成田空港が貨物地区にEV用普通充電器を設置〜6kW充電で業務に問題はなし

2023年12月に空港駐車場内に高出力急速充電器を設置した成田空港が、今度は貨物地区に電気自動車用の普通充電器を設置(一般利用不可)しました。今後1年間の予定で行う実証実験の狙いなどを現地で取材してきました。

成田空港が貨物地区にEV用普通充電器を設置〜6kW充電で業務に問題はなし

タッグを組むのは国際物流会社のDHL

日本の空の玄関口としておなじみの成田空港。その第1ターミナルP1駐車場内に、株式会社パワーエックス(PowerX, Inc.)がチャデモ規格の高出力急速充電器「ハイパーチャージャー(Hypercharger)」を設置し、2023年12月に運用を開始したことは以前お伝えしました(関連記事)。

これに続くように、今度は貨物地区内に6kWタイプの普通充電器2基が設置され、2024年2月8日から利用が開始されました。成田空港を運営する成田国際空港株式会社(以下NAA)としては、貨物地区内にEV用の充電器を設置するのはこれが初めてです。

成田国際空港経営企画部門経営計画部サステナビリティ推進室マネージャーの金岡大介氏(写真左)とDHLジャパン業務本部グランドオペレーション千葉サービスセンター サービスマネージャーの杜川 誠氏(写真右)。

NAAがなぜ充電施設の充実を図っているのでしょうか? 現在、NAAは「サステナブルNRT2050」を掲げ、空港全体の二酸化炭素排出量を2015年比で2030年度までに30%削減、2050年度までに50%削減することを目指しています。一方、空港施設と車両については、2030年度までに50%削減、2050年度までにはカーボンニュートラルを目指しています。その実現に向けては、EVやFCV(燃料電池車)、あるいはバイオディーゼル燃料の利用などを想定しており、EV化を推進するために充電インフラの充実に力を注いでいるのです。

日本一の航空貨物取扱量を誇る成田空港としては、貨物分野でのEV化推進も重要な課題であり、今回はEVトラックの導入に積極的に取り組んでいる国際物流会社のDHLとタッグを組みました。DHLでは、2050年までにロジスティクス関連の二酸化炭素排出量をネットゼロにする「ミッション2050」を掲げ、2030年までにはラストワンマイルの配送車両の6割をEVとする取り組みを進めています。

普通充電で間に合うのか?

取材当日は、一般客が立ち入りできない制限区域にある貨物地区内へ。大型トラックが待機する駐車場の片隅、「EV指定」と書かれた専用の充電スペースに小型EVトラック、具体的には三菱ふそう『e-キャンター』と日野『デュトロ ZEV』が停められていました。ちなみに、e-キャンターはバッテリー搭載量が83kWhで、航続距離が236km(標準キャプ/Mサイスバッテリー仕様)。デュトロ ZEVはそれぞれ40kWhと150kmです。その先には、デルタ製の普通充電器「Q-VEC」2基が設置されていました。

ここでさっそく疑問が。e-キャンター、デュトロ ZEVとも普通充電と急速充電に対応していますが、なぜ今回は普通充電器を用意したのでしょうか? それにはEVトラックの利用状況が深く関わっていました。

この2台はともにDHLの成田国際空港サービスセンターで使われている車両で、ここを拠点に成田や芝山地区での集配を行っています。集配は日中行い、1日に走行する距離は70〜80kmということで、集配の途中で充電する必要はないといいます。

一方、夜間は使用しないので、その間は充電にあてることができ、6kW普通充電器でも十分に事足りるそうです。もちろん急速充電器を設置すれば充電時間は短縮できますが、今回は低コストで設置や運用が可能であり、DHLの利用状況に十分対応できる普通充電器を選んだというわけです。

事前登録した特定ユーザーがスマホアプリで認証

充電時の認証は、専用のスマートフォンアプリで行います。このシステムは株式会社デンソーと株式会社デンソーソリューションが開発しました。これにより、事前登録された特定のユーザーだけが使用可能。充電料金は従量課金制(普通充電なので時間課金と同程度になるでしょうが)です。

NAAとデンソー/デンソーソリューションは、DHLによる充電インフラの運用を通して、1年にわたり実証試験と検証を行います。たとえば、現在は2基の運用ですが、将来、多数の普通充電器を同時に利用する際に、使用電力を平準化するには充電の出力や充電の順番をどう管理したら良いか、スマートフォンアプリ以外にも空港での利用に適した方法はあるか、登録したユーザーの充電をシステムが正確に把握できるか、といったことを検証していくそうです。

さらに、NAAではEVトラックの利用増加に備えて、3kWおよび6kWの普通充電器を増やすのをはじめ、再生エネルギーの利用増や、自前の太陽光発電の導入などによって、脱炭素化の取り組みを進めて行きたいということでした。

DHLジャパン業務本部グランドオペレーション千葉サービスセンター サービスマネージャーの杜川 誠氏(写真左)とドライバーのおふたり。

ところで、取材が終わりに近づいたころ、実際にこのEVトラックを走らせているドライバーと話をすることができました。この2月から運転しているそうですが、「静か」「思いのほか力があって運転しやすい」「このクルマで行くとお客さんが興味津々」「街での注目度が高い」「思ったよりも航続距離が長い」と、評価は上々でした。

一方、「静かなので、(周囲がうるさい)空港内では、クルマが近づいていることに気づかない人が多い」というのが悩みのタネだそうですが、環境だけでなく、利用するドライバーにも優しいEVトラック。近距離の配送に適しているだけに、今回のようなインフラ整備の取り組みがEV普及のはずみになることを期待したいと思います。

取材・文/生方 聡

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この記事の著者


					生方聡

生方聡

1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職し、システムエンジニアを経験。しかし、クルマに携わる仕事に就く夢を叶えるべく、1992年から「CAR GRAPHIC」記者として、新たなキャリアをスタート。その後、フリーランスのエディター/ライターとなり、現在はモータージャーナリストとして自動車専門メディアに試乗記やレースレポートなどを寄稿する一方、エディターとしてウェブサイトの運営などに携わる。愛車はフォルクスワーゲン『ID.4』。

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