のいい人たちがしているとは思いますが、何にせよ利権やしがらみが多少見え隠れしますね・・・。

  5. 日本は諸外国に比べると高速道料金が非常に高く、EVがガソリン車と同一の高速料金を支払った場合、例え高速道路外のEV充電器の活用が見込まれたとしても、高額な大容量バッテリーを搭載したEVを購入して高速長距離走行するメリットは余りないと考えています。恐らく日本では、小容量バッテリーを搭載した軽EVしか普及しないと思います。従って国策として、EVには高速料金をタダにするような施策が今後重要と思います。欧米では高速道路はフリーウェイで、高速料金はタダが前提です。これから日本でも長距離走行を可能にするようなEVを技術開発しないと、自動車大国日本の地位は世界で守れないと思います。

  6. 高速道路の流出入ではETC2.0の情報(ETCXの利用情報があれば一時退出扱いにする)、
    充電器エリアではETCXの情報を活用(コインパーキングと同じ様に利用時間に応じて課金し、高速利用が判明すれば課金抹消)すとすれば、大きく費用がかかることもないのではないでしょうか。

  7. サービスエリア等の高速上に設備を今以上に増設してくれてば、こんなややこしい事はしなくても良いのでは?
    いろいろと問題がありすぎなような感じですよね。

  8. 補填するための財源は、再合流する際の料金調整でどうにでもなると思います。
    0円に拘るせいでそんな余計な事をするというのであれば、いくらかでも払った方がずっと良い。

  9. >もしEVの充電以外での一時退出も料金調整の対象とした場合は高速道路の運営者側に損失が発生する

    損失なんですかね…
    むしろ今までが一時退出する利用者の負担増だっただけのようにも。
    EVに限らず、スマートICから出て一定時間内にスマートICに入る場合、初乗りと最終出口で経路を問わず課金すれば良いだけだと思いますが。
    それに合わせて料金体系を調整すれば良いだけのように思います。

  10. いつも楽しみに拝読しています。
    高速道路上のSAPAの充電設備の大規模な充電渋滞は常に発生しているわけではなく、行楽シーズンや帰省時期などの特定の時間の特定の方向(上り又は下り)で発生します。その対策として大量の充電器を両方向に設置しても一方向(例えば下り方向)で充電渋滞が発生しているにも拘わらず他方向(上り方向)の充電器はガラガラという無駄が発生します。
    それを考えると、SAPAの外に大量の充電器を設置して、上り下りの両方で充電器を共用することが無駄の少ない設備投資となります。よって、「ETC出口を一旦出てから充電してETC入口から戻る」という方法の方が、国土交通省、EXCO、EV利用者の3者にとって得な方策だと考えます。

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					八重 さくら

八重 さくら

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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