使用電力の上限やスケジュールを遠隔制御
2023年7月19日、東大発のスタートアップ企業である株式会社Yanekaraが、電気自動車(EV)の普通充電を低コストで遠隔制御できるEV充電コントローラー「YaneCube」の先行予約開始を発表しました。対象は「10台以上のYaneCube購入を希望する法人」限定となっています。
YaneCubeは、通信用のSIMを内蔵したコントローラーにEVユーザーにはおなじみのパナソニック製EV用200Vコンセントを組み合わせたプロダクトです。既設のコンセントにアダプターのように接続して使用する「後付版」と、新たに設置するための「新設版」をラインナップしています(冒頭写真の左が後付版、右が新設版)。
パナソニックのEV用コンセントは次世代自動車振興センターが申請受付を行う国の充電インフラ補助金の対象機種なので、「新設版」の場合、1台当たりの初期費用は2900円(税抜)で導入可能としています。既設コンセントに挿しこんで利用する「後付版」は電気工事が不要であり、国の充電インフラ補助金は利用できません。
YaneCubeによるデマンドレスポンスの仕組みを細かく説明すると長くなるので、Yanekaraの公式サイトをご参照ください。
さっそく、日本郵便にYaneCube93台を納入
さらに同じ7月19日、Yanekaraは日本郵便の銀座郵便局に後付版YaneCube93台を納入したことも発表しました。
先行予約開始のリリースに添えられていた後付版の写真を見ると、コントローラーは支柱に固定されるでもなくプラプラしてて、ちょっと頼りない感じ。にも関わらず、いきなり宅配大手のひとつである日本郵便に93台を納入というのは快挙といえる成果ではないのか? いったい、Yanekaraはどんな会社で、YaneCubeが何なのかを知るために、千葉県柏市の東大柏ベンチャープラザにあるYanekaraの本社を訪ね、代表取締役COOの吉岡大地さんにお話しを伺ってきました。
まず、いきなり日本郵便に納入できた経緯は、出資を受けているベンチャーキャピタルからの紹介があり、2022年に日本郵便の集配用EV15台でEV充電の遠隔監視とコントロールで電力ピークを行う実証実験を実施。年間約45万円のピークカット効果を確認できたことから、今回の93台へ、より規模を拡大した導入に至ったということでした。
アダプターだと思えばプラプラにも納得
吉岡さんは25歳。「地球に住み続ける」というミッションを掲げ、共同創業者の松藤圭亮さん(今回はお会いできませんでしたが、23歳! とのこと)とともに株式会社Yanekaraを設立したのは2020年6月のことでした。
「地球に住み続ける」ためには再エネ普及、すなわち屋根に設置する太陽光発電の普及が重要で、再エネ普及のためには調整力としてのエネルギーストレージが大切であり、EVは有効なツールになる。より多くのEVの充電時間をコントロールすることができれば、系統電力の需給調整に貢献できるというのが、YaneCube開発の原点となった発想です。
「僕たちは基礎充電にフォーカスして、VPPに貢献するためのプロダクトを考えました。拠点ガレージに停めている間に行う基礎充電に高出力は必ずしも必要ではなく、3kWで十分でしょっていうことですね。EVからの放電は今のところできませんが、EVフリートの充電に使う電力の上限や、充電する時間をコントロールすることで、ピークカットなどに貢献することができます。EV1台は3kWだけでも、多くのEVが繋がることで電力網の安定に寄与する効果を生み出すことができるはず」と吉岡さん。大きなミッションを達成するために、できることからやっていく。YaneCubeのローンチは、その第一歩ということですね。
Yanekaraの本社オフィスがある東大柏ベンチャープラザの駐車場で、Yanekaraの契約区画には3台用のソーラーカーポートが設置され、その支柱に3口のEV充電用コンセントがありました。
吉岡さんが「こんな風に使います」と、後付版YaneCubeをコンセントに挿しこむのを見て「あ、これはアダプターみたいなものなんだな」と納得。新設版と同じカタチだったことから「ちゃんと固定しなきゃ」と感じますが、YaneCubeの重さは700g。日産純正充電用ケーブルのコントローラーよりも軽いかなってくらいなので、これでOK! ってことなんですね。
一点、既設コンセントに挿しこんだYaneCubeが抜け落ちる心配を減らすよう、YaneCube側のプラグの形状をコンセントのフタにあるストッパーに引っかかりやすいように改善するかも、ということでした。
ケーブルをひとつのコンセント専用にできるなら、ホルダーなどで固定する工夫をするのもいいでしょう。
クラウドの利用料は月額500円
YaneCubeには通信用のSIMが組み込まれていて、EVごとの充電データはクラウドに保存されます。月額費用は通信費込みで新設版が500円(税抜)となっています。
(後付版は補助金対象外であるため月額利用料はケースバイケースで経済的合理性にかなうよう調整して決定するとのこと)
データ収集や充電コントロールの管理は、今のところYanekaraが行うことが前提であり、ユーザーが手軽に操作できるアプリなどは用意していません。充電データなどは「CSVでユーザーに渡すことができるし、分析やコンサルティングを依頼されれば提供することも可能です」(吉岡さん)とのこと。
いろいろと、若者による手作りのサービスとプロダクトという印象でした。
ともあれ、ユーザーにとって必要な充電&維持コストは、いつも通りの電気代と500円のクラウド利用料のみ。EV充電の「手軽に設置可能なデマンドコントローラー」として、YaneCubeは日本で前例のなかった製品です。
YaneCube本体の価格は、導入するフリートの規模や電力契約の状況によってさまざまなケースが想定されることから非公表。10台以上のEVフリートを運用している、または予定していて、使用する電力のデマンドレスポンスをコストパフォーマンス高く実現したいという企業のご担当者は、まずはYanekaraに問い合わせをしてみてください。
Yanekaraでは、太陽光発電とEVを組み合わせてV2Xを可能とする次世代型スマート充放電器「YaneBox」というプロダクトも開発中です。「僕らのような若い世代の価値観で、脱炭素社会の実現を目指したいんです」と語ってくれた吉岡さんの、キラキラと輝く目が眩しかったです。
取材・文/寄本 好則