【集合住宅EV用充電設備事例】マンション住民主導で設置した資産防衛としての充電設備

今回紹介するのは東京都渋谷区の分譲マンションです。築40年という歳月を感じさせない雰囲気の秘密は「こまめなアップデート」にありました。まだEV所有者は少ないものの、資産価値向上という観点から理事会が主導して駐車場全区画で使えるコンセントを設置した事例です。

【集合住宅EV用充電設備事例】マンション住民主導で設置した資産防衛としての充電設備

次世代の標準設備

課金機能を備えた充電設備設置サービスを進めるユアスタンドの最新事例シリーズ。今回お邪魔したのは東京都渋谷区の瀟洒な分譲マンションです。

現在、マンション住まいのEVオーナーの多くはガソリンスタンドに立ち寄るかのごとく、週に何度か公共の急速充電ステーションに通っていることでしょう。でも、やはり自宅充電が本来のEVの使い方であり、寝ている間に充電されるのはこの上なく便利です。加えて、2022年は国産・輸入車ともに注目の新型EVが続々と投入される予定のため、これまで以上に近所の公共充電ステーションが混雑することが予想されます。さらに追い打ちをかけるように、一部の市役所や道の駅では採算が取れないという理由で更新時期を迎えた急速充電器を撤去しています。

つまり、EV所有者が増えて社会としてのニーズが高まるほどに、今後はマンションでも充電ができて当たり前の時代がやって来ることが予想されます。物件を探すときに「インターネット無料」や「オートロック完備」で絞り込みをした経験がある方も少なくないと想像しますが、もうすぐ「EV充電設備」を求める消費者も増えることでしょう。

アップデートの相乗効果

現在、マンションの理事長を務めるTさんは海外数カ国での駐在勤務歴が長く、欧米ではマンションの住人が積極的に建物をアップデートしているのを目の当たりにして「物件の価値は住民自ら守るべきもの」という意識を強く感じたとのこと。その体験から、2019年に理事長となって以来、屋根の防水や配管の更新、窓のサッシ、防犯カメラ、共用部の電球のLED化などを行ってきました。LEDなどは理事長自らAmazonで購入して管理会社の担当者と一緒に取り替えて回ったそうです。

消費電力が100W→5WになったLED電球。

EVの充電設備についても過去に何度か検討したそうですが、誰がいくら電気を使ったのか分からなくなることがネックで頓挫していました。でも、すでに電気自動車(i-MiEV)に乗っている住民から「近くにあった無料の充電スポットが使えなくなった」という話があったり、これからのマンションにEV用充電設備は必要だという思いから、ネットなどで情報を検索してたどり着いたのがユアスタンドです。補助金申請を代行してくれることや、何よりも「誰がいくら電気を使ったのか」を管理する課金システムが備わっていることが依頼する決め手となったそうです。

半地下の駐車場は9区画。最初は1区画だけコンセントを設置する予定でしたが、世の流れはEVに向かっているし、電球をLED化したことで共用部の電気容量が余っていたこともあり、将来に備えて2車室に1つの割合で5カ所の200Vコンセントを設置することになりました。課金システム用の制御盤は古い防犯カメラの配線ダクトを再利用して工事費を抑えることができました。

設置したのはEV用200Vコンセント。
防犯カメラのダクトを使ったことで見た目もスッキリ。

このように、各部のアップデートと少しばかりのリサーチで、費用を抑えつつ近隣の新築マンションに負けない付加価値を手に入れることができたのです。ちなみに次は屋根にソーラーパネルを乗せる計画だそうで、新築マンションも真っ青なテクノロジーが満載です。

その他にも機械式駐車場でも充電が可能なシステムが増えていることや、普通充電器でも専用の電力引き込みが認められる規制緩和など、集合住宅での充電に対する追い風が吹いているため、今なら掛けた金額に対するメリットが大きい時代だと言えます。

分譲マンションの管理組合として、住民自ら積極的にこうした取組(アップデートの検討や提案)を展開しているケースは、日本ではまだそれほど多くないのではないかとも思います。一般的&日本的な管理会社を悪く言うつもりはありませんが、管理会社のスタッフのみなさんは既存の仕事で手一杯であり、大規模修繕以外の新たな仕事を増やすのは厳しいのでしょう。分譲マンションを購入した住民自ら、管理会社からのアップデートの提案を消極的に待つのではなく「自分の資産は自分で守る」意識や視点をもち、行動することが大切なのだと、今回の取材を通して痛感しました。

i-MiEVの区画用に設置されている手前(右側)の充電器は見えていませんが、2台おきに200Vコンセントが1つあります。

(取材・文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 集合住宅への充電器設置に関して、技術的な課題はある程度解決されてきていると思います。工事を請け負う業者も増えているし、課金や共用のためのシステムも開発されてきている。新規物件では最初から充電器を設置することは当たり前になりつつあります。賃貸物件もオーナーの資産に対する意識が高ければ、充電器設置はそれほど問題ではないでしょう。ただ問題なのは、充電器が設置されていない既設の分譲マンションです。
    これは充電器施設を共用部にするかどうかにかかっています。共用部になれば設置やメンテナンスに関する費用は管理組合が負担することになります。しかし、多くの場合、EV所有者は住民の1割よりさらに下だと思います。EV、PHEVの日本での2020年の新車販売台数は全車種の1.2%足らず、EVを購入する人はもともと戸建ての人が多いので集合住宅はさらに少ないと思います。ほんの一部の住民のためにみんなの資金を使うのは通常は賛同が得られないと思います。
    また、古いマンションは高齢化で実質的に管理組合が稼働していないマンションも特に地方では多いのではないかと思います。EVを導入したい住民がいても、その意見を吸い上げる機能がそもそもないのではないかと思います。
    現在でも集合集宅の共用充電器設置には補助金はでますが、一部ではなくすべて補助金で負担してほしいです。そうすれば集合住宅への充電器設置のハードルが低くなります。もしかしたら、EV等の購入に補助金を出すよりもEV普及につながるかもしれません。卵が先か鶏が先かという議論がありますが、EVに関しては明らかに鶏が先だと思います。
    また、現在は共用部の充電器にしか補助金は出ませんが、マンション住民個人に関しても補助金を出してほしい。少規模のマンションなら自宅の配電盤から駐車場まで電源ケーブルを延長することは簡単な場合もあります。これなら電気代は個人負担でよく管理組合は工事の許可を出せばずみます。住民への賛同が壁なら個人で打開する方法もあると思います。

  2. 参考になる記事をありがとうございます。
    利用者の負担額が気になったのでユアスタンドさんに伺ってみてところ、6kWの充電器で利用1時間あたり180〜200円になる事が多いというお話しでした。
    1kW30円強とリーズナブルですしアプリも使いやすそうなので、良いシステムだと思いました。
    ぜひ普及して欲しいです。

  3. 資産価値維持もしくは向上のためにEV充電器を設置するのはいいことだと思います。
    実際集合住宅物件の高圧電気設備を保安管理する当電気保安事務所でも設置の提案はできますし、共用部の高圧受電容量に対する負荷も把握していますし。30kVAの空き容量があれば10台まで付けられますよ。
    問題は住民の意識、でしょうか。管理組合の民度かが関わるのでその向上が鍵でしょう。管理会社とて決して暇ではないですし、住民にどれだけ電気自動車ユーザーが居るか把握したうえでそれなりに居ればこちらからも提案する所存です。
    集合住宅に限らず分譲住宅団地もまた然り。千葉県佐倉市の山万ユーカリが丘は大型団地である割に分譲期間が長いせいか高齢化問題が少なく、電気自動車の充電器も公共施設や商業施設に割と多く設置されてますよね…EV保有ハードルが低いぶん人気があるようです。
    鉄道マニア視点でいえば(箱守さん向けかも)VONA新交通システムが長続きしている点も挙げられます。同じVONA新交通システムを採用した愛知県の桃花台はユーカリが丘とは対照的に一気に分譲し開発会社が撤退するパターンだったので桃花台線ピーチライナーは常に大赤字のピンチに立たされた挙句廃線、方やそれより古いユーカリが丘線は現存…このあたりに民度や住宅開発方式の違い(分譲撤退か管理成長か)が出ている気がします。桃花台には公共のEV充電器が見当たらず自身もわざわざi-MiEVで訪れることは少ないですね。
    EV充電と鉄道、インフラと考えれば関連なくもないですかね!?

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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