東京都が集合住宅のEV用充電器設置のための相談会開催/補助金も増額

東京都は2023年3月21日に、マンション等へのEV用充電器設置のための無料相談会を開催しました。相談会には充電器の設置事業者など10社が参加し、充電器設置のメリットや自社の特徴を説明しました。東京都は2023年度から充電器設置の補助金を増額するなど、普及拡大を加速する方針です。

東京都が集合住宅のEV用充電器設置のための相談会開催/補助金も増額

無料相談会に大勢の管理者が参加

東京都環境局は、2023年の春分の日にあたる3月21日に、マンションなど集合住宅にEV用充電器を設置するための無料相談会を開催しました。対象はマンション管理組合や住民、管理会社などです。東京都がこうした無料相談会を開催するのは初めてです。

無料相談会には、充電器の設置会社など10社が参加。第1部ではそれぞれの特徴やマンションへの充電器設置のメリットをプレゼンテーション方式で説明し、第2部では、各社がその場で無料相談に対応しました。第1部の様子はオンラインで配信されました。後日、録画配信もされる予定です(当日の資料は公開されています「マンションへの電気自動車(EV)用充電設備設置に関する無料相談会の開催」)。

ほぼ満席の大盛況!

事前の申込みは、リアル会場とオンライン配信を合わせて約150で、当日の会場には約80組が来場したそうです。筆者が会場に着くと、用意されていた椅子はほぼ満席で、百人以上が来ていたように思います。中には親子連れで参加していた方もいました。

来場者が多かったこともあり、第2部の個別相談会では各社のブースに並んだ相談者用の椅子が、すぐに埋まっていました。筆者は細かな内容までは聞いていませんが、それぞれのブースで真剣に説明を聞いている来場者の姿が印象的でした。

マンションへの充電器設置のニーズは高くなっていく

今回の無料相談会に参加した充電器設置業者は、エクシオテック、ENECHANGE、中央電力株式会社、Terra Motors、東京ガス、パナソニック エレクトリックワークス社、ファム、ユアスタンド、ユビ電(順不同)の9社です。このほか、マンション管理のソリューションサービスを提供するRing-ndxが参加しています。

いつのまに、こんなに充電器の事業者が増えたんだろうと、筆者はちょっとびっくりしたのですが、参加した事業者の関係者からも同じような感想を聞きました。競争が激しくなるのは事業者にとっては厳しいですが、市場の成長にとってはプラスになると考えられます。

東京都が相談会開催にあたって申込時に集約したアンケートでは、マンション管理者側の疑問で多かったのは、①機械式駐車場に充電器を付けることができるか、②駐車場のスペースに余裕がないけれども設置はできるか、③設置後のランニングコストはどうなるか、④組合の合意形成はどうしたらいいか、などだったそうです。

いずれも充電器設置を考える際にはごく基本的な疑問で、第1部のプレゼンテーションで不安解消につながる提案がされていたように思います。

例えば機械式駐車場でも、全パレットに充電器を設置することが可能なケースがあることが、機械式駐車場設置の専門業者から説明されていました。ランニングコストは、充電器の設置業者側で負担することも可能なので、マンション側に負担が生じることはありません。組合の合意形成についても、実績のある事業者が複数あります。

でも、こうした疑問解消の手段がまだ周知されていないからこそ、相談会に関心が集まると言えます。東京都が2023年1月から2月にかけて実施したマンション管理組合向けのアンケート調査でも、充電器未設置の約7割の管理組合が、充電器設置に関心があるという結果になっています。

これまでEVsmartブログでも集合住宅への充電器設置については問題意識を持ちながら、事例を紹介してきました。今回の相談会の様子を実際に見ると、今後ますます、設置や課題解決の事例に対するニーズは高くなるように感じました。がんばって紹介していきたいと思います。

状況が急速に変わっていることを知ってほしい

無料相談会を主催した、東京都環境局家庭エネルギー対策課の宮田博之課長は、事前に集まった質問は100弱もあったと言います。

東京都としては、こうした相談会の開催も、事業者に集まってもらう形式も、参加者からアンケートで質問を集めたのも初めてで、「すべてが手探りだった」と、担当した東京都環境局の宮田課長は言います。一方で手応えも感じていて、次回開催に向けて好材料になったようです。

東京都は今後、2023年度の上期と下期に1回ずつ、同様の相談会を開催する予定です。

マンションの多い東京都にとって、普通充電器の設置はEV普及のための一丁目一番地です。

EVが普及期に入ったときに慌てて充電器を付けようとしても、後手に回るのは確実です。また、新築マンションには充電器が付いていく一方で、既設の建物に設備がないと、資産価値に格差が生まれることになります。

こうしたことから、宮田課長は「駐車場の全区画に設置されているのが望ましい」と言います。そして無料相談会の意義は「状況が変わっていることをいかに伝えるか」だとし、参加者の人たちには、「状況が変わっていること、住まいの環境が大きく変わることを知ってほしい」と強調しました。

【関連記事】
東京都が電気自動車への補助金増額&新築へのEV用充電設備義務化へ(2022年6月22日)

普通充電器の補助基数を150基から3100基に拡充

東京都が充電器設置に前向きになっているのには理由があります。2019年に東京都は、2050年までにゼロエミッションにすることを宣言しました。宣言は「ゼロエミッション東京戦略」というロードマップにまとめられています。

さらに2021年には、2030年までにカーボンハーフにする目標がアップデートされ、都内の新車乗用車は100%を「非ガソリン車(HEVはガソリン車に含まない)」とするなどの新たなターゲットを公表しました。

こうした目標に向けて、一定規模以上の集合住宅に充電器の設置を義務付けるよう、2022年には環境確保条例も改正しています。施行は2年後の予定です。

東京都は設置数の目標も示しています。長期的な都市計画を示した「未来の東京」の中で、2030年までに6万基の普通充電器を設置する目標を掲げました。2023年2月時点の実績は累積291件・762基なので道は長いですが、目標達成に向けて補助対象の数を大幅に増やすほか、充電器の補助金を一部で増額します。

まず集合住宅では、2023年~24年にかけて普通充電器3100基を補助対象にします。従来は150基だったので、約20倍に目標を引き上げました。同時に、設備工事の費用がかかる機械式駐車場では補助金の上限を81万円から171万円に増額する予定です。平場の駐車場はこれまで通り、81万円が上限です。

こうした補助金を活用することで、2023年度~24年度にかけて集合住宅に3100基の普通充電器を設置することを目指します。2022年度には150基を見込んでいたので、約15倍に増えることになります。予算案では約40.2億円を要求しています。

充電器設置のための調査費にも補助金

東京都の新たな取り組みは他にもあります。

来年度予算には、充電器設置のために必要な調査費や、充電器設置のために新たに引き込む電気の基本料金の支援のための補助金も盛り込んでいます。ちょっとしたことですが、基本料金のようなランニングコストへの補助金は、スタート時には効果的かもしれません。

新たに始まる調査費支援では、たとえば充電器の設置時業者にコストなどの調査を依頼したり、設置のための提案書を作成するためにかかる費用を補助します。

調査費やランニングコストへの補助はマンションの管理組合が対象になる予定ですが、細かいスキームは検討中とのことでした。

充電器設置の事業者も参加する協議会

2023年2月、東京都は、集合住宅への充電器設置を進める事業者の活動を後押しするための『マンション充電設備普及促進に向けた連携協議会』を設置することを発表しました。

2022年9月と、2023年2月にキックオフ会議を開催していて、約30の関連企業や団体などが参加しています。ユアスタンドやユビ電、ENECHANGEなどの名前もあります。

連携協議会では、実際に設置した事例をもとにした課題やノウハウなどの情報共有、ニーズの把握などを進め、事業者と集合住宅側のマッチングを図ることも狙っています。連携協議会では参加事業者の募集もしています。東京都の担当は環境局気候変動対策部 家庭エネルギー対策課です。

前述したように東京都は一定規模への集合住宅に充電器の設置を義務付ける条例を制定しました。条例を画に描いた餅にしないためにも、連携協議会の動きが活発化することを期待したいと思います。

知られざるアドバイザー制度

ところで東京都は、集合住宅への充電器設置に関して知られざるメニューを実施していました。『マンション管理アドバイザー制度』です。

対象はマンション所有者や管理組合、区分所有者などで、文字通り、充電設備の設置に関するいろいろな項目を個別に相談できる窓口です。管理組合が組織されていない区分所有者も対象です。

そしてなんと、相談料は無料です。

この制度、2019年にスタートしていたのですが、東京都でも「あまり宣伝していなかった」そうで、ほとんど実績がなく、3月開催の無料相談会は1日でアドバイザー制度の実績を超えたようです。

こうなると、アドバイザー制度そのものに疑問が出てきますが、民間業者を東京都が直接紹介するというのも妙な話になるので、塩梅が難しいところではあります。

なにはともあれ、東京都主催の無料相談会を見る限り、充電器設置に対するマンション管理者や住民側の関心が高いのは間違いなさそうです。中長期的に見れば、全区画に普通充電器が付いている物件と、不十分な数しかない物件のどちらの資産価値が高いか、考えるまでもありません。ある事業者の言葉を借りれば、お風呂のない部屋のようなものになりそうです。

基礎充電という重要なセクターへの関心が高まり、EVの普及を後押しできるようになるといいなあと思う今日このごろです。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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