賃貸集合住宅の駐車場に電気自動車充電用コンセントを設置した事例を拝見

京都府の読者の方から「EV充電設備付き集合住宅を建てた」とEVsmartの問い合わせフォームを通じて情報提供をいただきました。24戸の集合住宅に24台分の駐車場。うち2区画にコンセントを設置して、将来的には9区画に増設も可能とのこと。現地を訪ねて拝見してきました。

賃貸集合住宅の駐車場に電気自動車充電用コンセントを設置した事例を拝見

集合住宅駐車場の充電設備はEV普及に向けた重要課題

電気自動車は拠点ガレージに設置した充電器や200Vコンセントによる「普通充電」を中心にして活用するのが便利です。毎日の通勤などで搭載バッテリーによる航続可能距離を超えるような長距離を走ることは、平均的なマイカーの使い方として多くありません。帰宅したら駐車場の充電ポートにケーブルを接続し、翌朝は十分に充電されている状態でスタートできます。

拠点駐車場での充電は、電気自動車運用にとって基本的な充電です。長距離ドライブの途中、高速道路SAPAなどで行う充電(おもに急速充電)を「経路充電」、宿泊施設などでの充電(おもに普通充電)は「目的地充電」と呼ぶのに対して、拠点駐車場での充電(ほとんどが普通充電)が「基礎充電」と呼ばれていることからも、電気自動車運用の「基礎」であることが理解できます。

とはいえ、ことに集合住宅の駐車場における電気自動車用充電設備の普及は、現在の日本ではなかなか困難な課題になっています。今回取材した事例をご紹介する前に、まず、現状の課題を整理しておきましょう。

①配線などにコストや手間が掛かる。
充電ポートを設置しようとすると、当然、電力を引くための配線が必要になります。照明施設などのために近くまで電気が来ている駐車場は少なくないでしょうが、一般的に「200V×15A~30A=3kW~6kW×設置基数」というそれなりに大きな電力用の配線を引き、場合によっては配電盤などを設置する必要があります。電力会社への確認や契約手続きも、エンジン車用の駐車場にはなかった「手間」となってしまいます。

②普通充電器に高価なものが多く、コストが掛かる。
ほとんどのEVは200V充電用ケーブルを車載しているので、2000~3000円程度で買えるEV用の200Vコンセントがあれば充電は可能です。でも、ケーブル付きやデザインにこだわった「普通充電器」を購入すると数万円~数十万円程度かかります。eMPネットワークの課金機能を備えた機種では1台150万円という機種もあります。

③合理的に課金する方法が悩ましい。
充電の電気料金は利用者が負担するべきですが、利用した電力量や時間をどのように計測するか、どのように課金し、どのように支払うかという仕組み作りは、なかなか悩ましい課題です。こうした課題に対処するため、ユアスタンドジゴワッツ『Ella』ユビ電『WeCharge』など、予約&課金システムを備えた普通充電器やサービスが登場してきています。

④管理組合や大家さんの理解を得るのが難しい。
こうした課題があるために、電気自動車用充電設備設置に対して、分譲であれば管理組合、賃貸の場合は大家さんの理解や合意、協力を得るのが難しいというケースが少なくありません。

新築時に設置すればいろんなハードルを容易にクリア!

合意形成やコストなどの課題の多くは、新築時に設置することでクリアできます。もちろん、充電設備や配線などのコストは必要になりますが、そもそも、電気自動車を今後必要なモビリティと捉えるのであれば、新築時の大きな予算の中ではあまり問題にはならないでしょう。

今回の事例は、まさに「環境への高い意識をもった大家さんが、自ら工夫して設置した充電設備」でした。

竣工直後の『シャーメゾン レフィーノ』(写真提供/中川喜久さん)

取材に伺った場所は、京都府南部の城陽市。『シャーメゾン レフィーノ』という24戸の新築アパート敷地内にある、24区画の駐車場のうち2区画に、電気自動車充電用の200Vコンセントを設置。さらに将来的には9区画までコンセントの増設ができるよう配線されていました。

情報提供いただいたのは中川喜久さんという方です。ただし、アパートの大家さんは母親である中川弘子さん。また、喜久さんの妹さんである尊子さんがこのアパートに隣接した戸建てにお住まいで、日々の管理業務を手伝っています。いわば、中川家の家族経営による賃貸住宅ということです。アパートを新築した土地は「田んぼだった」とのこと。実は、弘子さんが所有するアパートはこれが3棟目になるそうです。

アパート近くの弘子さんがお住まいのお宅で、中川家のみなさんのお話しを伺うと……。喜久さんと中川家のみなさんが、「集合住宅への充電設備設置」という課題だけでなく、「次のステップ」とも言うべきハイレベルな課題にチャレンジしていることがわかりました。

おそらく全国でもまだ数少ないZEH集合住宅を完成させた中川家のみなさん。左から、尊子さん、弘子さん、喜久さん。

新築のアパートは「ZEH」認定も取得

今回の物件の新築は約3年前から計画がスタート。自ら日産リーフのオーナーでもある喜久さんが家族のブレイン的な役割を果たし、駐車場への充電設備(コンセント)ばかりでなく、屋上には24戸それぞれ2kW強を配分(全体で52.8kW)できる太陽光発電パネルを設置。給湯システムやエアコンなども指定の高性能機種を採用して、経済産業省などが定める「ZEH=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の認定を取得しています。

入居前の一室を拝見しました。ベース照明はもちろんLED。太陽光発電のモニターもありました。

当然、ZEH建築に関する補助金を活用しており、申請はハウスメーカが代行してくれたそうですが「プロが申請しても大変だった」とのこと。窓口となる組織の対応などがなんともわかりづらくてややこしく、「政府は本当にZEHを進めたいんやろか?」(喜久さん)と感じるほどだったそうです。

そもそも「ZEH」自体がかなりレベルの高い目標であり、認定には複雑な検証が必要、というのは理解できます。とはいえ、喜久さんが指摘するように、より広くZEHを普及させようとするのであれば、よりシンプルでわかりやすい補助制度の検討が必要なのかも知れません。

電気自動車の購入にも補助金がありますが、利用できるのは新車購入時のみだったり、高級車優遇の傾向があったりして、細々と生きる庶民としてはさらなるアップデートを期待したいところでもあります。もっと言うと、環境対応や電動車普及のための国の方策として「補助金」がベターなのか。政治家や行政のご担当者各位のアイデアや実行力にも期待しておきましょう。

停電時にも太陽光発電の電気が使える非常用コンセントも設置。
建物の壁に、各部屋用のパワコンがズラリと並んでいました。

ご自身のアイデアで電力量計を設置

さらに感服したのが、充電器(コンセント)の配電盤に配線ごとの使用電力がわかる電力量計が装備されていたことです。

日本国内では、計量法の規定によって電気料金をやりとりするためには「計量法に基づく型式承認又は検定を受けた計量器」を使用しなければなりません。でも、条件に合った計量器は高価。民間の、こうした電気自動車充電用設備に簡単に設置できるものではありません。

喜久さんのお仕事は、電子機器メーカーのエンジニアです。「工場の電力量管理などにも利用されている小型の電力量計を、自分で選び、回路図も自分で作成して工事してもらいました」と、すでにコンセントを設置した2区画分は電力量計を配電ボックスの外から確認できるように装備。増設可能な9区画分は、後から取り付けられるようになっていました。

「電気計量制度の合理化」については、すでに資源エネルギー庁などで検討が進められていて、2022年4月には「計量法の検定を受けていなくても、一定の基準を満たしたメーターを活用して計量」できるようになる、はずです。

とはいえ、喜久さんが取り付けた電力量計が「一定の基準を満たしたメーター」に該当するかどうかはまだ不明。メーターが示す「kWh」をもとに、入居者(充電利用者)と料金をやりとりすると、電気事業法に抵触してしまう懸念があります。

今のところ、まだ電気自動車の充電を利用している入居者はいませんが、近い将来、この駐車場のEV用コンセントを利用する方が現れた場合、メーターに貼られている「kWh」のシールを「×20分」とか「ポイント」に貼り替えて、あらかじめ「利用する入居者と充電料金の取り決めをして活用したい」(喜久さん)ということでした。

付加価値の高い集合住宅は入居者にも人気

このアパートが竣工したのは6月。取材に伺ったのは7月で新築すぐのタイミングだったのですが、すでに23戸が契約済み(まだ引っ越し前の部屋もありましたが)で、駐車場も2区画しか空いていないということでした。断熱性能も高いZEHである上に、各戸に太陽光発電設備が配分されているので電気料金も抑えられます。初期投資は少々かさんでも、高い付加価値をもたせることで、人気物件になっているということでしょう。

今のところ、駐車場にEVやPHEVは1台もない、ということですが、今後数年でどんどん増えてくる可能性が大。「駐車場にコンセントがあるのなら」と、入居者が充電可能な電動車を次のマイカーに選択するケースが出てくることも想定できます。

でも、不動産業者との打ち合わせで「EV充電設備」をPRしたいと相談したら、業者の担当者は「???」な顔。「不動産業界にEV充電設備のアドバンテージは、まだまったく認知されてなかった」と、喜久さんも苦笑いでした。

駐車場の施工業者にEV充電用コンセントを設置したいと相談しても、あまりノウハウがないようだからと、充電設備はコストパーフォーマンス重視でEV用コンセントとロック付きのポール(スタンド)は喜久さん自らが探して選択。業者に細かく指示しながら施工した、とのこと。

コストパフォーマンスとデザインで選んだスタンド。
スタンドを設置したのは2区画だけですが、ほかの7区画にも配線は完備。

集合住宅の電気自動車充電設備はまだ前例が少ないとはいうものの、『シャーメゾン レフィーノ』のEV用コンセントは、喜久さんの思いが詰まった、先進的&合理的で素敵なコンセントなのでした。コンプライアンス的にやや様子見なところもあるので、機器の詳細や図面までは紹介することを控えますが、日本中の集合住宅オーナーさんの参考にしていただければ、と思います。

最後に、前述のように取材したのは7月のこと。テスラ『モデル3』でお邪魔して、途中、スーパーチャージャー伊賀で充電しようと思ったら故障していたレポートは、7月17日に記事にしましたが、肝心の新築アパート充電コンセントの記事を作成するのに、とても時間が経過してしまいました。中川さん、申し訳ございませんでした。そして、『シャーメゾン レフィーノ』の駐車場に、EVが並ぶ日を期待しています!

EVなら「前進駐車」じゃなくてもお隣のアパート住民に迷惑はかかりません。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 売電収入などのやりとりについて、中川さんからメールで回答をいただきました。

    ●売電収入や電気料金の収受について

    売電での収入は店子さんのものです。
    大家が搾取することはありません。そのために一軒ずつパワコンが必要だったのです。
    蓄電池は大家にも店子にも現在は金銭的なメリット出せないですね。

    ●ピークシフトなどの新たな工夫が必要になるんでしょうね。

    現在11区画分15A×11台は電力会社に供給いただけるような申請をしているとハウスメーカーから聞いています。確かに24台になったら色々調整が必要でしようね。
    (高圧受電になって管理者必要とか色々でそうです。)

  2. 今年4月に経産省から1需要箇所、複数引き込みの特例需要箇所に関する通達がありました。
    2012年に電気事業法改定によりEVの急速充電器に限り、一つの敷地に2本目の引き込み線の供給が出来たものが、いよいよ普通充電(200V)でも可能になるかもしれません。
    まだ電力会社の供給約款の改定はなされていない様ですが、期待大です。

    1. とうがらしさんの発言を電気主任技術者の視点で見ると、コンビニ設置の充電器が該当ですね…コンビニ店舗が高圧引込、使用区域を区切ってEV充電器のみ低圧受電のパターンも以前から存在する屋外の銀行ATMの事例があるあたり一定の雛形はありますよ!
      この調子でEV普通充電器の専用引込パターンも出てくるんやないですか!?その可否でEV普及速度も変わるでひょ。

  3. 参考になる事例、ありがとうございます。いくつか分からない点があります。
    1.太陽光の電気は各戸に2kW強を配分して、EVの充電器にも供給とありますが、これはオフグリッドなのでしょうか。それともオングリッドなのでしょうか。また、蓄電池はあるのでしょうか。あるとすればどことつながっていて容量は?
    2.上と関係ありますが、EV充電で電力が足りない場合は、電力会社から供給されるのでしょうか。
    3.充電の利用料はいくらなのでしょうか。充電の時間制限などあるのでしょうか。

    もしわかるなら教えてください。

    1. seijima さま、コメントありがとうございます。

      わかりづらくてすみません。

      ①② オフグリッドではありません。普通に売電しつつのオングリッドです。売電収入や電気料金の収受については、中川さんに再確認しないと(聞いてなかった!)です。
      ③ 利用料はまだ決められていませんでした。記事に書いたように、電力量で計算するとイリーガルになる懸念があるので、ポイント制などにして、たとえば、1kWh@30円程度に相当するくらいを目安にした料金設定を、利用する入居者との合意で決めていく、ということになろうかと思います。また、充電設備は区画契約者専用なので、利用時間の制限などはありません。今後、24区画の駐車場のほとんどにEVがズラリ! なんて時代になったら、ピークシフトなどの新たな工夫が必要になるんでしょうね。

  4. 2009年より賃貸1棟32個、記事と同じビルダー(シャーメゾン)の建物管理を一族共同でやってる者です。
    大変参考になりました。
    数年後、別のビルダーで2棟目も検討中です。
    EV対応とコロナ対応を見極めてから、こちらの記事も参考にしながら進めたいと思います。
    駐車場のEV対応は充電可能台数が多くなると契約電力量が大きくなってしまいます。コンクリートに溝を掘って太いケーブルを地中へ埋設するにはお金がかかりすぎて既存の建物への追加工事はやめました。古くなって入居率が下がる様ならその時考えます。
    新築であれば是非やるべきですね。

    既存の建物では充電希望者はPHEVの1台しかありませんでした。EV普及率1%以下の現状では100軒で1台の需要ですからね。正直まだまだ様子見です。

    2棟目を提案中のビルダーさんは、現在建設中の物件は駐車場にEV配線はやらずに太めの配管を埋設して、その時が来たら適切な配線を通すそうです。

    1. Farfetchd様、コメントありがとうございます!
      ご参考までに、なかなか公式の設備としてはアレですが、テスラのウォールコネクターでは、16基までデイジーチェーン接続が可能で、一本の電源を共有できます。負荷は、テスラ以外の車両も合わせて、自動的に分散されます。
      ウォールコネクターと、日本製電気自動車の接続には、Lectronのアダプターが使えます。ご存じかとは思いますが、ご参考までに。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事