京都市にEV用「バッテリー全自動交換ステーション」開設〜MKタクシーなどが活用する実証実験

京都市にEV用の「バッテリー全自動交換ステーション」が開設されました。ENEOSとAmpleがステーションを運営し、エムケイのEVタクシーなどを交換式に改造。運用面のノウハウ獲得や課題の洗い出しを行う実証実験が開始されます。

京都市にEV用「バッテリー全自動交換ステーション」開設〜MKタクシーなどが活用する実証実験

Ampleの最新型交換ステーション本格運用は世界初

2024年3月28日、京都駅に近い油小路通沿いにEV用「バッテリー全自動交換ステーション」が開設されて開所式を開催。充電時間短縮の効果、運用面のノウハウ獲得や課題の洗い出しを行う実証実験がスタートしました。

今回の実証実験は、カーボンニュートラルの実現に向けてEV用充電インフラ事業などにも取り組んでいるENEOSホールディングス株式会社(以下、エネオス)と、全自動バッテリー交換システムの実現を目指す北米のスタートアップ企業である「Ample Inc.(以下、アンプル)がステーションを設置して運営。保有するタクシーなど全車両を2030年までにEV中心のZEVにする目標を掲げているエムケイホールディングス(以下、エムケイ)など、フリートを運用する企業や自治体が参加、協力して実施されます。

アンプル社はアメリカのスタートアップ企業で、ロボットを活用した独自の全自動バッテリー交換システムとともに、小型バッテリーのモジュール化によって多様な車種への対応を可能にすることを提言しており、エネオスは早くから注目して出資もしているとのこと。京都に開設されたステーションはアンプルの最新型で、バッテリー交換に必要な時間短縮(5分程度が目標とのこと)を実現しており、最新型ステーションが開設、運用されるのは世界でも初めてのケースとなるという説明でした。

エムケイではまず数台のリーフを交換式に改造

当然のこと、ステーションがあれば、どんなEVでもバッテリー交換できるわけではありません。当面、このステーションでバッテリー交換できるのは日産リーフの40kWhモデルを、交換式に改造した車両となるようです。筆頭協力先として開所式にも参加していたエムケイでは、すでに長年運用してきたリーフのタクシーを数台、アンプルのアドバイスを受けながら自社整備工場でバッテリー交換式に改造。リフレッシュしたEVタクシーとして運用していく予定とのことでした。

エムケイのほか、実証実験には京都府と京都市の公用車のほか、三井住友銀行、NTTアノードエナジー、日本生命、オムロンフィールドエンジニアリングといった企業のフリートが参加します。

改造のベース車両をどう調達するかは未確認。改造コストは非公表ということでわかりませんが、市販EVを改造してナンバーを取得するのは大変なので、おそらくすでにノウハウを会得しているエムケイの整備会社が改造を担当することになるのではないかと思います。

エンジン車からEVへのコンバージョンの場合、バッテリー調達が必要で高額になりがち(ナンバー取得するなら300〜500万円程度が相場かと)です。でも、交換式への改造ではバッテリーを搭載する必要がありません。開所式で偶然同席した知り合いのEVエンジニア氏との予想談義では「実作業3日程度で、30〜50万円くらいかな(しかも外したバッテリーを売れる!)」という結果になったのですが、どうなんでしょう。

ステーションはドライブスルーで交換可能。

ちなみに、エネオスご担当者の説明によると、バッテリー交換ステーションの設置は「場所があれば2〜3日で完成する」ということで、給油施設などと比べるとスピーディーに拡充できるポテンシャルがあるようです。ステーション設置の費用や、どちらの会社がどのくらい負担しているのかといった点は、EV改造費用と同様に非公表ということでした。

さらに、実証実験中のバッテリー交換料金は? と質問してみたのですが、これもまた非公表とのこと。開所式を取材した印象としては、今回の実証実験では実際の使い勝手やメリットを確認し、課題を見つける目的が中心で、ビジネス的な検証はワンステップ先なのだと思います。

自動車メーカーが対応車種を出すかどうか

バッテリー交換式のEVといえば、中国のNIOなどが意欲的に取り組んでいます。一方で、同じ中国メーカーでもBYDは交換式に否定的。アンプルのステーションが世界で普及するかどうかについても、結局は自動車メーカーが発売するEVがアンプルの交換システムに対応するかどうかが命運を握ります。

前述のように、アンプルでは「小型バッテリーのモジュール化」によって多様な車種での対応を可能にするとしています。開所式では、容量10kWhのバックを2つ交換する様子がデモンストレーションとして公開されました。

囲み取材で質問したところ、交換システムとしては「5kWhのモジュールを2個で10kWhのパック」を基準として、リーフの場合で4パック、合計40kWhになっています。デモンストレーションは時間節約のため2パックの交換だけでしたが、実際の運用では4パックを交換することになります。ちゃんと時間計測はしなかったですけど、ぎりぎり5分を切れるかどうか、って感じだと思います。

また、このステーションには2基の交換マシンが設置されており、1基につき「10台分=10kWhパックを40個」のバッテリーを用意して、順次充電を行っているとのことでした。

利用するEVの台数以上のバッテリーを用意する必要があること。そして、満充電状態で長時間利用されないバッテリーは劣化が進みやすいのでは? といった点は、バッテリー交換式の課題としてよく言われます。そのあたりについて詳細な質疑応答はできなかったので、EVsmartブログでも今後の課題として取材を重ねたいところです。

アンプルは世界各地でOEMとの連携を進めています。2023年7月には三菱ふそうバス・トラックが「eCanter」によるアンプルとの共同実証を行うことを発表。12月にはステランティスと提携し、今年、スペインで始まるカーシェアリングサービスで、100台の『500e』にバッテリー交換式を適用することが発表されています。

「我々としては、できれば新車の段階から交換式を導入していただいて、バッテリーレスでEVを購入できる(つまり安価になる)のが理想です」

囲み取材の中で語られた、エムケイホールディングスの青木信明社長の言葉が印象的でした。

車両の稼働率が重要なEVタクシーにとって、ことに、バッテリー交換式のメリットは大きいでしょう。はたして、京都での実証実験が何を教えてくれるのか。今後に注目です。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 京都市に完全自動の電気自動車用バッテリー交換ステーションがオープンするのは画期的だ!充電の問題を解決し、特にMKタクシーなどの電気自動車の利用を容易にしている。より清潔で効率的な交通システムに不可欠だ。

  2. バッテリ交換のメリットを考えてみました。

    ・充電待ちがなくなる
    ・バッテリのリサイクルが可能に
    ・バッテリ劣化の不安がなくなる
    ・充電器と車体の充電相性問題がなくなる
    ・充電時間帯の分散が可能に
    ・充電器や車両の充電性能格差がなくなる
    ・課金方法による充電費用の格差がなくなる
    ・車メーカーのバッテリ開発が不要になり、開発コストが下がる
    ・バッテリ販売の分離で車体価格が安くなる
    ・充電場所の分散が可能になる。太陽光発電地帯で安価な充電が可能に。
    ・車体の急速充電機能が不要に。車体価格が下がる
    ・小型EVでの自前バッテリ交換で、集合住宅での充電問題がなくなる
    ・搭載バッテリの複数化で車両重量をコントロール。電費を最適化
    ・バッテリ流通という新たなビジネスが生まれる

    この中で最も重要なのは、バッテリ流通とバッテリ技術開発。現在はせっかく再生可能エネルギーで電気を作っても、送電システムの脆弱さで電気を捨てているのが現状。しかし、充電場所の分散で発電の受皿ができる。バッテリ運搬はEVトラックで行えばコストも安い。また、様々な場所でバッテリ販売が可能に。充電器設置や電力維持のランニングコストが不要になり、販売だけに注力すればよい。
    バッテリ開発はバッテリメーカーに集中する。バッテリの規格化によって、車以外にも様々な製品開発が可能に。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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