「EV先進県おかやま」を目指して独自のビジョン策定
冒頭の写真は2014年10月、岡山県と鳥取県が協力して開催した「中国横断EVエコドライブグランプリ」というイベントに、急速充電日本一周の旅(2013年)を成功させたEVスーパーセブンで参加した時のもの。スタート地点の倉敷アイビースクエアで撮影した写真です。「データ、残ってるかなぁ」とパソコンのHDを掘り返し、なんとか見つけることができました。並んで写っているのは、パイクスピークにチャレンジした『MiEV EvolutionⅡ』ですね。懐かしい〜。
2024年3月22日、岡山県新エネルギー・温暖化対策室が「岡山県充電環境整備ビジョン」を策定し公表しました。EVのさらなる普及を進めるにあたり、「県内の充電設備及びEVの普及の現状や、県民を対象としたアンケート結果等を踏まえ、概ね2030年頃の充電環境の将来像を示すとともに、県民・事業者・行政が共有しながら、連携して効果的・効率的な充電環境整備を進め、EVの更なる普及を後押しする」ことを目的としたものです。
そもそも岡山県には、かつてはi-MiEV、現在は軽EVのサクラやeKクロスEVを生産する三菱自動車水島製作所(倉敷市)があり、最近ではパワーエックスが大容量蓄電池組立工場「Power Base」(玉野市)を建設するなど、EVと縁の深いお国柄。冒頭で紹介したイベントを開催するなど、EV普及に早くから注力してきた自治体です。
今回のビジョン策定に当たっては、県のご担当者から昨年の6月ごろ直接連絡をいただき、2030年に向けたEV充電インフラをどう整備していくべきなのか、オンラインミーティングで私なりの意見をお伝えしたことがあります。その結果、「策定しました!」とメールで送っていただいたビジョンの内容は、全国の自治体でもかくあるべしと感じる、EVユーザーの立場から考えても望ましい認識や方針が示されたものでした。
県の公式サイトでビジョンが公表されているページへのリンクを貼りつつ、いくつかのポイントを説明したいと思います。
【関連情報】
~EV先進県おかやまの実現へ~岡山県充電環境整備ビジョンを策定しました!(岡山県公式サイト)
基礎充電を基本に官民連携で充電環境整備推進
まず、最も評価すべき点が、充電設備普及加速のための県の取組や施策として「基礎充電を基本とし、その補完として充電時間に応じた充電設備の整備を促進する」こと、また「官⺠が連携して取組を進めることで、効果的・効率的な充電環境整備を推進する」という基本方針が明示されたことです。
平成25年ごろから、さまざまな都道府県などの自治体でこうしたビジョンが示されてきましたが、内容は「空白地帯を埋める」ことや「公共施設にできるだけ設置する」といった方針を示す程度にとどまっていました。もちろん、10年前の状況では仕方ない面があります。でも、今回のビジョンは2030年を見据えたもの。オンラインミーティングで私がとくに強く進言したのは、以下の3つのポイントでした。
●自治体には事業所の駐車場を含めた「基礎充電」環境の拡充に注力して欲しい。
●公共施設などに低出力で1口だけといった中途半端な急速充電器を設置してもEVユーザーの利便はあまり向上しないし、多くのケースで採算が合わないものになる。とくに急速充電については、参入しているサービス事業者と連携して、持続可能な(採算の合う)整備を進めるべき。
●公的な急速充電器設置を進めるのであれば、テスラスーパーチャージャーをお手本にして、県外からの来客も多い観光スポットなどに、経路充電と目的地充電のニーズを十二分に満たしつつ(高出力の急速や6kW普通充電器を複数口設置)、電動モビリティのシェア拠点も兼ねるような「EVパラダイス」を構築するなど、ぜひ「岡山モデル」を具現して欲しい。
私が進言したポイントは、EVユーザーとしての視点に立ったもので、きちんとEVを乗りこなしている多くの方に納得いただけるはず、と思っています。
ビジョンには、「充電環境の将来像」として、施設の種類や充電方法の相関を整理した表が示されていました。
よくあるEV充電の説明図ではありますが、「2030年頃の将来像」に記された説明や、充電種別の整理、ことに目的地充電と経路充電に対する施設の種類の重なり具合などの塩梅が絶妙です。
この表を見るだけでも、岡山県のご担当者がEV充電について深く理解してらっしゃることが推察できるのとともに、適切な施設(場所)に適切な充電インフラが利便性高く整備されていくことが期待できると感じました。
アンケート結果などからの発見も
詳細はビジョンのPDFをご覧いただくとして。充電環境の現状説明や県内ユーザーへのアンケート結果で、いくつか「おっ!」と感じるポイントがあったので紹介しておきます。
公共用急速充電器の分布状況
まず、「充電環境とEVを取り巻く現状」の中で示されている公共用急速充電器の分布状況を示したMAPです。ビジョンでは現状で県内約160基の急速充電設備を2030年頃までに約500口とする目標が示されているものの、すでに設置されている急速充電器を中心に半径15kmの円を描くと、県内のほとんどのエリアが網羅されていることがわかります。
この地図から読み解くべきポイントは以下の2つ。まず、EVへの不安として充電スポットが少ないことへの指摘を目にすることは多いですが、このように、急速充電スポットだけを見ても決して数が足りていないわけではありません。広く一般の自動車ユーザーに「充電スポットはちゃんと整備されてますよ」という理解を広げることが大切です。
一方で、既設の急速充電器は10年ほど前の補助金で設置されたものが多く、老朽化して更新時期を迎えていたり、「低出力で1口のみ」といった前時代的不便を抱えているケースが多いのが現実です。「約160基→約500口」という目標に向けて、道の駅など、できるだけ利用ニーズの高い場所に「高出力複数口」の充電器を増やしていくのが賢明であることは理解しておく必要があります。市販EVも進化しているので、場合によっては15kmの円で囲んで空白ができることは「そんなに大きな問題ではない」とも感じています。
EVの使われ方と充電方法
次に、EVの使われ方や充電についてのアンケート結果です。まず、EV以外の自動車とEVの月間走行距離を示したグラフをピックアップしてみました。
EVは航続距離への不安を指摘されることが多いので走行距離も短くなる、のかと思ったら、EV以外では500km未満が72.3%であるのに対してEVは48.9%。全体的にEVユーザーのほうがいっぱい走っているという結果になっています。
もしかするとEV以外のデータはセカンドカーを含んでいたりする(詳細は未確認)のかも知れません。いずれにしても「航続距離が短く充電に時間が掛かるから不便」というのは、EVをあまり理解していない人の誤解であり、EVは走りが気持ちいいので「ついついお出かけしたくなる」ことを示した結果に読み取れます。
充電に関するアンケートも、EVユーザーのリアルを反映した結果が示されていました。端的にまとめると「EVユーザーの8割は日常的な充電を自宅で行っていて、外出時の充電は月に3回程度以下が8割以上」ということです。
私自身の充電を振り返っても、自宅以外での充電は長距離ドライブ時に高速SAPAでの急速充電と、宿泊先ホテルなどでの普通充電くらい。現在は日産ZESP3の充電カード(他社EVも加入可能なうちに入っておいた)を保有しているので、カード加入当初は月額の無料分を使うために時々公共用急速充電器を利用していましたが、最近は面倒なのでほぼ自宅充電だけでマイカーEVを運用しています。
「空白地帯を埋める」という大義名分で高速SAPA以外の急速充電器を、自治体が負担して設置する必要はあまりない、という現実を示す結果だと思います。
岡山県では集合住宅居住者の約3割が基礎充電可能
ビジョン発表の直前、岡山県のご担当者から「策定中のビジョンに意見を」と連絡をいただいて再度のオンラインミーティングで拝見し、驚いたのが「EV所有車の住居形態別の充電設備設置状況」を示したこのグラフです。
戸建てでは約95%が基礎充電可能な充電設備があるのは「さもありなん」。でも、マンション、アパート、コーポなどの集合住宅居住者でも、27.6%、約3割の方が自宅などのガレージに充電設備が設置されているというのです。
首都圏の既築分譲マンションの場合、2022年9月、東京都の「マンション充電設備普及促進に向けた連携協議会」で日産自動車が示した資料では、EV用充電設備の設置率は1%に届かず、首都圏集合住宅への充電設備設置はEV普及にとって喫緊の課題と指摘していました(駐車場区画としての設置率と、すでにEVを保有しているユーザーの設置率という違いに留意する必要はありますが)。東京都では2025年から新築マンションへのEV充電設備設置を義務化することを決め、国の充電インフラ補助金の拡充もあって着々と増えつつあるとはいえ、都内や首都圏で集合住宅に居住しているEVユーザーの基礎充電設備設置率は、10%にさえ遠く届かないのではないかと思います。
それが、岡山県では約30%。サンプル数が58とやや少ないものの、「すごいですね!」と称賛して理由を尋ねたところ、「個人オーナーの小規模な集合住宅も多い」ことと、「岡山県では(国の補助金とは別に)公共施設、商業施設、宿泊施設、マンション等集合住宅などへの充電設備設置への補助金(今年度分はすでに受付終了)がある」からではないかということでした。
さすがは「EV先進県おかやま」って感じです。
なにはともあれ、岡山県が今回のビジョンで基本方針として示した「基礎充電を基本とし、その補完として充電時間に応じた充電設備の整備を促進する」こと、また「官⺠が連携して取組を進めることで、効果的・効率的な充電環境整備を推進する」という考え方やその理由への理解が、全国の自治体に広がってくれることを願っています。
取材・文/寄本 好則